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『S&Mスナイパー』1982年12月号 読者投稿小説
「H感覚な午後」
作= 大沼正
好奇心旺盛でちょっとHな19歳の女の子・真理にふりかかる、かなりアブない凌辱体験。年頃の乙女はショックの中で何を思い、何を感じたのか……。『S&Mスナイパー』1982年12月号に掲載された読者投稿小説を、再編集の上で全6回に分けてお届けしています。
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【3】怪しい3人組

気怠い空気を吸いながら、真理はボンヤリ横たわっていた。目の前にコーラの壜があった。飲み口を少し下りて急に太さを増した壜の半分ほどまで、ヌメヌメとした液にまみれてツヤを失っていた。

「うっそお……」

真理は信じられなかった。こんな壜が、こんなにも深く自分の中に納まっていったのだとは……。小さな呟きの中には驚きと、まだまだ幾つもの可能性を秘めている自分の体への、期待のようなものが込められていた。

物憂い顔を上げる。時計は1時を指していた。真理はゆっくり体を起こすと浴室に入って体を拭った。それから新しいパンティをつけ、コーラの壜も綺麗に拭い、畳に落ちている染みのついたパンティを丸めた。

ケースに納まったコーラの空壜が、卑猥なもののようにキラリと光る。

店の戸を一杯に開けた。雨は、いつの間にか上がっている。新鮮な空気が店の中に吹き込んできた。爽やかな風が渡っていく。

――あっ、そうだ、淫靡な匂いが部屋に籠っていたのでは大変だ。女は特に匂いには鋭い。もう母が帰ってくるかも知れない。その前に……。

真理は急いで部屋に戻ると窓を開けた。何かの饐えたような甘酸っぱい匂いが、窓からの風と店先からの風に舞って吹き抜けていった。

「おばさん。おばさーん」

子供たちの大きな声に、真理は、まだほんのりと赤らんだ顔を覗かせた。

「おばさん。コーラの壜、1本いくらで取ってくれるの?」

コーラと言われて真理はビクッとした。その壜と言えば今しも逞しい妄想の裡に、己の体の奥深くに呑んだばかりのものだ。真理は慌てて喉を詰まらせ、ようやく掠れた声を上げた。

「お……おばさんじゃないでしょう」
「あっ、ごめん。お姉さんだ」

店の中には流れ出した熱気のある匂いが、まだ微かに残っているようだ。真理は急いで、店の中を覗き込もうとしてくる子供たちのほうへ出た。

圭介と新治に正彦の3人。近所で評判の悪たれどもだ。3人とも真理はよく知っている。小さい頃から見ているので今だに子供のように思っているが、考えて見れば、もう中学生だ。男の匂いが感じられないでもない。真理は幾分ドギマギした。

――そう言えば、こないだプールでからかってやった男の子もこれくらいの年恰好。なんだか新治に似てなくもない……。もう立派に勃起させて射精するんだから。

改めて眺める3人に、先日の確かな手応えが蘇って、真理はゴクンと喉を鳴らした。

「これなんだけどさあー」

圭介がホームサイズの壜を見せた。信じられないくらいの大きさ。コーラの壜も、このサイズになると滑稽だ。

「えーと、それは1本、30円ね」

3人がそれぞれに自転車の荷台に大きなダンボール箱をくくりつけて、12本づつ、36本。

「1本30円だから1080円ね」

お金を渡してから真理は不審そうに尋ねた。

「でも、こんなに沢山、どうしたの?」
「う……うん。まだいっぱいあるんだ。すぐ持ってくるからね」

多くは喋らない。3人は顔を見合せてニッと笑うと、自転車に飛び乗った。

その後ろ姿を訝しげに見ていると、母が帰ってきた。出掛ける時とは違った重い足取りだ。

「あああ、疲れちゃった」

プーンとアルコールの匂いがする。

「いやあね。昼日中から酔っ払っちゃって……」
「いいじゃないの。何年に一度の同窓会なんだもの。それにしても折角の同窓会なんだから夜にすればいいのにね。ゆっくりもできやしない」
「まあ、おっしゃいますわね。夜だなんて、みなさん、危ないお年頃でしょうに」
「馬鹿な想像はしないの。みんな立派な大人の集まりなんですからね」
「それが怖いのよ。大人の付合いっていう奴がね」
「馬鹿! ませたこと言わないの……」

母の顔が少々狼狽の色を表わしている。

「ははは……。みなさん適当に楽しんでいらっしゃいますものね」

別段、母はそれ以上、怒る風もない。刺を含んた真理の言葉も的を外れていたようだ。女は兎角、特に母の場合は、隠さなければならないことがある時には怒る。激しい感情が噴き出しで矢鱈と怒り出す。狼狽の後、はにかんだような母は、どうやら今日は期待外れであったようだ。それでも少しはいいことがあったのかも知れない。目が落着かず、いやにキョロキョロして真理の視線と目が合わない。

「それはそうと、今日は廃品回収の日だったわね。忘れてたわ。雨に降られて大変だったでしょうに」
「えっ……」

真理は即座にピーンとくるものがあった。

「母さん、店番しててね。私……ちょっと見てくる」

慌てて駆け出した真理の後ろ姿を、母の呆気にとられたような顔が覗いていた。

息を切らせて走りつくと、真理は怒鳴り声を上げた。

「こらっ……あんたたち。何してんのよ」

案に違わず廃品回収の集積場に先程の3人の姿があった。濡れて駄目になるような物は何処かに仕舞われたのか、壜の類ばかりが残されている。3人は、その中からコーラの壜を選っている。悪辣なやり方を問い詰める真理に、3人は憎たらしいことを言う。最後には悪態だ。

「いいじゃねえかよ。空壜くらい。なんなら姉ちゃんのあそこに、こいつをぶち込んでいい気持ちにさせてやつからよ。見逃してくれよ」

正彦がコーラの壜を股間に立てて、野卑な笑いに顔を歪めた。

「こんなフットイものなら、姉ちゃんだって感激だろうが……」

ついカッとなった真理は、形相を変えて掴みかかった。

「この、悪たれどもめ……。警察に突き出してやる」

3人は巧みに三方へ逃げる。

「へヘヘ……。刺して欲しいくせによ。欲求不満のヒステリー」

正彦が真っ先に自転車で逃げた。逃げ遅れた新治の腕を捩上げると、近くの交番に突き出してやった。

夜になっても、その話にまだ昂奮気味の真理と違って、両親は心配そうだ。特に愚痴っぽく言う。

「御得意さんの子供にそんなことをして……。ねえ、お父さん。どうしようかね」
「うーむ」

父は苦りきった顔付きで腕を組んでいる。正彦の家は土建屋をしている。近くに飯場もある。酒屋の家にしてみれば、一番の得意先だ。

「御得意さんの子だろうが何だろうが、あんな不良どもはビシビシ叱ってやらなければ駄目よ。あんなのを放っておくから、大人になっても悪いことをする奴が跡を絶たたないのよ」

激しい口調のうちに、真理にも幾分、心配があった。逃げ遅れた新治の腕を掴んだ時、新治は別に抵抗することもなく顔を俯けて頻りと「ごめん、ごめんよ」と繰り返していた。

ハッとした。プールで真理が悪さをした子だった。プールでは真理も幾分昂奮気味でよく分からなかったが、今でははっきりと思い出すことができる。

――まずかったかな。あんなことがバレたら……。

両親とは違った真理の心配をよそに、何事もなく日が過ぎていった。その間に、例の3人組がそれぞれ母親に連れられて、真理のところにも謝りに来た。交番では始末書を書かされて、こっぴどく叱られたそうである。正彦と圭介は謝りながらも、どこか不貞腐れた態度を見せていたが、新治は真理の顔も見られぬくらいに真赤になって俯いていた。

新治と正彦と圭介の3人が、公園の樹陰の芝に額を寄せて、何やらヒソヒソと声を交わしながら、1冊の雑誌を覗き込んでいた。
(続く)

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