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発売日:2011年8月25日
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『涼宮ハルヒの憂鬱』におけるハルヒダンスの創出とシリーズ演出、また『らき☆すた』『かんなぎ』のアニメーション監督などで知られる山本寛氏が、「この作品が失敗すれば引退も辞さない」と発言するほどの意気込みと決意をもって2010年に放った最新作『フラクタル』(FRACTALE) 。それは終わりゆく世界を描きながら、製作途中で未曾有の災害に直面し、話題を呼びながらも評価は大きく分かれた。はたしてこの作品の真価は、いったいどこにあったのか――。独自の批評世界を展開するターHELL穴トミヤ氏が、鋭い視線で徹底検証。今一度、全話レビューを敢行します!!
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■Episode9「追いつめられて」

「いつまでもみんなと一緒にいられますように」というセリフが衝撃的でした。シリーズの中で見たらもっと別に観る場所があったのかもしれないけど、今回はあまりに特殊で、もうこのセリフが他を圧倒していました。今回からは、フラクタルではなくて、観ているほうのストーリーが変わってしまった。この全話レビューはずっと、TV放映時の録画を観て来たんですが、今まで右上に「地デジ云々」とか、「携帯で『フラクタル』今すぐ検索!」とかそういうテロップが出てきても、無視というか意識に入ってこないのでその点には触れてきませんでした。
でも前回と今回の放送日の間に、3月11日を挟んでいて、今回のフラクタルは左と下にずっと災害情報が流れていた。この第9回は東日本大震災の週に放送してたんですね。一時期ずっと眺めていたあの帯がまた出てきて、これはもう当分、もしかしたらフラクタル最終回まで消えないんでしょう。この帯の部分は、フラクタルじゃなくて、観ている自分、自分の世界が流れている。忘れていたあの地震からあと、数週間の記憶が蘇えりました。
もちろんこの回はそれより前に製作されている訳ですが、というかじゃなかったら、あの週の、今まさに大勢の人の家族や親しい人間が亡くなったり、行方不明になったりしている中で「いつまでもみんなと一緒にいられますように」なんて言えませんよ。でも、これは最後まで残る本当の言葉じゃないでしょうか。製作者は、山本監督はこの自分の放送を3月のあの週に観たんでしょうか。どんな気分で観たんでしょう。


(c)フラクタル製作委員会
『フラクタル』Episode9「追いつめられて」(放送日時=2011年3月17日 24:45 - 25:15 放送局=フジテレビ)より引用

↑今回はもう、気もそぞろになってしまって、最初観たときはストーリーが全く頭に入ってきませんでした。そしたら冒頭のセリフのシーンが始まって、衝撃を受けました。


前回基地が爆発しましたが、シェルターから主人公が出るとそこは一面焼け野原なんですね。主人公が空を見上げると飛行船で仲間が助けに来て、タイトルに入る。今回、僧院がついに住民に向かって「テロリスト集団は敵です」とはっきり宣言します。宣戦布告によって、テロリスト軍団は居場所がなくなる。ABCD包囲網で日本が対米開戦に踏み切ったように、居場所がなくなったテロリスト軍団は、この世界の中央である僧院に一斉攻撃を仕掛ける覚悟を決める。そういう回でした。
だからすごくセンチメンタルな訳です。みんな無事帰れないかもしれないことが分かっていて、主人公もやはり「僕も行くべきだろうか」なんて言い出します。でも彼は、隊長役の奴から「お前は残ってナウシカガールと、天真らんまんドッペルを守れ」と言われるんですね。そして、テロリスト軍団は3人を置いて出発するんですが、その前に記念撮影をする。ここはもう太平洋戦争の出征シーンにしか見えなくて、やがて歌が流れて、一回エンディングのようになりました。みんなが出撃して行き、主人公たちだけが、世界のはずれのユートピアみたいなところに取り残される。
この歌が流れるシーンをターニングポイントとして、今回は今までのフラクタルが終わる回だった。それが日本の日常が終わった週に放送されていました。


(c)フラクタル製作委員会
『フラクタル』Episode9「追いつめられて」(放送日時=2011年3月17日 24:45 - 25:15 放送局=フジテレビ)より引用

↑笑顔で記念撮影をして、主人公とテロリスト軍団は別れます。


さらに今回は、ナウシカ少女とドッペル少女の関係も明かされます。2人は、僧院が「神」とあがめていた、ある1人の少女を元に作られている。ナウシカ少女はその肉体で、ドッペル少女はその心なんだと。そして2人がまた1つになる時、鍵ができる。それを考え出したのが変態神父だということでした。
みんな行ってしまった後、この2人と主人公がテラスに座って、風に吹かれながら麦畑の前で話している。まるで時間が止まってしまったかのようなシーンで、平和で、小鳥がさえずって、ナウシカ少女が主人公に「あなたの願いは何?」と聞く、そこで出てくるのが冒頭のセリフです。そしてその晩に、このナウシカ少女はそこを抜け出して、僧院側に1人で投降してしまうんですね。
この印象的な、幸福感に満ちたシーンが示していたのは、いつまでも続いて欲しいと思う「みんなが一緒にいられる」時間というのは、人生において驚くほど短いんだということでした。にもかかわらず、人生にはこのシーンのように、麦畑を前にして何にも欠けていないような完全な瞬間がある。いや、この回を作った時にそれを主題に考えていたのかは分からないですよ。でも、この第9回が放送されたあの週は、その事実が何より深く目の前に突きつけられた週でした。まだ1人で寝るのが怖いような子供の頃、短冊に願いごとを書いて、でも結局人生で一番大切なことはその頃と変わらない。「いつまでもみんな一緒にいられますように」ということ以外ない。いや、あの週はそんなこと考える余裕すらなかったですが、今振り返ると、3 月11 日に大震災が起きて僕が思ったのはそのことでした。


(c)フラクタル製作委員会
『フラクタル』Episode9「追いつめられて」(放送日時=2011年3月17日 24:45 - 25:15 放送局=フジテレビ)より引用

↑何も欠けていない、最も完全な瞬間が流れていました。


でも、『もののけ姫』ではそれは政治的立場の違いで引き裂かれていきます。『エヴァンゲリオン』では、社会の義務が一緒にいることを引き裂いていく。『フラクタル』では何が主人公の「みんな」を引き裂いたんでしょうか。自由でしょうか? 全ての人の欲望でしょうか? これが放送された週、日本では、津波災害と原発事故が引き裂いていた。たとえ何が起こらなくても、「いつまでもみんなと一緒にいられますように」というのは、人に寿命がある限り絶対に叶わない願いです。でもそれこそが最も強い願いでもあるということを、今回観て思い出しました。

文=ターHELL穴トミヤ

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フラクタル - FRACTALE - 公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊 ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。 http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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12.02.19更新 | WEBスナイパー  >  『フラクタル』全話レビュー
文=ターHELL穴トミヤ |