THE ABLIFE December 2009
「あぶらいふ」厳選連載!
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
私は、いい年をして、「縛り」の世界に五十年もいて、
なんという愚かな男なのだろう。
彼女は、縛られることが恥ずかしいから失神してしまうのだ。
失神してしまえば、意識の中から、羞恥心は遠のく。
縛られるという恥ずかしさは、とても正気では耐えられない。
だから失神してしまう。
なんという愚かな男なのだろう。
彼女は、縛られることが恥ずかしいから失神してしまうのだ。
失神してしまえば、意識の中から、羞恥心は遠のく。
縛られるという恥ずかしさは、とても正気では耐えられない。
だから失神してしまう。
落花さんとは、ほとんど毎日、毎夜、電話でしゃべり合っている。
電話をかけてくるのは、たいてい彼女のほうからである。
彼女は一つのオフィスの経営をまかされている責任者なので、一日の時間のすべてを自分のために使えるという環境にない。
私のほうは一日二十四時間、すべて私のものだ。自分の意志のままに、自由に使える。
なので、落花さんのほうの時間が自由に使えるときだけ、彼女から私へ電話してくる。
彼女のオフィスへ、こちらからなるべく電話をかけないようにしている。彼女の仕事の邪魔になるからである。
きのうの夜、彼女からの電話は、長いものになった。
私がこんなことを言い出したからである。
「ねえ、あなたは、私が縛るとき、どうしてあんなふうに、いきなり失神してしまうの? あなたは私の縄に慣れるということはないのかね?」
これは以前から何度もくり返しててる質問であり、しかし彼女から明確な答が返ってきたことはない。
私はいつもふしぎに思い、彼女が答えられないのを知りつつ、ついまた聞いてしまうのだ。
私が彼女の左手首をつかんで背中へねじりあげ、つぎに右手首をつかんでねじりあげると、そのときすでに、彼女の体は力を失ってグニャグニャになってしまうのである。
せめて縄を、手首から胸にかけるときまでは、上半身をまっすぐにしていてもらいたい。そうでないと、第一、縛りにくくて仕方がないのだ。
このことは、三年前に、はじめて彼女とこういう「縄」の関係になったときからなのである。
だから、いまさらおたがいに口にすることではないのだが、私のほうが、つい言い出してしまうのだ。
私が質問しても、彼女は答えない。
答えられないことを承知していても、私はつい聞いてしまう。
きのうの夜の電話のときでも、おしゃべりが一時間を経過したころ、ついまた私は聞いてしまった。
彼女はいつものように、明るい色気のある笑い声で、巧妙に、その質問をはぐらかす。
こんな私と彼女の長電話は、しかし第三者の耳には、たあいのない「痴話」としか聞こえないだろう。
その「痴話」の時間を楽しんでいるうち、私は、ハッと気がついた。
いや、ハッとではなく、フッと気がついた。
ハッとでも、フッとでも大差ないが、とにかくそんな感じで気がついた。
ああ、そうか。そうだったのか。
そういうわけか。
そうにちがいない。
私は、いい年をして、「縛り」の世界に五十年もいて、なんという愚かな男なのだろう。
そうなのだ。彼女は、縛られることが恥ずかしいから失神してしまうのだ。
失神してしまえば、意識の中から、羞恥心は遠のく。
縛られるという恥ずかしさは、とても正気では耐えられない。
だから失神してしまう。
失神して、縛られているのは自分でも、自分ではないふりをしてしまう。
縛られているのは自分ではないのだから、どんな恥ずかしいことをされても、どんなに淫らな屈辱的なことをされても仕方がない……。
ああ、こんな簡単な彼女の心の中が、どうして私に読めなかったのだろう。
あるいは、読めていたにもかかわらず、わからないふりをして、
「ねえ、どうして縛る前から失神してしまうの? そんなに気持ちいいのかね?」
などとくり返し言って、無意識のうちに、私は「痴話」を楽しんでいたのかもしれない。
だとしたら、なんといういやらしい男なのだろう、私は。
そしてまた、私は考える。
彼女が失神状態になってしまうからこそ、私もまた、密室の中で彼女を縛り、彼女と二人きりでいるという羞恥に耐えられるのではないか。
私もまた、羞恥する人間なのだ。
私はやっといま、このことに気づいたのだ。ああ、なんというマヌケな話だ。
私は彼女の下半身を裸にする。
「ああ、ああ、きれいだ、なんてきれいなお尻なんだ!」
さらけだした彼女の尻をみて私は感嘆し、両手でなでたり、さすったりする。
がまんできなくなって、私もまた下半身を裸にしてしまう。
私は彼女の尻を左手でさすりながら、自慰行為を始める。
尻肉の合わせ目に、彼女の性器がつつましく存在する。手の指をもぐらせれば、すぐそこに触れられる。
だが私は、彼女の美しい尻を撫でながら、自慰行為にふける。
これが、無上の快楽なのだ。そして頂上をきわめ、果てるのだ。彼女は失神している。だから私は、こういう恥ずかしいが、最高の快楽を味わうことができるのだ。
(続く)
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