Special issue for Golden Week in 2010.
2010ゴールデンウィーク特別企画/
WEBスナイパー総力特集!
WEBスナイパー総力特集!
東方二次創作同人誌カテゴリ別紹介〜シリアス・恋愛・イラスト集
シューティングゲーム作品である「東方Project」ですが、ゲームはちょっと苦手で……という人でも気軽に手にとれるのが二次創作同人誌。様々な同人作家の二次創作により東方の世界観は現在も拡大を続けながら、その一方で定型化されつつあります。そんな同人誌作品をいくつかのカテゴリに分けて、紡さんと四日市さんにご紹介いただきます。本日はシリアス・恋愛・イラスト集です。
「東方Project」は同人サークル「上海アリス幻樂団」様の作品です。
東方Projectの基本は巫女や魔法使いや妖怪が暢気に弾幕ごっこをするというものだが、一方でその背景設定には死や離別といった重いテーマが織り込まれている。
妖々夢では幽々子=西行の娘の死があり、永夜抄では死から解放された蓬莱人の姿が描かれる。花映塚では閻魔によって罪を突きつけられ、風神録では守矢一家が信仰の薄れた世界に別れを告げる。東方の二次創作においても、そのような背景世界の重いテーマを主軸にしたシリアスな作品は数多く存在する。
他のジャンルと比較して中〜長編作品が多いことが特徴の一つ。幻想郷の深い一面が見えてくるだろう。
□発行誌名=『溶ける砂』
□サークル名=武者プルーン
□作者=兎沢
武者プルーンの作品全般に言えることではあるが、本の行間から漂う「間」が素晴らしい。
この本もそんな一冊。静かな筆致で描かれる幻想郷の風景とキャラクターが自然に融和している。
台詞の端々や背景の描き込みから兎沢氏の幻想郷感が伝わってくるようだ。
□発行誌名=『Daisy,Daylight Daisy.』
□サークル名=ビタミンごはん
□作者=はせがわけいた
独特なアプローチによって紡がれる、幽香と阿求、とある老婦の物語。死による離別だけではない喪失が描かれている。阿求の涙のコマは深く心に響く。はせがわ氏の描くキャラクターは表情で心情を語る。
□発行誌名=『永遠のあとに』
□サークル名=こげコロッケ
□作者=正木
蓬莱人を巡る「不死」を描いた作品は数あれど、この作品はそこから先に一歩踏み込み、妹紅が「死を得る」ことを描いている。妹紅にとっての救済の物語だ。死を得るまでの過程も、妹紅が、そして輝夜が幻想郷の住人との関わりを持ったからこそ成し得たのだと示されており、救済の物語であると同時に、不死という停滞から死という変化に至るまでの物語とも読み取れる。けねもこ(慧音×妹紅)、かぐもこ(輝夜×妹紅)で知られる正木氏だからこそ描くことができた珠玉の一冊。(以上、担当=紡)
■恋愛 〜恋色幻想物語〜
古より、色恋沙汰はマンガの華……「東方Project」の二次創作文化圏にあってもその文化は色濃く受け継がれている。「東方Project」の本編において恋愛模様はまったく描かれず、個人は屹立とし、超然とすら見える。
そのスキマに落ちている、設定やセリフから想像されるキャラクター間の関係性が結ばれる瞬間というのは、物語におけるカタルシスの典型と言っていいだろう。
東方の世界観には想像力を刺激し、思考させずにはいられない無数の設定が散りばめられている。その糸を手繰り寄せ、繋ぎ合わせる時、そこに友情や、友情以上恋愛未満や、恋愛とも言える関係が生まれるのは必然ではないだろうか?
「東方Project」の登場キャラクターはすでに100を超えており、日夜、多種多様な恋模様が描かれている。代表的なカップリング、などと言い切ってしまうと大変に恐ろしいのだが東方二次創作界隈において、ある程度の支持を集めているカップリングには「霊夢×魔理沙」といった掛け算表記のほかに「マリアリが俺のジャスティス」などの己が信条を背中に背負う言霊が用いられる。たぶん。そんな気がする。これはニコニコ動画やpixivのタグとしても用いられるため覚えておいて損はない。以下に、いくつか例示するが私の趣味なので異論は認める。
・マリアリが俺のジャスティス
・僕の見つけた真実はレイマリ
・生涯パチュマリ一筋
・世界美咲劇場
・勇パルは俺のジェラシー
・アリス総受けは世界平和
なお、便宜上「恋愛」と分類したが「キャラクター間の関係を描いている」という意味であって、それが恋愛かどうかはあなた自身でもって判断してほしい。病気が悪化したらぜんぶ恋愛に見えるから。東方の同人界隈においてはそこで描かれているものが仮に恋愛未満や友情であったとしても掛け算表記されがちであることは記しておこう。それがあなたの脳内でどのように解釈され、どのようにニヤニヤし、何kmの長い床をゴロゴロし続けるのかは、すべてが自由だ。しかし、医者から末期であると診断されてしまっても総統閣下の後半の言葉を忘れずにいてほしい。戦争は、腹が減るだけです。
□発行誌名=『幽アリプッシュ自分用』
□サークル名=シャこ
□作者=チャりん
「東方Project」本編設定のスキマを卓越した想像力とシナリオ構成で繋ぎ、抜群のテンション・コントロールで物語を牽引するサークル「シャこ」の第一作。タイトルの通り、幽アリは七色の花畑とも言われ賛美されるカップリング、風見幽香とアリス・マーガトロイドのカップリングをプッシュするに十分な威力を誇る。18禁ではないがアダルトですよ。
性癖が噛み合わない二人の間に生まれる不安と後悔。でも大丈夫、だって二人は幽アリだから。
柔らかいタッチで描かれる艶と崩しの緩急に、ときめきの要たる「ドキン★」と「トクン……」が渦巻いている。リバるタイミングがたまらんな!!
ニヤニヤが止まらないためこの本を読んでいるところだけは絶対に見られたくない。舌を噛む。
□発行誌名=『博麗神社恋物語』
□サークル名=8bit canvas
□作者=8bit
「好きって言ったら、信じてくれる?」
博麗霊夢と霧雨魔理沙の本当にあった恋物語。幻想郷の要である博麗の巫女に課せられた世界の重みと、二人の選んだ記憶の形。
間違いなく悲恋なのだがデフォルメの効いたかわいい絵柄が二人の顛末に切なくも少し不思議な読後感を与えてくれる。
友人に読ませたところ「ビタースウィートだね」と評されたが、筆者にはややビターが強すぎて何度読んでも泣いてしまうためこの本を読んでいるところだけは絶対に見られたくない。舌を噛む。
余談だが8bit氏はTwitter上で運用され、2010年4月10日に停止したbot、@dazeko @reimuの作者でもある。物語られた記憶は人々の中にあり、幻と実体の境界上で再演される。 @dazeko @reimu それじゃ、またね。
□発行誌名=『ふたり芝居』
□サークル名=空中セピア
□作者=藤田ユウヤ
魔理沙とアリスのばかしあい?
ひねくれアリスのひねくれ魔理沙に対する思索が詩のようなモノローグで紡がれ、対応して描かれるアリスの行為が彼女の性格を表していてとてもかわいい。関係というフィルターを通して見せる二人の感情のきめ細かさが不思議な絵柄とマッチしていて魅力的。
単独でも味わい深いが既刊「あかいいえ」「くろいいえ」「あおいいえ」「pirouette」と続けて読むとなお良い。
マリアリ脳の筆者は都合のいい方向へばかり妄想して床を転がりまわってしまうためこの本を読んでいるところだけは絶対に見られたくない。舌を噛む。
□発行誌名=『クリスマスはあなたと』
□サークル名=TTT
□作者=ミハル
「ハルヒかわいい」で有名なサークル「TTT」による、アリスの片思い本。
気になる魔理沙に気にしてほしい、かわいらしいアリス。
ついつい憎まれ口を叩いてしまう、不器用なアリス。
そんな自分に後悔する、やさしいアリス。
最初から最後までかわいいアリスでいっぱいだ!いっぱいなんだよ!
とにかく一読してほしいのだが、最後のページのセリフに魔理沙だけでなく霊夢も含まれているところがもう本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当にアリスがかわいくてかわいくてかわいそうでかわいそうでどうしようもなくなる。すまん、少し泣く。
ボロボロ泣きながら何度も何度も読み返す自分でも何がなんだかよくわからない状態に陥るためこの本を読んでいるところだけは絶対に見られたくない。舌を噛む。
□発行誌名=『幼女と少女 in 守屋』『幼女と少女 in 博麗神社』『幼女と少女 in 魔法の森』
□サークル名=Personal Color
□作者=桜庭友紀
魔理沙の作った魔法によって早苗、霊夢、魔理沙の三人は子供の体になってしまった。
魔法の効果が切れるまで、早苗は神奈子と諏訪子に、霊夢は紫と萃香に、そして魔理沙はアリスに保護されることになる。そんなハートフル充填ストーリー。
自明となっているキャラクターの属性や立場を消去、変化させることによって、普段は明示されないキャラクターの感情が浮かび上がる。守屋神社に訪れた久しぶりの安らぎ、いつも飄々とした紫の本心、おチビな魔理沙に写りこむアリスの忘れ物。
連作になっているが、もちろん単独で読んでも楽しめる。全力で推していきたい。
ニヤニヤしたりキュンとしたりソワソワして不審者そのものになるためこの本を読んでいるところだけは絶対に見られたくない。舌を噛む。(以上、担当=四日市)
■イラスト 〜画集鑑賞ツアーへようこそ〜
東方のイラスト誌における特徴として、配色や服装のアレンジ、和洋風のテイストがはっきりしていることなどが挙げられる。
東方のキャラクターは作品を通して何人もいるにも関わらずキャラ被りの要素がほとんどない。それだけキャラクターとしての記号が上手く使い分けされているということであり、東方イラスト誌を読む上でそこに注目すると面白い。
キャラクターを中心に描くイラスト誌だからこそ、東方のようにキャラクターの記号性が強い作品との親和性は高い。
□発行誌名=『東方画集 -参-』
□サークル名=PLANT
□作者=鶴井
細部に至る描き込み、鮮烈な色遣いが鶴井氏の魅力である。そんな鶴井氏のイラストを眺めることができるだけで幸せというものだ。傾向としては和風テイストが強い。特に見開きのイラストは圧巻。絢爛豪華と呼ぶに相応しい一冊である。
□発行誌名=『幻想郷ノスタルジア』
□サークル名=garnet
□作者=garnet
草原の緑と空の青、廃れた人工物、そして八雲紫。これらが調和した画集がgarnet氏の「幻想郷ノスタルジア」である。その風景には一切の説明が無い。にも関わらず、八雲紫が立つだけで物語が生まれてくるようだ。どこか遠いようでいて、タイトルの通りノスタルジックな感情を呼び起こす一冊。(以上、担当=紡)
文=四日市・紡
関連記事
2010ゴールデンウィーク特別企画/WEBスナイパー総力特集
序文 やっぱり東方が好き!!世界を接続する程度の能力
東方二次創作のための主要キャラ紹介 幻想郷の懲りない人たち【前編】
東方二次創作のための主要キャラ紹介 幻想郷の懲りない人たち【後編】
2010春の連休特別企画
ばるぼら × 編集部〜対談:劇場版『涼宮ハルヒの消失』を振り返る四日市 × 相馬俊樹〜対談:アニメ『聖痕のクェイサー』から学ぶおっぱいとキリスト教の秘密!!
ばるぼら x 四日市〜対談:「博麗神社例大祭」第7回 購入頒布物紹介!
関連リンク
四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。
紡 同人サークル「星空亭」主催。東方Project二次創作を中心に活動中。小説メインのサークルらしい。 また、即売会スタッフとしても活動している。東方作品を心の糧に日々を生きる。秘封倶楽部はもっと広まるべき