『危ない1号 第3巻 特集:快感』 初版1997年9月30日/データハウス |
毎週日曜日更新! The text for reappraising a certain editor. ある編集者の遺した仕事とその光跡 天災編集者! 青山正明の世界 第10回 吉永嘉明氏インタビュー part5 取材・構成・文=ばるぼら
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス、吉永嘉明氏のインタビュー最終回です。 |
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マザコンと青山正明
──逮捕後も青山さんは死ぬまでドラッグをやめなかったそうですが、目の病気を患って境地に至ったと書いています。病院には通ってたんでしょうか?
吉永:たまに行ってたみたいですね。毎週行くようなものじゃないみたい。ようするに治るわけじゃないから。
──目の病気の不安が更にドラッグに走らせたのかなと思ったんですが……。
吉永:目の病気はちょっと言い訳臭いな、と僕は思ってて。奥さんとの間がうまくいかないっていうのも、一番のポイントはマザコン。強烈な、史上最大のマザコンってところですよね。目の病気は、なんか気にするようなことは言ってましたけど、目の病気以上に、家族関係とかドラッグとか仕事の問題とか、そういう方が全然大きかったと思いますよ。
──青山さんはコーヒーとかタバコはやってたんですか?
吉永:コーヒーもタバコもチョコレートも全部中毒です。ヘロイン・コカイン・覚せい剤全部中毒。大依存症。その中でもマザコンっていうのが重要なキーワードで、ボクは彼を日本一のマザコンだと思ってましたよ。
──マザコンっぽいなと思ったエピソードってありますか?
吉永:そこら中にありますよ。二人の奥さんに同じセリフを言われてますからね、「私とお母さんどっちを取るの」って。
──どっちを取るんですか?
吉永:二回とも「お母さん」って答えてますね。思ってても答えないじゃないですか普通。
──(笑)。青山さんは一人っ子ですよね。
吉永:一人っ子で母親に甘やかされて何でも買ってくれる。秋葉原の電気店みたいに新製品が全部部屋にある。購買欲がおさえられない。欲のブレーキが無い人なんですよね。ドラッグも止まらないんですよ。誰にでも依存は多かれ少なかれあるんですけど、青山さんは極端でして、本当にブレーキがない。
言い訳と青山正明
──青山さんは部屋で一人でオナニー研究をしてると書いてました。
吉永:それはドラッグの影響なんですよ。ヘロイン・コカイン・覚せい剤は一人の世界に入っちゃう。涅槃ってのは一人じゃなきゃ行けないんです。カート・コバーンもニルヴァーナには一人じゃなきゃいけない。だから青山さんの口癖は「セックスは膣を使ったオナニーだ」なんてね。覚せい剤をキメた同士のセックスってひどいもんで、お互いに膣を使ったオナニーであり、チンコを使ったオナニーなんです。あれはやっぱり不健康なことだと思わなきゃいけない。そこを超えられない人はハードドラッグをやめられなくなるんでしょうね。
──惰眠の研究をしてるなんて話もありました。
吉永:それもね、後づけで肯定的に原稿を書くだけで、鬱で無気力で寝るしかないから寝てるんです。鬱ってソワソワして落ち着かなくなったり、動けなくなったり、人によって様々なんですよ。青山さんはぐったりして動けなくなる人なんです。さらにそこでヘロインをいれるからずっと寝てるわけですよ。寝てなくても横になってる。だからそれを原稿ではなんとか肯定的に書こうと思って……ある意味全部言い訳なんですよ。ただ、頭がいいし文才もあるから面白く読めちゃうんですよ。
──ああ、なるほど。
吉永:たしかに文才は素晴らしいものがありますよね。『危ない1号』は今読んでも抜群に面白いと思う。あれに匹敵するものは一つもない。ただ文章が面白いから本人も立派かというとそんなことはない。
──『危ない1号』4巻の後書きでは「精神世界にいく」という宣言があるんですけども……。
吉永:それも鬱のどん底でやってたからそう書いてるけど、調子いい時だったら絶対そんなこと書いてません。精神世界はお子様に任せて僕は他の道にいくよとか書くんじゃないですか。弱気だからそう書いちゃうんですよ。弱った心にニューエイジは入りやすいですよね。本当にそれを研究して信じ込んでるわけじゃなくて、逃避なんですよ。だから青山さんは作るものはいいんだから評価すべき人なんですけど、すべてが言い訳と逃避な気がしなくもないですね。頭がいいから後付で脚色するんですよね。
──その辺りの話は、プライベートを知る人と知らない人で評価が変わってきますね。
吉永:読者は青山さんの言い訳と逃避と嘘を全部真に受けちゃいますからね。いかに聡明な人であり、いかに愚かな人であるかはなかなか理解されにくい。だからライターとしては一流でいいんじゃないですか。ただ、プライベートでつきあうとなると大分問題のある人で。もちろん青山さんは悪い人じゃないしいい人ですよ。
自殺とドラッグと青山正明
──青山さんの晩年は仕事量が目に見えて減っていて、読者からは何をしているのか判りづらかったんですが、裏方に回ったとかではなく、本当に何もしなくなってしまっていたんですね。
吉永:働かなくなっちゃった。重版印税もあんまり入らなくなったし、そこでドラッグもやめればいいのに、怪しい金融業者にお金を借りてたみたいです。自殺したのはやっぱりドラッグと借金っていうのが大きいと思いますよ。大分追い詰められてたみたい。だから、僕の奥さんやねこぢるは死にたくて死んでて、なんてわがままなんだろうって思いますけど、一番気の毒な死に方をしてるのは青山さんですよ。本当は生きたいのに、追い詰められて苦しくて苦しくて。ねこぢるなんかは死に顔も安らかでしたけど、青山さんは顔が引きつって……。やっぱり本当は死にたくなかったんじゃないですか。奥さんに死なれた当初はこんな風に考えられなかったけど、時が経ってみると一番気の毒だったのは青山さんだったかな……。
──時間が経って、初めて判った?
吉永:妻のことをもちろん美化はしてないですよ。ずいぶんわがままな人だったなって思うようになってくる。ありのままを理解できるようになってくる。でもそれは時間がかかるんですよ。判ったのは忘れないってことですよね。忘れないけどごまかしもするし、でもなんか気持ちが軽くなってくる。時間が経つのを待つしかないんですよね。それを短縮する有効な手段ってないみたいですね。
──吉永さんは現在は非合法ドラッグに対してどういうスタンスをお持ちですか?
吉永:スタンスも何も、もう忘れちゃったって感じです。僕が未練なくやめられたのは、やっぱり青山さんが大きな反面教師としていたからですね。ああなっちゃいけないなって。僕も死にかけてますからね。覚せい剤・ヘロインは本当に怖いものだって書くようにしてるんです。友達も何人も死んでるし、タイの刑務所に入ってるのもいるし、僕は生き残ったようなもんだから、麻薬は麻薬で少し追求しとかないとなって使命感はありますね。若い子が壊れないような、気づくような原稿を書くっていう。(インタビュアーを見て)酒もタバコもなさらないんですね。ボクは酒以外はオールマイティだったんですけど、今はタバコとコーヒーの中毒なんですよ。最後に残ったのがこの二つです。タバコは一番やめられないドラッグだと思いますね。
──どうしたら青山さんのように「ならない」んでしょうか?
吉永:ビートルズが一時期LSDにどっぷり浸かって公の舞台に出なかったけど、最終的にそこから抜け出す時に言ってたのはやっぱり愛でしたよね。後期に最初に歌ったのは「オール・ニード・イズ・ラヴ」だったでしょ。だからドラッグに勝てるのは愛しかないんです。僕も経験上、そう思います。
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
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08.05.25更新 |
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