special issue for Golden Week in 2011.
2011ゴールデンウィーク特別企画
さやわか × 村上裕一 対談:2011年春アニメ【後編】2011年GW企画第4弾は『魔法少女まどか☆マギカ』と2011年春アニメをめぐる対談! 『まどマギ』は完結したものの、話題作が揃い踏みの2011年春アニメは現在進行中。村上裕一さんとさやわかさんによる対談も前編とは打って変わった雰囲気に!? 本日の後編は今季アニメの話題です。
さ 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』はどうでした?
村 面白く見てます。
さ 僕はあんまり好きじゃないんです。
村 そうなんですか。ノスタルジックだからですか。
さ そう、ノスタルジックだから。後半どうなるかはわからないけど、今のところはノスタルジーと感動をすり替えようとしているアニメに見えてしまうのがちょっと……。あと僕、あれがアニメである必要を感じないんですよ。
村 なるほどね。
さ 別にこれはアニメじゃなくてドラマでも作ろうと思えばできたし……実際あったかもしれないような話じゃないですか。幽霊としての女の子が出てきても壁の通り抜けをやるわけでもなく。たとえばですけどね。
村 確かに(笑)。
さ いわゆるアニメーションである必要はなくって。こんなこと言ったらあれですが、しかも完全に一旦人が死んだところから始めて、そこからノスタルジーを強引に喚起させようとしてる。まあ10年前を懐かしいと思うような人に向けているわけですよ、ちょうど10年前の「secret base 君がくれたもの」だから確か……。
村 ZONEだから確か2001年だったかな。
さ そのくらいなので、狙ってるのは10代後半から20代くらいの人にとってのノスタルジー。「ポケモン』ネタとか出てくるし。そこそこ若い、アニメとかが好きな人たちにノスタルジーを与えてみようっていうことにしかなってないように、今のところは見える。これだとちょっと……。いや、すっごいよくできてるんですけどね。そういうものとしては。
村 僕も『あの花』単体の独自性を褒めろって言われるとかなり難しいんですが、最近、僕は岡田麿里に興味があって、その観点から色々言うことができるのかなと思いました。
さ 岡田麿里はすごいですよね。
さ そうですよね。
村 その後に何が描けるのかなってところに興味がありますね。『あの花』は幽霊とかの超常設定はあるんですが、これをワイルドカードにしないでうまくやってくれる、という期待値がまだ残ってる。
さ 確かに確かに。岡田麿里に対して僕が思ってるのも同じで。彼女はまだすごいものが描ける人だと思うんですが、この作品だとなあ(笑)。
村 まあ『あの花』単体だと特に目新しくは見えないかもしれませんね。僕が素朴に感動したのはEDテーマが「secret base」だったことですね。いや、この歌はまさにこの作品のために作られていたのかってホントに真剣に思いましたよ。この上なく君と夏の終わり、将来の夢、大きな希望、忘れないって感じするし(笑)。
さ ははは(笑)。だからそれこそウェルメイドだと思うんですよ。きれいにまとめましたよね。夏休み、秘密基地、「secret base」。もう川で女の子のサンダルがこうなってるとか、その光景自体を何かで見たような。
村 野島伸司の描く、テレビドラマのシナリオにすごく似てると思いました。既視感のある内容を観たことがある。けど逆に言えば、そういう現実のドラマよりも、よっぽど純粋にノスタルジーを凝縮してくれるんじゃないかと思いますね。
さ それは間違いなくそうですね。そこがひょっとしたらアニメでしかできないことかもしれない。
村 最近の岡田麿里作品は、オリジナルだからかもしれないけど、あなるってあだ名もそうですが、性的なものがずいぶん前景化してますよね。特殊性癖とか。例えば3話あたりの情報から、実はゆきあつには女装癖があるんじゃないかっていう推測もありますよね。
さ そうなんですか、へえ。
村 その可能性、結構高いなと思ったんです。何故かというと『放浪息子』を考えれば、少年時代に好きだった女の子の欠落を埋めるための手段として女装みたいなものが必然的に出てくるからです。
さ 確かに。『放浪息子』もそうですけど愛情に対する困難さ、みたいなものとして、いわゆるアブノーマルが使われてるところはあるなと思います。「男の娘」問題もそうでしょう。要するにそれって変態ポルノが流行ってるから許せないとかって東京都みたいに騒ぐのはわからないわけでもないけど、しかし実際に享受している人たちは恋愛の困難さの究極形みたいなものとしてやってるんだなって。
村 長島☆自演乙☆雄一郎が出てきて驚いたんですけど、本当にコスプレで「女の子」と同一化することに目的を持っている人が目立ち始めたんですよね。そして男の娘ブームとか、理論的に予言されたものが最近になって顕在化してきた印象があるんです。だからセクシュアリティの問題にちょっと決着をつけて欲しいなというか、ひとつの到達点を見たいなというのがある。いまのところ岡田麿里にしかそれができる人はいないかなという感じがします。
さ 岡田麿里は往々にしてセクシュアリティの問題に深く切り込んでいきますもんね。『フラクタル』もそうでしたし。
■これは『SASUKE 』ですか? いいえ、『DOGDAYS』です
さ 今期はアニメの数、ちょっと回復してるんですよね。確か20本以上ある。
村 僕、10本くらい観ましたけど、それじゃ全然観てないな。
さ いや、全部観るのは不可能だと思います。
村 苦痛ですよ、はっきり言って(笑)。
さ ははは(笑)。観るって言っておいて。
村 いや今回は仕事なので、僕は観るぞという気持ちで観たんですよ。『DOGDAYS』観たんですが、『DOGDAYS』は『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』に次ぐ萌え豚アニメだと思いきや、あれ、すごく時代象徴的だと思った。何故かというと、あれ『SASUKE』じゃないですか。
さ ああー、なるほどね(笑)。
村 あの無血無傷感って批評的だなって。
さ うん(笑)。
さ もちろんゲーム的リアリズムで成り立ってますよね(笑)。
村 いや、ゲーム的リアリズムではないです。完全にゲームです。
さ ゲームですか(笑)。
村 これ何がいいって、普通はゲームといえば逆説的に命をかけるところがあるわけですよね。バトルロワイアルものって完全にそうですが、武器が出てこなくても『カイジ』とか『LIAR GAME』とかってそういうもんですよね。でもこれは完全にゲームですからね、ホントに(笑)。だからいいなと思った。
さ その、なんというかメタ性すら働いてないゲーム。
村 ないですよ。人間界からやってきた主人公もアスレチックで遊ぶぜ!って。
さ 確かにそうで、だからいまどきのネトゲをやってる感じに近い。物語的に生死を賭けて戦うというような切実さはない(笑)。
さ ああ、なるほど。
村 ただ、このショッキングでグロテスクなところがまさに「王道」なんですよね。だから比較すると、直接的には『デッドマン・ワンダーランド』のほうが面白いと思うんですが、でもコンセプチュアルには『DOGDAYS』を褒めなくちゃいけない(笑)。
さ 確かにそうですね。だんだんすごい作品に思えてきました(笑)。
村 すごいですよねえ。戦争じゃない(笑)。
さ うん、これはすごいわ(笑)。
村 これも批評的なところがあって、結局、死ぬとか死なないとか言っても、どうせエロゲーとかアニメで死そのものに極限まで肉薄できるわけもなく――っと他方で『まどマギ』はそれに肉薄していたかもしれませんが――、結局こういうものをやっているのではないか。だったら最初からこういうルールでやろうぜという感じがするんですね。もう薄っぺらいんだか深いんだかわからなくなってきてますけど(笑)。
さ いやあ、だんだんすごいアニメに見えてきました(笑)。
村 『DOGDAYS』も原作があるわけではないので先が読めないんですが、この調子で12話までいっても伝説感があります(笑)。
さ ははは(笑)。
村 これでもしシリアスに移行するとしたらそれはそれで大変で、たぶんメタフィクション的な操作をしなくちゃいけないはずなんですよ。ルールに対する抵抗が必要になってくる。
さ プレイヤーとは、とかね。
村 でも都築真紀だからなあ……どうかねえ。
さ うーん、ないんじゃないかなあ(笑)。
村 ですよねえ(笑)。
■京アニ謹製空気系アニメの作り方
さ あと、何がよかったですか。
村 『デッドマン・ワンダーランド』は面白かったけど『そふてにっ』は……。
さ どうですか。
村 ダメです。
さ 僕もダメでした(笑)。粗製濫造とは言わないけど、結局本数が増えるとこういう曖昧な作りのアニメが増えてしまうんだなって。
村 アイロニカルに褒めてるやつがあった。どういうことかというと、『あの花』とか『いろは』、そして『日常』は背景描き過ぎでどう考えてもキャラクターとマッチングしてないと。その点『そふてにっ』はキャラクターと背景が完全にマッチングしているからよい、とかいう話があって。そりゃそうだけど(笑)。
さ ははは(笑)。
村 90年代のアニメとエロアニメを足しちゃったみたいな感じの話で。シーケンス構造が、よく言えば『日常』、『けいおん!』、まさに空気系の作り方。どうもつらかったですね、同じことを繰り返してるような感じで。
さ 「空気系だからこういうものでいいんでしょ」ってやったら、至らないものができるというのがよくわかる。
村 原作は確か「コミックブレイド」でしたっけ。原作にポテンシャルがないから、もう一つの要素、たぶん批評性のような要素を入れなくちゃいけなくって、ないからエロを入れたって感じなんです。だめですよね。
さ 『日常』はどうですか。意外に面白かったなと思って。
村 『日常』は昔読んでたんです。漫画とちょっと印象違いますね。京アニになってるって感じがします。
村 空気系を再現するためには、これくらいの描写力が必要なんだなってことですね。
さ いや、そうだと思いますよ。「これでいいんだ」感を否定して徹底的に、まさに「日常」を作りこむべきなんです!という感じに見えます。
村 『あずまんが大王』のアニメまで戻しますけど、あれはやっぱり『あずまんが』の論理までは描写できてなかったわけですよね、アニメーションとして。
さ そうですね。そういう意味ではこれ、本来『あずまんが』ってこういうふうになってたらすげえみたいな感じですよね。この作り方で『あずまんが』やったら面白そう。ただ、ものすごく方向性は違うんだけど『まどか』みたいな使命感がすごいアニメを観てしまうと、これが何かを変えてるのかなって思ってしまう。変えてないんですよね。今できるポテンシャルの最大限やりましたみたいな。面白みのある要素としては「ヒャダインが曲やってすごいでしょ」みたいなことしか感じないんですよね。
村 そうなんですよ。だからちょっと既視感があるなと。ヒャダインの曲使ってるあたりは『らき☆すた』以来の「ニコ動」とのシナジーというか、癒着が続いてるというか。あとなんだっけ、『ぱにぽにだっしゅ!』 とか。
村 僕も好きでしたね。
さ こっちをあんまり面白いと思わないのは、『ぱにぽに』はやっぱりあの時点では新しいものを感じたとか、『らき☆すた』を凄く面白く観たっていうのと近いと思う。でも今これをやってもそんなに面白くないんだよな。
村 京アニの文法っていうのが透けて見えてきたからですかね。
さ そうですね。京アニはステージを一回登りきっちゃったところがあるので、それをやっぱり超えていってほしい。原作がやろうとしてるのも、萌え的なキャラクターを使いながら、ベタなギャグみたいな、大時代的なギャグをどうやってやるかみたいなところでやってるのですが、緻密に管理された画面内でキャラが非常によく動きながらコケるみたいなアイデアはまだ原作の驚きを越えていないかなと思います。
村 今のアニメで面白いギャグをやるっていうのはとても難しいので、それをやってるだけすごいという発想もある。でもそれをすごいというのは、こういう引いた言い方にしかならないあたりに、むしろ我々の病理があるみたいな(笑)。いやあ結構思い出し笑いとかしますよ、『日常』。
さ 僕も笑いましたよ。笑ったんだけれども……。
村 袋小路が見えてますよね、やっぱり。この『日常』って系譜として古典的な四コマ漫画に戻ってる感じがするんですよ。
さ そうですね。
村 『コボちゃん』とかね。オチがあるっていうことで。だから『日常』を通じて京アニがどこへ行ってるかのほうが、よっぽど興味深い。
さ 主たる視聴者層がどこにあるのかわからないですが、「囲碁サッカー部」みたいな不条理感の面白さも、不条理ギャグを知らない若い層には、へえ面白いんだ、なるほどクスッみたいになってるのかなあとは思ったんですが。
村 吉田戦車とか彷彿とするところがありますかね。
さ そうそう。吉田戦車とか踏まえて観ちゃうと、ああ、なんか不条理ねとかしか思わないですけど。
村 吉田戦車までいっちゃうと哲学的になってくるので、そこまでいっちゃうとたぶんダメなんですよね。
さ そうか、不条理ギャグをそのまま使ってるってところがすごいのか(笑)。それはでも、ハイコンテクストすぎますよ(笑)。
■シャフ度とラノベ的表現/『神のみ』的メルクマール
さ 曲で、ヒャダインの話がありましたが、「ニコ動」的な層へアプローチしているのは『電波女と青春男』もそうですね。
村 『電波女』観ましたよちゃんと。すっかり存在を忘れてました。『電波女』はちょっとあやしい。
村 最初の14分くらいすごく苦痛でしたね。布団を脱がして立ってるシーンだけで持たしてるんだけど、ちょっと弱いですね。原作に忠実といえばそうなんだけど、女の子の声が聞こえないじゃないですか、あれ。
さ 全然わかんないですよ。
村 いいんですけどねぇ……。
さ かわいいんですけどね。絵のフェティシズムはすごくあるんです。
村 エリオも肩が出てて。いいんですけど狙いすぎなんですよ(笑)。
さ これってだから、絵でいいわけじゃないですか。声が出てなくても気持ちのいいアニメ(笑)。
村 絵でいいんです。アニメって絵でいいもんだし。画風は、そんなに似てるものがないんですよね。
さ ブリキの絵柄が今っぽくていいですよね。今っぽいというか、「ニコ動」、「pixiv」以降の世代らしさをすごく感じる。5年くらい前のいわゆる「萌え」の時代とは違う、これは新しい絵だなというのがはっきりわかる。
村 その絵が全然活かされてない状態なんですかね。
さ そうそう。個人的にはブリキの絵が動きました、ありがとうございますみたいなふうにしか思わない。
村 意味ありげなカットも全然威力ないんですよね。これ実写でやったら面白いのかもしれませんね。実写っぽいカメラワークだし。
さ 確かに。
村 でも実写であのふとんを再現するのは不可能ですね(笑)。小説は面白いんですけどね。
さ 面白いですよね。だから僕も結構期待してたんです。でも男の子がずっとしゃべってる、苦痛だ、みたいなふうに見えてしまう(笑)。
村 苦痛ですよね。これはどうしても戦略的にそうせざるをえないにしても、登場人物が延々と説明的なことを喋り続けるアニメって、基本的には失敗ですよ。
さ うん。だからさっき言った『化物語』もそうですけど、あと『ハルヒ』はよくやりましたよね。
村 京アニが偉いと思ったのは、京アニで実は同じことを考察したことがあります。それは『Kanon』なんです。東映版と京アニ版の『Kanon』があって、東映版だとすべてのことを祐一がしゃべり続けて説明するんですよ。「あ、あゆだ。あゆは確か過去の……」みたいなことをひたすら説明してて(笑)。しかもそのせいで全部バストショットだけなんですよね、絵が。全然ダメなんです。でも京アニは、カメラが全体像を写すことで説明じゃなく描写でわからせるということをやってる。
さ ラノベって男の子がぶつぶつ言ってるのが醍醐味なんだって思って作ると、大変なことになりやすいのかもしれない。
編 まだ触れていないのは『神のみぞ知るセカイ』2期……。
村 ああー『神のみ』! 鉄板ですよ。
さ 『神のみ』は、コンテンツとしてはどうですか。
村 すごい好きです。マンガの話で恐縮ですが、最初は全然ダメだろうと思ったんですが、桂馬が女の子になる話を観て『ハヤテのごとく! 』と比較すれば、オタクのホントのコアをつかんでるなって思いました。攻略というのを自覚的にやっていて、自分が攻略される側になった瞬間、ホントにこの人は、若木民喜って人は頭いいなって思った。
さ 彼は昔、エロゲー批評サイトをやってた人ですよね。
村 じゃあリアルなんですね。桂馬の設定とか。
さ うん。それもぶっかけとか汁ものばっかりずっとやってた人。
さ 僕も面白く読んでました。
村 なんで5巻で終わるのかって不思議に思いましたよ。
さ 「サンデー」わかってないわーって思いました。でもそれで研究し尽くして、始めたのがたぶんこれなんでしょうね。
村 これは確かに『らき☆すた』に対して批評的だと思うんです。『らき☆すた』は踏み込みがないんですよ。京アニのコンセプチュアルさから成立してるものなので。
さ はいはい。
村 京アニのコンセプチュアルさと作家のコンセプチュアルさは違いますからね。ただ結局美少女ゲームの技法を使って物語を進めるということは、京極夏彦と同じで、憑き物落としをやり続けるだけで、早晩限界が来るんですよ。それがすでに見えてきてる。
さ もちろんそうで、そこが難しいんですよ。僕もこれは好きなんで、これはこれでいいと。だがこの先に何があるのかっていったら、別にないと思う。「この世界楽しい」とは思うんですが。
村 女の子を可愛く描くために最低限必要な舞台設定がこのレベル、というメルクマールにはなってると思う。何もないのをつくると『DOGDAYS』になっちゃう。
さ はいはい(笑)。あれはあれでラディカルではあるんですけどね(笑)。
村 『神のみ』はまさに勝利条件が存在してたので、キュッとしまってる。でも今のアニメって空気系が跋扈してるせいで、勝利条件という概念そのものと相性が悪いんですよ。
さ なるほど。
村 『日常』の勝利条件ってなんだって感じするじゃないですか。とりあえず博士のロボットがロケットパンチ出したら勝ちかっていうと(笑)。
さ そういうのはないですからね(笑)。
■『カイジ』は何故に面白いのか
さ あとなんだっけ。
村 僕は『カイジ』の2期を観ました。
さ あっ、『カイジ』! 面白いですよね!
村 そう、すっげー面白かったんですよ!
さ 『カイジ』めちゃくちゃ面白いですよ! すごいこれと思って。あれはめちゃめちゃ面白い。1話のエンディングだけ観て、このアニメは普通じゃないなと。ぶさいくな女が……。
村 美心か。
さ そう、エンディングがひたすら美心しか出てこないんで、絶対このアニメ変なことやってると思って。観たら面白いんですよ。
村 何がいいんですかね。確かにアニメの原初的な経験をすべて網羅してる。あれ観てビールが飲みたくなったんですよ(笑)。ホントにすっげー飲みたくなって、買いに行こうかなって。
さ あははは(笑)。なんなんですかね。もちろん『カイジ』のコンテンツ力といっちゃえばそうなんだけど、アニメとしてちゃんと面白い。
村 そうなんですよね。引きも、シーケンスもよくできてるし。
さ もう何が起こるかわかってるんですよ。カイジがここで負けるという前提なんだけど、「だが!」……みたいな。
村 「カイジ、豪遊!」(笑)。
さ そうそう!
村 「2日連続、豪遊!」(笑)。
さ カイジのモノローグ的な部分もナレーションに変えちゃってるところがあって、それがまたいいんですよ。
村 それはモノローグをひとりでやりすぎるとダメという『電波女』の話がありましたが、それに対してアンサーになってるんじゃないですか。これがバランスというものだ、みたいな。
さ ノイタミナの『C』もお金が絡むバトルロワイヤル的な話なんですが、あっちはあんまり乗れないんですよ。
村 僕はこれ概要しか知らないので、概要だけ見てると凄く面白そうに見えますね。
さ それこそゼロ年代的ないまどきの殺伐としたバトルロワイヤル的なゲームのアニメを、よーし作ろうと思った人たちが作ったらこうなったみたいな。ズレてるんですよ。時代はもうそれを丁寧に作るようなところにないはずなんです。
村 ゲーム系のものになると完全にそうですが、絵作りじゃなくてルールだけが重要ですからね。ルールとシーケンスというか。
さ そうそう。そういう意味では、この作品は第一話の時点ですべてのルールが開示されて、さあどうなるみたいなスピード感もないですよこれ。
村 ああそれ辛いですね。いい絵なんですけどね(笑)。
さ お金とは何かみたいな結構重いテーマも扱ってるんですけどね。最近ノイタミナってアニメファンじゃない普通の視聴者の視聴に耐えるものをって考えて、社会反映的なものを作ろうと思って作ると、教条主義的だったりしてあんまり首肯できる出来にならないという。
村 社会反映的なものを作ろうとしたらこんな超常バトルにならない気もする(笑)。
さ いや、そもそも「お金について考えてもらいたい!」みたいな細々したこと、だって考える必要ないと思うんだよね。『カイジ』だってそこから人の愚かさを知ってほしいですみたいな寓意が先にあるわけではない。
村 『カイジ』はすごい根本的じゃないですか。金が欲しいとか(笑)。
さ 金が欲しい!とかそういうやつでしょう(笑)。結局『カイジ』が面白いのって、お金とは何かみたいなふうに最終的に読み手が感じるとしても、お話の上ではひたすらギャンブルにのめり込んでいくカイジがだめな人間だから面白いわけで(笑)。
村 そうなんですよ、あいつ全然学習しないんですよ。
■『花咲くいろは』と『true tears』のルート分岐点
編 あとは『変ゼミ』。
さ 『変ゼミ』! あったあった(笑)。
村 あったあった、すっかり忘れてた(笑)。絵は完全にTAGROですね。
さ なるほど、動いているのを見るとたしかにTAGROの絵が動いた!という感じがしますね。
村 こういう絵を描く人って一時期の武蔵美系しかいなくなっちゃいましたね。特徴的な。ことによっては『電波女』よりいい絵かも。
さ これで原作のエロい描写をどこまでやるんですかね。ただ、変態っていうものを本質的には掘り下げないでアニメ化しようっていう匂いがぷんぷんしますけどね(笑)。カジュアルに変態を消費しているというか。
村 だめですね、岡田磨里がこれだけセクシュアリティを追及しているというのに。
さ 岡田磨里は徹底的にセクシュアリティの話にしますからね。
村 『花咲くいろは』の話をしてませんね。『あの花』をやったら『いろは』の話もしたような気持ちでいましたが。
さ あーそうですね。あれはどうですか。僕は基本的にはよいのですが、最後まで見ないと正直わからないアニメだと思っていて。今のところは主人公を中心とする圏内で話が綺麗にまとまるようなところにしかなってない。こっからさきですよね。この主人公はある意味すごくまだ綺麗なままのキャラクターなので。
村 書店で『いろは』のマンガが出てるのを見たので、ありゃこれ原作ものだったか、と誤解してたんですけど。ほとんど岡田磨里のオリジナルに近いんですよね。なのでもともとの原作があれば話が違うけど、岡田磨里オリジナルってことを考えた上で言えば『true tears』に似てる。
さ あーなるほどね。
さ 『true tears』的ですよ。確かにそうだ。だからこそね。
村 まだわからないんですよね。
さ うん。
村 ある意味美少女ゲーム的ですね。最初に男がいるルートを選ぶと『true tears』。いないルート選ぶと『いろは』になる(笑)。まあエロいですね。
さ そう。エロい。
村 妙にエロい。
さ ある意味ハーレムアニメに近い何かがあるんです。女の子色々出てきて可愛いねっていうふうに観ることが可能になってる。
村 昼ドラみたいだって批評が先行してたので、あーそういうものかと思って観てたら全然そんなことなくて。何故かというと僕、昼ドラってここ1年ぐらいずっと観てて。
さ はははは(笑)。
村 何が昼ドラだよ!って。
さ はははは(笑)。
さ こないだやってた昼ドラが結構すごい話だったってききましたけど。
村 『さくら心中』でしたっけ。
さ そうそう。元モーニング娘。の中澤裕子がストーカー的な役で出てて、作ったケーキに初セックスの時の使用済みコンドームが入っているという凄まじいエピソードをやっていた(笑)。
村 あれの前の前がいいんですよ。『天使の代理人』と『花嫁のれん』が面白いんですよ!
さ しらねー(笑)。
村 今の昼ドラは結構バランスが取れてますね。もちろん昼ドラ的なショートカットはあるんですが。ただひとつ言えるのは、昼ドラの旅館ものにショートカットはありません。
さ へえー。
村 昼ドラの旅館ものは旅館なので、どうしても旅館の日々を蓄積していくしかない。
さ なるほどね。
村 確かに変な事件は起きますよ。実は失踪していた彼が戻ってきて旅館経営に乗り出そうとしたら全然だめで失敗する、みたいな。やっぱ帰ろうとしたら妻が女将候補だったのにそれを辞めてついていっちゃってどうしようってなったら大女将の旦那である板長が倒れるみたいな事件があるんですけど(笑)。
さ (笑)。
村 あらすじ化するとケータイ小説レベルに唐突だと思いきや、昼ドラって当たり前ですけど毎日やるので長いんですよね。だから全然大丈夫。それと比べると、アニメは多くても2クール、大体は1クールだから、旅館ものの真髄に迫るのはかなり難しいことですね……。
さ 何にも転んでないんですよね。美少女フェティッシュ的なものは感じます。
村 花をつけてるキャラデザって久々に見ましたよね。かなりのぶりっ子感があるような。
さ あ、そうですか。だって『超電磁砲』とか。
村 初春とかですよね。いや初春は主人公キャラじゃないじゃないですか。
さ まあね(笑)。
村 もちろん美琴は確かにぶりっ子感がありますよ。あいつは可愛いものが実際好き。でも隠してることに批評性があるじゃないですか。
さ はいはい(笑)。
村 緒花は何も考えてない。まあ、緒花は実際そういうやつですけど。あとはホビロンとか結構面白かった。ミンチは「死ね」の代わりにこの言葉を発明するわけですが、そのために一生懸命ノートで考えをまとめていて、この無駄な力の入りよう加減は岡田磨里だと思いました。
さ 今期の岡田磨里は明らかな非日常みたいなものは書いてないんですかね。
村 岡田磨里ってそんなに非日常を書く人でしたっけ。
村 『ざくろ』に『黒執事』、あと『GOSICK -ゴシック-』か。原作ものをのぞくと、本質的にはこの人って日常系なのかなって思いますよね。
さ うんうん。
村 『true tears』もそうでしたし、ポテンシャルを発揮した『とらドラ!』もそうですし。『放浪息子』もそうでしたよね。むしろ日常の中にいかに非日常を描くかという人と感じていて。だから『フラクタル』はうまくいかなかったのかなって。
さ なるほどね。
村 だから岡田磨里のポテンシャルが本質的に表現されてるのは今期なのかなって、思います。
■『まどか』と『カイジ』の共通項!?
編 といったところでまとめをそろそろお願いします。
村 そうか。『まどか』はよかった。
さ 結局僕が『まどか』をよいと思えたのって、フィクションの問題に集中してたからかなあと思います。いまこうやって観ると、そういう見方に僕はならざるをえないかな。
村 『まどか』は時勢とはほとんど無関係でしたからね。
さ そうですね。もちろんものすごく切実な問題は扱ってるんだけど。フェティッシュの部分とか、例えば百合的なものとか『まどか』にもあった。でもそれぞれの問題は主題というほど掘り下げられることもなく、むしろ視聴者が二次創作的に解釈や分析を深めることでカバーするようなものになっている気がするんです。百合的な要素にしたって、せいぜい裸っぽい感じで宇宙空間で抱き合ってればOKぐらいの感じになってる。
村 あれエロスとは程遠い描写でしたけど。僕、実は『まどか』にエロスとか全く感じないんです。
さ 「pixiv」ではすごいですよ。
村 すごいんですか。
さ さやx杏とか。
村 普通だったら杏子が攻めのように見えるからさやかが実はヘタレ受けで……いやヘタレ攻めか。
さ そういう補完のされ方もそうだし、あるいはほむらが時間を止めてる間に云々とかあるわけじゃないですか。
村 それは僕も言ってましたもんね。
さ だから二次創作的に補完するんだったら今までと変わらない、要はエロパロで、エロパロを誘発するような作り方になっていたのかと。下手に1クールでやったからそういう要素がなかったのかもしれない。
村 無駄な空白がなかったですよね。
さ それを程よくというか、用意しようとすると『電波女』のような扇情的なサービスカットが入ってくる。でもアニメとしてどうなのかというと、うまく運ぶことができなかったりするわけで、難しいですよね。逆に『シュタインズ・ゲート』は全然そういう要素ないと思うんです。もともとhukeの絵ってそういう絵じゃないし。もちろんかわいいキャラクターではあるんだけど、あれは従来的な「萌え」以降のフェティッシュをやっているような気がする。
村 『まどか』はともかく、今季は原作付きアニメの鉄板感が強いって感じがする。『シュタインズ・ゲート』と『デッドマン・ワンダーランド』はアニメでどんなに失敗しても、コンテンツ力だけで一定のシェアを確保しつづけるだろうという印象があるんですよ。あとは『日常』か。
さ 『日常』ね。
村 『まどか』のいいところはオリジナルだってことですよね、やっぱり。京アニのパラダイムは、京アニはなんだかんだ言ってオリジナルを作れなかった連中なので。オリジナルで新しい地平を切ったという点で『まどか』は非常に貴重な試みだった。でもさっきからほめてるのって、実は『カイジ』とかなので(笑)。
さ (笑)。
村 原作コンテンツ力が重要なのかみたいな感じになってる。
さ そこでだから、『まどか』みたいなのが何故成立してるのかということですよね。確かに原作の力は強いんだけれど、逆に『まどか』と『カイジ』に共通するものは何なのっていう(笑)。
村 難しい(笑)。
さ 何故『まどか』や『カイジ』は面白いのかという。なんなんだろうな。
村 『まどか』と『カイジ』は目的がはっきりしてるからじゃないですかね。カイジは金だし、まどかは魔法少女で。
さ それはそうですけどね。どうかするとある程度視聴者もどうなっていくのか考え易いというか、下手したら先の展開もどうなるかわかるぐらいのもので。
村 『まどか』の最後は、読みきれたヤツはほとんどいなかったですけどね。
さ 最後がどうなるかはわからないけど、さやかがだめになるってのは目に見えた話だし。ただ、いずれにしても『C』みたいな、あと『日常』もそうかもしれないけど、いまこういうのが流行ってるから、といって作ったものが当たってるかというと、そんなことはない。
村 そうですね。『まどか』がメタゲームの話だとしたら、今季はルールの中でゲームやるぜって作品は結構あって。『DOGDAYS』もそうだし、『カイジ』もそうだし、『デッドマン・ワンダーランド』は完全にそう。『シュタインズ・ゲート』もことによってはそういえるし、『C』もそうですね。
村 『未来日記』は典型的な作品ですもんね。
さ 要するに「ゲームものがいいよね」みたいな作り方はもう通用しないと思います。願望込みで言うのですが。
■岡田磨里的問題/青春とセクシュアリティ
村 『カイジ』の高評価は例外的なものと考えるとして(笑)。今季は『あの花』と『いろは』の2強かなという印象があるんですけど、それは反動なのかもしれないですね。
さ 『あの花』ね。いや『あの花』いいんですよ?
村 (笑)。
さ よいのだけれども、アニメとしてこれいいわ、ってなんか違うって思うんですよね。なんでかなー。
村 僕も悩むんですが、アニメとしていいってなんなんですかね。
さ 僕が思うのは、少なくともアニメじゃなきゃできない表現をやってるとか。
村 そうなってきますよね。特に小説でよく言われることですが、映画ではヌーヴェル・ヴァーグがあって先鋭的な映画が出てきたから、それに対抗する小説的強度を表現するぞってことでヌーヴォー・ロマンなんかが出てきた。結局それがアニメでも、長らくアニメの業界で言われてると思うんですが、わからんなーって。
さ 『あの花』のよさって何なんですかね。
村 キレイってことと、ノスタルジックってことと……あとアニメがもし、皆が抱いている、欲しがってる抽象的な美しい幻想の表象だとすれば、それはかなり再現されていますね。
さ それはわかります。確かにこれ実写でもいいのかって言っちゃうと、そうじゃないのかもしれないですね。こんな実写は作ろうと思ったら作れないのかもしれない。そういう意味ではすごいアニメとしての意味があるんだろうな。
村 アニメ的な描写と実写との比較って問題で、実写をアニメで再現すればよいってわけでもないじゃないですか。さっき実写っぽいけど、実写っぽいことそのままやってもつまんないってこと言ってたのが、まさにここに当てはまると思う。写実的に描いているようにみえて、やっぱりアニメ的な面白さがあるような気がする。
さ そうですね。アニメでやると全部に必然的に意味を込めなきゃいけなくなってしまうから。
村 カメラと違って、描き込んでるわけですからね。
さ そうですよね。うーん、『あの花』がちゃんと受け入れられてるのはマーケティングの勝利なのかなと思っていたんですが。
村 マーケティングの勝利というより、どう考えても岡田磨里が好き放題やったらこうなったって感じ。
さ そうすると岡田磨里が受け入れられてるってことなんですかね。
村 ってことでしょうね。岡田磨里的問題がアニメの業界で流行する時代になってるというのがあるんだろうなと思う。青春とセクシュアリティみたいな。
さ はいはい。なるほどね。それはあるかもしれない。
村 「やらおん!」で、あなるとギャル友達がマックにいるシーンの、テーブル下のカットが取り上げられてましたね。友達二人は足開いてたり、足組んでるんですけど、あなるだけ内股にしていて。あなるは清純キター!って。
さ (笑)。
村 単に萌えポイントって話もあるけど、この性的なものを表現するしぐさの繊細さっていうのは抜群ですよね、岡田磨里という人は。
さ それこそそういうのってアニメじゃないと細かくこだわって作ることができない部分だと思いますよね。
村 そもそも年齢設定というのが難しいですからね。キャストの配役だけじゃ限界がある要素でしょうし。
村 確かに使ってるモチーフとか来るものがある。でも冷静に考えると、僕は今26ですが、僕ですらこんなノスタルジックな少年時代があったなー、よかったなーって思い入れはないですよ。
さ そこがアニメが描くノスタルジーものとしてむしろよくできているということになりますね。つまりないものを描いてるはずなんですよ。だってこんな秘密基地とか言って、こんな5、6人の男の子と女の子が秘密基地でわーわーなんて絶対ないよこんなのって話ですよ。この田舎っていうのもここ10年ぐらいのエロゲーで田舎ものってあるじゃないですか。ああいうものをうまく転用してるといえば、転用してますよね。
さ セカイ系の文脈で言うと、セカイ系は青空のイメージがある。『AIR』はすべてが終わった後に夕焼けが出てきますよね。
村 セカイ系は完全に青空です。
さ だからそのモードじゃないってことですよね。
村 ないですよね。明らかに。
さ 新しさはそこにあるのかもしれない(笑)。
村 順番がそこに来てるのかもしれない。
■追想されるセカイ系の表象
さ こういう牧歌的な、青空の風景って昨今は追憶のものの定番なんでしょうね。『あの花』の青空は視聴者にとってあらかじめ存在しないノスタルジーの対象と言ってもいいかもしれない。作中の現在にも昼のシーンはあるけど、どこまでも広がる鮮やかな青空は意図的に過去のほうにあったと感じるように作られている気がします。夕焼けのほうが強調されているというか。『まどか』もそうでしたからね。あれも青空の風景は日常の残滓みたいなものでしかなくって。1話とか2話ぐらいで出てきたけれど、どんどん暗いシーンばっかりになっていく。
村 学校の屋上のシーンだけですよね。
さ だけになっちゃってる。あともうずっと暗いシーンで、最後にループのなかで出てきた青空で戦うシーンあるじゃないですか。あそこはすごく鮮烈なシーンになってるんだけど、暗い雰囲気でやっているところに突然あそこで青空が出ることによって、むしろその不自然さが漂うようなものになっていて。
村 あそこはもう明らかに意識して作ってる。何故かというと、魔女のシーンは基本的に全部イヌカレーが世界を構成してるのに、あそこだけ普通にアニメで作ってるんですよ。だからもう、明らかに狙って作ってますよね。
さ 狙ってますよ。
村 『まどか☆マギカ』を褒めるポイントがまたひとつ増えた。セカイ系批判も入っている、のかな?(笑)。
さ セカイ系が思い描いていたようなものが過去というか、追憶的なものになっているんですよね。『ぼくのなつやすみ』みたいな世界なんですよね。
村 『ぼくのなつやすみ』だと、無時間的な、終わらない夏休み。
村 『かみちゅ!』は天然色できれいな風景があるって意味では一緒だけど、意味が違うってことですね。
さ そうなるとサプリメント的な、と言ってもいいかもしれないけど、今のアニメは、そういうノスタルジーなりというエモーションを喚起するような装置として働くものが多いんですかね。ある意味『カイジ』だってそうだったわけじゃないですか。ギャンブラーってなんか熱いわ、おれはこんな目に遭うの嫌だけど、みたいな。こいつバカだよー、うわー賭けた賭けたバカだよー、熱いわー、みたいな。
さ 意味は使ってるんだけど、その意味の強度を使っている、みたいな感じですかね。
村 そうですね。普通は意味と強度は対立しているので、意味を潰すために強度的な表象を使う。
さ 使うのがもっぱらなんだけど、意味なんですよね。強い意味みたいなものを使ってるのかな。
村 だから『あの花』ちょっとあやしいなって思うんですよね。
さ 何がですか?
村 OPでめんまがパッと消えて花になるシーンがありますよね。あの描き方とかすごく気持ち悪くて。なんでかっていうと突然消えるからなんです。OPとはいえ、あんなやり方するってことは、本編にもああいうタイプの手法が出てくるのかなと思うと急にざわざわしてくる。
さ いずれにしても、ここまでの時点で見える話って、普通にウェルメイドな話にしか思えないんですけどね、まだ。
村 そうですよね。
さ めんまが来ることによって、みんな絆が復活して、「この子が無事に成仏できるのってなんだろう、あの花の名前をみんなで探そう」的な話なのかなって思っちゃうじゃないですか(笑)。そこを超えて欲しいんですけどね。
村 そういう手法って美少女ゲーム業界では田中ロミオがやりつくした感じがあるんですよ。それは超えて欲しいですよね(笑)。
■対談の終わりに
村 岡田磨里っていう人は違うけど、大きく言えばアニメ業界が美少女ゲーム的文法に塗りつぶされている現状があるのかもしれませんね。
さ たしかにそうですね。
村 「Key」以降の美少女ゲーム、泣きゲーパラダイム以降の美少女ゲームってまさにノスタルジーの楽園みたいなところがあって、それが回帰してる。『まどか』がすごいっていったって、『まどか』は虚淵の完全なる美少女ゲームの蓄積で成立してますからね。アニメ業界の逆襲が観たいところですね。
さ そうですね。美少女ゲームか。
村 例えば、『とらドラ!』って竹宮ゆゆこ原作ですが、岡田磨里自体は美少女ゲームには関係ないけど、竹宮ゆゆこは『Noel』っていう美少女ゲームを作ってて、美少女ゲームに出自があるじゃないですか。だから岡田磨里の文法を美少女ゲームに還元することは難しいけど、岡田磨里って実際美少女ゲーム的なものにシンパシーがあるのはかなり間違いない気がします。『true tears』も出処は美少女ゲームですよね。
さ あの頃って美少女ゲームがルーツのアニメがまだあったと思うけど、そのあとラノベのアニメ化のブームがあった。ラノベもいい加減力がなくなっちゃって、じゃあ今何をやるかっていうところに来てると。原作モノをやるにしても何に原作を求めるのかがだんだんあいまいに、というかあやしくなってきてるんですよね。今季は何が多いのかな。なんとなく印象だと漫画が多い気がしますね。
村 『変ゼミ』、『カイジ』、『そふてにっ』、『日常』、『デッドマン・ワンダーランド』、『青の祓魔師』、『アスタロッテのおもちゃ!』……多いですね漫画。
さ だから漫画に若干回帰してるのかなという気がしてたんです。まあいつもと比べてほんとに多いかはわかりませんけど。でもそうだとすると、今季はラノベ原作で始まってるアニメが、前々からそうだったかもしれないけど、結構限界を露呈しているのかもしれないですね。そうなると『まどか』みたいな、強力なオリジナルものが求められるのかもしれない。まあ色々な作品がここ数年で出揃って、誰が何を作れるか判ったから、そこで混交していくしかないんでしょうね。月並みですが。
村 あとは『まどか』の影響がいかにでかいといったって、今季にその影響が出てくることはないですから。
さ ここからですね。
村 一年後とかでしょうからね。
さ 次に期待って感じですか。
村 いやいや、僕は『あの花』『いろは』に期待してます。そして『DOGDAYS』がどんなどんでん返しをしてくれるかに期待しつつ(笑)。
さ 今日しゃべってて『あの花』の面白さというのがなんとなくわかったんでよかった。『まどか』は続編とか劇場版はやるんですかね。
村 劇場版の話で思ったのは、普通に続編とかじゃなくて総集編として劇場公開とかがありそうなのかなあということですね。仮にそうだとしても観にいくしかない。大画面で観たい。
さ ははは(笑)。二次創作的に次の話じゃなくて、これの総集編でいいってことですか(笑)。
村 もちろん。もし『まどか』が旧劇『エヴァ』のDEATH編みたいなことやったら拍手喝采ですよ!
さ (笑)。新劇じゃなくて。
村 新劇じゃないです! 本編自体がほとんど新劇みたいなロジックで作られてるんで。それをさらにやっても……。
さ いやいや、そこでみんなで協力で大バトルもありですよ。オールライダー的な(笑)。
村 (笑)。もちろんオールライダーが成立したらいいけど、それをやるには5人は足りない。15人はいるんじゃないですか。あ、ワルプルギスとか出てくるわけか。
さ それは熱い展開ですね。全12話に出てきた魔女たちが魔法少女となって再登場! あの新キャラは誰だ? と思ったらシャルロッテの魔法少女時代だった!とか。もしくは、みんなで『逆シャア』みたいに止めるんですよ、ワルプルギスを(笑)。
村 『逆襲のシャア』(笑)。懐かしい。
さ ないわー(笑)。自分で言っててないと思う(笑)。
文=さやわか・村上裕一 構成=編集部
対談収録日2011年4月26日 大洋図書応接室
対談収録日2011年4月26日 大洋図書応接室
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さやわか ライター、編集者。漫画・アニメ・音楽・文学・ゲームなどジャンルに限らず批評活動を行なっている。2010年に西島大介との共著『西島大介のひらめき☆マンガ 学校』(講談社)を刊行。『ユリイカ』(青土社)、『ニュータイプ』(角川書店)、『BARFOUT!』(ブラウンズブックス)などで執筆。『クイック・ジャパン』(太田出版)ほかで連載中。
「Hang Reviewers High」
http://someru.blog74.fc2.com/
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11.05.04更新 |
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