『BURST』2000年9月号/コアマガジン
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2000年夏に出た『タイ〈極楽〉ガイド―表も裏もまるかじり』『クスリという快楽』(ともに宝島文庫)は、どちらもかつて出た『タイ読本』『気持ちいいクスリ』の文庫化で、青山も関わっている本ではあるが新作ではなかった。そしてまたもや久々の表舞台の登場となった『BURST』2000年9月号には、ドラッグや現在についてのインタビューと、一本の原稿が掲載されていた。インタビューは「シャバはいいけどシャブはいけません──帰って来た? 天才編集者 青山正明」と銘打ち、ドラッグが若者に及ぼす影響についての話題が多いが、インタビュアーの挑発的な言動に苛立っている様子が残されている。
「ドラッグに悪の先入観がある人……こんな取材嫌なんですよ! ちっとも良いことなんかありゃしない。目立って警察に目を付けられて、盗聴されて……でも、僕も編集者の端くれ、取材をOKしたからにはバースト読者の為に何でも喋りますよ。確かに今、僕はほとんど仕事をしていない。けれど、だからと言って、ヘロヘロだと言われるのは心外です。それは、僕は今までやってきた仕事に自信を持っているし、もう伝えるべきものは伝えたという達成感があって、今は言うなれば次のステップ“対象、題材”を模索している段階なんですよ」
商業ベースでやれることはやりつくしたと語るその姿は、一見頼もしいものだったが、家に閉じこもってヘロインをキメまくっていたという話もあり、実際は新しいものへの意欲がある反面、それを実行に移せない鬱状態にあったのだろう。
同時に収録された青山による書き下ろしの論考『イメージの治癒力──「諦観」と「リズム」でハイな毎日を』は、精神世界への傾倒をにおわせる、いつになく難解な文章だった。シャーマンの治療とプラシーボ効果、デカルトによって切り離された心と体などの話題から始まり、人はもともとドラッグを受け入れる鍵穴(レセプター)を持っている、人間が分泌する内因性ドラッグでハイになるには「諦念」と「リズム」が重要である、「イメージ=諦観」はあきらめと悟りである、毎日同じ生活を繰り返す「リズム」によって人はハイになる……など、青山が模索していた次のステージの片鱗として興味深い内容ではあるのだが、『危ない1号』で見られたハッピーな文体とは違っていた。
この論考と、インタビューで語っていた「今は次の段階に行く充電期間……これからは“癒し”の時代だと思ってるんですけどね。まだ勉強不足と言うところがあって、近い将来そういう本を作れればいいな〜って……」という発言だけでは推測が難しいが、ドラッグと同じだけの幸福感を得られる合法な手段は、もはや精神の安定と充実にしか活路が見い出せなかったのかもしれない。この前後にビデオ紹介コラムなどを書いていたとの情報もあるが、名前を出したオフィシャルな原稿は、結果的にこれが最後のものとなる。
2001年6月17日、青山正明は神奈川県の自宅で首を吊って、自殺した。
『BURST』2000年9月号 P73/コアマガジン
パンク、バイク、マリファナ、タトゥーなど、若者文化の一つの潮流を捉えた雑誌で、数年前に死体写真を載せまくって休刊した。インタビューと原稿のほか、青山選による「合法でイリーガル・ドラッグ並にトベるクスリ一覧」も掲載。「ヘロインだけは別格だと思います。僕の最終的な夢は死を確実に意識したときにはヘロ中になってそれで死ぬ、最終的にヘロインにはまりたいというのは死を覚悟したとき、今は死ぬ予定もその気もないからやらない、これがいいんじゃないかと……」という発言があるが、はたして青山が自殺した時に、ドラッグはどれだけキメていたのだろうか。衝動的なものだったのか、考えた末だったのかは、気になるところである。
『BURST』2001年9月号/コアマガジン
「鬼畜系ライターの草分け的存在・天才編集者 青山正明追悼座談会」掲載。出席者は吉永嘉明、木村重樹、園田俊明。晩年の活動については出席者にも謎の部分が多い模様。木村「青山さんが引き籠られたあとも、出版社からは色々と原稿依頼があったらしいんですよ。それを青山さんが断って、僕に紹介してくれた仕事ってのが今年の頭くらいまであって」。吉永「彼は昔から落ち込んでいるときに精神世界の本を読み漁ってたけど、バーストの記事は非常に後ろ向きな印象を受けた」「自殺の翌日に別れた奥さんから連絡をもらったんだけど、ただただ驚きだった」。2000年9月号とは別ショットの、おそらく最後の青山正明の写真は、お世辞にも顔色がいいとは言えない。
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
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2000年夏に出た『タイ〈極楽〉ガイド―表も裏もまるかじり』『クスリという快楽』(ともに宝島文庫)は、どちらもかつて出た『タイ読本』『気持ちいいクスリ』の文庫化で、青山も関わっている本ではあるが新作ではなかった。そしてまたもや久々の表舞台の登場となった『BURST』2000年9月号には、ドラッグや現在についてのインタビューと、一本の原稿が掲載されていた。インタビューは「シャバはいいけどシャブはいけません──帰って来た? 天才編集者 青山正明」と銘打ち、ドラッグが若者に及ぼす影響についての話題が多いが、インタビュアーの挑発的な言動に苛立っている様子が残されている。
「ドラッグに悪の先入観がある人……こんな取材嫌なんですよ! ちっとも良いことなんかありゃしない。目立って警察に目を付けられて、盗聴されて……でも、僕も編集者の端くれ、取材をOKしたからにはバースト読者の為に何でも喋りますよ。確かに今、僕はほとんど仕事をしていない。けれど、だからと言って、ヘロヘロだと言われるのは心外です。それは、僕は今までやってきた仕事に自信を持っているし、もう伝えるべきものは伝えたという達成感があって、今は言うなれば次のステップ“対象、題材”を模索している段階なんですよ」
商業ベースでやれることはやりつくしたと語るその姿は、一見頼もしいものだったが、家に閉じこもってヘロインをキメまくっていたという話もあり、実際は新しいものへの意欲がある反面、それを実行に移せない鬱状態にあったのだろう。
同時に収録された青山による書き下ろしの論考『イメージの治癒力──「諦観」と「リズム」でハイな毎日を』は、精神世界への傾倒をにおわせる、いつになく難解な文章だった。シャーマンの治療とプラシーボ効果、デカルトによって切り離された心と体などの話題から始まり、人はもともとドラッグを受け入れる鍵穴(レセプター)を持っている、人間が分泌する内因性ドラッグでハイになるには「諦念」と「リズム」が重要である、「イメージ=諦観」はあきらめと悟りである、毎日同じ生活を繰り返す「リズム」によって人はハイになる……など、青山が模索していた次のステージの片鱗として興味深い内容ではあるのだが、『危ない1号』で見られたハッピーな文体とは違っていた。
この論考と、インタビューで語っていた「今は次の段階に行く充電期間……これからは“癒し”の時代だと思ってるんですけどね。まだ勉強不足と言うところがあって、近い将来そういう本を作れればいいな〜って……」という発言だけでは推測が難しいが、ドラッグと同じだけの幸福感を得られる合法な手段は、もはや精神の安定と充実にしか活路が見い出せなかったのかもしれない。この前後にビデオ紹介コラムなどを書いていたとの情報もあるが、名前を出したオフィシャルな原稿は、結果的にこれが最後のものとなる。
2001年6月17日、青山正明は神奈川県の自宅で首を吊って、自殺した。
『BURST』2000年9月号 P73/コアマガジン
パンク、バイク、マリファナ、タトゥーなど、若者文化の一つの潮流を捉えた雑誌で、数年前に死体写真を載せまくって休刊した。インタビューと原稿のほか、青山選による「合法でイリーガル・ドラッグ並にトベるクスリ一覧」も掲載。「ヘロインだけは別格だと思います。僕の最終的な夢は死を確実に意識したときにはヘロ中になってそれで死ぬ、最終的にヘロインにはまりたいというのは死を覚悟したとき、今は死ぬ予定もその気もないからやらない、これがいいんじゃないかと……」という発言があるが、はたして青山が自殺した時に、ドラッグはどれだけキメていたのだろうか。衝動的なものだったのか、考えた末だったのかは、気になるところである。
『BURST』2001年9月号/コアマガジン
「鬼畜系ライターの草分け的存在・天才編集者 青山正明追悼座談会」掲載。出席者は吉永嘉明、木村重樹、園田俊明。晩年の活動については出席者にも謎の部分が多い模様。木村「青山さんが引き籠られたあとも、出版社からは色々と原稿依頼があったらしいんですよ。それを青山さんが断って、僕に紹介してくれた仕事ってのが今年の頭くらいまであって」。吉永「彼は昔から落ち込んでいるときに精神世界の本を読み漁ってたけど、バーストの記事は非常に後ろ向きな印象を受けた」「自殺の翌日に別れた奥さんから連絡をもらったんだけど、ただただ驚きだった」。2000年9月号とは別ショットの、おそらく最後の青山正明の写真は、お世辞にも顔色がいいとは言えない。
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/ |
08.08.31更新 |
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