A tribute to Yukimura haruki
追悼 雪村春樹
貞操帯の代わりに......愛妻・美和子へ「浮気封じの股縄」を締めさせて日々出かけていく夫。だが、その股縄は美和子の欲望を鎮めるどころか、ますます淫らに火照らせるばかり。そんなある日、夫の仕向けた間男が風呂釜の修理と称して家へ上がり込み――。悩ましい焦らしの妙が光る雪村氏一流のSMドラマ。『縛詩』の中の雪村春樹は、痛い・怖い・怪しい......という私が持っていた縄師のイメージとは違う、渋くてマイペースで気のいい大阪弁のおっちゃんだった。縄の世界を漂い、「女のおかげで生きている」と話す老年の縛師。その後作品に深く触れることも、実際にお会いする機会もなかったが、亡くなったと聞くとやはり寂しさを感じずにはいられない。
今回追悼レビューをすることになり、彼の監督したAV作品を物色して気づいたことがある。それは、多くの女にとって雪村春樹は理想の縄師なんじゃないかということだ。
数ある監督作品の中で私が特に好きなのは、ドラマがあってご本人が出演しているものだ。近所に住んでる怪しい縄師だったり、義理の娘を縄で手籠にするだらしない中年男だったり、年下の妻に貞操帯ならぬ貞操縄をかける夫だったり......そんなドラマチックなシチュエーションがあるとさらにいい。
耳元でエロティックな関西弁を囁きながらイジめてくれる、白髪まじりの初老の男。私のような老け好きにはもうそれだけでたまらないのだが、そんな彼の魅力と老練した緊縛技術がドッキングするとなんとも言えない味わいを醸しだす。
柔肌に食い込む縄は、一見責めているように見えて実は女を最高に美しく見せてくれるものだし、緊縛された体を優しく愛撫することも忘れない。
「責める」というより「かわいがる」という言葉のほうがしっくりくるのが雪村春樹の緊縛なのだ。
さて、前置きが長くなったが、今回はそんな彼の魅力を感じられる作品を選んでみた。
『雪村春樹全集22 山本美和子』だ。
今流行りの寝取られと緊縛プレイを絡めたドラマ風味の一本。ガチなマニアの方から見たら邪道に思われるかもしれないが、私みたいなエセM女からすると、ストーリーがあるぶんとっつきやすくリアリティ(?)もあって引き込まれる。
ヒロインを演じる山本美和子は、かなり年上の夫(雪村春樹)を持つ色っぽい人妻。嫉妬深い夫は、出かける前は貞操帯代わりの縄をかけるのを日課にしている。
一応「多情な妻が浮気をしないように」という建前なのだが、もちろんただ縛るだけじゃない。下着姿の妻の股間を箸でいじくりまわし、縛られて濡れてしまったアソコを見ては「やらしいなァ......舐めたろ」とペロペロ。もう、この縄掛け自体が趣味というかプレイである。しかもそこまでしておいて、満足させぬまま出かけてしまうんだから始末が悪い。
そこにやってくるのが風呂修理の職人・日比野達朗。夫に中途半端に焦らされて欲求不満の美和子は、ビンビンになったイチモツを見せつけられ、つい縄を切って不倫に及んでしまう。
我慢していた性欲のタガが外れ、獣のように喘いでしまう美和子。でもきっと、これも夫の差し金なのだ。その証拠に、帰ってきた夫は浮気がバレたらどうしようと半泣きの彼女を縛りあげ、そりゃもうねちねちといたぶるんである。
「......なんやァ。また縄が切れてるやないか」
「ごめんなさい......」
「何の『ごめんなさい』や。言うてみい」
怒号を浴びせるわけじゃなく、ただ足を大きく開かせたポーズで緊縛し妻のアソコを指や舌で点検する夫。
「あれ、いつもと違う匂いがしよるわ」「ここにグチュグチュグチュグチュ挿れよったんかァ」
言葉責めというより、言葉で愛撫してるようにしか思えない。
こうするためにわざと妻を焦らし、飢えた職人と引き合わせたに違いないのだ。そして嫉妬した夫にいたぶられる妻も、半泣きの顔とは裏腹に歓喜に震えているに違いない。
後半の、柱を使った緊縛もいい。
「荷物まとめて出てってもいいんやぞ」という夫に「ごめんなさい......ごめんなさい......」と許しを請う美和子。
雪村春樹はそんな彼女の体を「ほれ、見てみい。いやらしい形してるやないか......このおっぱいが悪いんやな」と言いながら緊縛し、足を開かせたポーズで柱に縛りつける。身動きできなくなった肉付きのいいアソコをペロッと舐めた中指でいやらしく弄ぶ。
女を責めながら、ときどきふと窓の外に視線を向けたりする余裕もたまらない。自分の欲望にまかせて責めているんじゃなく、女を悦ばせるために責めてあげている、そんな感じだ。
緊縛している最中もずっと囁き続け、愛撫し続ける雪村春樹。彼の縄に冷酷なSMのイメージはなく、逆に「よしよし」と可愛がっているようだ。
縄の型なんか知らなくても、濡れてしまう女はたくさんいるんじゃないだろうか。
こんなふうに縛ってもらえたらたまらないだろうな。そんなふうに思わせる1本だった。
文=遠藤遊佐
『雪村春樹全集22 山本美和子(赤ほたるいか/妄想族)』
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