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the toriatamachan season2
女の子にとって、「美醜のヒエラルキー(それによって生まれる優劣)」は強大だ! 「酉年生まれゆえに鳥頭」だから大事なことでも三歩で忘れる(!?)地下アイドル・姫乃たまが、肌身で感じとらずにはいられない残酷な現実――。女子のリアルを見つめるコラム、シーズン2は「お金」にまつわるアレコレです。気がつくと、立ち上げる予定のない飲食店のことや、来るはずがないAV女優志望の女の子の話で盛り上がってしまいます。飲食店の賃料やメニューの価格設定、女の子の年齢や性格、売り出し方まで、それは真剣に話し合うのです。
重要なのは、どうしたらみんなが嫌な思いをせずに儲けられるか。その方法を考えるのが、この話の醍醐味なのです。でも、お金を使うかどうかはまた別の話。それ以前に、この話し合いの結果を実行したことはありません。
私が生まれたのは、バブルが弾けて跡形もなく消え去った1993年です。日本は不景気なのが当たり前で、それを悲観したことはありません。それが普通だったので。
「100万円もらったら何したい?」と、たまに聞かれます。いずれもあまり親しくない人との会話が尽きた時です。私はその答えを思いつきません。親しくない人との会話が尽きることなんて、たくさんあるのに。
夢もありません。眠る時以外に夢を見たことはありません。
不景気のせいか、将来は安定した職業に就いたほうがいい気はしていて、公務員か銀行員になると信じていました。このふたつは、小学生の私が思いつく限りの安定している職業だったのです。16才で地下アイドルというファジーな仕事を始めてもなお、大学を卒業する直前までその考えは続きました。ただし、どんな公務員になるのか、銀行員が具体的にどういった仕事をするのか、詳しく考えることも知ることもありませんでした。
ゆとり世代のさとり世代なのです。
ただし、ぼんやりした性格だったので、気がついたら就活は終わっていて、大学も卒業していました。まだ何も始めていなかったリクルートサイトからは、サービス終了のメールが届きました。
地下アイドルを思春期のアイデンティティ(微塵もそんな風に思ったことはなかったけれど)から、本格的に職業にする選択を迫られたのです。そして気がつきました。私の正社員になる計画は、全く間に合っていなかったことに! というか、よく考えたら始まってすらいなかった!
400万円をかけて、しがないフリーランスになった私を編集さんは笑いました。思えば「とりあたまちゃん」の担当さんは、友人のいない学生生活を送っている時も、卒論執筆中も、明らかに就活に乗り遅れている時も、私の将来について適切なアドバイスをくれる唯一の大人でした。しかし、どこかで「こいつは就職とかダメそうだな」という眼差しで見られていたような気もします。
3月に、今月いっぱいまで学生でいることを許されている、実質無職の状態で会いに行ったら「お金に関しての文章を書いてみませんか」と提案されました。不景気育ちの新社会人が、どのようにお金を使うのか興味があります、と。
お金を使うことにあまり興味がないうえに、金銭感覚もごくごく普通なので断わろうと思ったのですが、よく考えたら金銭感覚に普通も何もないのです。これはいままで考えてもみなかったことでした。
思えば、さとり世代の見本のような私ですが、商魂たくましさはあります。その背景には、私の生まれ育った環境がありました。
私は祖父が経営している下北沢の酒屋に生まれました。店内は幼かった私にとって画期的な遊び場で、店番をする祖父や祖母の足元にしゃがみこんで、彼らが働く姿を見上げていました。
この祖母こそ、私と同じ酉年のとりあたまちゃんなのです。私も彼女もありとあらゆることをよく忘れます。彼女とふたりきりの神経衰弱ほど疲れるものはありません。まったく進まないのです。しかし「お金を貯めるのは大事なこと」だと教えてくれたのは、よく覚えています。その夜、私は薄くて丸い形状のものをかき集めて、部屋にあった貯金箱にいれました。自分で型紙を丸く切ったものもいれました。
幼稚園を卒園する前に、両親と弟とともに現在の家へ引っ越し、それから彼らとは暮らしていません。
その後、私も弟も小学校に進学しましたが、我が家ではお小遣い制度が成立しませんでした。同級生がもらっていることを知ると、とても羨ましくなりましたが、すぐに忘れました。とりあたまなので仕方ありません。学校に通わせてもらっているだけで十分に贅沢だろうというのが、私と弟の共通認識になったのです。
とはいえ、さすがに両親もそこまで考えてほしくて、お小遣いを渡さなかったわけではないと思います。多分、使い道がないのに渡しても仕方ないとか、それくらいの考えだったのでしょう。
しかし、私は勝手に商魂たくましくなり、高校生になったある日、領収書を探す父親に自分のもの貸したら、なんでそんなものを持っているんだと驚いた後に、「商人(あきんど)の子は商人だな」と呟いたのです。
この商人とは父親自身ではなく、祖父のことを指していました。私は何気ないこの一文をとても気に入りました。祖父母が大好きだからです。もうとっくに酒屋はなくなり、小忙しく働いているのは私のみになってはいましたが、血の繋がりをはっきり感じられました。
現在も実家住まいなので、焦って働く必要もないと言えばないのですが、せわしく働きまわっています。ぼうっとした性格のせいで就職はできなかったけれど、働かずにはいられない、不思議な新社会人のできあがりです。
お金の話が好きになるのは、また別のお話。
文=姫乃たま
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