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続・常識ある大人の為の肉筆紙芝居
伝説の倒錯フィクション、待望の第二部へ!
酒気帯び運転で人身事故を起こした「くみ子」が体験する、恥辱の獄中生活。唇を噛み締めた身体検査、身も細る裁判、羞恥地獄の移送を経て、ついに女囚となった「くみ子」を待ち受けていた辛酸体験とは......。一組の男女の会話で綴る、異色の被虐イマジネーション紙芝居。秘蔵されていた第二部に突入!!
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【4】恐ろしい懲罰


未決囚(刑事被告人)の間は、しょっちゅう取り調べや公判であちこち曳き出され、手錠腰縄姿を人目に晒す恥ずかしさに身の縮む思いをさせられたものですが、女囚になって刑務所に入ってしまえば、屈辱的な取り扱いは未決囚のとき以上に惨めなものではあっても、高い塀の中ですから、女囚とはそういうものなのだと諦めて、命令通り素直に追いまわされていれば、世間の人の晒し者になる心配はまずありません。

身の自由を奪う手錠や捕縄も、塀と鉄格子の中にいるかぎりはあまり使われずに済みます(もちろん、看守たちは常に手錠や捕縄を携帯しています。毎朝の看守の装備点検で手錠を取り出して確認しているところが目に入ると、自分の手首で味わった鋼鉄の輪の固さ、冷たさを思い出して、私は慌てて目をそらすのでした)。

逮捕されて以来、生まれて初めて経験する手錠腰縄の惨めさに泣かされた私にとっては、むしろホッとする日々が続きました。そんなことで、つい気が緩んだのか、自分でも気がつかないうちに古い女囚たちの気にさわる態度があったようです。そうでなくても、長期受刑者は短期受刑者にいろいろ嫌がらせをするものなのだそうですが。

ある日の作業で、また針の員数が不足し、どう探しても出てきません。結局、例によってお定まりの「裸体捜検します。着ているものを全部脱ぎなさい!」の命令で全員ズロースまで脱がされてマッパダカにされました。もちろん私も......。

私たちの脱いだ着物を調べていた看守が、大声で叫びました。

「八百六十五号! これはおまえの作業衣だね。この襟の中のこれは何だい? 針なんか隠してどうしようというの!」

あまりのことに動転した私は、オロオロと身に覚えのないことを申し立てましたが、確かに私の作業衣の襟から針が出てきたのですから、そんな話は聞いてもらえるわけがありません。看守さんも、シャバッ気の抜けていない若い女囚に対する、古い女囚の嫌がらせかも知れないとは思っても、現実に目の前で重大な規則違反が出てくれば、放っておくわけにもいきません。

その場で私は、全裸のまま手錠をかけられ、証拠品の作業衣と下着を抱えた看守に追いたてられて、事務所のある中央棟まで歩かされるのでした。状況が報告され、調書が作られ、読み聞かせられて拇印を押させられる間じゅう、私は、男もまじった大勢の看守さんの前で、マッパダカのまま、久しぶりの固い手錠の痛さを手首で味わっていなければなりませんでした。

ようやく調べが終わって、処分はあとで言い渡すと言われ、やっと手錠をはずしてもらって、ようやく返してもらった下着や服をみんなの見ているまえで身につけ、しおれきって房に帰った私を待ちうけていた同房の女囚の目には、冷たい嘲笑が浮かんでいました。

「フフン。はめられたな、くみ子。」
「あまりお嬢様ぶってるから、やられるんだよ」
「まあ三日か四日だ。懲罰房で涼しい思いをしてくるんだな」

みんなが笑った最後の言葉の意味はあとでわかりました。翌日、懲罰委員会にかけられ、同房女囚の予想通り三日間の懲罰房入りを言い渡されました。身に覚えのないことなのですが、諦めるほかありませんでした。

懲罰房は中央棟の地下にありました。数人の看守にかこまれ、何重もの鉄格子や鉄の扉を通って懲罰房の前まで歩かせられた私は、恐ろしさに、もう歯の根があわないくらい震えあがっていました。

房の前に正座させられ、もういちど罰の言い渡しがあります。

「八百六十五号、丸矢くみ子。所内管理規則○○条違反により三日間の懲罰房入りを命ずる」

言い渡しが終わると、

「立ちなさい」

立たされている私の前へ近づいてきた看守は、手に奇妙な道具を持っていました。幅広の短い革ベルト二つを鎖でつないだもの。

「アッ、革手錠......!」

ここへ入所した直後に戒具備品室で使役されたときに見た、女囚が懲戒をうけるときに使用される拘束具です。

「何日も嵌めっぱなしにしておいても、鉄の手錠と違って傷はつかないからな。まあ、親心というわけだ」

看守が笑いながら言った言葉を覚えています。

「あれを嵌められる、ということは......」

思わず逃げ腰になる私を、看守が、鋭く叱りつけます。

「両手を後ろへ回して! 回れ右!」

後ろを向き、オズオズと背中へ両手を回してうなだれた私の両手首に、革手錠が巻かれグイと締めあげられます。

「アアッ背中で......。後ろ手に縛られるんだ」

後ろ手錠は初めての体験でした。思わず身をもがくと、いきなり、

「ビシッ」

ほっぺたにビンタをはられました。

「動くんじゃない! 懲罰房重禁固は後ろ手錠が決まりなんだ。暴れると鉄砲手錠にするよ。それとも鉄の手錠で手首をアカむけにしてヒイヒイ言いたいのかい」

鉄砲手錠の苦しさ恐ろしさは、看守に反抗してそれをやられた女囚から何度も聞かされていました。私は、諦めて、おとなしく後ろ手錠を嵌められるほかありませんでした。しかし、懲罰女囚の恐ろしい扱いは、それだけでは済まなかったのです。

後ろ手錠姿で立たされている私の両腕を、二人の看守がつかまえ、一人の看守が私の前にしゃがみこみました。なにをされるのかと身を固くしている私のズボンのボタンに看守の指がかかると、アッという間にボタンがはずされました。

「アレッ」

思わずしゃがみこもうとした私の頬にもう一度ビンタがなり、両腕をグイとひきあげられ、立たされます。

「ジッとしてな。三日間後ろ手錠でほうっておくんだよ。ケツを出しておかなきゃどうするんだ。官給のズボンのなかにたれ流すつもりかい」

恥ずかしさ、惨めさにオイオイ泣きだす私の腰から、ズボンが手荒くはぎとられます。そして続いて女の最後の羞恥を包む、たった一枚のズロースもズルズルと引きおろされて......。

こうして下半身まる裸で後ろ手錠にされた哀れな姿の私は、そのまま、窓ひとつない懲罰房に突きこまれました。重い響きとともに厚い鉄の扉が閉められると、扉の小さな覗き窓のほかはまったく光の入らない薄暗い部屋に中に、私は、後ろ手錠姿で、ひとり呆然と立っていました。

椅子も、ベッドも、布団も、なにひとつありません。あるのは、部屋の隅に白白と光っているホーロー引きの便器(!)がただひとつ。この便器を後ろ手錠のまま使えるようにと、看守たちは、意地悪く私のズロースまで脱がせたのです。情けなさに涙がながれ、私は目をそらしました。





いつまでも立っているわけにもいかず、私はリノリウムの床にそっと腰をおろしました。裸のお尻、ムキ出しの肌に、ゾッとするほど冷たいリノリウムの感触がジカにつたわってきます。腰を覆うものが何ひとつないのだということを否応なしに思いしらされて、私は、身も世もなく身悶えるのでした。

同じ房の女囚たちの言った、涼しい思いをしてこいという言葉の意味が身にしみてわかりました。シャバの方は、作業もせずに独房でジッとしていることが、どうしてそんなにみんなが怖がる懲罰になるのかと思われるかもしれませんが、一度あの哀れな格好で、屈辱の思いをかみしめる時間を味わってみればよくわかります。これは肉体だけでなく、女の心、人間の魂に加えられる恐ろしい懲罰なのです。

時間もよくわからない薄暗い房の中で、後ろ手錠の悲しさに仰向けで寝ることもできず、壁によりかかって、私は、長い長い時間を過ごしました。音も聞こえない、何もすることが許されないというのは、本当につらいものです。涙が乾いてきて顔がかゆくなります。無意識に手を動かして顔をかこうとして、そのたびに、手首を締めつけている革ベルトに無慈悲に手を引きもどされ、後ろ手錠の身の情けなさを心のそこから思い知らされます。

かゆさにたまらず、ひざに顔をこすりつけようとして、自分の下腹の黒いものが目にはいって、自分が女のダイジナトコロまで丸出しの格好をさせられているのだと、改めて恥ずかしさ、惨めさに身をもむのでした。

どのくらい時間がたったのでしょうか、なかば気が遠くなったような状態でボンヤリしていた私は、扉の外に靴音がして、扉の下の小さな差し入れ口のあげ蓋がカタンと押し開けられるのに気がつき、ハッとわれに帰りました。私は夢中で、後ろ手錠姿で裸のお尻を振り立てながら扉のほうへにじり寄りました。

「お願いです、この手錠だけでもはずしてください。絶対暴れたりしません。おとなしく罰をうけますから。お願い、せめてパンティを......」

返事はなく、小さなお握りと冷えたお茶をのせたお盆が入れられ、バタン、無情に蓋が閉まりました。去っていく靴音、遠くでガシャーンと廊下の鉄格子の閉まる音がして、私を閉じこめた扉の外にはだれもいなくなり、私の哀願の声がむなしく反響するだけでした。

お腹がすいたなどという気持にもなりませんでしたが、何かすることができただけでも有り難くて、私はお握りのお盆のそばによりました(昼食だか夕食だかもわからなくなっていました)。そしてお握りを口に入れようとして、また改めて後ろ手錠の情けなさをかみしめることになりました。





どうやっても手で食べ物をロへ運ぶことができません。何度かムダに身をもがいてみたあげく、私は諦めて、床に置かれた食器に顔を突っ込んで、犬のように口で食べるほかありませんでした。だれも見ていないところとはいえ、ほんとうに動物になったような惨めな気持でした。

それからまた、昼だか夜だかわからない時間がどれぐらい過ぎたのでしよう。いつのまにか泣き寝入りで少しウトウトしていたようでした。ふと目がさめて、後ろ手につながれた両腕の痛さに顔をしかめながら身を起こした私は、予想したこととはいえ、不吉な苦痛に身を震わせました。下腹部に溜まってきた重苦しい緊張感。それは、しだいに私を地獄の苦痛にのたうちまわらせる恐ろしい責め具にふくれあがってゆくのでした。

尿意......。オシッコが出たくなってきたのです。この部屋にトイレはありません。今まで見ないようにしてきた、部屋の隅の、あのグロテスクなオマルを使わなければならないなんて......。

それでも、かなりの時間、私は我慢しました。どんなに目を吊りあげて我慢してみても、健康な娘が三日間一度もオシッコをしないですむはずがない。だからこそ看守は、後ろ手錠の私の下半身を裸にしていったのです。でも、それが口惜しくて、私は、歯をくいしばり腰をモジつかせながら、さらに数十分を我慢したのでした。

どんなに逆らってみても、むだなことは判っていました。とうとう限界がきました。結局私は、ズロースを脱がしていった看守の残酷な処置に感謝しながら、あのグロテスクな便器の上に、ぶざまに脚を開いてまたがったのでした。





ホーロー引きの便器の底をたたく激しい水流の恥ずかしい音。はねかえるしぶきにお尻を濡らし、下半身裸で便器をまたいでいる自分のあさましい格好。恥ずかしさと、苦痛から解放される快感と、二つの感覚に頭の芯までかきまわされ、うなり声をたて、身をよじりながら、私は、物心ついて初めてオマルで用をたしたのでしだ。


尿意に責めたてられる苦痛が去ってすぐに、私は、次の苦痛に身を悶えることになりました。後ろ手錠の悲しさに、どうやってもお尻の始末ができないのです(だからトイレットペーパーも置いてありません)。いつまでも便器にまたがっているわけにもいかず、諦めて立ち上がれば、内股を伝わる生温かい液体の惨めな感触! ほんとうに女の体の構造を呪いたくなりました。

結局、濡らしてしまった内股、シブキがはねたお尻が乾くまで、私は、自分のものとはいえ顔をそむけたくなるような臭気の中で、裸のお尻を突き出した格好で、ウロウロと立っていなければならなかったのです。二日目にはとうとう、お大便まで我慢できなくなって便器にしてしまって、私は、ひどいにおいの中で顔をそむけながらすごしました。

においは、じきに鼻が慣れてしまって判らなくなりましたが、自分の姿の惨めさ、汚したお尻の気持悪さには慣れようがありません。私は、屈辱にまみれた長い長い時間をすごすのでした。



(続く)
※「女囚くみ子」は、1990年代(監獄法廃止以前)に書かれた、浜不二夫氏によるSM創作物語です。一組の男女の会話から想起される獄中の描写、法律談義は、くみ子を責めるためのプレイトークとしてお楽しみ下さい。

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浜不二夫
異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。
「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが――」
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