The decision to fight against the world which cannot be finished.
“終われない世界”に、立ち向かう決意を。 |
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『フラクタル』も残すところあと1回。最終回に向け、すさまじいラストスパートをみせてくれるに違いない! さあどうなるのか!?と思ったんですが、第10話の終わりは「透明な壁越しに、変態神父に抱きしめられ、もみもみ、ペロペロされるナウシカガールを呆然と眺める主人公之図」でした。大丈夫なんでしょうか。いやそれもいいですけど、そういうのはもうちょっと前にやるんじゃないのか! あと1回で終わるっていうのに、今さら寝取られ展開で性欲刺激してる場合じゃないだろ!と心配になってしまいましたが、いやいや、これも宮崎駿や庵野秀明が救えなかった世界を救う突破口なのかもしれない。
思い出してみればナウシカ少女はちょっと前から「私がまだ美しかった頃の…」みたいなことを、ちょくちょく口走るようになっていたんですね。これは考えてみれば危ない! もし自分が教師だとして、夏休み明けに生徒がこんな感じになっていたら、これは放課後職員室に呼び出しものですよ。事と次第によっては児童相談所に通報! そんな事態です。
大体、今までナウシカに似てるから散々ナウシカ少女と呼んできましたが、そこには『フラクタル』なりの似てる理由があったに違いない。うかつでした。僕がもっと早く気づいてあげればこんなことにはならなかった! そこで、遅ればせながら考えてみると、まずナウシカというのは、まさに2次元世界のマリア。母性と処女性を両立したキャラクターとして、日本で最も認められた存在なわけです。そして、宮崎駿の次を狙う山本監督はどうやら、『フラクタル』でこの娘をポスト・ナウシカにしたいと。となれば『フラクタル』のナウシカは、「世界のために甘んじてけがされてしまった存在なんだ」とか、「母性と処女性の両立なんてこの世に無いんだ」みたいなことになるでしょう当然! そして、それがどう世界に関係して来るのか、次回、刮目して『芳醇な愛で結ばれている我々をみせてあげないとねえ』という変態神父の行動を見極めよ!とこういう魂胆なんだー、うわー!やめてー!
という今回だったんですが、そこに到るまではアクションばりばりでしたね。しかしこれはピンと来なかった。僧院の空中神殿に突っ込んでいく途中、僧院の飛行船が雲に沈み込みつつ爆発するシーン、ここは重量感があってよかったですが、あとはジブリはジブリでも、「こりゃ『ゲド戦記』だよ!」みたいな。主人公が最初テロリスト軍団に「人殺しじゃないか!」とか言ってるのに、3 回ぐらいCM を挟むともう「ウオー」と言いながら乱射してるのもいただけないですね。
それより今回はナウシカガールと、僧院の最高権力者「祭祀長」のトークバトルが見せ場でした。何しろ、ナウシカガールが試される。はたして、本当にこの世界に住んでいる人間は、命をかけてまで救うに足る存在なのか? やっぱりチェ・ゲバラもそれは考えた瞬間があったはずです。「俺がキューバ政府を倒して、はたしてキューバ人はその後、自分で自分のための国を本当に作っていくのか?」。ボリビアに行くときも考えたはずです。でも信じるに足ると思ったから、彼は命をけて出かけていった。
ではフラクタルの住民はどうなのか? 自身が世界の鍵というの立場を逆手に取って、ナウシカガールは「自死」をかけて祭祀長を説得します。そんな彼女に、祭祀長が問いかけるんですね。「本当にフラクタルなしで、彼らが自立していけると思ってるの?」。そして畳み掛けるセリフで、それがなくなってしまうと「ひどく不機嫌な世界しか残らず」、それにどっぷりの人間たちは「もはや施しを求めるための、手しかもたない」と言う。いやー、なんか身につまされる感じじゃないですか! 何の話してるんですかね! そして、ナウシカガールは、そこで自分の首元に突きつけたナイフをポトって落としちゃう。彼女にとってもフラクタルの人間は「こりゃだめかも」って信じきれないことが露呈しちゃった! そんな回でした。
さらに、今回は初めて「フラクタル」に代わる価値感が、意外なことに、以前出て来た語尾延ばしテロ軍団のボスによって提示されます。それは「愛! すすんで他者のための犠牲となれる気持ちだよ」ということなんですが、それをこの最も冷徹な、目的のために手段を選ばない男が言うから面白い。どこまで本心なのか?と思ったら早速化けの皮が剥がれるんですが、実は同じものがナウシカ少女の中にも芽生えていた。彼女は祭祀長との対決で「私は、分かった!」と叫ぶんですね。彼女は主人公を愛している自分に気づく。「好きは嫌い!」と言っていた彼女の中に、自分を上回る他者が芽生えている。
ところがこれが、祭祀長には許せない! ここがよかった! 彼女はナウシカ少女と同じ、クローン人間で、いわば家族なわけです。どちらも他者のために人工的に作られたという出自で、ところが、片方は義務を放棄して家出し、愛を見つけて帰って来て、片方は神殿にこもり、フラクタルの世界を維持する為だけに生きている。祭祀長の怒りは「わたしは人生をあきらめた、実家住まいシングルなのに!」という怒りですよ。
祭祀長は、実は自分を「他人の為に」作り出したこの世界を恨んでいることが分かります。ところが、彼女はその復讐として、自分を犠牲にしてこの空虚で空しいフラクタルの世界を維持しつけていたんですね。片や愛の自己犠牲、片や憎悪の自己犠牲。これ、ある日突然上京して、連れ戻したと思ったら「あたし男できたから、彼と一緒に向こうで住むから!」みたいな次女(ナウシカ少女)と、実家に残ったまま両親を恨みつつ面倒みて、今や歳を重ね彼氏もいない長女(祭祀長)、のケンカですよね。だから長女は自分のわだかまりを理解しない次女を前にして、いきなり激高して首も絞めちゃう! こういう事件よく起きてます!
そんな長女の悲しみさえ「私は理解しました」というナウシカガールの顔が明らかに何か決断してるんですが、果たしてそれが次回どういう行動に現われるのか。楽しみですね。
それにしても、全員集合して最終回への準備バッチリの中、1人だけ、あのビンテージマニアのお父さんらしき人がいません。あの人は集合しないんでしょうか、さみしいです。
文=ターHELL穴トミヤ
『フラクタル B5下敷き(スンダ&エンリ)』
関連リンク
フラクタル - FRACTALE - 公式サイト
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12.02.26更新 |
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