THE ABLIFE January 2010
「あぶらいふ」厳選連載!
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
ああ私は、なんというひどいことをするじじいなのだ、
と泣きたくなる。
若い美しい女の口の中に、
勃起不全の醜くしなびた男根を挿入するなんて、なんというあさましい、
恥知らずな男か、と思う。
だが、彼女はいやがらない。
と泣きたくなる。
若い美しい女の口の中に、
勃起不全の醜くしなびた男根を挿入するなんて、なんというあさましい、
恥知らずな男か、と思う。
だが、彼女はいやがらない。
落花さんは私にお尻をむけ、丸くなってベッドの上にねている。
尻は裸である。白い虫のようである。
弾力のある肉の丸い形は、艶を放っていて美しい。
あまりにも美しいために、エロティシズムの香りが弱くなっているような気さえする。
両腕は背中に、高手小手の形で縛りあげてある。
手首の位置を高く固定してあるので、さらけだしたウエストのくびれがよく見える。
細くセクシーにくびれたウエストから盛り上がっている尻の丸みが、じつにみずみずしくふっくらと柔らかく、美しいのだ。
「きれいだなあ。いつも同じことばかり言ってるけど、ほんとにきれいだなあ。きれいと言うより、ほかに言葉がないんだよなあ」
私は感嘆する。
ほんとに毎回、バカみたいにおなじことを言っている。
感嘆しながら、ウエストのくびれから尻の丸みを、何度もしつく両手で撫でまわす。
抱きしめて頬ずりしたり、なめたりする。
左右の尻肉のあいだに指をさしこみ、性器の端に触れる。
彼女は、ぴくっ、ぴくっと全身をふるわせて反応する。
縄をかけるとほとんど同時に失神状態になって横倒しに倒れるのだが、脳の半分はしっかり覚醒しているのだ。
乳房や、乳首や、尻や、股間をまさぐる私の指の動きに、ウウウと低いうめき声をあげるが、あとは無言である。会話はない。
私は彼女の腰に両手をかけ、虫のように丸くなっている彼女の体を、強引に私のほうに向きなおらせようとする。そして、力をこめて膝と膝のあいだをひらかせようとするのだ。
彼女の両手を縛り、裸の尻を撫でたりなめたりするだけではいけない、と私は思うのだ。それだけではいけない。
彼女の性器の中に、私の性器を入れなければいけない。
それが、こういうベッドのある密室へ二人だけでとじこもって、相手を裸にして縛り、無抵抗にした男の義務だと、私は思うのだ。
義務を果たさなければいけない、と思うのだ。
だから私は、彼女の膝に手をかけてひらかせ、上からのしかかって挿入しようとする。
だが、彼女は抵抗するのだ。
つよい力で、本気になって抵抗するのだ。
下半身ぜんぶに力をこめ、腰をねじって私の挿入行為を避けようとする。
それは、私のことを嫌っているからではない。
私を嫌っていないことは、はっきりわかる。
言わせていだければ、彼女は、私のことが好きで好きでたまらないのだ。
(ああ、言ってしまった。なんとまあ、ずうずうしい!)
わざと抵抗して、私のことを、じらしているわけではない(彼女はそういう下品なことをしない)。
要するに、自分の性器の中に、男の性器が侵入してくるという行為が、彼女には、つまり、恥ずかしいのだ。
だから子供のように頑強に抵抗するのだ。
彼女が拒否するのはそのことだけで、あとはなんでも私の言うとおりになる。
従順、という言葉は彼女にふさわしくないのだが、きわめて従順であり、やさしい。
キメこまかい心遣いで、敏感に私の欲望を察してくれ、そして応じてくれる。
たとえば私の性器を口の中にふくみ、心をこめて包んでくれる。私への献身が見られる。そのやさしさに私は感動し、ああ私は、なんというひどいことをするじじいなのだ、と泣きたくなる。
若い美しい女の口の中に、勃起不全の醜くしなびた男根を挿入するなんて、なんというあさましい、恥知らずな男か、と思う。
だが、彼女はいやがらない。
もう丸三年と三カ月、私は自分の性器を彼女の口の中に挿入し、なめさせている。
じつを言うと、私の性器そのものは、もう麻痺したようになっていて、どんなに彼女に一生けんめいなめてもらっても、直接的な快感はない。
もちろんまったく感じないわけではないけど、以前のような快感はない。
だが、八十歳を超えている醜怪な男が、その顔や姿よりも醜悪な性器を、若い美しい女性になめさせているという光景が、私の脳裏に、快楽と満足感を与えるのだ。
このとき私には、すこしばかりのSM感覚がある。
それは彼女が、容姿の美しさだけではなく、上品で、理知的な頭脳をもつ女性だからである。
私は、じつは、下品で、馬鹿で、醜い女が相手だと、欲情することができない。
どんなに若く美しい容姿をもっていても、頭の悪い下品な女の前からは逃げる。そんな女にべたべた抱きつかれても、嫌悪感を抱くだけである。私はヒューマニズムという精神に、きわめて乏しい人間である。
なんというぜいたくな男か、と思うときがある。私は金も力もない貧しい卑しい人間だが、女の好みに関しては、ひどくぜいたくなのだ。
私がこの文章の中の彼女を「落花さん」とさん付けで書く理由は、ただ一つ、彼女を尊敬しているからである。尊敬できない女を縛ったところで、快楽は感じられない。
(続く)
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