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N女子大学文学部教授、真鍋隆博、51歳。毎年、彼の元には単位欲しさにふしだらな取り引きを要求してくる女子学生が複数人やってくる。秘めたサディズムを胸に燃やして危険なコレクションを増やす初老の教授の、エスカレートしていく行為とは……。『S&Mスナイパー』1981年2月号に掲載された力作投稿小説を、再編集の上で全4回に分けてお届けしています。
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【4】立ちション

手錠を外し、足首と肘掛けとを結ぶ紐を解いてやった。

朱美は椅子にうずくまり、激しくかぶりを振った。チャラチャラと鎖が鳴った。

「先生、お願いです。こんな非道いことはしないで。鎖を取ってあげて」
「それはまだ駄目だ。その犬は兇暴性があるからね。馴らさなくちゃだめなんだ。後ろ手錠もそのままだ。それより、早く、トイレにつれていってやってくれんかね。そのドアだから」

と、トイレのドアを指差し、真鍋は続けた。

「朱美君に食い込んでいるアヌス栓を見たろう。それを抜いてやってくれないか。もちろんトイレの中でね。こんな所で抜かれたら、ほんとに、粗相しかねないからね」
「朱美さん、しっかりして、大丈夫? 歩ける?」
「ゆかりさん、口惜しいわ。私、くやしいわ。うう……」
「さあ。つれていってあげる。早く」

ゆかりに支えられ、朱美は立った。へっぴり腰で、下腹を突っ張らないように歩いた。ゆかりはそんな朱美の身体を両手で抱えて、鎖を上げてやった。

トイレのドアを開けて二人はびっくりした。立ちすくんでしまった。

煌々と輝く明かり。広いスペース。しかも便器は立った二人の眼の高さにあった。それも透明のガラス製だ。前面の壁には一面に鏡が張り詰めてあった。

「こ、こんな……」

朱美は唇を噛んだ。しかし、もう限界をはるかに越えている。

しかたがないわ朱美さん、という、ゆかりに促され、階段を登った。その階段もガラス製だった。朱美は便器を跨いだ。

「いい?」
「ええ、ごめん、恥ずかしいわ。見ないでね、眼をつぶっていて」
「大丈夫、見ないから」
「ああ……」

アヌス栓が抜かれた。朱美は座り込んだ。間髪を入れず、激しい選出が便器の底を叩いた。自分も目をつぶり、ゆかりも見ないでいてくれるであろうが、その音はどうしようもなかった。そして立ちこめてくる臭気。

キリキリと胸を締め付けながら、朱美はしかし、解放された排便の快さに酔っていた。我慢に我慢を重ねてきた排泄は、快美感さえ植えつけた。

しかし、透明のガラス製の便器は、すぐに朱美を羞辱の現実に引き戻した。

「流して、ゆかりさん、流して」
「それがないのよ。コックがないの」
「そんな」

手にしていたアヌス栓を足台に置いて、ゆかりは水洗のコックを探していたのだが、見あたらない。

「ああ、いや――」

己の汚物が漂う透明の容器を見て、朱美は悲鳴をあげた。

「仕方がないわ。早く出ましょう。さ、拭いてあげる」
「うう……」
「大丈夫よ、さ、お尻を出して」「
ごめんね……かんにん……」

後ろ手錠の身ではどうしようもない。お尻を突き出し、その汚れをゆかりの手に委ねた。

真鍋は一部始終をカメラに収めていた。その鏡がマジックミラーだとは二人とも気付くはずもなかった。

二人が階段を降りるとき、ドドドドと、その排泄物は水と共に流れていった。真鍋が隣の部屋でコックを操作したのだ。、驚いて振り返った二人であるが、訳も分からないまま、階段を降りていた。

「ねえ、この首輪とれない?」
「とれないわ。嵌め込まれてるから、鍵が要るみたいよ」
「ああ、くやしいわ。……でも、ゆかりさん、あなたが、どうして……?」
「訊かないで、私はどうしてもいい所へ就職しなければならないのよ」
「可哀いそうに。それにしてもあの変態じじい。ゆるせないわ」
「ねえ、何をされるのかしら。私、ただ一度眼をつぶればいいと思っていただけなの」
「私もよ。高を括っていたのだけれど、それくらいではすみそうにないわね。二人一緒に呼んだのも、何か訳がありそうね」
「こわいわ」

朱美はゆかりを見た。大丈夫、私が守ってあげるわ……。今の自分の身では大したこともできないけれど、せめて、できる範囲で守ってあげるわ、と思わせるゆかりのいじらしさであった。

「まだかね。終わったら早くきたまえ」

ドアをノックして、真鍋が声をかけた。

ゆかりはドアを開けた。

「先生、一体、私達をどうする気?」

キッ、と真鍋を見て、朱美が強い口調で言った。

「おやおや、さっぱりしたら、また、君の負けん気が出てきた。まだ調教が足らんようだ」
「せ、先生、こんなひどいことしないで、首輪を取ってあげて。あんまりだわ」
「君は優しいね。任せておきなさい。君の就職は責任を持つからね」
「……」

ゆかりは黙ってしまった。

「さて、朱美君、あと十点で合格だ。どんな問題を出そうかね、オナニーも見たし、排泄もやったし……。ゆかり君を相手にレズってみるか。うまくゆかり君をいかせられたら、十点あげよう」
「い、いや。そんな、いや」

ゆかりが悲鳴をあげた。ゆかりはまだ処女だった。その処女を真鍋に捧げるつもりでやってきた。

就職の面倒をみてもらうのなら仕方がないと思った。真鍋のこともそんなに嫌いではなかった。むしろ好感を持っている教授の一人であった。しかし、今、見せられる真鍋の余りの狂態に、そんなあわい想いも一気に飛んでいった。真鍋の隠された性癖を垣間見て、人間のいかに裏の分からないものかを思い知らされた。

同性で愛するなんて、とてもできない。いやだ。いや……。

「どうだね、朱美君。ゆかり君を説得して、私にレズの極致を見せてくれんかね」
「先生、ゆかりさんは許してあげて。そのかわり、私が何でもしますから。私はある程度、無茶をやってきたわ。でも、この人はおとなしい、まだ汚れを知らない人よ。それが切羽詰まって先生のところへ来たのよ。そして裸も見せているわ。その気持を汲んで、ゆかりさんは許してあげて、おねがい」
「朱美さん……」
「おや、殊勢な心がけだね。じゃ、君、鞭でぶたれてみるか。荒縄で縛りあげて、逆さにして、鞭で打ってやろうか」
「やめて、先生ッ、そんなひどいこと。いいのよ朱美さん。いいの。私やるわ。先生、やります。だから、だから、もう、それでゆるして……」
「よし、分かった。それじゃ、ゆかりくん、本番前の軽い肩ならしといこう。トイレの横がバスルームだからね。そこから洗面器を持ってきてくれないか」
「洗面器……?」
「まあ、いいから、持ってきたまえ」

訝しみながら、ゆかりは真鍋の言葉に従った。真鍋の言うままに、デスクの前に洗面器を置いた。

「そこへ、立ちションだ」
「……?」
「洗面器をまたいで、立ったまま、おしっこだ」

真鍋は、モニターに、はっきりとゆかりのその部分がアップになることを確認して、白々とうそぶいた。

「そ、そんな。本気で……そんなこと……?」
「本気だよ。冗談だったら、わざわざ洗面器なんて持って来させないよ。朱美君が大きいほうを見せたんだ。君は小さいほうで許してあげるよ。どうだね……?」
「ひどい……」

ゆかりは涙を滲ませた。朱美がこれだけのことをやられているのだ。私が何もないことはないと思っていたが……。おしっこを見せるとは。しかも、立ったままで、しかし……、しゃがんでするよりは、そのものを見られないで済む。でも、立ったままできるのかしら……。

「洗面器をまたいでごらん、大体、まっすぐ落ちる筈だから」

もう、どうにでもなれと思った。朱美のことを思い、裸の隅々まで見られていることを思い、ゆかりは神経を麻痺させた。

洗面器をまたいだ。 真鍋の指示通り、両手を頭の上に組んだ。

一点に神経を集中させた。

……で……でる……。

しょぼしょぼと、遠慮気に堰を切った条水は、たしかに、まっすぐに落下した。

(ああ、はずかしい、はずかしい……)

しょぼ、しょぼと、洗面器を叩く音が、ゆかりの全身を真っ赤に染めた。

「そのまま、しゃがんでみたまえ。膝を開いて」
「ククーッ」

従った。膝を開いて、勢いよく洗面器を小便で叩いた。

真鍋は、グーンとアップにその様相をとらえた。羞恥にくれるゆかりの顔も、アップでとらえた。

紙を渡してやり、その処理のところまでカメラに収めた。すすり泣くゆかり……。

このまま最後まで進めていこう、この二人のレズ・シーンなら、きっと記念すべき十巻目のテープにふさわしいものになる――真鍋はそう思い、グッと残酷な目を細めるのだった。

(続く)

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