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『S&Mスナイパー』1980年8月号読者投稿小説 「悪魔の微笑」
作= 安曇野香平

屈辱の排泄、恥辱のデッサンに身をよじって抵抗する美人画学生・静香。身体各部へのフェティシズムを盛り込みながら、徹底的な羞恥責めを遂行するインモラルな行為の行く末は……。『S&Mスナイパー』1980年8月号に掲載された読者投稿小説を、再編集の上で全四回に分けてお届けしています。
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【2】狙われた肌

「わるいけど、ちょっと、きみの足を見せてくれないか」

デッサンノートを片手に持って、利夫が言った。

手足は人間の身体のなかでも、最も形のとりにくい部分なので、よく友だち同志で描きつこをすることがある。だから別に珍しいことではないのだが、利夫とふたりだけの部屋で、その上パンストもはいていたので、静香はややためらった。

「ほんとうにわるいけど、どうしても早いところ仕上げてしまいたい絵があるんだ」

むげに断わるわけにもいかない。少しの間、利夫にむこうを向いていてもらって、パンストを脱いだ。

「小さな足だね。サイズはいくつ?」
「二十二……」
「女の子はたいてい二十三くらいだろ?」
「わたし小柄だから……」
「足のなかでも、ここを描くのはいちばん難しいな」

そう言いながら利夫は、静香の白い爪先の前面を左右に撫でた。

「ここを描く練習をすると、いい勉強になるよ……」

爪先は意外にくすぐったかった。

「足にも顔と同じように、さまざまな表情があるんだ」

と言いながら利夫はペンを走らせる。

「手を上にあげて、少し背中を反らしてくれないか」

静香は言われた通りにした。

「スカートがどうも、邪魔になるなあ。ふくらはぎの線がよくわからない」
「これでいい?」

静香はワンピースのスカートを摘んで、たくし上げた。

「手を下げないでほしいなあ。重心が狂っちまうよ」
「でも……」
「いっそ脱いでくれないか。そのほうが早く終わるし、下になにも着てないってわけじゃないだろ?」
「でも……恥ずかしい……」
「それはないだろう、だったら裸で仕事をしているモデルさんは、どういうことになるんだ」

と、利夫は苛立ち気味の口調で言った。

「君は、恥ずかしがりすぎるんじゃない?」

言われてみれば、確かにその通りかもしれないと思った。家の風呂が故障して、銭湯へ行かなければならないという場合でも、静香はとまどってしまい、あれこれと理由をつけて行かずにすませたこともある。

静香はそっとワンピースのボタンに手をかけて、それを脱ぎ、部屋のすみに立てかけてあるキャンバスの上に置いた。

ストラップがかかっているだけの肩のあたりが、妙に肌寒くなって、おもわず両手で二の腕を覆った。ナイロン地のスリップが、つるっと手の平を滑った。

「それじゃ、描かしてもらっていいかな……さっきみたいに手を上げて、背中を反らしてくれないか」

手を上げようとして、静香はここ数日の間腋毛を剃っていなかったことに気がついた。

おそらくもう、少し生えかかっている頃だろう。毛の頭がポッボッ顔をのぞかせている腋の下を利夫が見たら、どう思うだろう。すくなくとも、あまりいい感じはしないだろうし、ひょっとしたらわたしのことを、だらしのない女だと思うかもしれない――静香は後悔した。

「手をあげるのは、恥ずかしいわ……背中を反らすだけじゃ、だめ?」
「なんで手を上げるのが恥ずかしいんだい。どうってことないじゃないか」
「でも……ごめんなさい……わたし……」
「きみはほんとに、照れ屋さんだね……それじゃ仕方ないから、重心を移動させるために、この手拭いで足首をテーブルの脚に固定したいんだけど?」

と利夫が言った。

「いいわ……そうする……」

静香は左足を曲げて、テーブルの脚に押しつけた。

「ちょっとの間だけだから、我慢しろよ」

そう言うわりには利夫の縛り方はいやに丹念だった。

「でも手拭いが邪魔にならないかしら」
「いいんだよ。おれの描きたいのは、足だけじゃなくて君の身体の感じなんだから」
「足だけじゃないの?」
「それもあるけどさ……君のようなすっきりした見事な身体にお目にかかるのは、珍しいことだからね」

利夫はスリップの上からすっと静香の胸を撫でた。

「あ、いやよ、そんなことしたら……」
「やせているわりには、大きな胸だね……お尻もかなりの大きさだ……」

まるで獲物の品定めでもするように、利夫は身体のあちこちを撫で廻し始めた。

静香は本能的にテーブルから手を離して利夫の手を払いのけようとしたが、バランスを崩して畳の上につんのめってしまった。

利夫は助け起こそうとする様子もなく、にやにやしながら、はだけたスリップから覗いた静香の太腿を眺め廻している。

「ずいぶん派手なパンティをはいているんだね」

はっとして静香はスリップの裾を引っ張って赤いギンガムチェックのパンティを隠した。

「でもいい柄じゃないか。君にはよく似合っているよ……」

静香は顔を赤らめた。

下着を男に見せてしまったことで、いいようのない罪悪感のようなものが心に浮かんできた。自分から好んでしたわけではないが、ひどく淫らな女になってしまったような気がした。

「ちらっと見せて隠すなんて……君もなかなかの食わせものだねえ」

利夫は白い歯を剥き出して、にやりと笑った。

「そ、そんなつもりじゃ……」
「じゃあどんなつもりなんだい。ふたりだけの部屋でわざと倒れて、これ見よがしにパンティを見せつけるってのは……」

利夫の言葉はまったく意外だった。

「ひどいわ……わたし、わざと倒れたりなんかしないわ」
「言い訳なんかしなくてもいいよ。君のやりたいことは、初めっからわかってるんだから」

静香はむっとした。絵が描きたいというから、恥ずかしいのを我慢してこんな恰好になったというのに、なんという言いぐさだろうと思った。

「わたし帰る」
「そんなに気取るなよ……それに、やりたいこともやらないで帰っちまったら、不満で寝られなくなるだろうしな……。夜中に蜜があふれてパンティがぐしょ濡れになっても、慰めてくれる男がいなかったらどうする。もっと素直になって、さあやってくださいと、脚をおっ広げたらどうだ」

利夫は信じられないような卑猥なことを言った。

静香はあっけにとられてしまった。普段は女などには眼もくれずに絵の制作に熱中している利夫からは、想像もできないような口ぶりだった。

「い、……いやよ……」

足をばたつかせて逃げようとしたが、片足を縛られているので自由がきかない。テーブルからビンが数本落ちてきてぶつかり合い、ポピーーオイルが流れ出した。

「君は正直になれそうもないね……やはり縛るしかないだろうな」

利夫は麻縄の束を持ち出してきて、静香にせまった。

「なにするの……そんなもので……」
「きまってるだろ。縛るんだよ」
「だめ、そんなこと……いやっ」
「うそつけ、ほんとは縛られてみたいと思ってるくせに……女はみんな同じさ……」
「わたし、いや、やめてよっ」
「おとなしく縛られちまえよ。悪いようにはしないからさ」
「冗談じゃないわ、わたし帰ります!」
「うるさいなあ、ピーピー騒ぐんじゃないよ」

利夫は静香の腕を引っ張って、両手首に麻縄を巻きつけた。

「ひいっ」
「どうだい……手拭いなんかより、ずっと気持ちがいいだろ……縛られてるっていう感じがするだろ」
「いやだっていうのに!」
「足も縛ってやるよ」

両足首にも、麻縄が巻きついた。

(続く)

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