The current AV for woman
特集「女性向けAVの現在形」
彼女たちが観て感じたこと/24歳ブライダル関連勤務 ゆきさんの場合特集「女性向けAVの現在形」、満を持して製作された女性向けAVを“アダルト業界の住人ではない一般の女性”が観たなら……。女性に喜んでもらえるよう、様々な工夫が練られていることはこれまでの記事を読んで頂いた通りですが、肝心なのは女性ユーザーの生な反応。というわけで3人の女性に女性向けAVを観た率直な感想を伺いました。お一人目は24歳ブライダル関連にお勤めのゆきさん。お話を聞いていただいたのは、ライターの雨宮まみさんです。
しかしその反面、自分自身がAVを観たいと思ったり、観て興奮すること自体をおかしなことだと思ったことは一度もない。「女に性欲があるなんて、そんなの『普通』じゃないか」と、当たり前に思っている。
今回の女性向けAV特集で、いくつかの作品に触れて面白いと思ったが、私のようなアダルト業界の人間はエロに触れる総量が非常に多い。普通の女性の感覚も持っているつもりだが、どこか一般的な感覚が麻痺しているのは間違いない。そこで「いわゆる世間的にも『普通』と言われるような女性が、女性向けのAVを観たら、いったいどのように感じるのか?」ということを、一人一人の女性へのインタビューで検証してみよう、という案が出た。
いったい「女性向けAV」は、一般の女性にも『普通』に受け入れられるのだろうか。まるで自分のことのように不安に思いながら、取材に応じてくれる女性に会いに行った。
インタビューを承諾してくれたのは、24歳のゆきさん(仮名)。週末を中心にブライダル関係の仕事をしている女性である。今日はオフだというゆきさんはあどけない顔立ちで、ファンデーションも塗ってるのだろうか?というくらい薄化粧の、肌がキレイで清潔感のあるタイプ。ガーリーな雰囲気のカジュアルなスタイルが似合っていてかわいらしい。ゆきさんはAVの感想をしっかり携帯のメモに書き込んで来てくれ、自分の考えや意見を静かに、はっきりと語ってくれた。
――普段はどういうお仕事をされてるんですか?
「ブライダル関係で、カラーコーディネイトのアシスタント業務をしています」
――今までAVを観た経験は?
「ラブホテルで、彼氏と少〜しだけ観たっていう程度ですね」
――そのときの印象はどうでした?
「なんかエグいというか……。女優さんがかわいそうだなっていう印象でした。超・演技!って感じで喘いでたり、無理矢理潮吹きさせられてるのを観て『うわ〜痛そう!』って思ったり。『男の人はこれでよく興奮できるな』って思いました」
――ゆきさんは興奮どころではなかったと。
「たまたま観たのが悪かっただけで、全部がそういうのじゃないのかもしれないですけど、女の人にばっかり奉仕させてるような内容だったんですよね。男の人は女性に奉仕させたり、潮を吹かせたりするAVが好きなのかもしれないけど、女性はそういうの求めてないですよね。私はしたいともさせられたいとも思わないし。だから今まで、あまり観たいとは思ったことがないですね」
――ゆきさんは、自分がムラッときたときには何か観たり、読んだりします?
「うーん、小説ですかね。ちょっとエッチな描写のある普通の小説を読むことが多いです」
――官能小説ではない一般作なんですね。
「はい。村上春樹とか、ちょっとエッチなシーンがあるじゃないですか。よしもとばななとか、大槻ケンヂとか……。あとはたまに友達にレディコミをもらって、それを読んだりする程度で。エッチなもの自体に接すること自体少ないです」
――AV以外のエッチなものに対しては、入り込みにくい印象はない?
「ないですね」
――自分で買うのはどうですか?
「自分で買うのはすごく抵抗があります。だから小説とかも普通の小説しか買えないし、レディコミも友達からもらってしか読めないんです(笑)」
■SILK LABO『恋するサプリ』を観て
――今回、観ていただいた二作品の感想を聞かせていただきたいんですが、まずSILK LABOの『恋するサプリ』はいかがでしたか?
「三話のオムニバスだったんですけど、三話とも女優さんがスレンダーすぎたり、巨乳すぎたりしなかったのがまず良かったです」
――普通っぽい体型のほうがいいということですか?
「はい。雑誌とかでもそうなんですけど、水着のグラビアモデルがスレンダーすぎたり巨乳すぎたりすると自分と比較して『あぁっ……!』ってなっちゃって、それ以上見る気になれないんですよ」
――あまりにもスゴイ体型だと、自分と比較して悲しい気持ちになっちゃいますよね。
「そうなんですよ。『あぁ……巨乳!』って落ち込んで、最終的には『なんだよこの巨乳!』みたいな荒んだ気持ちになっちゃう(笑)。スレンダーな人を観てても、自分の肉が気になってきちゃうし。キレイすぎたり、自分とかけ離れすぎてると入り込めないので、女優さんがいい意味で普通っぽいのがいいなと思いました」
――まずそこにハードルがあるんですね〜。内容的にはどうでしたか?
「一話目の甘えん坊な男のコがすごいかわいかったですね。ベッドで『起きれない〜』って甘えてきたり、そのあと『一緒にお風呂入ろうか』っていう流れになったり、ああいうのってちょっと憧れますよね(笑)。こういうシチュエーションっていいなと思いながら観てました。でも、お風呂に入ったあと、女優さんがけっこうしっかりメイクされてたのが気になりましたね。頬紅が濃く入ってて」
――そういうところのリアリティが気になるんですね。
「もうちょっと落としたほうがいいんじゃないかなと思っちゃいました。もともと肌がキレイそうな女優さんだったので、もっと汗ばんでたり、お風呂上がりっぽい感じにメイク落ちてるほうが良かったですね」
――二話目は「しっかり系年下男子」のお話でしたが、それはどうでした?
「あれは私としては理想的な男性でしたね! 私がダメ人間なので、面倒見てくれる、甘やかしてくれる男性は理想です。朝寝坊して起きたら朝ご飯作ってくれてるなんて最高じゃないですか!」
――二話目は文句ナシの出来ですか?
「男優さんの顔がキレイすぎて、少し目をいじってるのかなって。そこが気になってしまって」
――ゆきさんはそういう「不自然に見える部分」が気になるんですね。
「不自然なのがすごく嫌なんですよ。ドラマとか映画を観てても同じようなポイントが気になります。お風呂上がりなのにバッチリメイクとか、顔が整いすぎてるとか。そういうところにひっかかっちゃうので、女優さんも男優さんもナチュラルな感じの人に出て欲しいです」
――例えば、男優さんの中にはムキムキのマッチョ系の人もいらっしゃいますけど、そういう方が女性向けAVに出演するのは嫌ですか?
「私、ムキムキがダメなんです。気持ち悪く感じちゃって。できるだけ普通であって欲しい。それか逆に貧相であって欲しいですね。ヒョロヒョロだったりするほうが普通っぽくていいです」
――三話目の、ちょっと意地悪な年下男子はどうでした?
「あれもステキでした。普段は意地悪なんだけど、肝心なところで『僕は本気ですよ』っていう一言にグッと来ました。終わったあとも『これからつきあうんですよね?』って、相手の女性のことをそれまで名字で呼んでたのに、名前にちゃん付けで呼んだりするのがいいな〜って」
――三話ともストーリー的にはけっこうグッと来るポイントがあったみたいですね。
「はい。全体的にすごい好感度は高かったですね」
――SILK LABOの作品は、実際のエッチシーンは普通のAVに比べると短い方なんですが、実際にオナニーに使える感じはしましたか?
「しましたね! 特に三話目は良かったです。ああいう強引な感じとか、意地悪っぽい笑顔とかもいいし、イヤイヤって軽く抵抗しながらされちゃうっていうのもいいです」
――具体的なエッチシーンそのものだけでグッと来てるわけじゃなく、その前のシチュエーションや関係性も含めてグッと来たり、興奮したりしてる感じなんでしょうか。
「普通のドラマの延長線上にエッチがあるっていう感覚だったのが観やすかったんですよね。エッチシーンを除けば夜のドラマの普通の枠に流れてても違和感がないような内容だから入りやすくて。行為に入る前のエピソードや、普通の恋人同士の日常っぽいシーンも単なる前振りじゃなく、『いいな〜』『こういう男のコかわいい!』とか思えて気持ちが盛り上がるんです。三話目も、エッチシーンの前の普通のシーンでの意地悪な行動や表情に『あぁ〜!』ってなって、ムラムラッときちゃいますね」
――セリフや仕草、シチュエーションがかなり重要だということですね。
「はい。あと、キスをするシーンがすごく多いのが良かったです。エッチの最中も『好き』とか『幸せ』とか言い合いながらしてるのがいい。結局、極論を言うと気持ちいいかどうかっていうことより、好きかどうか、幸せかどうかっていうほうが大事だと思うんです。好きだったら幸せだし、気持ちいいし。たぶん、男性はそういう気持ちが薄いから性風俗が成り立つんじゃないですかね。女性の性風俗が成り立たないのは、好きとか幸せとかいう気持ちの問題が大事だからなんじゃないのかなって私は思ってるんです。個人的にはそういう『好き』や『幸せ』っていう気持ちを感じられるかどうかが大事なポイントなんですけど、そこをしっかり押さえてくれてる感じがしました」
――エッチの内容的にいいと思うところはありましたか?
「ちゃんとセーフセックスというか、コンドームを着けるところを見せてくれてるのが好感度高かったです。あれはちゃんと見せるべきですよね。私は行為そのものより、二人の関係性とかそういう部分が重要なので。なれそめやイチャイチャがあって、行為は最後にちょこっとあればいいですね。ホント、二〜三分でいいぐらいです(笑)」
■JUICY DINER 『オナ× MEN feat. 健太〜予備校に通う" メガネ男子" とラブホで…』を観て
――では、JUICY DINERの『オナ×MEN feat.健太〜予備校に通う"メガネ男子"とラブホで…』はいかがでしたか?
「これは……。総合的な感想を最初に言ってしまうと『生理的に合わなくて、つまらない』ですね。自分で借りようとも思わないし、友達に借りたとしても観ないです。観ても途中でやめると思います」
――どういうところが合わなかったですか?
「最初の男優さんのインタビューがまず入り込めなかったです。有名な男優さんなのかもしれないけど私は知らない人だし、カッコいいともあまり思えなくて。『この人は誰なんだろう?』って思ったままインタビューが終わってしまって、ポカーンとしてしまいました」
――ちょっと置いてきぼりな気持ちになってしまったんですかね。
「はい。あと色調やライティングが暗めで、観ていてきつかったです」
――内容的にはどうでしたか?
「これ、ちょっとオタクっぽい男のコの設定になってるんですけど……脱がせると、筋肉が発達してるんですよ!」
――出ましたね! ゆきさんのリアリティへのこだわりが!(笑)
「あんなに鍛えてるのはオタクじゃないですよ! もっとヒョロヒョロのガリガリじゃないと! あと、すごいキレイに日焼けしてるのが『日サロに通ってるだろ!』って感じで、なんでこの人をオタクっていう設定にしたのかと激しく疑問に思いました」
――AVで「清純派女優」って言われて買ったら全然清純じゃなかった! みたいな裏切られた感があったんですね。
「そう、清純派って書いてあったのに観てみたら茶髪にへそピアスだった! みたいな感じ(笑)。あと、ギャランドゥっていうんですか? あのおへその下の毛が……。あれ剃ったほうがいいと思います。個人的に毛深いのが苦手っていうのもあるんですけど、オタクっていう設定だったら絶対に剃ったほうがいい!」
――ゆきさんは「違和感のある設定」や「自然じゃないこと」が気になって、そこで冷めてしまうんですねぇ。
「そうなんです。色白だったらまだ毛深くても良かったかもしれないけど、焼けてて毛深くて、さらに筋肉もあってってなると『オタクじゃないだろ!』ってすごくツッコミたくなってしまって」
――痴女系の内容というのはどうでしたか?
「苦手でしたね。でも、痴女系そのものが苦手なんじゃなくて、内容的に合わなかったんですよね。お茶を口から垂らして飲ませたり、そのあたりからもうダメでした。最終的に男優さんが出したモノをコンドームから絞り出すんですけど、それもちょっと……。辱めるプレイの一環として、コンドームを取り上げて男の人に投げつけるとかだったらまだ意味は理解できるんですけど。これを観て興奮する女子っているのかな?と感じてしまいました。
あと、女優さんの顔がほとんど映らなかったじゃないですか。あれも『何でなんだろう?』ってすごく疑問で。内容にも設定にも疑問ばかり浮かんできて、生理的に苦手な内容だというのもあって、イマイチでした」
■これからの女性向けアダルトコンテンツに期待すること
――今後、女性向けのアダルトコンテンツが出てくるのであれば、観たいと思いますか?
「『恋するサプリ』みたいなものだったら観たいと思いますね。積極的に観たい、というところまではいかないかもしれないけど、携帯の動画配信とか、手軽に観られる形であれば観たいです。でも、パッケージを購入してっていう形では観ないですかねぇ」
――パッケージを購入するっていうことに抵抗があります?
「そうですね。それが家に置いてあるのも嫌ですし、パッケージを買いに行くことをまずしないですね。そういうショップに行くこと自体ないですし。携帯の配信では、たまにアダルトなマンガは購入して読んでるんですよ。なので配信であれば、そういう感覚で観ることもあるかなと思います」
――お金を払っても観たいと思います?
「マンガにはお金を払って読んでるんで、AVでもものによってはお金を出して観ると思います」
――個人的な好みとしては、どういう内容のを観たいですか?
「『恋するサプリ』の三話目みたいな、愛情はあるんだけどちょっと強引で意地悪で……みたいなのがツボですね。『意地悪だけどホントは好き』って、少女マンガみたいで理想です。わざわざおぶって送ってくれたり、靴ずれができてるとか細かいところまで見て気遣ってくれてるとか最高ですよね!」
――ホントに細かく観ていただいてますねぇ……。女性向けAVに対して、要望はありますか?
「いろんなものを作ってみて欲しいなと思います。もっといろんなバリエーションがあればいいなと。私は痴女系が苦手ですけど、そういうのが好きな人もいると思うし、もっと楽しい設定があってもいいですよね。日常からちょっと離れて『今日はこういうことして遊ぼうよ』ってコスプレしたりするような作品とか……」
――そういう作品って、もしあったら参考にしようと思ったりします?
「そうですね。いいきっかけ作りになるかなと思います。自分では直接言いづらいことや、言いづらい性癖があっても、そういう作品を一緒に観ればさりげなく『ちょっと真似してみようよ』っていう形で入れるじゃないですか。そういうのはいいなって思いますね」
AVは男性でも、個人の趣味嗜好によって好みや評価がかなりハッキリ分かれる。苦手な性癖やジャンルのものに対しては「許せない」というほどの拒否反応を示す人もいる。セックスは直接的に生理に訴えかけてくるものなので、反応もダイレクトだ。ゆきさんは「個人的には男の人が迫ってくるタイプのものが好みで、痴女系は苦手だからかもしれないですけど」と前置きした上で、個人的に感じた好感や嫌悪感を正直に語ってくれた。
もちろん、ゆきさんが一般女性の総意を代表しているわけではないし、ゆきさんも好みや自分なりの性癖を持った「個人」である。そういう意味では「普通の女性」なんてどこにもいない。ゆきさんの意見だけを鵜呑みにして「普通の女性はこう感じている!」と早合点してしまうのは良くないと思うが、直接お話を聞かせてもらった感触としては、グッと来た点も苦手だった点も感情を交えて、表面だけではなく深く入り込んで観た感想をイキイキと語ってくれたゆきさんの姿がとても印象的だった。きっかけさえあれば、ゆきさんのようにしっかりとAVを観て、自分なら買うか、進んで観るか、内容的にどう思うか評価し、自分の言葉で語れる女性はたくさんいるのだという可能性を強く感じた。
文=雨宮まみ
『恋するサプリ ─年下のカレ─ (SILK LABO)』
『オナ×MEN feat.健太〜予備校に通う“メガネ男子”とラブホで… (JUICY DINER)』
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雨宮まみ エロ本を中心に活躍中のエロ・AVライター。1976年生まれ。2000年ワイレア出版入社、投稿系エロ雑誌の編集に携わる。2002年フリーライターとして独立。主にAV誌を中心に取材やレビューなどの執筆活動を続けている。また、弟に向けてAVを紹介するという形式のAVレビュー系ブログ「弟よ!」も話題に。
雨宮まみブログ=「弟よ!」 |