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『S&Mスナイパー』1986年4月号読者投稿小説
「SM快楽図鑑 花咲けるオンナ教師」
作= 牧場由美

少女時代にバレエ講演を見たことによって被虐願望を目覚めさせた槇村真樹は妖艶な女教師へと成長した。男子生徒たちを悩ませる露出癖、パートナーと密かに繰り広げる過激な痴態……。教師にあるまじき行為に惑溺し、背徳感を覚えながらも欲望に逆らうことができない真樹は、次第に妄想と現実との境界を見失っていく――。アブノーマルプレイの魅力と魔力をスタイリッシュに描いた傑作。『S&Mスナイパー』1986年4月号に掲載された読者投稿小説を、再編集の上で全5回に分けてお届けします。
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【1】ワイセツ女教師の本性

女教師・槙村真樹は、教壇のパイプ椅子に浅く腰をおろした。真っ赤なタイトの超ミニスカートの布地が、真樹の豊かな臀部の躍動にひっぱられ、クレージュの薄い赤色のパンストでサポートされた見事な脚が、付け根近くまであらわになった。

女生徒のなかには眼をそむけるものもいたが、男子生徒の視線は、教室のすみずみから真樹の脚線に集まった。

青っぽい少年たちの羨望と、性的好奇心に満ちた熱い視線を受け、女教師槙村真樹は悪魔的で妖しい旋律を、その一級品の躯で感じていた。

見られる快感というのは、マゾヒスティックなものだ。少年たちが露出狂的な女教師の衣服からはみだしたみごとな肢体を見て、ズボンの下で一様にペニスを大きくし、自宅に帰るなり、自室やトイレで激しくオナニーしてたまった精液をティッシュのなかにほとばしらせる――想像するだけで、うす紫色の陶然とした靄がかすめる。

最前列の秀才・小沢泰夫のほうにむけて、槙村真樹は膝をそろえた。ひそかに真樹が愛し、オナペットにしている可愛い少年の眼に、赤いレースのパンティが見えるように注意して、深々と脚を組む。

鼈甲縁の、度の強い近眼鏡の底で、泰夫の眼がどんぐりのように開かれたのを、真樹はしっかりとたしかめた――。



「なにを考えているんだ?」
「え!?」
「生徒のことか?」
「うん」
「教育熱心な先生だな。真樹先生みたいないい教師にめぐまれた生徒は、しあわせだよ」

ブリーフ一枚で、ダブルベッドの端に腰をおろし、水上秀之は緊縛用のロープを点険しながら、嫌味のこもった口調でいった。真樹は、ソファに座って、尿のように黄色くにごったぬるい紅茶に口をつけながら、秀之が立ち上がり、強靭なロープを手に真樹にむかってくるのを待っていた。

激しく燃えたい気分だった。

だから、激しく拘束されたかった。魔王にとらえられたオデッタ姫や、カラッボスの毒で眠らされる眠れる森の美女のように、檻のなかに絶望的にとじこめられ、強靭な数本の麻のロープと、綱鉄の冷い黒い伽によって厳重に拘束されて、悪魔の快楽のための生贅にされたい気持ちだった。

激しい被虐のなかでレイプのように、粘膜の襞にくわえられる痛みに耐えながら、相手の思うままに、めちゃくちゃに凌辱されるのが、真樹の願望だった。

「ね、早く」
「なに?」
「早く縛って」
「そんなにせかすなよ」

交際雑誌の文通欄で知り合い、付きあって一年になる筋肉男は、好色な情婦を見るような侮蔑の感情のこもった表情で、美しい女教師を見た。

真樹のプライドが、ゴリラのように低能(と真樹が思っているだけなのだが)な水上の無礼な視線をあびせられたことで、傷ついた。真樹は不快を感じ、だが、その不快をおぎなってあまりあるほどの甘い期待で彼の縄を求めていた。悪魔的な衝動に、真樹はあらがうことができなかった。

真樹は立ち上がり、自ら水上に向かって両腕をさしだした。

水上は、チッ、と意味のない舌打ちをし、それでも真樹の躯をベッドに押し倒すと、手首に枷をかけた。枷についている短い鎖でベッドに腕が固定される。たちまち真樹の下腹部に熱い感動がわき起こった。

この不思議な感覚はいったいどう説明したらいいんだろう、と真樹は思う。まるで……。

(そう、まるで男の勃起とおなじような感覚なのだわ、これは、きっと)

つまり、真樹が感じる下腹部の熱さは、おち×ち× が立つ、という感じなのである。もちろん真樹は性転換女性ではない。生まれつきのおんなにまちがいない。下腹部にペニスが付いていたことはない。なのに、緊縛されたときだけ、存在しないペニスが勃起するような感覚が、膣の内側で起こるのである。

「もっと……」

と、真樹は潤んだ瞳を細めて言った。

「もっと乱暴にしてみて。真樹の淫乱さを、あなたの暴力で、引きだしてちょうだい」

筋肉男の水上は、生粋のサディストではなかった。やさしさと冷酷さという、理想的な男が持つべき二面性を矛盾なくかねそなえた彼は、真樹の痛みや、苦しみ、悲しみを自分のものとして感じるために真樹を責めるのだ、と真樹に語ったことがあった。

「真樹、おまえが、自分の被虐的な性格にめざめたのは、いつのことだ!?」

と、そのとき水上は聞いた。

「九歳のとき」

と、真樹は答えた。

渋谷、道玄坂のラブホテルBDルーム、『惨』。素っ裸の真樹の躯は前衛的な芸術のモチーフのように、数本の鎖で天井から吊り下げられていた。秘部は、えげつないかたちに大きく開かれた脚のあいだに剥きだされて、透明で冷たいバルトリン氏腺液を湧出させていた。

「父につれていってもらったボリショイ・バレー団の公演で『瀕死の白鳥』と『眠れる森の美女』を見たときに、瀕死の白鳥の演技をするプリマにあたし、不思議な羨望を感じたの。白いタイツに白いトゥシューズ、上半身を拘束する白いチュチュ……」

九歳の真樹は、カラッポスの毒針に刺されて、舞台の上を転がりながら毒がまわって立ち上がれなくなるオーロラ姫の姿を見たとき、あやしい胸のときめきとともに、パンツが未知の液体で汚れるのを感じた。

(才ーロラ姫が、カラッボスの手で手首を縛られて、チュチュを脱がされてしまえばもっといいのに……)

真樹はその日から、布団のなかで自分のパンツをずり下げることをおぼえた。以来ずっと、オナニーのときに空想する自分の姿は、銀色の鎖や黒い枷、蛇のようにくねる縄、革の拘束具などで拘束されて、瀕死の状態でなければならなかった。

「お前は、瀕死の白鳥になりたいのか?」
「うん」

のけぞらせた首を、真樹はたてにふりうごかした。

(続く)

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