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THE ABLIFE November 2009
「あぶらいふ」厳選新連載!
アブノーマルな性を生きるすべての人へ
写真=枷井克哉

縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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私はバッグの中から黒い綿ロープを取り出し、
彼女の両手首を背後にねじり上げる。
彼女の左右の手首を、
黒いロープで一つにして縛り上げるときの快楽は無上のものである。
彼女との会話同様、これも即セックスである。
セックス行為以外の何物でもない。


浅草にいったときはここ、ときめている「幸和」は、客室の案内板のすべてが消えていた。つまり、満室だった。
窓口の向こう側の、顔だけしか見せない中年女性が、おだやかな上品な声で、

「すみません。またお越しくださいませ」

と言って頭を下げた。

「日曜日だからね。仕方ないよね。だけど、まだ昼間だというのに、みなさん、すごいな。ね、すごいね」

と私は言って落花さんをうながし、すぐに外の道路へ出た。

べつのラブホを探した。
「幸和」の近くの同じ道沿いに「Will」という、それらしい白っぽい建物の入り口があった。

「ここでいいや」

中身の濃いこってりした芝居とショーを三時間半も観つづけて、私の脳味噌は疲れていた。身体も疲れていた。
自動ドアを踏み、その建物の中へ入った。
すぐに案内板を見た。

十二、三ある客室のうち、三部屋ほどに照明がついていた。
私は窓口の女性にむかって、客室の番号を言った。

「ショートですか、時間ですか、お泊まりですか?」

 と、事務的な口調で、彼女はきいた。

「えっ、ショートなんてあるの?」
「ショートは一時間で、時間は三時間です」

と、顔だけしか見えない女性は教えてくれた。

「三時間たったら出ます」

私は鍵をもらい、落花さんと一緒に、鼻のつかえそうなせまいエレベーターに乗り、三階へ上がった。

おそろしくせまい部屋だった。
壁際にセミダブルのベッドが置かれ、足もとの密着するような位置にテレビ台がある。
よく見ると、ベッドの寸法も、ふつうよりだいぶ短い。ベッド全体のサイズが小さいように思えた。

テレビ台の裏側にわずかばかりの空間があり、コーヒーと緑茶と茶碗のセットが置かれてある。スイッチを入れると、ポットの中の水は湯になる。

浴室もトイレも極端にせまい。せまいというより、小さいという感覚である。
この数年間、落花さんと一緒にずいぶんあちこちのラブホテルを体験してきたが、これほどコンパクトに何もかもが凝縮されて設備された部屋は初めてだった。

ビジネスホテルのシングルルームよりもせまい。いつも使っている「幸和」の部屋の十分の一の広さしかない感じである。

(なるほど。これがショートタイム用の部屋か)

一組の男女が入室と同時に下半身だけ露出して、女は足をひろげ、男はそこへ挿入し、射精して終了。風呂へ入って出て行くだけの部屋。まさしくショートルーム。
私と落花さんはゆっくりと長い時間をかけて会話する。この会話が、即セックスである。二時間でも三時間でもとめどなくつづく。

だが、もちろん会話だけではない。

「それはぬいだほうがいいよ。埃がつくと黒は目立つよ」

と私は言った。彼女は黒いセーターを着ている。
恥ずかしがって、彼女は「いいえ」と言った。

「駄目だよ、ぬぎなさい。埃がつくと、あとで困るから」

かさねて私は言った。

服をぬぐ空間がない。彼女は浴室へ入り、そこでセーターをぬいだ。

私はバッグの中から黒い綿ロープを取り出し、彼女の両手首を背後にねじり上げる。
彼女の左右の手首を、黒いロープで一つにして縛りあげるときの快楽は無上のものである。彼女との会話同様、これも即セックスである。セックス行為以外の何物でもない。

彼女の指先から手首、ひじにかけての形と色と香りは、魔物のような透明感があり、妖しく美しい。美しいからセクシーである。

私は落花さんの手首と腕のおかげで、手首と腕フェチシストになってしまった。

私に「手首」という詩がある。
だれの手首でもない、これは落花さんの手首の美しさを書いた詩である。十行ほどの詩だから、ここに書き写してみる。

あなたの手首の
かすかに浮き上がっている筋の合い間に
美しい夜の湖が見える

湖には白い帆のヨットがゆれている
夜のなかで 水はなめらかに光り

帆柱にもたれて
あなたは笑っている

後ろ手、高手小手。手首が首筋に達するまで、ぐいぐい引き絞る。彼女は抵抗しない。
縛っている途中で、彼女はいつものように失神状態になり、身体の均衡を失ってベッドの上に倒れこんでしまう。

このときの彼女の姿態が、いかに強烈で挑発的なセックスアピールを示しているか、彼女は当然気がついていない。

私は彼女の身体にのしかかる。両手で彼女の顔をはさみ、支える。そして仰向かせると、唇を吸う。つよく吸う。びゅうびゅう吸う。口の中へ舌をさしこむ。彼女の舌に私の舌をからませ、なおも吸う。私は勃起する。

(続く)

関連リンク

緊美研.com

濡木痴夢男のおしゃべり芝居

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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