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特集:インターネットのある暮らし2012
新・他人の生活 写真・文=インベカヲリ★
私たちの暮らしは、すでにインターネットが欠かせないものとなっています。PCは当然ながら、携帯電話、スマートフォンの通信も常時接続が意識されなくなりつつある昨今、改めて意識しなければ「インターネット」を感じることが少なくなっているのではないでしょうか。かつての夢のような技術を無意識に享受する現在――。2012年WEBスナイパー夏の特集企画では、私たちの暮らしに浸透したインターネットについて、いま一度振り返る機会を持ちたいと考えます。「カヲリチャンネル」「ニッポンの年中行事」でお馴染みの写真家・インベカヲリ★さんには、人間探求のツールとしてのインターネットについて、普段の創作活動の中から掘り下げていただきました。
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家に帰ればまずパソコンを立ち上げネットに接続。メールチェックして、一通りのSNSにログインするのが日課だ。考えてみれば90年代まではネットもほとんどしていなかったし、パソコンを持っている人も少数派だったように思う。あれから10年以上経っているのだから進化するのは当たり前だけど、もはやインターネットなくして生活するなど考えられない時代だ。
私がWEBサイトを開設したのが99年。その後、写真サイトとして作品をアップするようになったのが01年くらい。あれから現在に至るまで淡々と写真をアップする作業を続けている。おかげで膨大な数の作品がサイトに上がり、いまさら見やすいようにリニューアルするのも面倒くさいほどの量だ。
当時は、プロ志向の人間がタダでネット上に作品を流すなんて考えられない時代で、それは仕事の価値を下げる行為だと思われていた。今もその傾向はなきしにもあらずだけど、昔ほど疑問視してくる人はいない。駄々漏れさせることはプラスかマイナスか、それはいまだもって私にはわからない。
ただ、作品を見てもらうことよりも、モデル集めのツールとしてサイトにアップし続けることは重要だったのである。

自分のWEBサイトからモデル募集をかけ、まったく知らない人と出会うという作業は実に楽しいものだ。出会いの幅を無限に広げられる点において、インターネットは最強である。
そもそもネットが普及する前は、人が一生のうちに知り合える人間の数は限られていると考えられていたように思う。「出会いには全て意味がある」とか「学生時代の友達は一生の友達になるから大切にしたほうがいい」とか、よく大人が若者に説いていたのも、出会いに希少性があったからだと思うのだ。人は所詮、学校や会社やスポーツクラブなど、自分が所属する場所の範囲内でしか人間関係を広げられないのが一般的であると。
でも今は違う。まったく違う職業、年齢、地域に住み、180度違う生き方をした人間とでも、ネットを通して簡単に知り合うことができる。
リアルで会った人とも、ネットで繋がることでより近づくことができる。ここで重要なのは、様々な人と出会うことで、人の多様性を知れるということだ。

それまでの私は、自分を変わった人間だと思っていた。世間という小さな宇宙で、どこにも所属性を感じられない自分は完全にマイノリティだと思っていた。私の学生時代といえば、体育会系のノリにはついていけないし、一人で本を読みふけるほど文学少女じゃないし、演劇部に所属する独特の人種は苦手だし、不良になるほどグレてないし、無害な人間でいるほど大人しくもなく、漫画もゲームもTVも映画も音楽も興味ないから、これらの消費活動を繰り返すことで趣味とする人間とも相成れない。
みんなが当たり前に楽しんでいることが一人だけ楽しめない、何をやってもこの世に違和感がある、というのが私だった。

ところがネットの海とは広いもので、私の作品を見て人間性を嗅ぎとり、同じくこの世に違和感を抱く人たちが続々と私の前に現われるのだ。しかも彼女たちは私なんかより数倍強烈だった。私が自分を"普通の人間だ"と感じるまでに、そう時間はかからなかった。

最初の衝撃は、撮影モデルAだろうか。
コンサバファッションで、いかにも美人然としたAは、すれ違う人々があからさまに振り返るほど容姿端麗だか、人と会うときは酔っ払ってないと喋れないほどの対人恐怖を抱えている。そのギャップにまず驚いた。
聞けば、OLをしていたときも毎日トイレで焼酎一本空けて仕事をしていたというし、車の免許も飲酒運転で取得したという。普通なら気が滅入って引きこもってしまいそうなものだが、Aはそれを回避するがごとくアクティブに動き回り、生命力に溢れていた。 引きこもって一生を終えるより、体をボロボロにしてでも外に出るほうを選んでいるのである。
話をするために入ったロッテリアで、堂々と持ち込んだワインをラッパ飲みしながら、必死でまともな人間に思われようと気を遣う姿を見たとき、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。さしずめオーストラリアで最初にカモノハシを発見した人や、中央アフリカで始めてオカピを発見した人もこんな興奮だったに違いない。
それまで私の周りにいた「変わった人」というのは、変わっていることをことさらアピールする人ばかりだったし、その変わっている理由も、珍しい音楽を聴くとか、大学出たのにフリーターとか、その程度のものだったから、極端にどうしようもないほどズレた人生を送っている人を前に、私は感動すら覚えた。
撮影中も、Aは酔っ払うとミミズを引きちぎって投げはじめたり、実印を土の中に埋め始めたりなどの奇行を繰り返したが、そこまで狂っていながらも、ちゃんと無事に家まで戻るなどの回帰本能はあったりして、もう何がなんだかわからなかった。

記憶に残る出会いといえば、少女Aである。
Aは、小学校からの生粋の登校拒否児で、入学早々に集団行動に反発を覚えた後はほとんど学校へ行かず、中学校は一度も足を運ばず、高校は入学すらしなかった頑固者だ。当然、クラスメイトとの交友関係はない。
しかも地方に住むAは、新幹線に乗って一人で東京・渋谷に現われ、携帯電話も持たずに見ず知らずの私と待ち合わせた。生粋の登校拒否児なのに、ふらっと一人で渋谷に現われるほどの度胸はあるのだ。妙に凛としていて、カフェに入ると当たり前のようにエスプレッソを一気飲みしたのには驚いた。
Aは、学校に行かなくても一人で勉強して大検に一発合格したし、知らない街へも一人でフラフラ出かけていた。自分の思うようにやりたいように生きている様が全身から滲み出ていて、世間にまったく毒されていなかった。誰とつるまなくても全然平気、ノープロブレム、超マイペースなのである。当然、見るからに浮世離れしていた。
出会った頃のAは、ほぼ私だけが唯一の人間のお友達という状態であり、普段はよく犬や猫と戯れていた。Aの面白さを私だけが知っていると思うとワクワクしてしょうがなかった。
普通、人間関係は友達の友達とか、共通の知り合いとかを通してどんどん増えたり繋がったりするものだが、0に何を掛けても数字は増えないように、Aには繋がりそのものがない。繋がるすべのないはずの人間と知り合えるというのは、まさにネットの驚異である。

世界は広いというのは知識としてわかっていても、身をもって知らなければ自分に影響を与えるほどにはならないだろう。
右も左もスイーツ脳な人間しかいなければ、それが全宇宙だと人は認識してしまう。そしてスイーツ脳人間を標準としても物事を考えるようになってしまう。それはとても危険なことだ。

ここ数年私は、読売新聞社が運営するWEBサイト「発言小町」にハマっている。「発言小町」は、悩み投稿サイトで、誰かが相談を投稿すると、それに対して様々な人が意見を書き込めるというシステム。管理者のチェックが入るため荒れることがなく、みんな真剣に書き込んでいるのが特徴だ。
主に主婦層が多いためか、書かれている内容は俗世間の悩みそのもの。旦那が浮気したとか、義理の妹が物を盗んでいくとか、夫に隠し子がいたとか、友達がお金を返してくれないとか、ママ友が虚言癖だとか、家を買ったら総スカンにあったとか。
みんなネットだからと、安心して悩みをぶちまけている。
オフラインで生きていれば、ほとんどの知り合いが、自分の綺麗な部分しか見せようとしないだろう。しかしオンラインでは、様々な人間が友達には言えない秘密をさらけ出している。ある意味、インターネットはバーチャルと対極にあるのだ。
人の多様性に触れ、現実では隠されている人のリアルを垣間見る。インターネットを通して、私は他人の人生を見ることの面白さを知ってしまった。
そして直接会いにいくことも、まったく関わらずに一方的に眺めることもできるインターネットは、私にとって宝の山である。

写真・文=インベカヲリ★

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インベカヲリ★
インベカヲリ★ 東京生まれ。2006年よりフリーランスとして活動を始める。写真、文筆などで活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。2009年、ニコンサロンjuna21三木淳奨励賞を受賞。ホームページでは写真作品を随時アップしている。
インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/
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