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品番:KC-01
発売:2010年06月24日
収録時間:91分
販売元:不二企画

縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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縄のテクニックさえ持っていれば、
マゾ女性を手中にできると信じている男は、意外に多い。
「SM」の快楽に、最も必要なのは、じつは知性なのである。
「SM」においては、知性こそが、
快楽の高さ、深さを決定する。

他人に見せるための「縛り」のときは麻縄、親しい彼女と二人だけの密室の場では、木綿(もめん)の縄、さらに親密度が加わってくると、晒布(さらし)をタテ裂きにした紐、などと、これまで私は、緊縛のテクニックみたいなものばかり多く書いてきたような気がする。

しかし、テクニックというのは、しょせん、テクニックにすぎない。つまり、技巧にすぎない。

わかりきっていることだから書かなかったが、緊縛快楽に最もたいせつなのは、相手との心の交流である。親密度である。

この親密度のなかには、いわゆる「SM」に対する相互の理解力の深さがある。
小手先のテクニックよりも、心と心の密度の深さに、緊縛の快楽度が比例してくるのは当然のことであろう。

この理解力が乏しい相手だったら、緊縛なんて、ただの暴力行為にすぎない。

落花さんはこの理解力が、群を抜いてすぐれている。
五十年間この道にたずさわり、多くの、そして各派の同志たちとつきあってきた私よりも、ときに理解度、分析度、分析力は深く鋭く、すぐれていると言っていいだろう。

それも、知的に深いのである。

(惚れてしまえばアバタも……エクボ……などとひやかさないでもらいたい。私はすでに、惚れてしまえばアバタも……という甘美な域から脱している。もう八十歳を超えている人間だ)

「SM」の快楽に、最も必要なのは、じつは知性なのである。「SM」においては、知性こそが、快楽の高さ、深さを決定する。

またずうずうしい表現をゆるしてもらえれば、私と彼女は、その知性のバランスが絶妙にとれているのだ。

知性の低い「SM」マニアほど、始末のわるいものはない。
慎みを知らない、欲望むきだしのマニアほど身勝手で、相手を困らせる人種はない。
縄のテクニックさえ持っていれば、マゾ女性を手中にできると信じている男は、意外に多い。

「落花さん、あなたが私を好きなのは、私が緊縛テクニックに長(た)けているため?」
というようなことを、私が仮に、彼女にきいたとしてみよう。

(こんなこと、実際に彼女にきいたことは一度もない。きかなくても返事はわかっている)

彼女は、急にきりりとした目になって、
「いいえ、なにをおっしゃるんですか!」
はっきり答えるだろう。

彼女が、なぜこれほど私のことを好いており、信頼しているかというと、それは、はっきり書くのは面映(おもは)ゆいが、私の人間性である。「SM」に対する、私の理解度である。

「人間性」そして「理解度」、このどちらかが欠けても、彼女はこれほど男を好きにならないであろう。


ああ、とんでもないことを書いてしまったな。これはきっと、暑さのせいだな。毎日毎日殺人的な猛暑が続くものだから、頭のタガがゆるんで、こんなずうずうしいことを書いてしまった。これではとても「知性」ある人間、だなんて言えないではないか。


あしたもまた私は、彼女と二人きりで会うのです。
会って、芝居を観に行くのです。
その劇場へ行くときには、山の手線の或る駅の、ホームのいちばん隅っこにあるベンチにすわって待ち合わせをするのです。
その駅のベンチで会うことが、最も時間を無駄にしないで、目的地へ行くのに便利だからです。

私はたいてい三十分前か、ときには一時間も前に行って彼女を待っています。
見知らぬ男女たちがせわしなく行き交う間から、彼女の目玉の大きな白い顔が、ひょっこりと現われるのを待つこのときも、私にとっては、快楽の時間の一つなのです。

この快楽の時間を、ひそかにじっくりと長く味わうために、私は一時間も前に彼女を待つのかもしれません。

かぞえてみると、もう百回を超すデートをかさねているのですが、彼女が約束の時刻におくれてきたことは、過去にまだ一度しかありません。
(その一度も、のっぴきならない彼女の家の家庭の事情でした)
ほとんど毎回正確に、彼女は約束の時刻数分前に、
「スミマセーン!」
と言って私の前に現われます。

四、五メートルの距離を置いて立ちどまると、私がいるのをたしかめます。
私と視線が合うと、恥ずかしそうに体を軽くひねり、二歩か三歩、ときには四歩か五歩、あとずさりします。

そんなときの彼女は、いつも輝いて見えます。顔も、首すじも、肩も、腕も、ウエストも、腰も、足も、みんな新鮮で生き生きとしています。
仕事が忙しくてよほど疲れているときは、そのような表情をしていますが、それ以外はいつも明るく冴えた、機嫌のいい顔で私たちは会います。

さあ、明日は芝居をみてから、いつものあの古い和風のホテルへ行きます。新しい晒布も、ちゃんと用意してあります。

(続く)

関連リンク

緊美研.com

濡木痴夢男のおしゃべり芝居

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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