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THE ABLIFE April 2010
「あぶらいふ」厳選連載!
アブノーマルな性を生きるすべての人へ
写真=枷井克哉

縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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八十歳になって、こんなぜいたくな快楽を味わいながらも、
この上まだ私は、彼女の性器の中に私の男根を挿入しようとして、
あさましく、醜くもがいている。その心理は何か。
それはね、落花さん。私の場合、
それは単なる性的欲望ではないのですよ。
そんなふうに抵抗されても、私はあきらめずに、彼女の性器の中へ、自分の男根を挿入することを、何度か試みる。

抵抗されても、私は気持ちをとりなおし、勇気を出して彼女の下半身をひろげ、のしかかろうとする。抵抗されても、抵抗されても……。
(抵抗と言っても、彼女は私を嫌って太腿のつけねに力をこめているわけではない。彼女はただ恥ずかしいだけなのだ。羞恥の本能がこういう拒否の形になるのだ。それは私にもわかっている)
私の欲望も、じつはもう、ほとんど満足の状態になっている。
私はもう、十分にしあわせなのだ。

ラブホのこの和室へ入ると同時に、私は私の縄で思うぞんぶん彼女を後ろ手高手小手に縛りあげた。
そして私は、彼女の唇を吸いたいだけ吸い、しつこく舌を入れ、彼女の口のなかを私の舌でなめまわし、彼女の舌を私の口の中へ強引に吸い込む。

上半身に着ているものをたくしあげ、下着までまくりあげて、左の乳房を手で揉み、右の乳首を吸い、下半身につけているものを剥ぎ取る。
裸になった太腿の内側をなめ、下腹部にぴったり顔を押しつけてなめつづけ、このときは私のものも彼女の口の中へ入れる。

つまり、同時になめ合う。俗にいうところの69の体位のまま時間を過ごす。
彼女の左右の太腿の柔らかくへこんだところに目も鼻も口も密着させ、舌を長くのばして、下腹部の奥の深いところをなめるときは、ほとんど快楽の絶頂である。

私の鼻も口も、彼女の柔肉と柔肉のあいだにはさまれ、つぶされて、ほとんどチッ息状態である。
彼女もまた、私の男根を舌と唇を動かしてなめてくれる。そのなめ方は幼い。幼く、愛らしい。
八十歳になって、こんなぜいたくな快楽を味わいながらも、この上まだ私は、彼女の性器の中に私の男根を挿入しようとして、あさましく、醜くもがいている。その心理は何か。

それはね、落花さん。私の場合、それは単なる性的欲望ではないのですよ。
(もしかしたら、私にはもう男の性的な、つまり肉欲的な欲情は、なくなっているのかもしれない)
挿入という行為によって、自分がまだ生きているという実感を、確かめたいのですよ落花さん。
自分はまだ、雄(おす)としてこの世に存在しているのだということを、この行為によって自認し、納得したいのですよ。

いや、どうか笑わないでください。
これが男というものの、いや、雄の性(さが)というやつなのですよ。
八十歳を越えた、これが男の実感なのです。

本当は、いまさら挿入なんてしなくてもいいのです。
(いや、負け惜しみではなく)
ここまできて、わざわざ「合体」することに、なんの意義がありましょう。
欲望に関しては、私のほうは、もう十分に満足させていただいています。
ありがとう、ありがとう、ありがとう、と八十歳の男は、心の底から感謝し、礼を言っています。
(感謝しなければ私はバチがあたるだろう)
彼女が入れさせてくれなくても、私にはすこしの不安もない。
なんとか挿入しようとして、私がときどきしつこく、あさましく、あせったりして悶えるのは、あるいは、男の見栄、というやつかもしれない。
(八十歳になったって、入れようと思えば入れられるんだぞ)
という見栄、あるいは見得。

あなたのほうが根負けして、股間の力をすこしゆるめ、そのすきに乗じて私が挿入したことが、これまでに数回あった。
五回のうち、一回は「成功」している。
(挿入しても私はそのまま射精なんかしないので、落花さん、ご安心を)
私はいつでも膣外射精です。私はコンドームなどをつけるのは嫌いです。
(彼女は最初から私のこの言葉を信じてくれた。つまり、なかへは出さないという私の言葉に安心してくれた)
ああ、話が生臭くなってしまった。いやだな。
だけど、ここはやはり重要なところなので、書かないわけにはいかないのです。

話をすこし前に戻して言ってしまうけどね、落花さん、あなたのほうにも、「合体」したときのよろこび、満足感がないように私には思える。
羞恥する心があまりにも強いせいで「合体」のよろこびが感じられないのか、私にはわからない。
あるいは、「合体」そのものの行為に、嫌悪感とか、生理的な拒否感覚があるのだろうか。

「合体」行為に嫌悪感、拒否感があっても私はいいと思います。
なぜなら、その感覚があるからこそ、私たちの「SM」は、きわめて快楽的に成り立つのですから。「合体」なんかで得られる通俗的な摩擦快楽よりも、もっと大きな、平板な常識快楽をつきぬけた、至上の愉悦が、私たちにはあるのですから。

(続く)

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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