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人気美少女ゲームブランド「Frill」ディレクター丘野塔也氏インタビュー
原画・恋泉天音氏の美麗なCGで知られる抜きゲーブランド「Frill」から先頃発売された『円交少女』。ブランド初のロープライス作品となる本作は「新生frill」というキャッチコピーと共にリリースされました。はたしてその言葉に込められた真意とは――。ディレクター丘野塔也氏のインタビューをお届けいたします。そんなVAにもいわゆる「抜きゲー」、つまりアダルトコンテンツとしての実用に重点を置いた作品を手がけるブランドが存在する。それが丘野塔也氏がディレクターを務める「Frill(フリル)」だ。丘野氏は前述のKey作品の一部にも参加されているVAの社内スタッフ。これまでにも『痴漢専用車両』シリーズや『聖娼女 -性奴育成学園-』などのヒット作を手がけており、先ごろ5月には新作『円交少女~陸上部ゆっきーの場合~』を2000円台の価格に抑えたロープライスタイトルとしてリリース。また内容もこれまでの作風と明らかな違いが感じられる、意欲的な作品となっている。そんな丘野氏へ新作『円交少女』を中心にお話を伺った。美少女ゲームに限らずとも、現在のアダルトコンテンツを巡る状況は芳しいものではない。そうした状況のなか、丘野氏の視線はどこへ向かっているのか。
■エロゲーに必要なものを突き詰めていくと、エロだということになったんです
丘野塔也(以下「丘」) 1999年頃、VAに制作スタッフとして入社しました。何人かのチームでブランドを立ち上げ、ゲームを制作してリリースしました。当初は「大熊猫」(ジャイアントパンダ)というブランドを担当していたんですが、あまり売り上げがよくなくて休止することに。2007年当時、新しくブランドを立ち上げるときのタイミングで、当時はグラフィッカーをしていた恋泉天音が原画をしたいということになり、また同じタイミングでサウンドのどんまるが入社してきたんです。そんなわけで、とにかく一緒に組むことになりました。そこで、エロゲーの王道としてエロいものを作りたいなと思ったんですね。ただ当時、VAという会社では泣きゲーやストーリー重視の作品のイメージが強く、社風としてもそちらがメインといったムードで、エロをガッツリやってくぜみたいな空気がなかった。だからこそ、じゃあ僕たちがやろうと立ち上げたのがFrillブランドです。
編 Frillというブランドでエロを真剣にやろうと旗をあげたのは、丘野さんなんですね。
丘 そうです。大熊猫がセールス的には芳しくなかったので、売り上げをしっかり安定させたいという気持ちがあった。そこでエロゲーに一番必要なものはなんだと突き詰めていくと、やはりエロだということになったんですね。エロに全力投球のブランドを作るというのが、Frill立ち上げのそもそもの動機です。
編 恋泉さんとどんまるさん、そして丘野さん、この3人が集まればFrillという解釈でよいのでしょうか。
丘 必ずしもそういうわけではなく、Frillでも他の絵描きさんやライターさんが参加することはありますね。とはいえ、結局2作品を除いて全て私がディレクションをやっている形になります。幸いにしてFrillブランドが少し売れてきて、認知度も上がってきたので、若手が企画を出したい時にFrillでやらせて欲しいという話があったり。だからVA内でガチのエロをやるのがFrillだという位置づけで考えていますね。
編 シナリオに丘野さんのお名前がクレジットされることも多いようですが、丘野さんの役割は、基本的にはディレクターでしょうか。
丘 ライターとして書くこともありますが、基本的にはディレクションです。仕事の内容は、企画を立てて、プロットを書いたり、発注書を書いたり......ゲームの枠を全て決めて、ライターさんや原画家さん、CGさんに発注して、戻ってきたものを最終的に取りまとめてゲームの形にします。恋泉と組んだ『痴漢専用車両』や『聖娼女』の場合には、最初に僕がプロットを書いて、あらすじを決めて、そこからライターに発注する形を取っていました。出来上がったものに、僕がプラスして書くこともあるし、全部OKで採用しちゃうこともある。いずれにせよ、根幹の部分のプランニングと、その後の進行が一番の仕事だと考えています。
編 プロットだけではなく、たとえばヒロインが何人かいる作品の場合、その中のひとりのルートを丘野さんが担当された作品もあるのでしょうか。
丘 ひとりのルートを全て書いたのは『痴漢専用車両』の黒髪お嬢様瑞紀ちゃんです。締め切りの1週間前に、ライターさんの都合でシナリオがあがらないことになってしまって(笑)、しょうがないので1週間カンヅメになって、ひたすら書いて完成させた記憶があります。とはいえ、ひとつのルートを全部手がけるということは、いまはほとんどありません。Frillブランド以前はライターとディレクターを兼任していましたが、作業量的に僕自身がボトルネックになってしまって、仕事が回らなくなってしまう。最初の『痴漢専用車両』から、プロット作成とシナリオの修正以外は、ライターさんにほぼ任せることにしました。とはいえ、実際にパートによってはライティングもしていますし、最近はライターとしても前に出たほうがいいのではと周りから言われたので、なるべく名前を出すようにしています。
編 丘野さんは、同じ社内で萌え系重視のブランド「tone work's」も手がけてらっしゃいますよね。
丘 はい。tone work'sの成り立ちはVA20周年記念ブランドなんですが、これは口実なんですね(笑)。僕はどっちもやりたいタイプなんです。Frillでノウハウを培ってきて、エロ方面は自分なりの形、理想形を作れてきた気がしてきたので、新しい挑戦として、泣きゲーではないんですが、萌え系のキャラクター性重視のゲームにも挑戦してみたいと思いました。tone work'sも基本的には僕と恋泉、どんまるのスタッフがいて、そこに他のスタッフも参加しています。もともとFrillの他にもブランドがいくつかあったんですが、正直に言うとFrill以外はそんなに上手くいってなかった。ただ、そこで得たノウハウもあったので、潰してなくしちゃうのはもったいないなと。だったらひとつにまとめて、全員で集まってやったほうがいいものができるんじゃないかと考えました。だからtone work'sは特定の誰かが前に出ているというのではなく、連合チーム的な感じですね。
編 VAはKeyのブランドイメージが強い会社だと思います。そうしたなかでエロを真剣にやるとなると、社内で肩身の狭い思いをされたりしなかったのでしょうか。
丘 VAの創設期はエロ系タイトルもたくさん作っていたので、最初からそこまで理解されなかったわけでもないのですが、ともあれ最初は少ないスタッフで頑張ってくれという感じでしたね。全部で4人だったんじゃないかな。
編 4人というのは、美少女ゲームの制作規模としてはどれほどなんでしょうか。
丘 最低限ですね。もちろん1人とか2人で作ってるメーカーさんもいらっしゃいますが。だいたい6~8人くらいが標準の人数じゃないかと思います。tone work'sはもうすこし多くて、12人くらいです。ディレクターがいて、ライター、原画、CG。サウンドはいないことが多いですね。あとはスクリプト、広報や渉外担当、これで6人くらいですね。
編 そうすると4人というのは本当に最低限ですね。丘野さんが企画シナリオ、恋泉さんが原画とCG、どんまるさんが音楽、あとはプログラムというかスクリプト担当で4人ですか。
丘 木本らいというスクリプトをやるスタッフがいるんですが、彼も半分は社内の他のプログラムの仕事が入っていました。どんまるは音響制作の別の仕事も担当していて、4人中2人が兼業でした(笑)。だから細かい素材なんかが必要になったときも、いったいこれは誰にお願いして作ればいいんだろうって(笑)。途方に暮れることが多かったですね。
編 そんななか、社内でも徐々にFrillが認知されてきたんですね。
丘 美少女ゲームには、1万本売り上げたらヒットという、なんとなくですが基準があるんです。なのでまず目標として1万本売ろうと。社内でも「1万本売れるゲームを作ります」と公言しながらやっていました。最初の作品の『痴漢専用車両』は初回本数はそんなにふるわなくて、5千本くらい。でも幸いにして評判がよく、リピート注文がどんどんくるようになって、最終的には1万2、3千までいったんですね。数字を達成できると、社内でも、あいつらちょっとやるなって。
編 最初の数値目標を達成した作品がデビュー作だったんですね。
丘 デビュー作でしたね。やっぱりデビュー作の認知度でお客さんに知られていないと、次の作品を出してもパッとしないブランドが出したゲームだなぁと受け取られてしまうので。最初の作品でどれだけユーザーの皆さんに知ってもらうかというのは、当時凄く考えました。
■フルプライスの時代が過ぎ去ろうとしてるのかな、という気はしています
編 恋泉さんやどんまるさんが参加された前作の『聖娼女』、非常に好評でユーザーから多くの支持を受けました。そうした状況のなかFrillブランドで次に何をやるのか、企画の検討は難航されましたか。
丘 8800円のタイトルを、業界的にフルプライスタイトルと呼ぶんです。プレイ時間で言うと2、30時間遊べて、ヒロインは4人から5人くらい、CGも100枚くらいの作品ですね。『聖娼女』もフルプライスで、とにかく最高のエロゲーを作ろうというテンションで作ったんです。当時の僕らにできる範囲ではありますが、エロゲーとしてやれることは全てやった。幸いそれが好評だったので達成感はありました。でも市場の変化を強く感じていて、エロゲー業界自体の傾向として、特に抜きゲー系の作品だと、あまり大きいタイトルは市場で動きにくくなってきてるんです。今のゲーム業界の販売構造は、初回、初月売り切りというか、リリースされた月に9割くらい売ってしまう。するともう次の月には他の新作が出るので、一気に下火になってしまう。ところが『聖娼女』に関しては、最初はあまり話題にならなくて、だんだん尻上がりに評判を上げていったタイトル。そういう状況をみていても、高額のヌキ系タイトルは、とにかくいきなりは買い辛いのかなと(笑)。やっぱり8800円を何の保証もなしで発売初月に......もちろん買って下さるありがたいお客様もたくさんいらっしゃるんですが、なかなか購入し辛いのかなと思っています。それとPCの普及率が減ってきて、気軽に遊べる時間がなくなってきてるのかなと。フルプライスの作品はじっくり腰を据えて遊ばないといけないゲームですから。また当時、同人市場が伸びてきているのを強く感じていました。同人作品だと1000円くらい、10分くらいでサクッとプレイし終わるようなゲームが主流だった。その辺りの状況を見つつ、短時間で遊べて、とはいえエロのストーリー性というか、エロの必然性みたいなものは失いたくなかったので、短時間で、充実感があって、プラス抜ける、そういうゲームを作りたいと思っていました。
編 その結果『円交少女』となったわけですが、テーマとして援交もの以外で検討されたものなどあったのでしょうか。
丘 3本か4本くらい企画を出して、恋泉やどんまると話し合って決めたんです。他には人妻ものや近親相姦ものとか。姉×弟みたいな今までやってなかったジャンルもありましたね。あとはアイドルものですね。そんな企画を出したんですが、僕は特に『円交少女』がいいなと思っていて、二人も同意見だった。低価格帯での初めてのタイトルなので、ストレートな分かりやすさがあったほうがいいのではと考えたんです。
編 過去に低価格帯タイトルのリリースはあったのでしょうか。
丘 ファンディスクはあったんですが、低価格帯をメインで進めていこうとはなってなかったですね。
編 ちょうど『円交少女』発売前のタイミングで、旧作の『痴漢専用車両』2タイトルが低価格帯でリリースされました。
丘 あれは『円交少女』の前に話題をつなぐ意味もあったんです。もう5年以上前のタイトルで、いま見るとグラフィックの解像度的にも小さかったので、この機会にHD化して出しなおして、そのあとしばらくして『円交少女』をと思っていたんです。とはいえ、開発期間が延びてしまって、そこまでシームレスにはつながりませんでしたね(笑)。価格は3800円と4800円でした。
編 ミドルプライス以下ですね。そこで手応えを感じられたんでしょうか。
丘 初回はそうでもなかったんですが、結構動きました。ちょっとした新作タイトルくらいの売り上げが立ったんです。やっぱりデフレの世の中ですから、手に取りやすいほうがいいのかなと。
編 低価格帯でのリリースにはずみがついたわけですね。
丘 そうですね。ユーザーさんからはフルプライスでしっかり遊びたいという意見もいただいたので、どちらがよいのかはもう少しやってみないと分かりませんが、フルプライスの時代が過ぎ去ろうとしてるのかな、という気はしています。実際に競合他社さんも減ってきてるんです。
編 そうですよね。先ほどのお話にもあったように、同人ゲームの市場が大きくなってきているように感じます。
丘 それは凄く思います。少し前まで同人というと二次創作が中心でしたが、最近はオリジナル作品が多い印象を受けます。同人と言っても、それは販売方法がインディーズなだけで、内容は商業作品と変わらないですよね。そうなってくると、長年続けてきたエロゲーの手法で闘い続けるのはちょっと厳しいのかなと。同人作品の強みとして、クリエイターのこだわりをダイレクトに発揮できる。商業作品だとどうしてもその辺は弱まってくるというか、売れるようにパッケージングしてしまうんですね。同人作品は自分のこだわりをギュッと入れていくような作家性が高いのかなと思います。そうした点も脅威的に感じていたところですね。
■リアリティの中から滲み出るエロスを描きたいと思った
編 前作の『聖娼女』が売春ものでした。その売春の別の角度といいますか、本作で援助交際がテーマに選ばれている理由や狙いを伺わせてください。
丘 『聖娼女』で売春ものをやってみて、売春というのは深いなと作りながら思っていたんです(笑)。最古の職業と言われているだけのことはあって、エロと、女性と男性の精神性を感じるなと。なのでもうちょっと売春ものをつきつめていくような、そんなアプローチをしてみようと思いました。そこで最初にやるとしたら援助交際かなと。ユーザーさんのニーズとして女子校生ものの人気があるのはもちろんですが、『聖娼女』の場合、エロに関してはファンタジーというか、半分現実感のない設定だったんです。学校経営の裏で女生徒に売春を行なわせる学園があるという、嘘の世界。もちろん敢えてそうしたんですが、でも売春を突き詰めるならリアルというか、現実感を入れないと描けないんじゃないかという思いがあって。風俗ものにしようかとかいろいろ考えたんですが、援助交際というのが思春期の未完成な女性と売春をつなぎ合わせる意味で、凄く面白いのかなと思いました。
編 援助交際ものの作品で、参考にされたものなどあったのでしょうか。
丘 企画が援助交際に決まってから援交ものの作品に触れたんですが、一番はまったのが『渇き。』(2014)という映画なんです。直接援助交際を描いてるわけではなく、元刑事の父親と娘の話。娘は学校では優等生なんだけど、裏では麻薬やったり援助交際やったりとメチャクチャで、その娘が失踪してしまい、父親が娘を探すという話ですが、この映画は女性の心情が描かれないんです。ひたすら父親が、なんでこんなことしたんだろうってずっと悩み続ける。父親もですが、周りの男たちもみんなヒロインの女の子に振り回され続ける話なんですね。それを観て、男にはわからない根っこの感情みたいなものを追いかけたくなるというか......その辺は凄く影響を受けてます。影響を受けすぎてしまったかも(笑)。
編 逆にそこで描かれなかったことを『円交少女』で描いてみようと。
丘 そうですね。
編 『円交少女』では、ヒロインのゆっきーが誰に対しても特別な恋愛感情を抱くことがなくて、思春期の何も持たない少女が援助交際に流されていくリアリティと非常にマッチしているなと感じました。そうしたリアリティを表現するにあたって、苦心された点などありますか。
丘 『聖娼女』や他の作品であっても、エロに関してはファンタジーで描いてるんですが、その方向だと自分の表現に限界を感じていました。それはそれで面白いものなんですけど......エロとは何かということを考えていくと、身近にあるエロスが最高のエロスなんじゃないかと。ファンタジーにした場合、突き詰めていくとどんどんギャグになっていってしまう。スポ根や劇画を突き詰めていくとギャグになってしまうのに似ていると思います。だから、リアリティの中から滲み出るエロスを描きたいと思ったんです。援交する女の子はどんな感情をもって援助交際をしてるんだろうと考えると、ある程度ドライなところがあるんじゃないかなと。例えばよくある展開で、レイプされて写真撮られて脅されて、これでもうあの男の言いなりにならなきゃ......といった話がありますが、実際にはそんなことなくて、女の人はそんなに弱くないと思うんですね。たとえば風俗嬢の人もいるし、AV女優の人もいるし、そういう人たちが必ず不幸な人生を送るかというとそんなことはない。逆にそこで何かを得て、まったく別の人生を送ってる人がたくさんいると思うし、それが普通なんじゃないかと思ったんです。援助交際に流される女の子もそうで、ゆっきーの運命をそういうふうにしたいと思いました。僕の中で『円交少女』はゆっきーという女の子の成長物語なので、たまたまやってたのが部活でも勉強でもなくて、援助交際だったというスタンスで描いてます。
編 そうしたテーマがあったからでしょうか、本作では選択肢がありませんでしたね。
丘 選択肢を作ると色々な展開に出来るんですよね。描きたいエッチシーンが二個あったとして、じゃあ片方はバッドエンドにするとか、作りやすくなるんです。これは本当に悩みに悩んで......実は選択肢を入れるつもりでいたんです。でも原画の恋泉さんに相談したら、恋泉さんはコンセプトを貫きたい人なので、そんなに日和ってどうするんですかと怒られまして(笑)。
編 (笑)。
丘 女の子の運命は一つでしょと言われて、じゃあ僕も腹括りますって。だからよくあるバッドエンドで、男たちにメチャクチャにされて終わるみたいな展開も考えていたんですが、ちょっと違うなと。そこは初志貫徹、せっかく新機軸で始めるので、最終的にはブレずにいこうと決めました。
編 選択肢があるなら、いわゆる完堕ちエンドだろうと思っていたんですが、ないことで色々な想像が膨らんで、非常によかったと思いました。
丘 それは恋泉さんに感謝です(笑)。でも完堕ちを求める声もあると思ってしまうから、一番悩んだところですね。
編 お父さんにこんな風にされたことなかったといって、ゆっきーが泣くシーンがありました。
丘 あのシーンも、援交のドキュメンタリーを調べていたら似たような話があって織り込んだんです。親から愛情を受けられない女の子が、援交をすると初めて異性からというか、人から認められて、どんどん援助交際に入り込んでしまうということがあるらしいんですね。ゆっきーは別に愛情を受けなかったわけではないんです。ただちょっとすれ違いがあって......おそらく、人は何かしら成長期で欠けてしまうものがあって、その欠けた部分を何か別のことで補っていくのかなと思っています。結果として、ゆっきーの場合はたまたまそれを援助交際の中で見つけてしまった。
編 ユーザーからするとグサッと心に刺さるシーンだと思います。VAさんはKey作品でもユーザーの心に突き刺さる作品をずっと作ってこられているので、違和感は特別感じないのですが、ただアダルトコンテンツの抜きゲー枠で、こうした表現がされるのは稀だと感じました。
丘 これは難しくて、あまり感動といったほうに傾き過ぎてヌケないと言われるのが一番嫌なんです。まずエロコンテンツとしてのベースをしっかりもっておきたい。その上で入れ込んでいく部分だと思うので、その辺のバランスは凄く苦労しました。
編 ああいったシーンを盛り込もうと思えばいくらでも盛り込めるんですね。
丘 はい。でも入れすぎてユーザーさんのアレが萎えてしまうと、我々としては不本意ですから(笑)。
■くすはらさんの声からは、思春期の虚無感がニュアンスで伝わってきた
編 登場するキャラクターについて、『円交少女』はロープライス作品ということもあって登場するキャラは多くないのですが、まずはゆっきーのキャラ造形について聞かせください。陸上部でレーシングブルマー、非常に魅力的でしたが、運動部のキャラ自体は定番ですよね。
丘 いつも一人くらいは入れてますね。ただメインにはしてこなかったんですが、凄く安定した人気もあるし、援交というテーマだったので、ギャップがあるほうがいいなと考えました。不健康な女の子より健康的で前向きな女の子が援助交際にはまっていくほうがギャップがあり魅力的だろうと。また今回はエッチシーンで特別なプレイがないんです。だから画的にも、日焼け痕とか、陸上ウェアで変化をつけて、より映えるようにしたかったので、結果として陸上部にしました。長年エロゲーをやってると、過去作で主要な部活を使っちゃってるんです(笑)。テニス部、水泳部、体操部あたりは真っ先に使ってる。再利用してもいいんだけど......何作品の間を空ければ使っていいんだろう、なんて考えることがあります(笑)。
編 (笑)。陸上ウェア、日焼け痕、ショートカットで黒髪というキャラは魅力的でした。
丘 最初期の案では髪の毛が茶色系で、もう少しヒネたキャラクターだったんです。キルラキルの流子ちゃんみたいな、ちょっと斜に構えた感じだったんですが、それを馬場社長に見せたら、黒髪のほうがいいんじゃないかと。言われたとおりにしてみたら、なんとも言えないリアリティが出てきて、社長の慧眼を感じました(笑)。
編 後ほど詳しく伺いますが、バルーンウィンドウシステムが『聖娼女』と違って立ち絵のシーンにも採用されていました。その結果、地の文というか、ゆっきーのモノローグで物語を進める必要に迫られたと思うのですが、そうした点は彼女のキャラ造形に影響を与えているのでしょうか。
丘 影響したと思います。短いセンテンスで、語りすぎないことに気をつけました。語らなさすぎてもダメなので、キーワードだけを残して、それを追っていくと読んでるほうがなんとなく分かっていく、そういうつくりになるように凄く気を遣いました。シナリオを書くというよりも、漫画のコンテのような。これまでの経験で感じたのは、地の文ってそこまでユーザーさんに読まれていないんです。読まれてないといったら言いすぎだけど、そんなにちゃんとは読んでないと思うんですよ。ボイスも乗らないし。そうなると、じゃあ本当はいらないんじゃないかと。だだーっと文章があって、読み飛ばしたりすることでテンポが悪くなってしまう。だったら次々とセリフやモノローグを被せていったほうが読みやすいし、よりキャラクターに親しんでくれるんじゃないかと考えたんです。そうした工夫を『聖娼女』の頃から少しずつ始めてるんですが、『聖娼女』の時はゲームのボリュームも凄く大きくて調整に時間がかかったので、立ち絵のシーンまでバルーンにはできなかった。でも今回は低価格でシナリオも短いので、全部バルーンでやってみようということになったんですが、結構大変でしたね。
編 キャラクターボイス、CVを担当されたくすはらゆいさんについて伺わせてください。
丘 オーディションで演じていただける方を募集して、100人くらいお声を頂いて、その中から選ばせていただきました。もちろん声が可愛くて、喘ぎ声とか濡れ場がエロいというのは基本なんですが、くすはらさんは思春期の虚無感というか、日常の時の何とも言えない虚無感がニュアンスで伝わってきて、制作スタッフがほぼ満場一致で決まりました。今回は特に地の文を省いてモノローグにしているので、声のニュアンスで感情や状況を伝えて欲しいという場面が多かったから、声でどれだけ表現してもらえるかというのは凄く気にしていたんです。その点、彼女はバッチリはまったと思います。この場面では嫌と言ってるけど、実は嫌じゃない、いいよって言ってるけど本当はよくはない、みたいなニュアンスをほぼ汲み取ってくれました。その時のゆっきーはどういう感情でセリフを言っているのか、凄くよく表現してくれたと思います。正直文句なしでしたね。くすはらさんがいてゆっきーが完成したみたいな(笑)。
編 サブヒロインのパコちゃんについても聞かせてください。
丘 パコちゃんの誕生は、『聖娼女』の時の、反省ではないけど気になったところがベースになっているんです。『聖娼女』というゲームは主人公の直己という女衒の男が、女を調教してから売春させるというお話で、彼はヒロインたちを売春へと導いていく役割なんです。するとユーザーさんの心理的に、いわゆる独占ルートの要望というか、ある程度主人公が調教してから他人に貸す、売春させるという展開に抵抗がある、といった声が結構あったんですね。じゃあその役割を女の子にしてしまえば、そうした懸念もなくなるんじゃないかと。ついでに3Pも描けるし(笑)、いいんじゃないかと考えたのがパコちゃんを作ろうと思ったきっかけですね。
編 必要に駆られて誕生したキャラとのことですが、物語的にも重要なキャラクターになっています。
丘 物語の展開で上手い具合にエッチシーンへと誘導していく、パコちゃんがいることでどんどん話が動いていくという役割を期待していました。それと子どもの頃に仲がよかった女の子が、大人になるとあーっ......こんな風になっちゃったんだ......みたいな体験が大なり小なり誰にでもあると思うんですが、その辺りと絡めて、この作品のテーマでもある虚無感を埋める存在として感じて欲しかったんですね。パコちゃんはゆっきーが体験しているところをもうずっと昔に通り過ぎてるキャラクター。ゆっきーが正しいルートというか、グッドエンドだとしたら、パコちゃんはバッドエンドにいってしまったケースだと考えています。だからパコちゃんは、ゆっきーを引き込みつつもグッドエンドに導こうとしてる、そういうキャラクターとして描いてます。
編 パコちゃんのCVを担当された鶴屋春人さんも、Frill作品では初めてのご出演ですね。
丘 初めての出演ですね。パコちゃんは分かりやすいキャラクターなので、候補はたくさんいらっしゃったんです。キャピキャピギャル系でちょっと頭が悪そうな......やっぱりそこで、ナチュラルな頭の悪さというか(笑)。それが欲しかったんです。
編 (笑)。
丘 パコちゃんの正体を最後まで隠しておきたかった。ゆっきーを完堕ちさせないと決めた以上、別のオチをもってこないといけなくて、そうなるとパコちゃんの正体で頑張るしかなくなってくるから、序盤はひたすら援交にはまってるだけの馬鹿な女の子なんだという印象を与えないといけない。その点は、まさにはまりましたね。
編 素晴らしいキャスティングでした。
丘 それに加えて、本性を出す時の黒さも演じてもらえればいいかなと。だから声優さんに関しては、もう本当に凄く素晴らしかったです。
編 そしてパコちゃんの話で欠かせないのがエンディング曲で『null』。歌詞は丘野さんが書いていらっしゃいますが、今回の作品に込められなかったエピソードが込められているように感じました。
丘 まさにその通りで、パコちゃんのことを描かなきゃこの話は終われないと考えていたんですが、それをシナリオの中で描くと蛇足というか、冗長感があった。そこでどんまる君と話しあって、その辺はエンディング曲で全部やってしまおうと。さらに本編の補足というか、パコちゃんの心情だったり、どうしてこうなってしまって、こういう結論に行き着いたのか、そういうものをエンディング曲に込めようと。当時、ラップというか、ポエトリーリーディングにはまっていたので、虚無的な感じで、女の子が自分とゆっきーの置かれてる状況についてひたすら語っていくみたい雰囲気のものをやりたくて作ったんですが、こういう作詞をするのが初めてだったんですね。だいたいいつも、どんまる君が曲を作ってくれてそこに歌詞をあわせていって、2、3日もあれば作れるんですが、『null』は2週間くらいかかりました。それをどんまるに渡して、調整してもらい完成したんですが、これが一番手間がかかりましたね(笑)。
編 完堕ちしなかったゆっきーと、この『null』という曲の組み合わせによって素晴らしいエンディングになっていると思います。
丘 ありがとうございます。歌が最後に流れてこのゲームが完結する感覚を持っているので、是非皆さんにヌキ終わって賢者モードのときに聞いて欲しいです(笑)。
■エロシーン自体は重要ではなく、その始まりと終わりでほぼ勝負は決まってる
編 エロティックなシーンについて、抜きゲーのエロシーンだと荒唐無稽なプレイの描写がなされることが通例だったように思いますが、突拍子もないプレイはなくとも、実用性が保たれていたように感じました。
丘 普通のプレイばかりでも飽きてきてしまうし、だからといってぶっとんだ設定を持ってくるのも今回は違いますし。そのバランスを考えたときに、女の子の心情に寄り添って徐々に堕ちていくところ、女の子自身がお金なのか快感なのか、情なのか分からなくなっていくところが、僕は好きなんですね。よく分からないけど許してしまうシーンが凄くエロいなと思うので、そういうシーンを毎回少しずつ盛り込んでいきました。昔ですが、機会があってVA系列ブランドの「catwalk NERO」のディレクターさんと同席したときに、エロシーン自体はそんなに重要ではなく、その始まりと終わりでほぼ勝負は決まってるって話をされていて(笑)。それを聞いて本当にその通りですねって話していたんですが、どういう経緯でエッチシーンに至って、どうやってそれが終わるのか。そこが出来てしまえばあとは流れていくんですね。
編 その点、特に今回はリアリティをもった展開だったので苦労があったのではないでしょうか。
丘 これはいつもそうなんですが、処女喪失シーンが凄く悩ましいところなんです。そこをどう越えるかと考えたときに、今回は凌辱っぽく、敢えてさっくり終わらせるやり方をしました。敢えて情緒的にせず、ほぼ乱暴に奪われてしまう。
編 行為の後に戻ってきて、パコちゃんと話したりしますよね。
丘 あのシーンで、処女なんてどうでもよかったし、とか言いながら実は傷ついてる。その辺のニュアンスを出したいなって思っていましたね。
編 凄く効果的に使われていたと感じたのがアフターピルです。抜きゲーや凌辱系のタイトルだと、中出しの悲愴感みたいなものがなくなってしまうアイテムですが、逆に効果的に使われていました。
丘 この辺も今までの経験上で(笑)、中出しをいかにやるか。中出しされてどうしよう、妊娠しちゃうみたいな展開も面白いしエロいんですが、ワンパターンになってしまうんですね。毎回それをやるとまたこの展開かってなっちゃう。最低限、自分のセーフティを確保しつつ援交するほうがゆっきーとしてもノレる気がしたので、そこでアフターピルを出すことにしました。口移しで飲まされるシーンもエロいし、これまでのゲームにはあまりなかったシーンなので、印象的かなと考えましたね。
編 その狙いがはまっていたと思います。
丘 先ほど地の文の話がありましたけど、エッチシーンで地の文を書いてもそんなにエロくないんです。官能小説などのジャンルでじっくり読ませるなら別ですが......。セックスの最中にはみんな話をしないと思うんですが(笑)、会話のやり取りのなかで自分たちの行為が描写されるということを凄く気を遣ってやっています。だから援交相手のおじさんは基本ネットリ系で、ほら入っちゃうよ、痛いやめてやめて、といったやり取りで、あぁ、入ったんだなと。
編 キャラクターに自分で実況させるのではなく、あくまで相手との会話のなかで。
丘 モノローグで書いてる部分も少しありますが、会話のほうがよりユーザーさん的には注意を引くと思うので、印象的なセリフでエッチが進んでいく展開は、凄くこだわったところです。
編 最初の処女喪失シーンから教師や同級生とどんどん援助交際が発展していきますよね。そうやってはまっていく雰囲気が、特に後半のシーンで続けて出てきました。
丘 あれはやりたかったシーンです。スピード感があって次々と堕ちていく。よりゴールに向かって加速していくゆっきーとパコちゃんを描きたかった。だから次々と、ひたすら射精されるわけですね。
■アドベンチャーゲームの形態に変化というか、斬新さを取り入れたいと思っていた
編 バルーンウインドウシステムについて聞かせて下さい。『聖娼女』からの採用ですよね。
丘 もともとは同人ゲームさんからの影響もあるんですが、今までのアドベンチャーゲームの形態に変化というか斬新さを取り入れたいと思っていたんです。プログラマーに相談したらできると言われて。『聖娼女』の時はエッチシーンだけでしたが、今回は全編で取り入れました。キャラを避けながらバルーンを入れないといけないので、座標を計算して、女の子が二人になったらまた計算しなおして、特に女の子が言うセリフはその子の近くに出したり、そういうことを全部考えて配置していくんです。ライターさんにも最初からこういうシステムでやりますと説明しました。ワンシーンでバルーンがだいたい5つ出るんですが、5つでワンシーン、漫画だと1ページになるようにとお願いして。その5行のシーンを次々と作っていくんです。
編 原画の恋泉さんとも、他のゲームにはない打ち合わせが必要になるのでは。
丘 そうですね。バルーンの位置と絵の組み合わせとか。ただそこを考えすぎると絵のダイナミックさがなくなってしまうので最低限だけ伝えて。なので、たまにこれバルーン入るのかな?みたいな難易度の高い絵がくることもあります(笑)。エッチシーンで女の子が四つん這いになってたら、顔の周りに出すバルーンの場合5文字くらいしか入らないんです。だからそこのバルーンには必ず「あっ」とか「くうっ」とか喘ぎ声が入って......といった調整をずっとしてました。声も、バルーンでテキスト上では短いけど、よくよく聞いてると長い喘ぎ声があったりします。テキストでは「あっ」だけど、セリフだと「あっ......あぁっ......くうぅっ」になってるんです。
編 シナリオライターさんも字数制限のなかで書かれているんですね。
丘 一つのセリフは最高20文字で書いてもらいました。その上で僕が場面に当てはめてみて、長いところを削ったり、短いところを長くしたりと調整しています。だから二重の手間がかかってるんですよね。ただライターさんと話していると、センテンスが短いので言葉に気を遣うようになって、結果的にいいものになると。普段なら説明が足りないと思えば付け足していけますが、今回はそれができませんから。短いワードで分かってもらわないといけないので、そこには凄く気を遣ってますと仰ってましたね。
編 バルーンウィンドウシステムは縦書きですよね。美少女ゲームは普通横書きで読むのですが、縦書きにされたのは意図的でしょうか。
丘 単純に絵との相性なら横のほうがいいんですが、視点移動的にも常に右から左に読んでいくのが読みやすいのかなと思って縦にしています。
編 ユーザビリティ最優先なんですね。
丘 そうですね。今後英語版を作りたいという話もあるんですが、どうしようかなと(笑)。これはまだ決定事項ではないんですが、steamで非18禁ゲームを配信して、自社のサーバーにアダルト化パッチを置いて、パッチを適用するとエロゲーになる、という配信方法をすでに海外のメーカー何社かがやっているんですね。システム的にも問題ないという話だったので、やってみたいなと思っているところです。
編 ローカライズの話も上がっているんですね。
丘 そうです。世界に援交ワールドをひろげていこうと(笑)。
編 素晴らしいですね(笑)。バルーンは今回で2回目の搭載でしたが、改善点などありますか。
丘 表示面は固まってきましたが、制作面では現状凄く手間がかかってるんです。プログラム上で座標を細かく指定してるので、どうしても慣れるまで時間がかかる。インターフェースを整備して、直感的にドラッグ&ドロップで持っていけるようなシステムをやりたいですね。本音を言えば、いろんなメーカーさんに使って欲しいんです。そうやって低価格エロゲー業界が全体として盛り上がっていけば、僕らとしても嬉しい。業界自体が盛り上がってくれると、自社製品も売れますから。でも、まだそこまではいけてないですね。
編 『聖娼女』のときより、若干動作が軽くなったように感じました。
丘 ちょっと軽くなりました。『聖娼女』の時はいろいろあってちょっと重くて、特に遅いマシンだともたついたんですが、今回はタブレットPCを強く意識しているんです。だから性能の低いマシンでもスムーズに動くことを意識して、プログラムを見直しています。
編 バルーンウインドウシステムで制作する上でメリットと感じられることはありますか。
丘 セリフだけで構成できることですね(笑)。パパパッと書けば形になるから、文章を構成するのは苦手という方でもOKです。そう言う意味では、むしろアマチュアの方に勧めたいですね。
編 ちょっと前に流行ったAAで描くやる夫のイメージですね。
丘 そうですそうです、そういう感じ。
編 ではこのバルーンウインドウシステム、将来的には他のブランドさんに提供される可能性があるわけですね。
丘 是非したいですね。
誰 現状ではスクリプトに組み込まれておらず、毎回手作業でやられていると。
丘 スクリプトに組み込みたいという話はしてるんですが、すぐにお金を生み出すシステムではないので、社内的な利益の問題やプログラマーのコストの問題などいろいろあって、まだ動けないですね。
編 是非実現していただきたいです。
■エロゲーだからこんなものでいいだろうというのを、出来るだけなくしていきたい
編 美少女ゲームユーザーのプレイ環境にも少しずつ変化があると思いますが、タブレットPCでのプレイを意識されているとのことでした。実は私もタブレットでプレイさせていただいて感じたのですが、コンフィグ画面が使いやすくなっていましたね。
丘 僕も個人的にタブレットPCを買って、いろんなゲームをやってみたんですが、下のほうにある小さいボタンが押せないとか、操作性に難があるなと感じていました。今後タブレットPCで遊ぶ方が増えていくと思うので、そこは第一に対応したいと思いました。本当はアンドロイド版にも対応したかったんだけど少し遅れてます。指の操作を基本にしたいですね。
編 美少女ゲームはクリックで進むものですよね。
丘 だから基本的にタブレットとの相性はいいと思います。
編 今回はHD解像度に対応されていますが、その分の苦労はあるのでしょうか。
丘 解像度が増えると塗りはもちろん大変なんですが、絵を扱う周りの手間もちょっとずつ増えるんです。たとえば絵を一旦データとして加工するんですが、データが大きいとそこでも時間がかかって、制作期間が増えてしまいますね。あとは容量の増大ですね。今回はボリュームがそれほどでもありませんが、それでも800メガくらいになりました。これ以上ボリュームが大きくなると、ダウンロード版で1ギガ2ギガは当たり前になってきますよね。
編 Frillに限らずVAの新規タイトルはHD解像度に対応されているんですか。
丘 ほぼHDですね。フルではないけどHD。4:3と16:9のどちらがいいのかという議論もあって、構図としては4:3のほうが安定するという話ですが、16:9のリッチ感は大事だと思っていて。特に今回はロープライス作品だからこそ、ロープライス感をなくしたいと思っていました。安かろう悪かろうと思って欲しくないというのが凄くあったんです。あとエロゲーだからしょうがないよねって部分をなくしたいなと。それはもうユーザーさんが仰る分にはしょうがないですけど、僕も含めて制作側もちょっと甘えてる部分があると感じていて。エロゲーだからこんなものでいいだろというのを、出来るだけなくしていこうという姿勢で制作しました。
編 今回は購入経路が多様化していますね。
丘 手軽にプレイしたいというお客さんが増えてきてると思いますし、パッケージだとどうしても在庫の問題で店頭で買えないことが発売日にはよくあるので、今回は完全に同じ発売日にパッケージとダウンロード版両方を出しました。パッケージ版はダウンロード版より少し高いんですが、お好きなほうを選んでくださいという気持ちです。現状では半々の売り上げで推移していますね。
編 エロゲー特有の予約特典といった施策もなされていませんでした。
丘 できないと言ったほうが正確かもしれません。なかなか低価格タイトルで特典はつけづらいですね。お店の独自特典ではなくてメーカーとして特典をつけるというのも方法としてはあったんですが、余計なものを省きたいというか、ソリッドな、男らしくゲーム1本勝負にしたかったんです。特典をつけちゃうと初回版だけが出て、そこからあがってこないということにもなりかねない。常に同じものがいつでも買えるというふうにしたかった。初動ももちろん大事なんですが、やっぱり継続して売れるのが一番嬉しいんですよ、内容が認められたということですから。徐々に売れてくれると、作り手として真の評価を頂いているという感覚があります。
編 コピーガードについても聞かせてください。VAでは先日『Angel Beats!-1st beat-』が話題になりましたが、本作のダウンロード版にはコピーガードが見受けられませんでした。
Angel Beats -1st beat-楽しんでもらえてるようね。でも、一部から3日目からループして進まないという報告が来ているわ。「正規のディスク」でインストールして、ゲーム起動時にディスク認証をしていれば起こらないわ。 pic.twitter.com/HPcRg6Gzj8
— Key開発室 (@key_official) 2015, 6月 29
丘 ダウンロードサイトさんの都合もありますが、ノーガード戦法といいますか、安いから買って欲しいと。イタチごっこで、プロテクトをつけても結局外されてしまうので、そういう意味でも価格を下げて、興味をもった方には、そんなに高いものじゃないので買って欲しいですね。
編 先ほどお話にあったsteamなどが使えるようになればクリアできる問題ですね。
丘 そうです。だからそこにはあまり注力していません。お客様の良識に期待していますね、今のところ。
編 タブレットPCでプレイするようになると、起動するたびにディスク認証を要求されると大変なんですよね。
丘 そうですね、タブPCでディスク認証はないかなと思います。これから一発ぶっこくぞっていう時には、やっぱり手軽に遊べないと(笑)。
■エロゲーで、より心と股間を揺さぶられる体験をして欲しい
編 発売から時間も経って、ユーザーさんからの声も届いてきてるのでしょうか。
丘 賛もたくさん頂いてますが、ちょっと否もありました。構成だったり内容のテンションを変えたので、今までのFrill作品が好きという方には、もっとエロにバリエーションが欲しいとか、完堕ち系のシナリオが欲しいとか。そういった意見は次回の参考にさせていただきます。僕らの表現したいことと、ユーザーさんの満足するものが、さらにマッチする部分がもっと作れるんじゃないかなという気はしています。
編 予約数とDL数、想定していた数字と手応えはいかがでしたか。
丘 初月で1万売りたいと考えていましたが、これは達成できました。現在では、これまでの社内DL販売数1位になってるかもしれないですね。ただ予約は少なかったですね。
編 特典もありませんでしたしね。
丘 『聖娼女』の時に、店頭で商品が全然足りなかったことがありまして......。でもショップさんを一概に責めるわけにはいかないんです。ショップさんも在庫がタブつくリスクを背負えないですからね。それに、みんな抜きゲーって予約しないんですよね(笑)。
編 僕はヨドバシカメラで予約しました(笑)。
丘 ありがとうございます(笑)。でも、なかなかそうやって予約して頂けなくて、発売日に行ってみて、あるから買おうといったテンションで買って下さる方が多いんです。そうなってくると潜在的ニーズとお店への供給数がマッチしないことが多くなる。そうした場合にダウンロードが活きてきますよね。
編 VAの他のタイトルでDL販売されているものもあると思いますが、やはり抜きゲータイトルのダウンロード数は多いのでしょうか。
丘 ダウンロードはほぼ抜きゲー市場ですね。逆にヌキでないと売れない。パッケージで凄く売れた萌えゲータイトルをDL版として持ってきても、そこまで売れなくて、数百本みたいなことが多い。
編 『円交少女』はすでにメディア化のオファーもあったと伺いました。
丘 アニメとノベル、あとはグッズですね。今回はいろいろと内容を頑張った甲斐があって、注目して頂いたみたいです。
編 ノベルは丘野さんが書かれるわけではないですよね(笑)。
丘 シナリオライターの若林さんに一任しています(笑)。今回はシナリオが短いので、小説やアニメでも、一本で表現してもらえるのかなと期待してます。
編 ちょっと気が早いようですが、続編の可能性についても聞かせてください。
丘 もちろん。そもそも『円交少女』自体が5連作くらいで描こうとしてる企画なんです。
編 シリーズ化を前提とした企画だったんですね。
丘 そうです。5本全部でフルプライスくらいの規模感になって、一本の世界観が表われる展開を考えていて、基本的には街と女の子、そこにパコちゃんが絡んでくる。だからパコちゃんは引き続き登場して、ヒロインが変わっていきます。なので今のところですが、たぶん次は秋葉原の地下アイドル編ですね。
編 おぉ(笑)。
丘 (笑)。そういう展開を考えています。あと、これはゆくゆくですが、社会人ヒロインも描きたいです。オフィスワーカーとエロの相性は凄くいい(笑)。あとは、おっさんですね。おっさん好きなんですよね、下世話なおっさんを描くのが(笑)。
編 今回の作品もおっさんがみんないい味を出してました(笑)。次回作まで、また2年くらい待たないといけない雰囲気でしょうか。
丘 もうちょっと早く出したいという気持ちはあります。Frillとして、『円交少女』以外の作品も仕込んでいるんです。他の低価格タイトル、これは冬くらいにリリースしたいですね。『円交少女』だけだと方向性として売春物に偏ってしまうから、合間合間に他のバリエーションを入れつつ、メインとして『円交少女』をやっていきたいと思っています。
編 今後リリースされる作品はロープライスがメインになるのでしょうか。
丘 基本的にはロープライスでいきたいですね。
編 ミドルプライスでもなく?
丘 はい。むしろもっと安くしたいくらいなんです。でもそこはペイラインとの相談になってしまう。たくさん売れてくれるならもちろんそれでもいいんだけど、市場を見ながら調節していかなきゃいけないかなと思っています。
編 現状、同人作品の一般的な価格は2000円より下ですよね。
丘 1000円とか800円になってくる。とはいえ、ある程度ボリュームを入れるとどうしても限界が出てくるので、そのバランスもいろいろチャレンジしながら探っていきたいですね。僕らもまだ『円交少女』でロープライス1作目ですから。
編 ではこれまでのお話を伺った上で、本作のキャッチコピーともなっていた「新生Frill」、その意図を改めて聞かせてください。
丘 エロゲーの可能性への挑戦と言ったら大袈裟なんですが、たかがエロゲーだからこれでいいんだ、というところをなくしていきたい。僕はやっぱりエロゲーが好きなので、エロゲーというのはこんなにいろんなことが表現できて、しかも内容もエロくて、面白いものだということを表現していきたいんです。そのために、今まで培ったものをベースにして、もう一歩飛躍したい。そういう思いがあって新生Frillとしたんです。それはダウンロード販売もそうですし、リアリティ重視の作風にしたのもそうですし、エロゲーでより心と股間を揺さぶられる体験をして欲しいと思っています。
編 『円交少女』はそんな作品になっていたと感じます。
丘 そういう志のもとに、今後もやっていきたいという思いをこめて、新生Frillとしました。是非今後に期待していただきたいです。
構成・文=編集部
『円交少女~陸上部ゆっきーの場合~』
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『Frill』公式サイト
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15.08.27更新 |
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