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縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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私は自分の縛り方のテクニックを自慢しようと思って
こんなことを書いているわけではない。
こんなこと自慢にもなんにもならない。
ただ変態なだけであります。
変態はあまり自慢できない。
自慢なんかすると、いっそう変態に思われます。

前回からのつづきをいきなり書きます。
「あらすじ」みたいなものは省略して、すぐに本題に入ってしまうので、ここまでに至る私の「告白」に、とくに興味のある方は、前回の私の文章をもう一度読みかえしてください。

両手を縛って女の自由を奪っておいて、ゆっくりと足をひろげさせて自分の性器を挿入しようと思いながら縄をかける男よりも、縛ることそのものに挿入することと同じ情熱を持つ男との違いが、ここにあります。

......と、こういう説明をしても、やはりこれは、なかなか他人様には理解してもらえない情況だろうと思います。
で、もうすこしわかりやすく書きます。
ここまで書いてしまったのだから、なんとかわかってもらわねばならない。

私は、縛るだけでいいのです。満足するのです。
マニア以外の男は、縛っただけでは満足しません。縛ってから、かならず挿入するのです。挿入したいから縛るのです。
女性器の中へ、自分の勃起した性器を挿入し、摩擦したいから縛るのです。そして、摩擦のあとは、射精ということになる。

そういう挿入願望の男が「縄師」と自分で名乗って(うわさによればそういう人たちは自分の名刺に「縄師」という肩書きまで入れているという。女体を縛ることに「負」の意識しかもたない私にはとても考えられない)操作する縄には、私たちが犇(ひし)と抱くSMの「魂」というものがこもらないのは、当然のことなのです。

そういう「縄師」さんたちが扱う縄は、物質としての縄だけの役目しか果たさないのです。

縄に魂がこもらなくても、女体の自由を奪う目的さえとげれば、撮影の現場では「縄師」としての一応の役目は果たせます。
「縄師」が役目を終えたあとには、AV系のSM映像の場合は、かならず「サオ師」が登場して、縛られた女を犯します(蛇足を加えれは「サオ師」のサオというのは竿、つまりペニスのこと。いまはあまり言いませんが、以前は男優のことをそう呼んでいました)。

商業SMの場合は、もちろんこれでいいのです。あるいは、これでなければいけないのです。



私の場合は、縛ってから彼女の足をひろげて犯そうという意志も欲望もない。いいかえれば、女の肉体に巻きつける縄そのものに、私の欲情がこめられているのです。
ですから、私に縛られた女性たちが「感じる」「気持ちいい」というのは、当然といえば当然なのです。私の欲情のすべてを、肌で受けとめているのですから。

縛られる当人だけでなく、緊縛行為の「心」そして「真髄」がわかる人(つまりマニア)には、欲情に凝り固まっている私の縄に、そういう働きがあることを、客観的に見ていてよくわかる、と言います。

前回にも書いたけど、私は自分の縛り方のテクニックを自慢しようと思ってこんなことを書いているわけではない。
こんなこと自慢にもなんにもならない。ただ変態なだけであります。変態はあまり自慢できない。自慢なんかすると、いっそう変態に思われます。
変態は生活していく上において、マイナスの部分が多い。くりかえすが「負」になるばかりです。
私のやること、なすことが、常識社会の清く正しく美しい人たちの忌避に触れ、軽蔑され、嫌悪され、そしていかに弾圧されてきたか、先に発行された六冊の河出文庫の中に、私はこまかく書いておいたので、まだお読みになっていない方は、ぜひお目通しください。

いまは世の中もすこし変わってきて、あれほど嫌悪され、指弾をうけた変態性欲も、以前ほど忌避されることなく、関西のお笑い芸人たちのギャグに使われたりしているが、底流にはやはり根強い侮蔑感がある。
私などが一般常識人ばかりの集まりに行くと、中に私のことを知っている人がいて、その人の口からひそかに私の仕事を誇大宣伝され、すると好奇と侮蔑の目で見られて、後ろ指をさされることがあります。
そういうときは、いまでも非常に不快な気持ちになります。この不快感にはいまだに慣れるということがない。
でも、耐えています。実際変態なのだから仕方がないと思っています。変態性欲をテーマにした仕事を、もう六十数年間もつづけてきたのだから隠し通せるはずもない。



話が横道にそれてしまったので、元へもどさなければならない。

前回紹介した「週刊現代」の袋綴じページ「女性器(ヴァギナ)ヴァギナの最新研究」。これはほんとに不気味だった。中に「女性器の内部を潜入撮」という電子顕微鏡で見たカラーの拡大写真が数枚あって、色といい形状といい、不潔感きわまりないものだった。
この写真を見てエロティシズムを感じる人間こそ、アブノーマルではないかと私は思ったのだが(編集部としてはこういう極端露骨な女性器の写真で販売成績を上げようと思ったのでしょうけど)。

昨夜、私は、私が所属しいる劇団(前回書いたグループとはまた違う集団)の集まりに出席していたのだが、二十人ほどの中で女性が十四、五名、この女性たちのすべてが、こういう不潔で不気味な内臓を、下腹部の表面から数センチ奥の位置に備えているのかと思うと慄然とした。
それなのに私は、なんとか彼女たちのご機嫌をとり、笑わせようとして、声を出してつぎの公演の台本を読みながら、合間にエロティックなギャグを飛ばしていたのである。
そして私の即興のギャグに反応し、声をあげて笑う彼女たちを見て、満足していたのである(彼女たちは私が濡木痴夢男であることをたぶん知らない)。

私は性器を取り除いた女性の肉体は好きなのである。女好きの助平じじいと呼ばれるくらいに好きなのである。

考えてみれば、女性器内部のおどろおどろしい拡大写真と同じように、私自身の心の中も不気味で不潔な存在である。

(続く)

『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション2「熱祷」(不二企画)


品番:KC-02
発売:2010年09月02日
収録時間:87分
販売元:不二企画

メーカーサイトで作品詳細を確認・購入する>>>こちら

※当欄で使用しているイメージ写真は本作のキャプチャ画像です

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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