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The ABLIFE April 2012
「あぶらいふ」厳選連載! アブノーマルな性を生きるすべての人へ
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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女体を縛るための「縄」は、呼吸するものである。
縛る私の「手」も、「縄」に合わせて呼吸する。
女体緊縛という行為は、
ただ縄で女体をぐるぐる巻きにすればいいというものではなく、
「縄」も「女体」も生きている。
「呼吸」と「間」が生きていなければ、
真のマニアを納得させ得る緊縛とはならないのである。

早乙女宏美ともう一人の世話人の方がお膳立てをしてくれて、「濡木痴夢男の縄研究会」というのをやった。

文字どおり「縄」だけをメインにした、まことにいい雰囲気の、通俗的な猥雑感が皆無のマニアの集まりだった。

まず、モデルがよかった。いいはずで、私の好みを熟知している早乙女宏美が、念を入れて選んでくれたのだ。

私の好み、というより、縄マニア、緊縛マニアの好み、というべきであろう。

縄マニアの好みとは、人前ですいすい平気で服をぬがない女性のことである。人前で平気で裸になって、平気でカパカパ足をひろげて、そのマタの中に平気で異物を挿入させるような女性を縛って自由を奪ったところで、マニアにとっては、ピンとくるものがない。ピンとこない、ということは、つまり、コーフンも欲情もしない、ということである。

マニア以外の、フツーの常識世界の人々の目には、そういう大股ひろげた異物挿入もSMなのだろうが、マニアにとっては残念ながら「SM」とはいわない。というより、いいたくない。

でも、いま「SMプレイ」とか「SM写真」とか「SM映像」と称しているのは、ほとんどがその種の開股露出残酷アクロバット的忍耐陶酔演技シーンの羅列ばかりなので、世間一般のフツーの人たちは、そういう一見凄惨苛烈な女体虐待が「SM」だと思い込んでしまっている。

私などがいくら首をかしげて、
「それはちょっとちがうんじゃないかなあ」
とつぶやいたところで、通俗世界の常識人たちが、そういうふうに認識してしまっているのだから、仕方がない。なにごとも多数派に迎合したほうが都合がいいし、儲けは大きい(のだろう)。

たった3時間の「縄研究会」に280円で「牛焼肉丼」が食べられる時代に、2万円も払ってくれる人たちは、本当に「縄」だけがお好きな少数派であろう。

いってみれば同志ということである。同志の集まりに、通俗的な猥雑感などあるはずはない。



で、早乙女宏美が今回選んでくれたモデルも、もちろん同志である。名前はカナさんという。仮名である。

私は前もってカナさんに、私が縛っても陶酔したり、痛そうな顔をしたり、苦しそうな顔をしたり、くやしそうな顔をしたり、涙を流したり、そういう演技は一切無用、すべて地のまま、自然のままでいい、と言ったが、そんな注文は無駄であった。

そういう演技をしてくれ、とたのんでも、彼女にはそういう芝居はできない。そういう演技ができない女性だからこそ、「縄研究会」に出てもらう値打ちがあるのだ。

つまり、モデルモデルしたことろが、ひとつもない。ごくふつうの、静かで、ひかえめな若い女性で普段はお勤めしているということである。つつましやかで、上品な雰囲気がある。長身で、ほっそりしている。

考えてみると(考えてみなくても)私は数えきれないほどの女性を縛ってきているが、こういうタイプの清潔感ただよう女の子を縛るのは、はじめてといっていい。

いや、はじめてといってはウソになるかもしれない。はじめて、とはいいきれないが、十数人のマニア諸氏の前で、ギャラを目当てとしない女性を縛るのは非常にめずらしい。

で、私は会の始まる前に、風俗資料館の中原館長に、こうお願いした。

書くのが遅れてしまったが、こんどの会の私の後見人として、中原館長に来ていただいた。後見人というのは、念のために辞書を引いてみると、
「人のうしろだてとなって世話をする人」
とある。まさしく中原館長は私のうしろだてであった。

これまであまりにも多くの撮影現場で働いてきたために、緊縛に対する考え方とか、動きそのものが安易な類型に堕していることを私はひそかに恐れていた。

私の言動の類型というのは、たとえば現場に慣れているモデルが、すぐに陶酔の表情をつくったり、苦痛の演技を見せたりするのとやや似ている。

私が前もって中原館長にお願いしたのは、撮影現場における「縛り係」としての慣れきった惰性のような言動を今回私がしたら、そばで見ていてすぐに注意してくれ、ということである。



つまり、これまで私がモデルを縛るときには、かならず私以外の人間が構えるカメラがあった。私はつねにカメラを意識しながら女性を縛った。カメラのないところで女性を縛ることは、ほとんどなかったのだ。

ところが今回は、職業モデルではない、純然たるアマチュア女性を縛る、撮影を目的としない「縄研究会」である。

カメラは存在しないが、私の「縄」は、複数の人間の目の前にさらされる。カメラが用意されているとき、つまり撮影のためにモデルを縛るときの私の位置と、撮影とは無関係で、鑑賞者だけが存在するという場合の、私の位置との差、あるいは間(ま)の感覚が、私にはつかめなかったからである。

いまさらいうまでもないが、女体を縛るための「縄」は、呼吸するものである。
縛る私の「手」も、「縄」に合わせて呼吸する。

女体緊縛という行為は、ただ縄で女体をぐるぐる巻きにすればいいというものではなく、「縄」も「女体」も生きている。

「呼吸」と「間」が生きていなければ、真のマニアを納得させ得る緊縛とはならないのである。

結果を言ってしまえば、中原館長に何度か適切なアドバイスをうけながら(このアドバイスもまた、会のムードを楽しく盛り上げる絶妙な効果があった。ときには私の中原館長のトークショーみたいなおもしろさが加味されて、より深い会になったと自負している)、縄研究会は進行し、大成功であった。

数日後、モデルをしてくれたカナさんから、中原館長を通してメールをいただいた。これがまた、ありきたりの文章ではない、個性的な、私の心をとろけさせてくれる、じつにいい内容のメールなのだ。次回にはそのメールのことを紹介したい。カナさんのことばかり書いたが、この日の前半のモデルは早乙女宏美がやってくれた。早乙女への緊縛を、そばで見ていたカナさんの微妙な興奮の表情が、これまたじつに刺激的であった。

(続く)

『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション2「熱祷」(不二企画)


品番:KC-02
発売:2010年09月02日
収録時間:87分
販売元:不二企画

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※当欄で使用しているイメージ写真は本作のキャプチャ画像です

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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