THE ABLIFE December 2010
「あぶらいふ」厳選連載! アブノーマルな性を生きるすべての人へ
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
彼女がすぐに失神して無言の世界に入り込んでしまうのは、
自分の真の欲望がかなえられない、
欲求不満の意思表示なのだろうか。
だけど私は、落花さんのクリトリスに、
とても針なんか刺せない。
自分の真の欲望がかなえられない、
欲求不満の意思表示なのだろうか。
だけど私は、落花さんのクリトリスに、
とても針なんか刺せない。
いま「美濃村晃物語」という原稿を執筆中である。河出書房新社からの依頼で、最終的には全5巻になる予定である。四百字詰め原稿紙で、約一千枚。
そのために、JR飯田橋駅近くにある風俗資料館にひんぱんに通っている。美濃村晃が活躍した時代の記録が、この資料館にほとんど揃っているのだ。
佐伯香也子という、SM小説を書く女性と近づきになれたのは、その資料館である。
知的な美人であり、なによりも明朗闊達なお人柄が好ましい。私は、ぐしぐじした陰湿な女性は苦手である。しっとりじめじめした暗い女性は好きだが、ぐじぐじと陰湿で、何を考えているかわからない女性は敬遠する。
しっとりじめじめと、ぐじぐじした陰湿とどこがどう違うか、この説明は置いておく。
その明るく歯切れのいい佐伯香也子さんが中心となって、こんど、『妄想乙女倶楽部「イシスの裏庭」』という女性ばかりの、立派な同人誌が発行された。
一冊頂戴して、さっそく拝読したが、イヤー、凄い。おそれいりました。
執筆者のほとんどが、いわゆるM女性らしいけど、さすが同人誌に発表する小説だけあって、内容が濃厚である。強烈である。
たとえ妄想物語のなかでも、心に思ってないことは書かないだろうから、この女性同人誌に発表された作品は、彼女たちの秘められた欲望の発露に違いないと、生来単純で浅薄な私など、ウーム、凄いとうなってしまう。
(もしかすると、私が紐を出して縛ろうといるだけで半分失神してしまう落花さんも、心の奥底では、こういう欲望を抱いているのではないだろうか?)
と、私はつい思ってしまう。
そして、おびえてしまう。
なにしろ佐伯香也子さんが書かれた小説のなかのヒロインは、ベッドの上にM字の形に拘束され、乳房や乳首に、注射用の太さの針を、十本も突き刺されるのだ。
そこまでだったら、私もまだイメージとして思い浮かべることができるのだが、つぎに、若菜という名のそのヒロインのラビアが、針で突き刺されるシーンになると、やっぱり感覚的に、こわい。
ちょっと原文を紹介させていただこう。
......ラビアは肉が薄いから、乳首ほど痛くはない。だが、両側に三本ずつ突き立てると、若菜はもはや息をするのも苦しげな様子を見せた。
彼女にとっては、夢にまで見た性器への罰だった。刺された場所は、どこもジンとする痛みを伝えてくる。だが、それはとても幸福な痛みだった。
だから、クリトリスフッドがつまみあげられ、そこをつらぬかれたときも、大きなよろこびの中で悲鳴をあげた。そして、堂島に最後の一本を見せられ、どこへ刺してほしいか訊かれたときには、迷わず答えていた。
「クリトリスへ......真ん中を、つらぬいてください」
そこがもっとも痛い場所であることは知っていた。だが、毎日イヤらしい妄想をしてアソコを濡らしてしまうような自分を罰するには、もうそこを刺してもらうしかない。
(中略)
堂島は笑みを唇にうかべると、無言でうなずいた。そして、クリトリスを片手で開きながら、その下側に針をあてる。
「さあ、これが最後だ」
そういって若菜に心の準備をさせると、瑞々しい紅珊瑚の宝珠へ、針を深く刺し入れた。
若菜の絶叫が響きわたった。針はやがて、手応えのある場所をつきぬけ、フッドを貫くそれと十文字にまじわった。
若菜にとってそれは、今までの記憶が消し飛ぶほどの激痛だった。だが、今までで一番大きな喜びであるのも確かだった。
若菜は陶酔とともに、それを味わいつくした。
そうか。クリトリスを針で貫かれる激痛が、彼女にとって一番の喜びであり、陶酔なのかァ......。空想にしても妄想にしても、凄い話である。
彼女にとっては、夢にまで見た性器への罰だった。刺された場所は、どこもジンとする痛みを伝えてくる。だが、それはとても幸福な痛みだった。
だから、クリトリスフッドがつまみあげられ、そこをつらぬかれたときも、大きなよろこびの中で悲鳴をあげた。そして、堂島に最後の一本を見せられ、どこへ刺してほしいか訊かれたときには、迷わず答えていた。
「クリトリスへ......真ん中を、つらぬいてください」
そこがもっとも痛い場所であることは知っていた。だが、毎日イヤらしい妄想をしてアソコを濡らしてしまうような自分を罰するには、もうそこを刺してもらうしかない。
(中略)
堂島は笑みを唇にうかべると、無言でうなずいた。そして、クリトリスを片手で開きながら、その下側に針をあてる。
「さあ、これが最後だ」
そういって若菜に心の準備をさせると、瑞々しい紅珊瑚の宝珠へ、針を深く刺し入れた。
若菜の絶叫が響きわたった。針はやがて、手応えのある場所をつきぬけ、フッドを貫くそれと十文字にまじわった。
若菜にとってそれは、今までの記憶が消し飛ぶほどの激痛だった。だが、今までで一番大きな喜びであるのも確かだった。
若菜は陶酔とともに、それを味わいつくした。
男である私には、ラビアもなければクリトリスもない(あたりまえだ)。でも、自分の男根に太い針が突き刺さる瞬間を想像すると、それだけで恐怖と苦痛が全身に走り、悲鳴をあげそうになる。
私にはMの部分も多くあると思うのだが、男根に針というのは、とても快楽につながらない。でも、そういう妄想を好むM男性もいそうな気がする。妄想だけだったら、痛くない。そして、ある程度の快楽はある。
いや、待てよ。もしかして......もしかして落花さんにも、こういう欲望への妄想があるのかもしれない。
私はひそかに愕然となる。そういう過酷な妄想を抱いているために、落花さんは私の質問にも答えてくれず、ただ失神の中にのめりこんでいってしまうのか。
私の質問というのは、こうである。
「どう、気持ちいい? こんなに縛られて気持ちいい? こんなにきびしく高手小手に縛られて、どうして気持ちいいの? ねえ、教えてくれないかなあ」
彼女がすぐに失神して無言の世界に入り込んでしまうのは、自分の真の欲望がかなえられない、欲求不満の意思表示なのだろうか。
だけど私は、落花さんのクリトリスに、とても針なんか刺せない。こわい。まねすることすらできない。やってくれと言われたら困ってしまう。
佐伯香也子さんが書かれた小説は、このように読者の心を、猛烈に、さまざまな形で刺激してくれます。女の人が残酷なことを書くと、妙にリアルで、ほんとにこわい。
『妄想乙女倶楽部「イシスの裏庭」』は、風俗資料館発行です。
(続く)
妄想乙女倶楽部 『イシスの裏庭 第一号』(風俗資料館)発売!!
『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション1「悲願」(不二企画)』
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緊美研.com
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