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THE ABLIFE May 2010
「あぶらいふ」厳選連載!
アブノーマルな性を生きるすべての人へ
写真=枷井克哉

縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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私の一本の縄には、至上にして無限の快楽がこめられている。
私の縄は、ただの縄ではないのだ。
そして、私の縄に、
心身を空(くう)にして、応えてくれる女性は、
彼女しかいないのだ。


一生けんめい「合体」して、腰を動かして、彼女の体内にもぐりこませている男根の先端の部分を摩擦したところで、もはや、さほどの快楽が得られるものではない。
それでも調子にのって摩擦を繰り返していると、彼女の体内にうっかり射精してしまうおそれがある。

私はコンドームを使わない。いつでも抜き身である。
ドバッ、ビュッというほどの激しさはもうないにしても、トロリ、タラリタラリ程度の勢いはまだ残っている。
(下品な形容だとは思うが、これは正確な、実情に即した表現である)
射精したところで、妊娠に至るほどの元気はもうないと思うが、万が一ということもある。
そこであわてて腰を浮かし、男根を抜く。彼女は、あ、という声を発する。

だが、彼女はいつもはっきりとした反応をみせない。どんな場合でも、低くひかえめにあえぐだけである。

反応しないところに、彼女の反応はある。

明確な反応をみせてくれなくても、私に不満はない。
私には彼女の気持ちがわかる(いや、ちがう。わかっているように思うだけかもしれない。女のほんとの気持ちなんて、男にはなかなかわからない)。
彼女の性格(あるいは性癖とよぶべきだろうか)の中に、男根嫌悪、もしくは憎悪があるのだろうか。

いや、ちがう。彼女はフェラ行為は拒否しない。私がおのれの股間を、いきなり彼女の顔面に接近させても、彼女はためらったりはしない。
ためらうどころか、きわめて素直に、ときには嬉々として(私にはそう思える)私をむかえてくれる。

正直に言うと、彼女が私のものをパクリと口にくわえてくれた瞬間、私はうれしい。非常にうれしい。
そういうことをしない雰囲気が、日常の彼女にはあるのだ。彼女の身辺には、いつも潔癖感が漂っている。
私の醜いものを、彼女があたたかく口の中で受けとめ、包みこんでくれるとき、私は、私に対する彼女のなみなみならぬ信頼感を感じる。
口腔内の熱くやわらかい粘膜と舌が、おずおずと私のものを包み、うごく。
その、おずおず感がまた、たまらなくいいのだ。
「おずおず」というのは、漢字では「怖ず怖ず」と書くのだ。こわごわ、おそるおそる、という意味がある。可愛らしい。

嫌悪とか憎悪とかは感じられないのに、なぜ彼女は、いわゆる「ノーマル」な性行為を拒否するのだろうか。
自分の性器を、男根に占領されるという形に、抵抗感があるのだろうか。

そうか。占領拒否。

もし、そういう抵抗感のようなものが彼女にあったら、あったで、私はいいと思う。
そういう抵抗感の存在を、私は否定しない。人の心のあり方に、否定も肯定もない。

私は、じつを言うと、そういう落花さんだからこそ、心をゆるし、安心してラブホへ誘い、縄を出していきなり縛り、唇をむさぼり、乳房をつかみ、乳首を揉み、しゃぶり、わきあがる欲情のままに、美しい弾力のある尻の丸みから、ウエストのくびれを、何度も何度もなでさするのだ。

彼女の尻の形の美しさは、いままでに繰り返して書いているが、まことに絶品なのである。
この尻の美しさを、どうか私が死ぬまで維持してもらいたい。私は熱望し、懇願する。彼女のたれ下がった尻なんか見たら、私は絶望のあまり、その場で泣きだすだろう。

あるいは、彼女は、自分の尻の形を守るために、あおむけになった体の上に男の重量を受け、性器を圧迫されることを拒否しているのだろうか。……まさかね。

私のほうにしても、女性器の中におのれのものを挿入し、ただわっさわっさと押したり引いたりする単純行為に、いまやそれほどの魅力を感じない。

後期高齢者になったからそういう肉体運動がわずらわしくなったというわけではなく、いま思うと、十代のときにも、二十代のときにも、三十代のときでも、四十代のときも、私はそのような性器結合運動(つまり多数派のセックス行為)に、さほど熱い欲望をもたなかった。

(ああ、そうか。だから私は変態なのだ)

落花さんよ。
どうか、私が死ぬまで、あなたは、いまのままのあなたでいてもらいたい。
自分の性器の内部が、男のものによって占拠されることを拒む女性でいてもらいたい。
そういう落花さんであればこそ、私たちの密室での行為は、いつも濃密で新鮮なのだ。
きめこまやかな快楽で持続するのだ。

挿入して、動いて、射精する単純反復行為とちがって、飽きるということがないのだ。

私の一本の縄には、至上にして無限の快楽がこめられている。
私の縄は、ただの縄ではないのだ。
そして、私の縄に、心身を空(くう)にして、応えてくれる女性は、彼女しかいないのだ。

こういう文章を書いていると、彼女の姿が、脳裏に浮かびあがり、私は勃起してくる。勃起したままのものを左手に握りながら、私はいま、こうして書いている。
(続く)

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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