Hujio Hama presents Fantastic Prison Novel. あぶらいふ的『S&Mスナイパー』アーカイブ! 1993年8〜9月号掲載 常識ある大人のための肉筆紙芝居 監禁シミュレーション・ノベル 「女囚くみ子」第四回 文・画=浜不二夫 Illustration & Text by Hujio Hama |
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▼護送
身の縮む手錠の旅
翌朝は、まだ薄暗いうちにおこされ、何週間か自分の入っていた独房を掃除させられました。そしてまた手錠腰縄……やはり外を歩かされるだけに手錠の点検も念入りでした。腰縄をとられて事務室へ入ると、目の鋭い男の人がソファにすわっていました。手錠姿のままその人の前に立たされます。
「これが丸矢くみ子です」
拘置所の看守がいいました。その人は、立たされている私の頭のてっぺんから足の爪先までジロジロ眺めまわしました。その意地悪そうな目付きに、私はまるで素肌をじかに撫でまわされているような感じがしてゾッと鳥肌がたちました。
「お前が丸矢くみ子か。おれがお前を栃木まで護送する。素直に言うことをきくんだぞ。わかったか。わかったら返事をしろ!」
「ハ、ハイわかりました。どうぞお願いいたします」
震えあがった私は、かすれた声で返事をしました。
「では身柄をお渡しします。受領書にサインをください」
私はまるで品物みたいに受領書と引き替えに引き渡されるのでした。拘置所の看守さんがいいました。
「まあ、体に気をつけて、素直におつとめして罪の償いをすませるんだぞ。お前も運のわるい女だ、車が出ないんで栃木まで汽車送りだ。初めてのお前には、つらい旅になるだろうが……」
「汽車送り? ということは、このあさましい格好で大勢人がいる駅を歩かされて汽車に乗せられるのだ!」
考えただけで顔からスッと血がひく思いでした。でも、嫌ですとはいえない身分なのです。しかもその上に、私と同じ年頃の若い女が二人、やはり栃木へ送られるために、私と同じ手錠腰縄姿で曳きだされてきました。一列に並ばされ腰縄で家畜のように数珠繋ぎにされ……私たちは、自分たちの姿の惨めさに思わず顔を伏せるのでした。
「さあ、行くぞ! オイッなにをしている。歩け!」
恥ずかしさ、情け無さに頭がボンヤリとしていた私は、腰縄を乱暴に引っ張られてよろめきました。その手荒な扱い。もう私は紛れもなく女囚として扱われているのです。昨日までの被告人としての、あの屈辱的な取り扱いでさえ、罪がきまった女囚の扱いにくらべれぼ、まだ穏やかなものだったのです。有罪判決が下った今日からは、残酷な罰を感謝の気持ちで受けなければならない懲役囚の身分なのでした。
早朝でも上野駅は、もう大勢人がいました。車から降ろされた私たちは、風呂敷包みを胸に抱くようにして手錠を隠し、腰縄が見えないようにジャンパーを肩からかけてもらいました。しかし、どうやってみてもおたがいの腰を縄で繋がれ、その先を看守さんに握られている格好を完全に隠すことはできません。ちょっとよく見れば、私たちが手錠をかけられて連行されてゆく女囚なのだということは、すぐ判るのでした。改札口で身分証明書をみせ、私たちを連れて通る看守さんに駅員は、
「ご苦労さんです」
と声をかけ、私たちの顔と手首をのぞきこんでニヤリと笑いました。顔から火が出る思いで改札口を通ります。すれちがったサラリーマンがびっくりしたように足をとめる気配、同年輩のOLがジロリと軽蔑の視線をなげる気配に、私は、身を縮め、死ぬ思いで歩くのでした。ほんとうにこのまま消えてしまえばどんなにいいことだろうと思ったものです。
汽車に乗り、車室の一番すみに座って、手錠の固さを手首で味わいながら、ジッと顔をふせ、涙をこらえてすごしました。車室じゅうの人がジロジロ浴びせる視線の痛さに、身を悶えながら……。
腰縄で繋がれたまま、栃木駅で降ろされました。駅には、ちょうど登校時の子供たちが大勢いました。よく女囚を見かけるからすぐ判るのでしょう。子供たちは残酷でした。
「アッ、今日も女の罪人がいる。手錠はめられてるぞ」
「刑務所へ行くんだぞ、あいつら」
「ヤーイ罪人、泥棒、人殺し」
はやしたてる声のなか、私たちは顔を肩におしつけるように伏せて立っているほかありませんでした。こうして私たちは、刑務所まで屈辱の旅をさせられたのでした。
「手錠をはめられ、腰縄をつけられ、看守に縄尻を曳かれて、関西なら和歌山、関東なら栃木にある女子刑務所に送られる(ほかの刑務所の場合もないわけじゃないが、女囚の大半はこの一個所へ送られる)。ここでちょっと不思議なのが、護送されるときの女囚の格好なんだ。終戦まで、旧刑事訴訟法時代には護送される女囚たちは、一見してそれとわかる囚衣、いわゆる赤い着物を着せられ、手錠をはめられたうえに、腰から二の腕まで厳しく縄をかけられ、何人も数珠繋ぎにされて曳かれていった。だれが見てもすぐに囚人とわかる格好だが、そのかわりに頭から深い編笠をかぶせてもらって、顔は人目に晒さずにすんだ。ところが終戦、人権尊重の新刑訴法ができたら、顔を隠す編笠は廃止になってしまった。服装は普通の服を着せてもらっているけれども、手錠腰縄はガッチリと付けられているのだから、荷物やコートで必死に隠してみてもちょっと見ればすぐわかる。自動車ならまだしも、汽車で送られる場合も少なくないんだから、結局大勢の人の目に晒しものにされることになる。あからさまに指さして笑う好奇とさげすみの視線のなか、消え入りたい思いで顔を伏せ手錠の固さをグッと噛みしめていなければならない女囚の気持ち! かえって昔の女囚のほうが、顔だけは隠させててもらえるだけ、安心だったんじゃないかね」
「ウーン、どっちにしても哀れな姿だけど……でも確かに顔をみられるほうがつらいでしようね。正直に白状すれば、顔さえ見られないんなら囚衣を着せられて縛りあげられて、大勢の人のなかを歩かされるなんて、ものすごく刺激的だろうななんて気持がチョッピリなくはないもの」
「大滝光子さんという女の人が、女性の心の底にある女囚願望を告白している。ただ縛られるというだけでなく、おおやけの権威によって身の自由を奪われ、だれからも助けてもらえず、蔑みの視線のなかに屈辱の縄付き姿を晒されなければならない、囚衣一枚のあられもない姿で、現代風に看守に手錠をかけられたり、昔風にお役人様に縄でキリキリ縛りあげられたりして、大勢の人が見ているなかを『素直に歩け!』『神妙にしろ!』などと曳きたてられてゆく。だれに助けを求めることもできず、太ももや乳房がのぞけてしまっても隠すことさえできず、みんなにあざけり笑われながら、厳しい罰をうけるために曳かれてゆく、ということが、女の心にこの上ない被虐的な歓びを呼びおこすというんだ。
屈辱を味わわされるという精神的マゾヒズム、体の自由を奪われるという肉体的マゾヒズム、そして恥ずかしい体を見られるという露出傾向、それを全部いっぺんに満足させられるというわけだ。くみ子も多分にそういう傾向があるんだから、心の奥底には女囚願望があるにちがいないんだ」
「エエッ、そんな……でも、やっぱり……もしかするとすこーしはあるのかな。こういうお話で感じちゃうんだから……」
刑務所(女囚誕生)
私たちを呑みこんだ刑務所の大きな鉄の扉が、重々しい音をたてて閉じました。とうとう私は刑務所に入れられてしまったのです。ほかから送られてきた女たちを含めて、きょうの新入りは十人ほどでした。私たちは、最初に領置室という所へ入れられました。大きな部屋で大勢の看守さんがいました。男の人も混じっていました。部屋の端に私たち新入りが、腰縄で数珠繋ぎの格好のまま並べられ、まず“送り状”通りに“品物”がとどいたか、書類と私たちとが照合されます。それからようやく、朝早くから私たちの手首を締めつけていた手錠がはずされました。しかしホッとするひまもなく私たちは、やっと自由になった手で、魂も凍るような残酷な命令を実行しなければならなかったのです。一人一つずつ大きな笛がわたされました。
「規則により私物は全部領置します。荷物はもちろん、着ている物も全部脱いでここに入れなさい。何? もちろんパンティもです! 生理バンド? “全部”っていったでしょう! なんと同じことを言わせるの!」
みんなが見ている前で腰の物まで脱がされる……。留置所や拘置所でもやらされたとはいえ、女にとっては、何度経験しても永久に慣れることのできない恥ずかしさ、惨めさでした。しかし逆らうこともできず、私たちは、卑わいな特出しストリップの踊り子同様、最後の一枚まで脱がされ、今まではいていた下穿きまでとりあげられてしまうのでした。
上も下もスッポンポン、生まれたまんまのマッパダカでベソをかいて震えながら立っている私たちに、さらに残酷な命令がとぶのでした。
「いまから身分帳を作成する。お前たち女囚の戸籍簿みたいなものだ。名前、本 籍、罪名、刑期などのほか、指紋や体の特徴も細かく記録する。もちろん写真も貼る。これからのお前たちの刑務所内での服役態度、等級、懲罰みんな記録され、永久に保存される。お前たちがどこへ送られても、必ずこいつがついて回るんだから、そのつもりでまじめにつとめるんだぞ。一列に並んで、一番奥の机から順番に取り調べを受けていくんだ。さあ行け! グズグズするな!」
取り調べを受けるのに、どうして服を脱がされて、こんなマルハダカにされなければならないのか、と恨めしく思いましたが、抗議することもできない身分なのです。
全裸の私は、震えながら最初の机の前に立ちました。机に座っている男の看守さんの前で、私は、前まで丸だしのマッパダカなのだと思うと、目がくらむような恥ずかしさに、足が震えました。
「体を伸ばしてシャンと立て。キヲツケだ、両手は脇に! 名前と罪名、刑期を言え!」
「丸矢くみ子、業務上過失致死、一年六カ月の刑です……」
哀れな格好で罪名や刑期を言わされ、女囚の身の惨めさをかみしめます。書類に何か書き込んだ看守は、
「ヨーシ、お前の称呼番号は865号だ。ここを出るときまでは、この番号で呼ばれるんだから忘れるな!」
女囚865号。囚人番号もつけられました。私はとうとう紛れもない女囚になってしまったのです。続いて横30cm、縦15cmくらいの小さな黒板に紐がついたものを渡されました。
「それを首からさげろ」
惨めに首にブラ下げた黒板、それには「865号 丸矢くみ子、S×0・2・13生」と大きく書いてありました。生まれたまんまのスッ裸で、これを首からブラ下げて部屋中をまわるのです。惨めさに涙がほおをつたいました。
次の机の看守さんは、人間の輪郭を印刷した大きな厚紙を持っていました(人形札というのだと後で教わりました)。
「頭髪・黒、パーマかけてるんだな?肌・色白、体形・小肥り……右下腹・盲腸の手術跡と。フフン、股の毛は薄い方だな、剃っているわけじゃあるまい? ヨーシ、うしろを向け、フフフ安産型の尻だな。肩の傷はなんでできた? 入れ墨は無いな」
傷跡、ホクロ、あざなど丹念に記録されるのです。しか人形札に記入されるばかりでなく、
「ヨーシ、こっちへ来てここに立て!」
壁際の足型どおりに立たされると、目の前には、アア、三脚の上にカメラがこっちを向いています。
「写真! こんなマッパダカの体を写真にとられるんだわ!」
恥ずかしさに顔がカッと熱くなりました。
「両手を脇に。手を前からはなせ!」
フラッシュが顔の芯まで突きささりました。
「横を向け! 黒板が見えるようにこっちへまわすんだ。ヨーシ、今度はまわれ右、番号札を背中にまわせ!」
横顔から丸出しのお尻まで。私たち哀れなヌード・モデルたちは、思ってもみなかった全裸の写真を、屈辱の囚人番号つきで、うしろから前から余すところなく撮影されるのでした。
「この写真が、お前たちの身分帳にはられるんだ。どこへ移送されても身分帳がついてまわる。万一逃げたって、股倉の毛の生えぐあいまで記録してあるんだからどんなに変装したって必ずつかまる。諦めておとなしくお勤めをするんだぞ」
裸の写真まで撮られてしまったのだから、どうすることもできないのだ。ほんとに諦めるほかないのだと、心の底から思いました。それにしても一糸まとわぬ全裸の写真を身分帳にはられるなんて! 私の体のすみずみまで、お乳からお尻から、恥ずかしい毛まで写っている写真が、いつまでも大勢の男の人の目に晒されるのだ、そう思うと、恥ずかしさに目がくらむ思いでした。
(続く)
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浜不二夫プロフィール 異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。 「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが」 |
09.06.12更新 |
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