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「あぶらいふ」厳選連載! アブノーマルな性を生きるすべての人へ
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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「アヤ」というのは漢字では「文」と書き、辞書をひくと、
「表面にはあらわれていない筋道」とか、「斜めに交わった縞模様」とか
「ことばや文の修飾とか、いいまわし」という意味がある。
私のようなマニアの、表面にはあらわれていない筋道、
斜めに交わっている縞模様の心理を、私自身の性癖を土台にして、
これから少しずつ書いていきたいと思う。

「縄」という物質自体、そして「縛る」という行為に対してだけに私は欲情した、と前回書いた。

もちろん私のその対象は、相手が女性に限った。

イヌやネコを縄で縛ったところで、性的な感情はまったくおきない。
縄を体にまとった女性、縛られた女性と、頭の中に思い浮かべたとき、その女性の姿に私は欲情した。

それは、イメージだけでよかった。

その欲情は、縛られたその女性の性器の中に、自分の性器を現実に挿入したい、という種類のものではなかった(このへんが、いわゆる「一般人」、つまり「常識人」たちには、理解できないところであろう)。

縛られた女性が、悲しそうな顔をして、おびえて身を悶えてくれれば、私はそれでよかった。満足だった。

そういう痛々しい哀れな女性の姿や、彼女をそこへ追いやった不幸な運命を妄想することによって、私が快楽を感じ、実際に反応して股間のものを熱く勃起させるようになったのは、やはり中学生、つまり十三、四歳のころであったろう。

このあたりのことは、これまでにも何度か書いたような気もするが、その後の長い長い(ずいぶん長く生きてしまった)私の「縄人生」の旅の端緒であるので、どうしても熱が入ってくり返してしまう。

いってみれば、私の性の発芽時代であった。

その後の私の人生における性的な面は、多かれ少なかれ、この発芽時代に感受した意識に左右されることになる。

多かれ少なかれ、といったほうが、その後の私の人生のすべての意識や行動が、「縛られた女」への性的欲望だけに占められていた、というわけではない。

そんな妄想にふけってばかりいたら、とてもこの俗世間で暮らしてはいけないし、いくら好きでも年がら年じゅう性の欲望ばかりを悩の中に充満させていたら、酸素が欠乏して息ができなくなる。

わかりやすくいってしまえば、性的欲望がおこったときだけ、「縛られた女」の姿を頭の中に思いうかべ、あとは普通の人間と変わりはない、ということである。



私が自分でもふしぎに思うのは、これほど縛られた女の姿に恋い焦がれていても、私は、自分の手で縛った女性の姿に対しては、さほど強い愛着は持たなかった、ということである。

正直に言うと、私は自分が登場し、自分が縄を握って女を縛る「緊縛ドラマ」には、ほとんど興奮しないのである。

私は、ときには自慢するように、
「これまでに縛った女性の数は、五千人か、あるいは六千人か」
などと言ったり書いたりしてきたが、女を自分の手で縛りながら、じつは私は興奮もしないし、欲情もしない。

だからこそ、三十数年間(いや四十数年間か)、毎日毎日、飽きもせず、疲れることもなく、モデル女性を縛ってこられた、とも言える。

興奮もしないし、欲情もしないから、女性を縛ることが嫌いなのか、縛っていて何も感じることはないのか、と言われれば、もちろん嫌いではない。

何かを感じてはいる。その何かとは、若い女性モデルたちのみずみずしい裸体に、思うがまま触れることのできるエロティシズムである。

そのエロティシズムは、好きである。
好きにきまっている。
好きではあっても、興奮したり、欲情したりすることはない。
つまり、その程度の好きということである(第一、仕事場でいちいち興奮したり、欲情したり、勃起したりしていたら、仕事にならないではないか)。

ええッ、映画館の中で、わずか数秒間の「縛りシーン」に興奮して、がまんできずに股間を握りしめる人間が、実際に「縛られている女」を前にしても欲情しないなんて、あまりにも矛盾してる!
と、たいていの人は思うだろうが、じつは矛盾していない。
そこに緊縛マニアの、針の穴に糸を通すような、めんどくさい微妙な心理のアヤがある。

「アヤ」というのは漢字では「文」と書き、辞書をひくと、「表面にはあらわれていない筋道」とか、「斜めに交わった縞模様」とか「ことばや文の修飾とか、いいまわし」という意味がある。

私のようなマニアの、表面にはあらわれていない筋道、斜めに交わっている縞模様の心理を、私自身の性癖を土台にして、これから少しずつ書いていきたいと思う。



SM商品を制作する現場に「縛り係」として雇われ、朝から晩までモデル女性を縄で縛る毎日を、三十年も四十年も(白状すると五十年近くになる、ああ!)つづけたのは、まず、その仕事によって、少なからぬ報酬を得ていたからである。

その仕事は、私にとって、まことに楽な気分のものであった。

興奮もしないし、欲情もしないし、勃起することもないが、若い裸の女の体を自由自在にこねくりまわし、ときには「縄の先生」などと呼ばれて、いい気になって威張って一日を通せば、お金をたくさん頂戴できるという、じつにありがたい仕事であった。

わずかばかりの腕力を必要とするが、肉体労働というほどのことでもないし、頭はほとんど使わないし、多少小手先が器用で「女体緊縛」の美意識みたいなものさえ心得ていたら、こんな楽な作業はない。

お金をもらえた上に、勃起するほどの興奮を得られたとしたら、罰があたるというものだ。

映画やテレビの映像の中の、ホンの一瞬の「女体縛られシーン」に、あれほど夢中になって勃起し、自慰行為にまで及ぶ私が、「緊縛ビデオ」の制作に、自分が参加するときになると、なぜその種の欲望が消え失せてしまうのだろうか。

これは、私自身もふしぎな現象なのである。

だが、当然、そこには理由がある。
その理由をこれから書いてみようと思うのだが、なにしろ、マニア以外の人にはわかり難い。
「表面にはあらわれない微妙な心理のアヤ」
である。

書くのは難しそうだし、めんどくさそうだ。うまく書けないかもしれない。
ためらってしまう。

だが、これを書かなかったら「猥褻遺書」にはならない、とも思う。
で、書くことにする。

(続く)

『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション1「悲願」(不二企画)


品番:KC-01
発売:2010年06月24日
収録時間:91分
販売元:不二企画

メーカーサイトで作品詳細を確認・購入する>>>こちら

※当欄で使用しているイメージ写真は本作のキャプチャ画像です

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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