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縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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でも、でもね、落花さん。
あなたのそういう幼さを、私は、
ものたりないなどとは思っていない。
あきらかに、これは、いまの落花さんの、まぎれもない「フェラ」なのだ。
純粋で、ひたむきな、他のだれにも真似することのできない、
落花さんの魅力あふれるフェラなのだ。


落花さんのような、若く美しい女性が、なぜ私のような古びた人間の前に、このように、肉体のすべてを投げ出してしまうのか、その彼女の心が、私にはわからない。

いや、わからないというのは、ウソだ。
ここではウソを書くのはやめよう。

私にはわかっている。彼女の心が、一〇〇パーセントはわからないにしても、九五パーセントくらいはわかっているつもりだ。
それがわからなかったら、彼女に対して、こんなにもずうずうしく、恥知らずで大胆な性行為ができるはずはない。
三十歳前の、誰もが美しいと認める女性に対し、私のような八十歳直前の、醜く腹をつき出した、足の短い男が、なんたることか自信たっぷりに、ひどいもてあそび方の、その行為にふけるのだ。
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(私は、私の肉体の醜さを承知している。自認している。これは私が謙遜して言っているのではない。私は傲慢な性格である。自分を控えめに言ったり書いたりはしない。じつはいま、己の醜怪さを確認して、すこし落ち込んでいるところだ。すこしばかりだが、私は演劇活動をしている。つい先日、或る立派なホールの舞台に、俳優として出演した。その模様がビデオ映像に撮られ、一昨夜、試写会なるものがあった。私は自分の姿の醜さが増していることにおどろいた。とくに喉から上、つまり顔に老化が現われている。しまりがなく、ブヨブヨになっている。つまり、俳優である私に与えられたのは、そういう醜い姿態でもつとまる役なのだ。人間だれだって、うぬぼれというものがある。私はもうすこし、マシな「男」だと思っていたのだが……愕然となった)

いや、誤解しないでいただきたい。
男であることをすててしまったようなグロテスクな姿形の人間を、とくに偏愛するような趣味は、落花さんにはない(と思う)。
そういうところでは、きわめて、まともである(まともだと思う)。
ただ、落花さんという人は、いってみれば、外見よりも、その人間の中身のほうを尊重する性格のように思う。

ああ、またこんなうぬぼれを言ってしまった。この傲慢さ。

でも、どうか、どうかゆるしていただきたい。この「うぬぼれ」がないと、この「快楽遺書」は書きつづけることができないのだ。
私はこの「うぬぼれ心」を、「うぬぼれ」だとわかっている。承知している。
この「うぬぼれ心」をさらけ出しておかないと、若く美しい女性の心身を、八十歳を目前にした男が自由気ままに、欲しいがままにしていることをいくら書いたところで、だれにも信じてもらえない。

彼女は、私が欲情を抱いたときには、いつでも、どんなときにも、私に縛られてくれる。左右の手首を高々と背中に、厳しく縛られた上に、勃起した私のものを、ためらいもなく、口の中に入れて、つまり、しゃぶってくれる。

イヤイヤしゃぶるのではなく、せいいっぱいの心をこめて、口の中で、いろいろともてあそんでくれるのだ。

それはもちろん、私の「心」に、きわめて強い快楽を与えてくれる行為である。

だが、はっきり書いてしまうことにする。
落花さんは私の書くこの文章を読んでくれている。だれよりも熱心にこの文章を読んでくれる。
だから、こういうことを本当は、書きたくないのだが、私は書かなければならない。

彼女のしゃぶり方は、テクニックとしては、幼いのだ。ああ、ごめんなさい。こんなことを書いてはいけない。申しわけない。
だけれども、書く。

こういうことをだまっていて、いいことぱかりを書きつらねていると、リアリティが失われてしまうような気がするのだ。それを恐れる。作家魂というやつか。泥棒にも三分の理あり。私如き三文文士にも、このくらいの魂の持ち合わせはある。
彼女のいいところばかり書き並べていると、死にかけている老人の、単なる妄想になってしまう。この文章を書き始めた意義がないではないか。

でも、でもね、落花さん。

あなたのそういう幼さを、私は、ものたりないなどとは思っていない。
けっして、不満などとは感じていない。本当だ。
逆に、いまのあなたが、この種のテクニックを、妙に心得ているとしたら、私はそのことに失望するかもしれない。いや、失望するに決まっている。

あきらかに、これは、いまの落花さんの、まぎれもない「フェラ」なのだ。
純粋で、ひたむきな、たどたどしい、他のだれにも真似することのできない、落花さんの魅力あふれるフェラなのだ。

ああ、私は涙が出てくる。

私のような男のものを口の中いっぱいにふくみ、私が腰を引いて離れるまで、素直に、忠実に、休むことなく、しゃぶりつづける彼女の心意気に。

私は、私への、せいいっぱいの彼女の「奉仕」を感じる。いや、これは失言だった。
彼女の心の中には「奉仕」などという、通俗的な、うす汚く世間に流通している、腐ったような言葉はない。もちろん、意識もない。あるのは、私と快楽を共有しようという心遣いだけだと思う。

私もまた、そんな「奉仕」をされるのは、好きではない。はっきりいえば嫌いである。

(続く)

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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