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追悼 雪村春樹
戦後の混乱期、縄師、編集者、絵師、作家としてSM風俗史の中で強い光芒を放った美濃村晃。その嗜虐と美意識の世界を貴重な証言やインタビューを通じて多角的に追った濃密な実録映像!
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雪村春樹監督による、伝説の縄師「美濃村晃」についてのドキュメンタリー。映画の冒頭、美濃村晃の幼い頃の思い出が語られる。「私は幼い頃、母親の縛られている姿を見てしまった......」、「戦争から帰ることができたら、好きなことをやろう、日本中の女の子を縛ろうと決めた......」。やがてタイトルと一緒に、扉の奥に垣間見える、縛られた女性のあられもない姿。ボイスオーバーで、美濃村晃のエロ事な思い出と、相手役を務める濡木痴夢男の質問がのってくる。エロい映像にオーディコメンタリー、なるほど本作こういう趣向で続いていくのか、と思っていたら木戸がツツーッと開き、2人はその場で喋ってる。なんと同録だった!という、そこに思わず笑ってしまった。
筆で太ももをなでたり、ハシで乳首をつまんだり、一方で「その責められ女郎っていうのは?」とか聞きながら、しまいには股間を手でグイグイいっている。女優はああっとか言って、しかしよどみなく続くインタビュー。たしかにこの女性の無視されてる感がエロいんだけど、画面の忙しさに笑いがとまらない。
たとえば何かを食べながら喋るのと、この状況は何が違うんだろうと考えてみると、やっぱり女優にああーん状態になってもらうには、これはやっぱり相手の反応を観察しなければいけない。これもコミニュケーションなわけです。一方で両名は、対談する相手とも喋らないといけないので、そこには相手と女優、同時に2人を相手に喋っているような無理さがある。その無理さをないものとしている感じがおもしろい。

やがて、今度は団鬼六や、編集者(櫻木徹郎)が出てきて、日本の戦後SM史についていの話になっていく。美濃村は縛り師でありながら、「奇譚クラブ」「風俗奇譚」「裏窓」など、戦後SM界を切り開く雑誌を出してきた人でもあった。それをどうやって実現させたか。また色々な縛り方がある中で、美濃村流の縛りの特徴とはなんなのか。
本作は、美濃村晃と濡木痴夢男のコンビで進んでいくんですが、縛られるシーンを見ていると、濡木痴夢男はひたすら女優を褒めている。「あゝ、きれいだねえ」の「あゝ」がもう辛抱たまらん感あふれていて、なかなか役者なわけです。一方の、縛られた女体を肴にいろいろ聞かれる美濃村晃は、質問に「うん、そうだね」とか答えてるんだけど、もう自分の歴史とかどうでもいいから、目の前の縛りに心が移ってる瞬間がときどきある。普通の大人にはちょっとない夢中さが、そこには映っている。
美濃村晃は喜多玲子という名義で、絵も描いていた。それをどう見るか「このつま先立ちなってるところが......」とか濡木痴夢男が講評しつつ、その絵を実際に再現しちゃおうというのが、本作ひとつ趣向になっている。柱に縛り付けられた女性が、襦袢をなんとか口に咥えて、あそこが見えないように耐えている。苦しげな表情、それを前にしてこれまた、濡木痴夢男と美濃村晃が始める会話がいい。
 どうする? 
 内腿なんかくすぐったらいいだろうね  
 きれいなおっぱい
 そうだね
 腕の食い込みがすごくいいでしょう
 若い女、全裸の片足釣り
 もう落ちるよ落ちるよ
 落としたら恥ずかしいぞー
 見えちゃうよ見えちゃうよ
 落ちるよ落ちるよ
 いい顔だいい顔だ
 あー見えた
 よかった
 これね、見えちゃった
美濃村晃の顔は誰かに似てると思ったのだが、水木しげるだろうか。何が共通してるのか、どちらも戦争で一回と言わず死にかけている。そうするとこういう顔になるのか!?その表情は「もう世間に、何憚ることねえぞ俺は」という安定感のなせる技という気がする。喋り方は、野坂昭如に似てるのではないか。滑舌が悪くそれでいて早口、そこには思いつくことを早く全部言ってしまいたい、言わなければそのチャンスが永遠に奪われてしまうというかのような性急さがある。それとも、ただ私にはオーラのある老人の顔がみんな一緒に見えてしまっているだけなのか。

この作品には一つ不思議な力が働いていて、たとえば縛られた女体、その太ももにかかった襦袢とかが、ツツーッと画面の外へ引っ張られて消えていく。スタッフがフレームの外から引っ張っているんでしょうが、これは歌舞伎の黒子ですね。高橋留美子の『うる星やつら』では、財閥の娘で日本の古き良き伝統を引き継ぐお嬢様(面堂了子)がいつも「黒子軍団」を引き連れているというギャグがあった。これは黒子の「いないつもりっていうか、いるじゃん!」という不自然さが笑えるところで、本作に時々出現する「不思議な力」も同様。「太ももの奥が見たい!」という夢中さが謎の力となって、黒子的に襦袢を画面の外に引っ張っていく。その無理さをないものとしている感じがやっぱりおもしろい。
一方で、山崎ナオコーラの『人のセックスを笑うな』という小説があって、それは人の夢中を笑うなということでしょう。夢中なあまり無理が生じているのは笑えるし、その夢中を笑うなとも言える。表裏一体となった無理さと夢中さ、その味をかみしめるドキュメンタリーとなっていました。

文=ターHELL穴トミヤ

『縄炎 ~美濃村晃の世界~(シネマジック)

監督:雪村春樹
制作:1989年
品番: VS-104
収録時間:60分
定価:15,300円(税抜)
メーカー:シネマジック

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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