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「かすみ草の序曲」
告白= 愛沢芳香(仮名・32歳)

愛する妻を快楽の彼方へ連れ去りたい――。処女・童貞同士で結婚した若い2人の夫婦生活と、その狂おしくも切ない記憶。『S&Mスナイパー』1981年4月号に掲載された読者告白手記を再編集の上で紹介します。おずおずと繰り広げられる初々しいアブノーマル交流に、温かな息遣いと灼熱の興奮を感じ取って下さい。
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赤黒いメンス液に濡れ、微生物のように無数に絡み合う草むらも、
光の中で安らぎに息づく花びらも、そして、
妻の呼吸に合わせてゆっくり上下に揺れる白いかすみ草の花も、
すべてが、メルヘンの中で詩集をひもとくような一時に思えました――。


【2】真っ白な臀部

スリップを捲られ、知らないうちに俯せの下半身を露にされた女体――それは、すでに妻という馴れ合いの存在ではなくなっていました。

私は股間に挾まれたままの生理ナプキンを、静かに外してやりました。真綿のような純白のコットンが、女陰の亀裂を写し取るように、縦長の真紅の体液を吸い込んでいます。切ないほどにロマンチックな香りが広がりました。そして私は、ぐったりした妻の右足を深く折り曲げ、百メートル走者がスタートしたばかりといった、無理な姿勢を取らせました。

それでも妻は死んだように眠り続けていました。下腹にクッションを押し込んでやり、尻を突き出して意識的に後背位を望んでいるような形にしてやったのです。

いくら悪酔いの翌朝だからと言って、睡眠剤で眠っている訳ではありません。幼年時代に砂の城を作った時のような、ひどい苦心をして作り上げたポーズです。私は押し入れからタオルケットの腰紐を二本取り出し、一本は両手首を後ろ手に、もう1本は折れ曲がった右足と頭部をつなぎ、もし妻が目覚めてもそのポーズに近いままでいられるようにさせました。

そこまでの作業を終えた私はベッドサイドに腰を下ろし、煙草をふかしながら改めて妻の寝姿を眺めました。

素晴らしい光景でした。真っ白な臀部が陽光に向かって剥き出しになり、晒け出された亀裂までが、光を浴びてメンスに濡れそぼるキラキラした赤黒さの中で、何か神秘的な生物のように蟲いていました。そして私は、何とも言いようのない欲情に駆られ、窓辺の花瓶に活けていたかすみ草の細い茎を妻の裂け目に挿し入れたのです。

赤黒いメンス液に濡れ、微生物のように無数に絡み合う草むらも、光の中で安らぎに息づく花びらも、そして、妻の呼吸に合わせてゆっくり上下に揺れる白いかすみ草の花も、すべてが、メルヘンの中で詩集をひもとくような一時に思えました。

私は、妻の亀裂にそっと唇を押しつけ、かすみ草とメンスの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、ゆっくり、ゆっくり、舌の円運動を開始しました。

「う、う、う……」

妻が苦し気に呻きます。構わずに続け、もっと激しく舐め回します。

「あん……あ、あ、あ」

嘆くような呻き声でした。でも、まだ目を開けず、半眠りの状態にあったようです。

私は張り形としては短いけれど、私自身よりもずっと太い棒状のへアトニックケースの頭部を押し込んでやりました。

「あ、あ、あ……あーん」

甘えるような声です。力を込めて、もっと深く没入させようとしました。

妻はとうとう目を開けてしまいました。それならばと、思い切ってケースをこねくり回してやりました。

「うッ……あ、あ、あ……ね、ど、どうしたの? あ、あ、痛いわよ。あ、あ、あ、ねえ。早く来て……あ、あ、あーん。早く来て!」

私は、そのまま後ろから妻と一体になり、初めて妻が、オーガズムとまで言えないまでも女の歓びを知った瞬間を目にすることが出来ました。

この朝の出来事は、その後の夫婦生活と私自身を大きく変化させる序曲となりました。悦楽の世界以来、私達のセックスは決まって朝にすることになり、ほんの一週間足らずの後、もう一つの序曲となる出来事に出会いました。

いつものように、トーストの焦げる匂いとコーヒーの香りで気持ちよく目覚めたのですが、キッチンに妻の姿がありません。

サイフォンンがグツグツ鳴っています。

よほど火を止めにベッドから出ようかとも思ったのですが、元来無精者である私は、そのままにしておきました。

いきなり、トイレのドアが開き、レモンイエローのTシャツに下半身は素っ裸、といった妙な格好の妻が勢いよく飛び出て来ました。

手際よくコーヒーを入れ、大慌てでトーストを運んでくれたかと思うと、再び勢いよくトイレに飛び込んで行きます。

「どうしたんだ? 寝坊しちまったのか?」
「バカ、今日は休業日でしょ」

トイレの中から大声で返事してくれました。

「まだ出ないのか?」
「ちょっと黙っててよ。気が散ると余計だめなんだから!」

妻は便秘症でした。最初は錠剤で事足りる程度だったのですが、服用し続けるうちに薬と馴れ合いになってしまい、ほとんど効かなくなっていたのです。

浣腸は嫌々ながら自分でやるのですが、下腹部が内側から冷やされるような悪寒がたまらない、などと贅沢なことを言い、そして我慢もしないうちに出してしまうものですから、肝心なものが出ないで浣腸液だけを流出させてしまうのです。

しばらくして、妻は浮かぬ顔でトイレから出て来ました。

「ひどいのか?」

妻はベッドにだらしなく腰を下ろし、ムスッとしたままでした。

「お前、トーストでも食べたらどうだ。上から押し込めば下から出て来るかもしれんぞ」

私がそう言うと妻は、ふてくされたように私の横に入り、背中を向けてしまいました。メンス中ですら決してイライラすることのない妻でしたが、便秘に苦しむ時だけは不機嫌になったのです。

「お腹撫でてやろうか?」

私は妻を仰向かせ、下腹を摩ってやりました。

そうするうちに私の欲望が目を覚まし、愛撫の手は下腹から少しずつ股間に下りて行きました。

「少しは楽になったのか?」
「ええ。少しだけど……。ありがとう」

妻の声は、いつもの舌っ足らずの甘え声に戻っていました。が、熱っぽい花びらはいっこうに濡れてくれようとせず、乾き切ったままでした。

便秘時に限らず、いつもこうだったのです。数日前の朝、まだオーガズムとは呼べないまでも歓びを知り始めてくれたので、私にはそれだけが気がかりでした。

膣内はちゃんと潤っているのに、外陰部がまったく濡れない女――妻が体験的にそうなのか、それとも何らかの支障があってそうさせているのか、素人向けに書かれた性医学の解説書を読んでみたところで判断しかねることでした。

私はいつもならオーラルの行為に入るところが、この時はしつこく指で愛撫を続け、唇と舌は秘部の周囲を這わせるだけにとどめました。どうしても妻の花弁に、彼女自身の蜜を溢れさせてみたかったのです。妻が次第に昂ぶりつつあることは確実でした。呼吸が荒くなり、切な気な呻きを洩らし、積極的に私自身のものに舌の愛撫を加えてくれたほどでしたから。

が、妻に期待した変化は見られず、私のほうが性交不能の状態になってしまったのです。

「お腹だいじょうぶかい?」

髪を優しく撫でてやりながら、私の急速な萎えを案じ、悲し気な表情を浮かべる妻に、そんな口実めいた言い方をしました。

「まだ苦しいわ。私のことなんか心配してくれなくていいのに……」
「俺が浣腸してやろうか?」
「恥ずかしいわ、そんなこと……」
「じゃ、タオルで目隠ししてやろう。なっ、それだったら恥ずかしくないだろう?」

と、うまく妻の機嫌をとり、先ずは目隠しに成功しました。

私には、妻の便秘症に役立ってくれれば、という真面目な気持ちもあったのですが、もう一方では、それまでオーソドックスすぎた妻の性を、なるべくスムーズな流れの中で、少しずつでも、悦楽の世界に誘ってやれれば、という真剣な性感情も同時に働いていたのです。

妻は決して不感症でなく、歓びを感じ始めてくれたのですから、もっと深く、もっと高い、きらめくような絶頂の瞬間を与えてやりたかったのです。


(続く)

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