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追悼 団鬼六
『美少年』(新潮文庫)
著者=団鬼六
発売日:1999年01月
出版社:新潮社

追悼 団鬼六
グチグチいってる男が思い切り女に捨てられる話が読みたい! グチグチした男は思い切り不幸になればいい! そんな話をグチグチした本人が書いている 団鬼六レビュー『鹿の園』
日本人のSM観に多大な影響を及ぼした小説家・団鬼六氏。それは団鬼六というひとつのジャンルであり、日本における官能という文化を語る時、避けては通れない歴史の分岐点でもあるでしょう。去る5月6日に永眠された氏を悼み、WEBスナイパーでは「追悼 団鬼六」と題した特集記事を掲載して参ります。第3弾は切れ味鋭い映画レビューでお馴染みのターHELL穴トミヤ氏が、新潮文庫『美少年』に収録された短編「鹿の園」を紹介。団鬼六作品の隠されたツボにスポットライトを当てていきます。
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団鬼六はなんかいつも「嫉妬にくるった」とか言って、「その夜、私はまんじりともせず、冴えた目で天井の木目を追いながら過ごした」とか言って、性の享楽者っていうか、実は性の享楽者になりたいワナビーの、とほほ話みたいのが多いのが意外です。
この『鹿の園』しかり、他には同じ『美少年』収録の「不貞の季節」や、又は新潮文庫の『檸檬婦人』収録の「卑怯者」なんかでも、変態セックスで盛り上がりまくり!というよりは、そうしようとして、ところが脇から出て来た肉食系の男に油揚げをかっさらわれ、本人はというと「今、こんなことされてるに違いない!」と暴走する自分の妄想にもだえ苦しんでいる。根が臆病なくせにいつも欲望だけは一人前の団先生なのですが、それって人ごとではない訳です。

『鹿の園』は、私こと団鬼六が会員制のSM社交会を作ろうとするところから始まる短編で、表題になっている会の名称は、フランス王ルイ15世のために作られた娼館が由来。そんなインテリ趣味な名前をつけていても、会自体はそもそも、「知り合いの古美術商の愛人『綾子』があまりに妖艶な美人であるのみならず、『実はマゾなんです』という告白におよぶにつれ我慢できなくなった『私』が、密かに半ば彼女の加入を期待して立ち上げた」という経緯からして、言ってみればもうムッツリ助平、奥手の文科系男の大作戦になっている訳です。
そしてこのインテリ趣味のもくろみは、実際には童貞ホイホイでしかなかった!というのが導入で、トホホな展開に内心忸怩たる思いを抱えながら、パッと見は悠然と構えている大作家。そんな「私」が、自らのインテリを解さない変態たちを内心密かに見下しつつ、肝心な時には一線を軽々と越える彼らを前にして、毎回一人ビビっている。これが前半のスタイルです。
その場で一人だけビビっている「私」を冷静に書く下りはとにかく可笑しい。読んでいくと、実は「私」は変態になりきれない、かなり小市民的な人間なのだと分かります。スワッピングマニアの夫婦の妻とよろしくやった後、「ね、団さんの奥さんも交えて今度どうですか」と頼まれれば、「それはちょっと」と腰が引けてしまうし、自ら立ち上げた会の会員には「谷ナオミの元にオシッコを貰いに行く」ミッションを課せられて、板挟みになって両方から怒られたりしてしまう。まったく小物なんだけど、しかし毎回、変態たちに引っ張り回され驚いてばかりの「私」だからこそ、同じく書き手が驚くことによって進んでいくジャンルの「旅行記」よろしく、これも変態という未知の国に分け入っていく、探検記になっている訳です。

さてその「私」がついに行き着く場所が、大阪の大実業家「山崎」という男の家で、ここから話は一気に佳境へ入っていきます。「山崎」は酒の次にSMが好きと豪語し、実業にすぐれ、教養などはまるでない全身湿った亀頭みたいな男なのですが、「私」はひょんなことから、彼の私設SM劇団を見せられることになります。するとそこでは仕事上の仲間から、近所のSM愛好家、それにこの「山崎」の実の息子である2人までもが参加する、恥も外聞もない破廉恥ショーが繰り広げられていたのでした。
実の息子さえ巻き込むあまりの反道徳性にクラクラしつつ、これぞ本物の「鹿の園」ではないかと「私」は思います。真の快楽教団を作るには、道徳から完全に自由になる、この男のような馬力が必要だったのです。

やがて、勝手に自分の女だと思っていた他人の愛人「綾子」が、案の定この俗物にまるでブラックホールのように吸い込まれてしまいます。血走った知人から「実はもう5日も、『綾子』が大阪に行って戻ってこない」という話を聞いた瞬間の「私」の「ああ、こらあかんわ」という台詞。これぞこの話の肝ではないでしょうか。この一言に、行動はできないが、理解は出来るインテリ・ワナビーの悲哀と諦め、そして爆発する妄想と嫉妬の全てが詰まっているのです。

この話のテーマは所有や嫉妬との葛藤です。道徳というものは、所有欲の体のいいごまかしなんじゃないか、いやでもその道徳のない世界に耐えられるのか。でもそんなことはどうでもよくて、やっぱり「ああ、こらあかんわ」これが最高なのです。その瞬間、心の中では自分が一番だと思っていて、所有欲が強く、その実臆病だった「私」が爆砕する。アメリカンニューシネマのような爽快感がそこにはあります。

ところが話はそれで終わりません。その後、「私」もまたそのブラックホールへと、自己崩壊へと吸い込まれていってしまうのです。「爆砕するだけで終わりなんて許されへん! さあ、分かったら男になるやんでえ!」という、団先生の草食系である自分へのダメだしが聞えてきます。その先に地獄があるのか極楽があるの分かりませんが、それがひいては妄想童貞男子への叱咤にもなる、そんな温かい一品なのでした。

文=ターHELL穴トミヤ

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊 ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。 http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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