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The ABLIFE August 2012
アブノーマルな性を生きるすべての人へ
縄を通して人を知り、快楽を与えることで喜びを得る緊縛人生。その遊行と思索の記録がゆるやかに伝える、人の性の奥深さと持つべき畏怖。男と女の様々な相を見続けてきた証人が、最期に語ろうとする「猥褻」の妙とは――
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ここで挿入しなかったら、この女性に、
(この人、よっぽどの変態なんだわ)
と思われるかもしれない。
いや、思われるにきまってる。
知り合った最初からそう思われるのは、
いくら私でもあまり喜ばしいことではない。

ある集まりに呼ばれて、行くとする。

そこには女性も四、五人きていて、中に縄が似合いそうな人もいる。
ああこの女性を縄で縛ったら、どんなにエロティックな、いい反応を見せてくれるだろう、と思いながら観察している。
そういう邪悪(?)な下心を抱きながら、その女性を眺めている。

女性はだれでも敏感なので、こんな私の注目に、すぐに気づいてくれる。
声をかけ、つぎに二人だけで会う。
ホテルへ誘うと、たいていOKする。

こんな「モテモテ男」ぶりを書くのはずうずうしいと思うのだが、べつに自慢したいわけではなく、事実だから仕方がないのです(考えてみると、OKしそうな女性ばかり選んで誘うのだから。拒絶されないのはあたりまえなのだ)。

で、ベッドのある密室へ入り、彼女を縄で縛る。
たいていは、スリップなどの下着だけにして後ろ手にすいすい縛る。
思ったとおりの反応をする女性もいれば、そうでない女性もいる。

下着一枚だけの肌もあらわな女性を縛り、体のあちこちに触れても、私はフツーの男たちのように、カーッと欲情することはない。
相手がどんなに挑発的な、エロティックな姿態を見せてくれようとも、私はどこかでさめている。

さめているくせに、口先だけは、わあ、いいなあ、きれいだなあ、もうコーフンしてたまらない、みたいなことを言ったりする。
そういうことを言わないと、場がもたない。私はフェミニストなので、人一倍そういうセリフを口走る傾向にある。
そういうセリフを連発するのは、相手に対するエチケットであり、思いやりである。

が、その先で、ハタと困惑する。
自分はつぎに、この女の股間に、おのれの性器を挿入しなければならない、という世間の意識にとらわれてしまう。
だけど、そういうことを、私はあまりしたくないのです。



ウソだろう、したいにきまってる、かっこつけるな、などとお思いの方は、どうか前回の、前々回の、前々々回の、この「快楽遺書」を読み返してください。

読み返してくれましたか。

そうなんです。書いてあることは、本当なのです。
私はあの不気味な、グロテスクな、汚らしい、不潔な女性器の中に、自分のたいせつな性器を触れさせたくないのです。挿入したくないのです。

そういう世間一般の、常識的な、通俗的な、フツーのことをやって射精するより、後ろ手に縛られている女性の、その縄のかかっている可憐な手首をみつめて、オナニーをして、そして射精したほうが、数倍も上等の快楽に浸れるのです。妊娠させる心配もないし......。

けれども、ここからが複雑ビミョウなところで、表現するのがちょっとむずかしくなる。

こんなラブホテルにまで連れ込んで、女性をこんな格好にさせたからには、挿入しなければいけないのだ、という義務感、あるいは使命感みたいなものに、私はどうしてもとらわれてしまうのです。

相手は、男性器挿入を待っているのではないか、あるいは期待しているのではないか、という思いにとらわれると、一種の強迫観念まで湧いてくるのです。

ここで挿入しなかったら、この女性に、
(この人、よっぽどの変態なんだわ)
と思われるかもしれない。
いや、思われるにきまってる。

知り合った最初からそう思われるのは、いくら私でもあまり喜ばしいことではない。

つまりこれは、虚栄心というやつか。
それとも自尊心か。
いやいや単なるコンプレックスか。

そこで、挿入したくもないのに、挿入することがあります。

立たないわけではない。その気になれば、ちゃんと勃起します。いつでも、どんなところでも勃起します。
官能小説にあるような、びんびん猛り狂うような、バカみたいな勃起状態ではありませんけど、まあ、フツーに立ちます。

欲望の対象として女性器が絶対ではないので、いささか遅漏かもしれませんが、フツーに射精します。女性のほうも、まあ、フツーの反応をしてくれます。

妊娠させてしまうと、あとが面倒なので、いざというとき私は膣外射精をします。この瞬間の動作は的確で、かなり機敏です。コンドームはあまり好きではありません。



まあ、こんななりゆきで一件落着となり、やがてこの女性は、私の関係しているグループ(つまり当時の緊美研です)のモデルになってくれます。

そうでした。私が女性に声をかけ、ラブホへ誘うのは、結局は新しいモデル発掘のためなのでした。それを書くのを忘れていました。

だけど、最初に誘うときに、私は相手にモデルのことなんか全然言いません。
彼女にしてみても、この人はあたしのことを気に入ってくれたからラブホへ誘ったんだわ、くらいにしか思っていないはずです。

こういうふうにして知り合った女性は、数回モデルとしてお付き合いしたあと、いつのまにか私から離れていきます。

ノーマルなセックスがなかったから離れやすかったのか、私という男に魅力を感じなかったのか、それはわかりません。おそらくその両方でしょう。
去っていった女性に対して私は全く未練を感じない一種の欠陥人間なので、これまでモンダイがおこったことは一度もありません。

お断わりしておきますが、過去の緊美研のモデル女性たちが、すべて私とこういう関係にあったというわけではありません。誤解されると困ります。中にはこういういきさつの女性もいた、というお話です。

つまり私が今回書きたかったのは、好きな女性ができてラブホへ誘っても、私の場合、ノーマルな性行為をなるべく避けようとする男だということを説明したかったのです。

私のような緊縛マニアが、女体に対して抱く好色性というものは、こんな形が多いのではないか、そのへんのことを言いたかったのですが、納得していただけましたか?

え、納得できないって?

女がマタをひろげて待っているのに、そこへは手を触れずに、背中にかくれている女の手首を眺めてこっそりオナニーするなんて、そんな男がこの世にいるはずはないって?

ウーン、そうかァ......。

でも、わかってもらえなくても、これからもしつこく書いていきます。

(続く)

『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション2「熱祷」(不二企画)


品番:KC-02
発売:2010年09月02日
収録時間:87分
販売元:不二企画

メーカーサイトで作品詳細を確認・購入する>>>こちら

※当欄で使用しているイメージ写真は本作のキャプチャ画像です

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濡木痴夢男 1930年、東京都生まれ。SM雑誌『裏窓』『サスペンス・マガジン』の編集長を務めるかたわら、『奇譚クラブ』他三十数誌に小説を発表。1985年に「緊縛美研究会」を発足し、ビデオ製作や『日本緊縛写真史』(自由国民社)の監修にあたる。著書多数。近著に『緊縛☆命あるかぎり』(河出文庫)。
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