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青山正明について一番知ってる人、と考えて最初に頭に浮かんだのは『危ない1号』の副編集長だった吉永嘉明氏だった。吉永氏の著書『自殺されちゃった僕』(飛鳥新社)には、自殺した友人として青山正明との関わりが淡々と綴られている。そこには『危ない1号』をはじめとするメディアを介した「悪趣味・鬼畜のカリスマ」という理想上の青山正明とは違った、ナマの人間味ある姿が描かれていた。
吉永氏と青山氏は、80年代末の旅行雑誌『エキセントリック』にはじまり、編集プロダクションの東京公司での活動、『危ない1号』の編集まで、10年以上の付き合いである。仕事以外にもよくつるんで遊んでいたというから、今から青山正明の人となりを正確に記述するには、まず吉永氏の言葉が必要だった。このインタビューは出来れば『自殺されちゃった僕』を手に取りながら読んで欲しい。
『自殺されちゃった僕』が出版されるまで
──奥様に自殺された直後に書き始めたという『自殺されちゃった僕』が出たのは2004年ですね。この本には吉永さんの奥様、漫画家のねこぢる、そして編集者の青山正明の、3人とのエピソードが率直に書かれています。最初にこの本が出版されることになったきっかけを改めてお話いただけたら。
吉永:死なれた直後にそれにすがるように書き始めたので、まあ普通の状態ではなくて、どん底でした。食欲も味覚も、音楽を聞く耳も性欲も何もかも無くなってる状態で、何もすることが無かった。それでもう自殺の念が強く出て、遺書ばっかり書いてたんで、遺書を書くよりは本を書こうって。
──それで編集の赤田祐一さんから執筆依頼をされたんですか?
吉永:いや、赤田さんとは別の本の企画を進めてて、その取材をしてたんです。けど僕の家に赤田さんが来た時に、僕があまりに壊れてる状態なのを見て、これはちょっと準備してた仕事は無理だなって判断されたんだと思うんですね。それで作業中の本の企画は棚上げにして「今起こったことを本に書いたらどうですか」と言って頂いて。
──内容の方向性について何か具体的な指示はされましたか?
吉永:内容に関しては何も、ありのままを好きなように書いてくれと。ただショック状態というか、異常な状態で書いてるので、冷静に分析はできないんですよ。だから分析よりも読者の感情に訴える本にする、感情に訴えるにはパンツを脱いで率直に書かないとダメかなと、壊れた環境の中で、かろうじてそういう心構えを持ちましたね。
読者からの反応
──実際に読者からの反響はいかがでしたか?
吉永:サブカル業界ゴシップみたいなところがありますから、業界の人にはよく読んでいただいてるみたいですけど、どうでしょうね。読みましたとはよく言われますね。だからまあ、僕のどん底の感情に移入できるかどうか半々じゃないですか。自殺願望がある人・ない人とか。
──最近になって読み返したりはしたんですか。
吉永:三年経ちましたし、まだ完全復調はしてないんですけど、今年に入ってから仕事を再開し、昔のように元気になってきてはいるんで、現金なもので、そのぶん本の内容は忘れてます。もし今書き直すとすれば、ねこぢると青山さんのところは変わらないと思うけど、僕と妻のところは大分書き直すと思う。間違ってるから書き直すんじゃなくて、考え方が変わるんですね。
──本としても、奥様についての文章がメインですよね。
吉永:精神的にも妻に死なれて僕も壊れたわけですから、青山さんやねこぢるのところを書くときはまあなんとか義務的に上の空でやりすごして、結局気持ちは妻のところにしかない。なので、テンションが、感情の重みが違うと思いますね。妻の部分が長いので、前と後の二つに分けて離して載せたんですが、読者の手紙では、それを続けて読むという人が多かったですね。
周囲からの反応
──周りから「書くのが早いんじゃないか」と言われたと思うんですが。
吉永:それは結構ありましたね。僕にとって親のように頼りになるというか支えてくれた人なんですけど、山野(一。ねこぢるの旦那)さんは六年経ってからようやく描いたんですね。でもそれは全くパンツを脱いでなくて、多分ふっきれなかったんでしょうね。だから山野さんはもう教えない・書かないという風に決めたんでしょうね。僕は出すからには売らなくちゃ、赤田さんが担当してくれるんだから売らなくちゃというプレッシャーもありましたから、とにかくギリギリ、パンツ一枚穿いてるつもりで脱いでる、そんな書き方をしてますね。
──データハウスの鵜野さんからは何か感想は?
吉永:まあもう辛い人生を振り返るのはこれでおしまいにして、新しい本を出そうよって、とにかく書いてくれれば本出すからって心強いことを言ってくれました。
──内容は結構奥深いところにまで触れてますが、これを書いたことで苦情が来たりはしなかったですか?
吉永:他人を攻撃しないっていうスタンスで書いてたんですけど、鶴見(済。『完全自殺マニュアル』著者)君のところはちょっとシビアになってるかもしれない。でも出版パーティに鶴見君は来てくれて、それで「俺はもう何書かれてもOKです!」って、そういう言い方をしてました。
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
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08.04.27更新 |
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