『The Psychotronic Encyclopedia of Film』
1987年発行/Ballantine Books
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ホラー/カルト映画における青山正明(3)
『Hey!Buddy』誌での「グログロビデオ評」は1985年11月号まで、つまり終刊号まで続けられた。前回に引き続き取り上げた作品を見ていく。
1985年1月号ではコンチネンタル・ゾンビ(イタリアのゾンビ映画)「Night of the Zombies」。監督はヴィンセント・ドーン。イタリア映画のサントラに著作権がないらしく、この映画の音楽が「ゾンビ」と同じものが使われているなど、小ネタの方が面白い評である。2月号は再びクローネンバーグを取り上げ、スティーヴン・キングのベストセラーの映画化作「The Dead Zone」をレビュー(略年表付)。「世でアウトサイダーと呼ばれる人々。彼らは、人、家、社会から切り離され、悩み、苦しむ。正に、この映画を見つつ、主人公ジョニーのヴィジョンを肯定してしまったあなたは、アウトサイダーを疑似体験したと云える」。“狂人”ではなく真実を貫く“アウトサイダー”を描く監督として、青山はこの後も度々言及することになる。
3月号ではルチオ・フルチの「ゲイツ・オブ・ヘル(地獄の門)」を取り上げ、フルチの映画独特の、窮地から解放される時の快感を高評価している。「一般のSF、ホラー、失恋ドラマ、戦争物等が醸成する悲惨、窮地は、あまりにもリアリティに富んでいて、見終わった後もそこから解放されず、現実は重い負担となる。ところが、フルチのドラマには、全くリアリティが欠如している。フィルムを見終わったあなたは、それまでの恐怖が跡形も無く消え失せ、作品を見る前以上に高揚している自分に気付く事だろう」。
4月号は監督がマイケル・ウィナー、SFX担当がディック・スミスの「センチネル」を取り上げ、「フリークス」「ミューテイションズ(悪魔の植物人間)」「ファンハウス」と並べて“フリークス映画の四天王”と絶賛した。5月号はトビー・フーパーのスプラッター映画の古典「悪魔のいけにえ」を取り上げているが、フーパーは実際はスプラッターにあまり興味がなかっただろうと分析。6月号はカール・ライナー「2つの脳を持つ男」をホラーをプロットにしたコメディであると解説し、「抱腹絶倒、89分タップリと笑える事間違いなし!」と太鼓判を押している。この号は他に『特殊メイクの世界』(竹書房)の書評でこの本の洋書パクリを指摘している。7月号ではカナダのホラー映画「血のバレンタイン」(英国の伝説のバンド、My Bloody Valentineの名前の由来)を、スプラッター・ムービーの系譜における良質の作品であると解説。
8月号は日本版のビデオを紹介するのは初めてだなとダグラス・マッケオン監督「デッドリー・スポーン」を取り上げた。「まっ、正直に申しまして、カメラワーク、脚本、SFX、どれをとっても、いかにも素人っぽく、低予算映画の印象は拭えません」と、正直すぎる感想を書いているものの、続けて「けれども、画面から溢れるパワー、(略)スタッフの熱気がヒシヒシと感じられ、僕は終始圧倒されっぱなしでした」と持ち上げている。この号は他に、初の自著になる予定だった『HORROR FILMS』(未刊)のためのクローネン・バーグ・インタビューのレポートが掲載されている(通訳の女性の要領の得なさ加減に腹が立ち罵倒しまくっている)。
9月号は特にグロでもない(衣装、演出はケバケバしいが)古典的作品「ロッキー・ホラー・ショー」を紹介している。特に「僕は、「ロッキー・ホラー・ショー」の熱烈ミーハーだからして、冷静なる評価は下せそうにありません」と熱狂的姿勢であることを告白している点は見逃せない。10月号はジャック・クレイトン監督「何かが道をやって来る」を、ウォルト・ディズニーの冷凍死体が甦えるらしいというウワサ話と関連して解説し、突拍子のなさとそれの(屁)理屈づけが、ある意味で本領発揮とも感じられる。そして終刊号となった11月号では、自身が解説を担当したルチオ・フルチの未公開3作品のビデオを取り上げている(本連載「ホラー/カルト映画における青山正明」第1回で紹介した)。
長々と作品名を挙げてきたが、ここで重要なのは、青山がどこでこうした日本未公開の作品の情報を得ていたのかである。つまりタネ本は何だったのかという問題だが、実は青山は律儀に「ここからパクった/参考にした」と文中で説明することがあるので、ひとまずそれをチェックするといいだろう。まず最重要文献だと考えられるのがマイケル・ウェルダン著『The Psychotronic Encyclopedia of Film』だ。当該書はあの中原昌也が12歳の時に購入し衝撃を受けたという、ホラー、怪獣、セクスプロイテーション、ロックその他のカルトな作品ばかりが詰まった、当時としては画期的な映画ガイドの定本である。
またアメリカのホラー映画専門誌『ファンゴリア』(1979年創刊)も定期的にネタ元にしていたと見られる。特にルチオ・フルチの記事はこれ一冊で書いていたという。やけにフルチの話が出てくるのは『ファンゴリア』の記事がよく出来ていたからだろうか。特殊メイクの話題はトム・サビーニ『Grande Illusions』を参照している模様。日本のものも『フィルム・ファンタスティック』(中子真治)などは一通り目を通しているようだ。
文献以外でも、「カルト・ディストリビューション」というところとつながりがあったようである。ここは「安価でホラー、オカルト、ポルノ、グロテスク・ビデオを楽しんでもらう為の機関です」と説明がある。資料請求のお問合せは東京都の中野郵便局止めになっているので、都内の私設ビデオ・サークルだろう。また海外への通販ビデオ問合せ窓口として名前があるのが、ロスの「MERLIN MAIL」とロンドンの「CIC VIDEO」。どれだけ実際に注文していたのかは不明だけども、中学生の頃から海外のエロ本を通販で購入していたというから、洋書や洋ビデオも同じ様に取引していたであろうと想像はつく。
青山の80年代の映画紹介記事は、言ってしまえば海外文献の翻案で成り立っている。関係者の経歴・フィルモグラフィや一般的なデータなどをそうしたものから拾い、そこに自分の感想を付与する。これだけで成り立つのは80年代のビデオ黎明期ゆえだろうが、しかし単なるマニア向けのデータ原稿には終らない、青山独特の視点というものも短いが読み取れる。ひとまず断言は避け、次回からはもう少しマクロに、青山のホラー/カルト映画へのスタンスを見ていこうと思う。
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5 】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
1987年発行/Ballantine Books
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ホラー/カルト映画における青山正明(3)
『Hey!Buddy』誌での「グログロビデオ評」は1985年11月号まで、つまり終刊号まで続けられた。前回に引き続き取り上げた作品を見ていく。
1985年1月号ではコンチネンタル・ゾンビ(イタリアのゾンビ映画)「Night of the Zombies」。監督はヴィンセント・ドーン。イタリア映画のサントラに著作権がないらしく、この映画の音楽が「ゾンビ」と同じものが使われているなど、小ネタの方が面白い評である。2月号は再びクローネンバーグを取り上げ、スティーヴン・キングのベストセラーの映画化作「The Dead Zone」をレビュー(略年表付)。「世でアウトサイダーと呼ばれる人々。彼らは、人、家、社会から切り離され、悩み、苦しむ。正に、この映画を見つつ、主人公ジョニーのヴィジョンを肯定してしまったあなたは、アウトサイダーを疑似体験したと云える」。“狂人”ではなく真実を貫く“アウトサイダー”を描く監督として、青山はこの後も度々言及することになる。
3月号ではルチオ・フルチの「ゲイツ・オブ・ヘル(地獄の門)」を取り上げ、フルチの映画独特の、窮地から解放される時の快感を高評価している。「一般のSF、ホラー、失恋ドラマ、戦争物等が醸成する悲惨、窮地は、あまりにもリアリティに富んでいて、見終わった後もそこから解放されず、現実は重い負担となる。ところが、フルチのドラマには、全くリアリティが欠如している。フィルムを見終わったあなたは、それまでの恐怖が跡形も無く消え失せ、作品を見る前以上に高揚している自分に気付く事だろう」。
4月号は監督がマイケル・ウィナー、SFX担当がディック・スミスの「センチネル」を取り上げ、「フリークス」「ミューテイションズ(悪魔の植物人間)」「ファンハウス」と並べて“フリークス映画の四天王”と絶賛した。5月号はトビー・フーパーのスプラッター映画の古典「悪魔のいけにえ」を取り上げているが、フーパーは実際はスプラッターにあまり興味がなかっただろうと分析。6月号はカール・ライナー「2つの脳を持つ男」をホラーをプロットにしたコメディであると解説し、「抱腹絶倒、89分タップリと笑える事間違いなし!」と太鼓判を押している。この号は他に『特殊メイクの世界』(竹書房)の書評でこの本の洋書パクリを指摘している。7月号ではカナダのホラー映画「血のバレンタイン」(英国の伝説のバンド、My Bloody Valentineの名前の由来)を、スプラッター・ムービーの系譜における良質の作品であると解説。
8月号は日本版のビデオを紹介するのは初めてだなとダグラス・マッケオン監督「デッドリー・スポーン」を取り上げた。「まっ、正直に申しまして、カメラワーク、脚本、SFX、どれをとっても、いかにも素人っぽく、低予算映画の印象は拭えません」と、正直すぎる感想を書いているものの、続けて「けれども、画面から溢れるパワー、(略)スタッフの熱気がヒシヒシと感じられ、僕は終始圧倒されっぱなしでした」と持ち上げている。この号は他に、初の自著になる予定だった『HORROR FILMS』(未刊)のためのクローネン・バーグ・インタビューのレポートが掲載されている(通訳の女性の要領の得なさ加減に腹が立ち罵倒しまくっている)。
9月号は特にグロでもない(衣装、演出はケバケバしいが)古典的作品「ロッキー・ホラー・ショー」を紹介している。特に「僕は、「ロッキー・ホラー・ショー」の熱烈ミーハーだからして、冷静なる評価は下せそうにありません」と熱狂的姿勢であることを告白している点は見逃せない。10月号はジャック・クレイトン監督「何かが道をやって来る」を、ウォルト・ディズニーの冷凍死体が甦えるらしいというウワサ話と関連して解説し、突拍子のなさとそれの(屁)理屈づけが、ある意味で本領発揮とも感じられる。そして終刊号となった11月号では、自身が解説を担当したルチオ・フルチの未公開3作品のビデオを取り上げている(本連載「ホラー/カルト映画における青山正明」第1回で紹介した)。
長々と作品名を挙げてきたが、ここで重要なのは、青山がどこでこうした日本未公開の作品の情報を得ていたのかである。つまりタネ本は何だったのかという問題だが、実は青山は律儀に「ここからパクった/参考にした」と文中で説明することがあるので、ひとまずそれをチェックするといいだろう。まず最重要文献だと考えられるのがマイケル・ウェルダン著『The Psychotronic Encyclopedia of Film』だ。当該書はあの中原昌也が12歳の時に購入し衝撃を受けたという、ホラー、怪獣、セクスプロイテーション、ロックその他のカルトな作品ばかりが詰まった、当時としては画期的な映画ガイドの定本である。
またアメリカのホラー映画専門誌『ファンゴリア』(1979年創刊)も定期的にネタ元にしていたと見られる。特にルチオ・フルチの記事はこれ一冊で書いていたという。やけにフルチの話が出てくるのは『ファンゴリア』の記事がよく出来ていたからだろうか。特殊メイクの話題はトム・サビーニ『Grande Illusions』を参照している模様。日本のものも『フィルム・ファンタスティック』(中子真治)などは一通り目を通しているようだ。
文献以外でも、「カルト・ディストリビューション」というところとつながりがあったようである。ここは「安価でホラー、オカルト、ポルノ、グロテスク・ビデオを楽しんでもらう為の機関です」と説明がある。資料請求のお問合せは東京都の中野郵便局止めになっているので、都内の私設ビデオ・サークルだろう。また海外への通販ビデオ問合せ窓口として名前があるのが、ロスの「MERLIN MAIL」とロンドンの「CIC VIDEO」。どれだけ実際に注文していたのかは不明だけども、中学生の頃から海外のエロ本を通販で購入していたというから、洋書や洋ビデオも同じ様に取引していたであろうと想像はつく。
青山の80年代の映画紹介記事は、言ってしまえば海外文献の翻案で成り立っている。関係者の経歴・フィルモグラフィや一般的なデータなどをそうしたものから拾い、そこに自分の感想を付与する。これだけで成り立つのは80年代のビデオ黎明期ゆえだろうが、しかし単なるマニア向けのデータ原稿には終らない、青山独特の視点というものも短いが読み取れる。ひとまず断言は避け、次回からはもう少しマクロに、青山のホラー/カルト映画へのスタンスを見ていこうと思う。
(続く)
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ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミ
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「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/ |
09.01.11更新 |
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