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“本”と私たちの新しい関係を巡って
「マイノリティーのマイノリティーによるマイノリティーのため」の「アニメ・特撮TOY資料系同人誌」と銘打たれた同人誌即売会「資料性博覧会」。創作・二次創作とは違い、ある特定の視点から作品にまつわる情報を収集し羅列、考察したデータベース本が資料系同人誌と呼ばれています。第3回参加申し込みの締切りが今月29日(日)と迫るこの即売会の主催、まんだらけ・國澤氏へのインタビュー記事を掲載いたします。
2009年11月より中野ブロードウェイで開催されている「資料性博覧会」。「資料系」と呼ばれる、収集、調査、考察、批評に特化した同人誌。数ある同人誌即売会の中でもこの一風変わった即売会を主催しているまんだらけ國澤さんに、資料系同人誌に対する想いや今後の展望について伺ってみた。
■なぜ「資料性博覧会」なのか
――資料系同人誌即売会を開催するにあたっての、きっかけがあれば教えてください。
國澤:コミケにはものすごい数のサークルが参加しているんですが、割とコミケ全体で見ても資料系同人誌というジャンルはとても少なくて、おそらく100もないと思うんですよ。僕が資料系同人誌に興味を持ったのは2008年頃だったんですが、その頃、『仮面ライダー電王』が女性向けの同人誌を中心にすごく盛り上がっていて、でも逆に研究本のスペースは縮小されてしまったんです。それまでずっと仮面ライダーで活動を続けていたサークルさんでも、新刊が出来ていたのに落ちてしまった、というサークルさんが増えていて。コミケ三日間を通しても数の少ないジャンルですし、場所さえ確保できれば自分でその受け皿を作れるんじゃないか、って思ったのが始まりですね。
――電王がきっかけ!
國澤:実感として研究本が減っているな、と思ってはいたんですが、いつ頃かと言えば電王の頃ですね。発表の場を失うとモチベーションが下がってしまうので資料系オンリーのイベントがあれば、そこに合わせて出してくれるかな、と期待して。
最初は、やるって言ってもどこの誰がやるのかもわからないイベントにサークルさんが出てくれるのか、って不安があったんです。そこで、主催者側でパンフレットをきちんと作って、遊びではない、考えてやってるんだということをアピールできればいいな、と考えて。
――パンフレット、すごく力が入ってますよね。
國澤:第1回のパンフレットにはアニメ・特撮ライターの中島紳介さん、 第2回では池田憲章さんにインタビューさせていただいています。 お二人とも資料系同人誌の源流とも言える『怪獣倶楽部』に参加されていた方々です。
ざっくりとした説明になりますが、昔、大伴昌司さんという方が『SFマガジン』の「トータルスコープ」という世界中の特撮作品を紹介する連載の中で、国産特撮作品の状況を伝えていたんです。 日本中の特撮ファンたちは、どこから情報を仕入れていいかわからない中でみんな『SFマガジン』を読んでいたらしいんですよ。他に何もなかったから。その大伴昌司さんが1973年に亡くなってしまうと、特撮ファンたちはどこで情報を仕入れればいいかわからなくなった。俺達の欲しい情報ってもうないじゃん、って。そうなった時に、じゃあ明日からは俺たちが、って立ち上がったのが『怪獣倶楽部』の面々だったんですね。その時みんな高校生くらいかな。1955〜1958年生まれが多いんですね。それが1975年に『怪獣倶楽部』として出る。1955〜1958年生まれの人たちは、第一次怪獣ブーム〜変身ブーム、小学生中学生で体験して、ある程度年齢を重ねても卒業しなかった世代。
――アニメ・特撮雑誌、ホビー誌含めて、まだ全く存在しない頃ですね。
國澤:自分たちのほしい情報がない、なら作ればいいじゃないか、っていうDIYの精神にやられて。そこから『宇宙船』や『アニメージュ』であるとか、同人誌で書いていた人たちがそのまま商業誌のほうへ即戦力として使われていくようになった。ざっくりですけど、その流れがあって今の特撮アニメ市場がある。今の市場の始まりが同人誌だった、ってのが僕の中ではとても大きい。じゃあ今それをやってる人たちはいないのか、って思って探したら資料系同人誌というジャンルに突き当たった。この人達を絶えさせることによって、特撮なりアニメなりを論じていく芽を摘んじゃうことになるんじゃないだろうか、と。だから、ジャンルとして評価してあげたいな、という気持ちがあったんですよ。
――やはり特撮に特別な思い入れがあるんですか?
國澤:僕はもともと大阪で、大阪芸大に通っていたんですけど、ちょうどエヴァンゲリオンがやってた時期なのに僕はアニメや特撮にはほとんど興味がなくて。本当に仕事で覚えていった感じですね。僕はこの会社にはいって丸八年になるんですが、ある時ムックの担当になったんです。ムックを調べていくとお客さんからあれのムックはないかこれのムックはないか、って訊かれて、じゃあ仕事にも役に立つからすべてをリスト化しよう、と。日本で制作されたアニメをすべてリスト化して、そこにどんなムックが出ているのか、というデータを追加していったら、ほとんど出ていないんです。でも、もっと調べていくと、商業誌では出ていないけれども、同人誌なら出ている。出ていない理由はいろいろあると思いますが、商業が出せないものに対するカウンターとしての同人誌というものを絶やしてはいけないと思う。それに商業誌だったらみんなが望む近似値になってしまうんだと思うんですけれども、メジャーなものを取り扱っても同人誌なら全く違った視線を提供できる。
――では本当に仕事をしていく上でアニメや特撮というものに触れるようになったんですか。
國澤:仕事なので、この時代にはこんな作品があって、というのを一通り覚えていくんですがその過程で。
作品よりも本のほうに興味があるということも多々あります。たぶんアーカイブとかデータベースが好きなんだと思うんですよ。入社した時は、家の本棚にはレアな本とか並べていたんですが、いつの間にか本棚にはコピー紙だけになっていたんですよ。本のみ収録のコピー文とか。これは単行本の未収録である、ってことを分かっていないと全く活きないデータなんですけど、それで満足なんですよ。
――データの未収録が許せないと?
國澤:それはあります。たとえば今出ている講談社の手塚治虫漫画文庫ですと、文庫サイズで完全版です、と言っているんですが『ミッドナイト』の未収録が11話分あるじゃないかよ、って(笑)。確か、講談社全集には入ってなかった話が全部で14話あって、秋田文庫版で3話足されて入った話だけど、講談社はその3話は作っていないから初収録と言っていて。で、さらに未収録が11話ある。作品読むよりそういう情報に充たされてしまうんです。
――同人誌即売会って、『けいおん!』が好きな人が主催するからけいおんオンリーだし、東方が好きな人が主催するから東方オンリーなんですけど、資料性博覧会も全く同じで、本当に資料が好きな人が主催する資料性博覧会だったんですね。
國澤:言われて初めて思ったんですが、そうだったんですね(笑)。個別の作品に思い入れってあまりないんですよ。ひとつの流れとして見た時に、たとえば漫画史の中で「なぜここでこんな現象が起きているのか」とか、おもちゃであれば「ここを境にこういう合体をするようになるのか」、アニメであれば「ここから影の付け方がかわっている!」とか。ひとつひとつの興味よりはすべてを体系化してみた時に琴線に触れるものが好きなんです。
海外のサイトで、グラフをいかに可視化するか、っていうサイトがあるんですよ。僕はたぶん、そういうのが一番好きなんですよ(笑)。
■実際に、イベントに望んで
――実際にイベントを開催してみてどうですか?
國澤:1回目は本当に、お客さんがくるのかわからないし……正直、僕は同人誌というものをほとんど知らなくて、ネット上で同人誌即売会の開き方とか見て開催したくらいなんです。逆に同人誌の知識があったらプレッシャーで出来なかったと思うんですよね。1回目、参加してくれたのが1/49計画さんとかネオユートピアさんとか、ずっと活動を続けている方々に参加していただけて。12話会さんなんかはウルトラセブンの12話に関して彼らを超える人はいませんし、ネオユートピアさんは商業本の仕事もしているほどクオリティが高い方々で、そういう方々に参加していただけたのは本当にありがたいと思いました。それがあって、どんな奴がやってるのかわからないイベントに出たくない、という障壁を取り払えたかな、と安心しています。サークルさんの方にネガティブな意味で「あんなイベントに出た」ってレッテルを貼られてしまうと困るので、どうやって信用を保てるような充実したイベントにできるだろうか、というのはとても悩みました。運営者側の考えを前に出さないと付いてきてもらえない、ましてや僕は同人誌の世界で名前のある人間というわけでもない、何を打ち出せばいいのだろうか、というのはすごく考えましたね。それが成功しているかどうかはわかりませんが、気持ちは伝えられたのじゃないかな、と思っています。
――反響はありましたか?
國澤:1回目はとにかく、狭い、暗い(笑)。一般参加者の方ではおもしろがってくれる方もいらっしゃったんですが、サークルさんとしてはこんな狭い場所に押し込めやがって、みたいな(笑)。本当に酷かったし、申し訳なかった。なるべく場所での優位性はフラットにしなければいけないな、と思って改善を試みたのが2回目です。
ここは、うまく言えないんですが中野ブロードウェイでやることを重視したい気持ちがあるんです。ここに集まる人に認知して貰いたいな、と。オタクの街というと秋葉原とかいろいろあると思うんですが……このイベントっていちばん中野らしいと思うんですよ(笑)。
■今後の展望
――ちなみにアニメ・漫画・TOYっていうジャンルにこだわりはあったりするんですか?
國澤:スペースの問題で絞らなければいけない、という物理的な問題と、会社に話を通す上でまんだらけの取り扱ってる商品と繋がっているよ、という言い訳をしなければいけない(笑)。それに、なによりも、なんでもありにしちゃうと作り手さんに対して失礼じゃないかと。僕が作り手の気持ちと共感できるものでないと失礼だと思ったんですよ。ミリタリーのことをよく知らないのにミリタリーもOKですよ、なんて気軽に言えない。漫画・特撮・ホビーであればそれなりの知識を持っている自負はあるので、サークルさんへのケアもできるという自信も若干あります。
――今後、國澤さんがミリタリーに見識を持てればジャンルが増える可能性も?
國澤:本当に一番大きな理由は場所なんですよ。場所さえ許せばやってみたいんです。近い方向性を好んでくれる方がいれば、どこかのスキマイベントとしてとか、いろんな方法でやってみたいとも思います。やっぱり、どんなジャンルでも資料系の人っていますし、他ジャンルの資料を重ねることで見えるものも絶対にあるはずなので。まだまだ手探りですが、模索していきたいですね。
――間もなく開催される、第三回のお話などがあれば。
國澤:パンフレットの記事のほうはアニメ資料系の歴史ということで、コレクターさんや作画マニアの方が作られた原画集とかアニメーター自身が作られた個人誌、アニメスタッフによるスタッフ本、手元にあるデータベースを固めて、それぞれの時代ごとの傾向などを見ていこうかと思っています。
――――知り合いが、資料性博覧会に出てみたいと言うので以前のレポートを見てもらったんですが「こんなマニアックな面々の中に、自分みたいな半端者が混じるわけにはいかない」と言われたのですが(笑)。
國澤:いや、そんなことありませんよ。本当に、ぜひ参加してください。同人誌を作ったことないけれどもコレクションを見せてみたい、という方がたくさん来るんじゃないかと思っていたんですけれども、意外とそんなことなくて……。本当にもう直接メールを送って参加してくださいと言いたいくらいですよ。本当に、何でもいいです。ぜひぜひ、お待ちしております。
インタビュー・文=四日市
【注釈】
『怪獣倶楽部』:大伴昌司の手掛けた仕事の中でも怪獣というジャンルを確立させたいと考えた竹内博(酒井敏夫名義で執筆)が主宰したファンダム。ちゃんと評論が書ける人物・ものを書く視点が定まっている人物を選別し、入会制限が設けられていた。主なメンバーは井口健二、池田憲章、岩井田雅行、開田裕治、金田益実、徳木吉春、富沢雅彦、中島紳介、中谷達也(氷川竜介)、西脇博光、原口智生、聖咲奇、平田実、安井尚志、米谷佳晃など(以上、敬称略・50音順)。円谷プロの応接室を利用したサロン型の活動の他、1975年から1976年にかけ5冊の会誌と1冊の別冊を刊行した。怪獣エリートのドリームチーム。構成するメンバーの出生年は最年少である原口智生の1960年の他は、1955年〜1958年に集中している。
関連リンク
「資料性博覧会」公式サイト
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