Hujio Hama presents Fantastic Prison Novel. あぶらいふ的『S&Mスナイパー』アーカイブ! 1993年8月号掲載 常識ある大人のための肉筆紙芝居 監禁シミュレーション・ノベル 「女囚くみ子」第三回 文・画=浜不二夫 Illustration & Text by Hujio Hama |
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▼留置
ずり落ちるパンティ
死ぬ思いの身体検査がやっと終わって、服を着ることを許されましたが、ベルトはとりあげられ、パンティのはき心地も異様でした。
「ひも類は預かることになっているんだよ。ベルト、ネッカチーフ、それにパンティのゴムもかなり太かったから抜いておいたわよ」
ずり落ちてくるパンティの情け無い感覚。渡された毛布を両手でかかえると、パンティを手で押さえることさえできません。惨めに唇をかみながら、私は長い廊下を歩かされました。何重もの鉄の扉をくぐった奥に、私が入れられる、家畜のおりのように鉄格子がはまった留置室が黒い口を開けて、私を待っていました。
「入れ!」
あごの先で指示され、入ろうとした私は、
「靴をぬげ!」
とどなられました。何もどならなくても、そういう言えばいいのに、と口惜しさで胸がふさがりました。
「毛布をそこへ置け。キチンとたため!こっちを向いて座れ」
私は固い木の床に正座させられました。
「取り調べの間、当分ここに留置だ。ここじゃ、お前たちを番号で呼ぶ。お前は今目から5号だ。忘れるな。騒いだりすると防声具をかませるぞ! おとなしくしているんだ」
ガシャーシと重々しく扉が閉じられ、鍵穴に大きな鍵が差し込まれ、ビシーン、冷たい音一緒に、私を閉じ込めるための鍵がおろされました。廊下に面したほうは、全体が太い鉄捧でできた鉄格子でした。動物園の獣と一緒で、とうとう私は、動物みたいにおりに入れられて暮らす身の上になってしまったのです。灯りも薄暗い電灯ですが、消すことは許されず、一晩中つけっ放しなのです。薄い布団と毛布にくるまって固い床のうえに寝た私は、一晩中泣き明かしました。
「留置、いわゆるブタ箱入りというやつだ」
「くみ子、かわいそう……悪いことをしたんだから仕方ないっていっても、残酷すぎるんじゃないかしら。だいいち、なんでパンティのゴムを抜いちゃうの?」
「自殺などを防ぐためには紐類は留置するという規則になっている。ゴム紐だって紐だというのが彼らの理屈だ」
「そんな……パンティのゴムで自殺できる? バ力みたい」
「それがお役所ってものさ」
▼取り調べ
数珠つなぎで身柄送検
「5号! 時間だ、起きろ!」
鉄格子の外から大声でどなられて、目が覚めました。やはりいつのまにかウトウトしていたようです。自分が入られている檻の帰除、洗面、そしてまた身を切られる思いの監視されながらの用便。食事はどうやってものどを通りませんでした。そして固い床に正座して取り調べの時を待たされます。
「5号! 丸矢くみ子だな。取り調ぺだ、出ろ!」
固い床に正座させられて、足のしびれを、身をよじりながらこらえていた私は、むしろホッとした思いで、よろめきながら立ちあがりました。番号で呼ばれ、名前を呼びすてにされる屈辱の思いが胸をかすめますが、正座の苦痛から解放されるうれしさのほうが先でした。人間の体ってほんとうに弱いものなのですね。そしてその日取調室で被害者の人がとうとう亡くなった言われました。過失とはいえ、ほんとうにすまないことをしたと思いました。このとき初めて、罪を償うためには刑務所へゆくのも什方ないと諦めました。
三日ほどして、鉄のおりから呼び出された払は、身柄送検だと言われました。検察庁へ送られて検事さんの取り調べを受けるのです、その場でまた手錠をかけられたうえに、あの惨めな腰縄を……この、鉄格子のはまった一郭から一歩でも出る時には、否応なしに手錠で両手を縛られる身の上なのでした。 裏庭へ曳き出され少し待たされました。明るい陽射しのなかで、哀れな手錠腰縄姿で立たされている恥ずかしさに身を縮めていると、もう一つの口から私と同じ年頃の女の人が出てきました。そして、その後からもう一人。その人たちも、私と同じように両手に固く手錠をはめられ、腰には惨めな腰縄を巻かれて、その縄の先を男の刑事さんに握られて……。チラッと目が合った三人は、お互いの哀れな姿に白分の格好の惨めさを思い知らされ、顔をそむけてうなだれました。
私たちは、一列に並ばされ、私の手錠から伸びた縄が一人の女の人の腰に繋がれ、別な女の人の手錠の縄が私の腰に……哀れな数珠つなぎができあがりました。その格好で建物の陰に止まっていたバスまで歩かされたときの気持ち。ほんとうに牛や馬みたいな家畜にされてしまったような気分でした。バスの中でも、手錠も腰縄も解いてはもらえませんでした。同じ縄につながれた「仲間」たちは、何をしてこんな姿になったのかしらと思いましたが、お互い口をきいてはいけないと厳しく言われていましたから、たずねることもできません。鉄格子のはまったバスの窓から明るい昼間の街が見えます。私がこんな恐ろしい目にあっているのに、世の中はまったくいつもどおりなのが、腹だたしく口惜しくてなりませんでした。護送車とわかると、すれちがうバスの中からみんながのぞきこみます。顔を伏せれば、ひざの上の両手に厳しく手錠がはまっているのが否応なしに目に入って、情け無さに、思わず涙がにじみました。
検事さんの取り調べも簡単でした。事実関係ははっきりしていて、隠しようもないのです。業務上過失障害致死、要保護者遺棄、道路交通法違反、という恐ろしい罪で裁判にかけられることになりました。殺人罪の適用がなかっただけ幸せだと言われました。起訴がきまった晩からは、拘置所に泊められました。もちろん、私を閉じ込めるための頑丈な鉄格子のついた部屋に入れられ、鍵をかけられて……。
▼裁判
被告人丸矢くみ子
公判の日がきました。朝早く、いつものとおり番号で呼ばれて拘置所の居房から出された私は、女の看守さんの手で、鉄格子の外へでるときのいつもの姿、両手首に固い手錠をはめられ、腰にまで縄をつけられた、あの哀れな格好にさせられました。縄つき姿で鉄格子のはまった護送バスに乗せられ、裁判所につきます。建物の裏に、私たち被告人が出入りする入り口がありました。縄尻を取られ、バスをおり、右だ左だと命令されながら長い廊下を歩かされて、私を裁く裁判が開かれる部屋の前に立ちました。そして、身を切られるほど悲しく、口惜しい思いをさせられたのは、この死にたいほど情け無い格好のまま、家族たちまで見ている法廷に曳き出されたことでした。
看守さんがドアを開きます。部屋の中には、裁判にたずさわる人たち、傍聴の人たちが、もうおおぜい座って私を侍っていました。こんな格好のままで、と一瞬足を止めましたが、グイッと縄尻を引かれ強く背中を押されて、そのまま法廷のなかへ……。部屋中の人の視線がいっせいに私にそそがれます。そのなかを、一人の看守さんに腕と縄尻を取られて、逃れるすべもなく縄つき姿の晒しものにされて歩かされたときの気持ち! 傍聴席の片隅に身をちぢめ、心配そうな目をむけている両親の姿を見つけた時は、思わず足が止まり、その場にすわりこみそうになりました。
ひきずられるように被告席まで歩かされ、椅子に押し据えられて、何か言われましたが、気が動転していて耳に入りませんでした。舌打ちした看守さんが、手錠のはまった私の手を、グイとつかんで上へあげさせます。手錠をはめられた両手を顔の前まであげている私を待たせて、看守さんは、ゆっくりとポケットから手錠の鍵を取りだしました。みんなが見ているなかで両手にはめられている手錠をはずしてもらう……そのくらいなら、どうして部屋に入る前にはずしてくれないのかしらと、心底恨めしく思いました。
「起立!」
裁判官が入ってきて、裁判が始まりました。
「被告人丸矢くみ子、前へ出なさい。本籍は? 住所は? 職業は?」
その日一日、“被告人丸矢くみ子は、”“被告人丸矢くみ子が、”と、私の名前が裁判官、検事さん、弁護士さんのあいだで、何十ぺんとなく呼びすてにされました。何か、自分が自分でなくなってしまったような奇妙な非現実感のなかで、私は、一日中、操り人形のように立ったり座ったりしていました。
「では本日はこれにて閉廷」
「起立!」
みんなが立ちあがっておじぎをし、裁判官が出てゆくと、すぐさま看守さんが手錠を取りだして私の前に立ちます。
「両手を出しなさい!」
私は、慌てて両手を揃えてさし出し、自分のとらされた姿勢の惨めさに涙をこぼしながら冷たい手錠を受けるのでした。“両手をさし出すのが遅い!”と、毎日毎日どなられ、叱られて、哀しく身についてしまった反射的なポーズでした。
「アレアレ、かわいそうに、もう手錠をかけられてるよ」
傍聴席の声に両親さえ見ている前で……と思うと、本当に消えてしまいたいほど惨めな思いでした。
「裁判は、だれでも傍聴できるって、どうしてそんなふうになっているのかしら、被告人が晒しものになっちゃうでしょう? かわいそうじゃない」
「そういう面はたしかにあるが、秘密裁判のほうがもっと危険だということだね。おかみの気に入らない者をかたっぱしから監獄にほうりこむなんて裁判をやらないようみんなで監視する、というために裁判は公開が原則になっている。例外として、強姦事件の被害者が証人として犯された状況を説明するときといった、第三者の人権保護の場合だけ傍聴が禁止されるんだ。
裁判も簡単に終わってしまいました。弁護士さんにも、
「せめて自主していれば、執行猶予の可能性もあったと思うが、まあ、諦めて刑務所で罪のつぐないをしてくるしかないだろう。そう長い刑にはならないだろうから」
と言われていましたから覚悟していたはずでしたが、それでも、被告席に立たされ頭を下げながら、
「主文。被告人丸矢くみ子を懲役一年六月の刑に処す」
という実刑判決の宣告を聞かされた時には、
「アア、とうとう刑務所に入れられるのだ」
と思うと目の前が真っ暗になって、この日だけは、閉廷して看守さんが手錠を取り出した時もボンヤリしたままで、舌打ちした看守さんに両手を乱暴につかまれ、ガチャと打ちつけるように手錠をかけられ……そしてその日、戻された拘置所で、明日すぐに栃木刑務所へおくられると言いわたされました。
(続く)
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浜不二夫プロフィール 異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。 「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが」 |
09.06.05更新 |
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