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Scene05. 観念


【1】

自室に閉じこもったままの竜也が小さなモニターの画面をじっと見つめていた。
地下牢に監視カメラが取りつけてあることを竜二は知らない。
渚を攫う決心をした時、竜也が密かに取り付けたカメラなのである。

なぜ、そんなことをしたのか……。
竜也は自分でもよく分からなかった。
いや、深層心理では分かりすぎるほど分かっているのに、その恐ろしい考えを直視することができなかっただけなのかも知れない。

渚が、泣きながら竜二の差し出した朝食を食べている。
食べなければ何をされるか分からない――その恐怖から無理に口を開け、咀嚼しているのに違いない。
過去にも見たことがある光景だった。
その時は別の女で、モニター越しではなく、目の前で見ていた。
あれは何という名前の女だっただろうか。
頭の一文字すら思い出せなかった。
きっと何も考えずに、ただ呆然と見ていたのだ。
自分が兄の花嫁候補として攫ってきた女が、泣きながら飯を食い、意味も分からぬまま「調教」という名の儀式に参加させられる姿を。

兄さんを殺そう――。







竜也は唐突に、そう思ったことが何度もあるような気がした。
殺さなければならないと。
ただし、そこに明確な意思や理論的整合性はない。
兄を殺してどうしたいのか、具体的にはどう殺すのか、なぜ兄を殺さなければならないと思うのか、竜也にはそのいずれも形ある意識として把握することすらできなかった。

しかし、カメラを設置した以上は、そこに何らかの理由があってしかるべきである。
自分は単に覗き見をしたかっただけなのか、それとも兄を監視し、渚を助けるためなのか、あるいは――。

竜也の知る限り、竜二は一度も性交というものをしたことがなかった。
過去に攫ってきたどの女にも、直接的に射精をうながすような行為を求めたことがない。
その代わりに女の体液を採取した。
そして瓶に溜めた自分の体液を相手に飲ませた。

地下に置いてある卑猥な玩具は、女の体液の分泌を促すためのものであり、拘束具や鞭は、抵抗を封じて自分の要求に従わせるためのものである。
他のあらゆる責め具の存在も行為も、そのバリエーションとしてあるにすぎない。
それが竜二にとっての性交なのか何なのか、竜也には分からない。
ただ、女たちが抵抗する気持ちはよく分かった。
相手のそうした感情が分かるからこそ竜也は自分を「痴漢」だと思えるのである。

恐らく竜二は、自分がなぜ他人から激しい抵抗に遭い、拒否されるのかを理解していなかった。
幼少時からそうであり、どうしても理由をつけなければならない時は、自分の醜い顔が原因だと主張した。
本音を言えば、人間の気持ちというものが見えずに戸惑っているのではないかと竜也は観察していたが、学校を出て屋敷に閉じこもるようになってからは、その戸惑いさえ失われているように感じられた。

だからあいつはどんな残酷なこともできるのだ――。

竜也はこれまでに見たいくつかの場面を記憶から掘り起こして思い浮かべた。
パイプ洗浄用の洗剤で髪の毛を溶かされた女がいた。
催涙ガスを浴びて涙と鼻水を延々に採取された女がいた。
通常の汗と脂汗の二種類の汗の味比べをするという儀式のために、目隠しをされたまま固縛され、幾度となくスタンガンを当てられた女がいた。

もし、竜二を止めることができる者がいるとすれば、自分しかいない。
そう思う。
いや、思わないではないのだが――必死になったところで痴漢的にこそこそと立ち回ることしかできない現実の前で、竜也はただモニター越しに兄の所業を見つめ、渚を見つめて、自分の中の衝動と無意識に語りあっているのだった。

時刻は午前11時。
一睡もしていない竜也の目に、食事を終えた渚が竜二の手にするスタンガンに怯えつつ、一枚一枚服を脱いでいく光景が映っていた。

【2】

天井近くに設置されたカメラが二人の姿を見下ろしていた。
二人とは言うまでもなく、地下牢の中にいる竜二と渚である。

全裸になった渚が、秘唇と胸を手で押さえ、壁に背中を貼り付けて立っている。
その前で竜二は、右手にスタンガンを構え、舐めるような視線を柔肌に向けて目を細めているのだった。

「やっぱり、綺麗な身体をしているなぁ」

そう言って一歩踏み出し、片手を乳房に伸ばそうとする。
渚が反射的に身をよじり、背中を向けようとした。

その瞬間、竜二は無言のまま、無造作に右腕を突き出して渚の肩にスタンガンを押しつけた。
もちろん、電源は入っている。
意識を失ったり動けなくなるほどの電圧ではないが、精神的なショックは大きい。

渚が「グッ」という低い声を洩らし、唇を震わせて床にくず折れた。

「あのねぇ渚ちゃん、さっき殴られた時に、私の性格は分かったでしょうに」

言いながら渚の前にしゃがみ込み、乳房をこねくりまわした。

「いいかい渚ちゃん、私のしようとすることを邪魔したり、抵抗したりしたら、予告なく暴力を振るいます。それが嫌なら従って下さい。簡単なルールでしょう。結婚するならこういう男だと、思いませんか?」

図々しくそう付け加え、渚の目を覗き込みながら、試すように秘唇へ手を伸ばしていく。

竜二の太い指が、淡い茂みを掻き分け、ぎこちなく割れ目をなぞり上げた。
二度、三度と往復し、膣口に指を突き立てようとしては、諦めたようにまたなぞる。

「濡れていませんねぇ。そうするとやっぱり、あれが必要かなぁ」

竜二の言葉に渚がビクリと反応する。

「な……何をするつもり……なの?」

抵抗すれば暴力を振るわれるということが単なる脅しではないことを知っている以上、うかつに抵抗はできない。
だから逃げだす機会が来るまでは耐え続けようと決心しかけていたのだが、聞かずにはいられなかった。

「えっとねぇ、肥後ずいき。渚ちゃんは知らないかも知れないけど、私の開発した特製の液体があってね、その液にひたしたずいきをアソコに入れると、渚ちゃんが大人の女になるんだよ。つまり、男が欲しくて欲しくてたまらなくなる。そうすれば自動的にたくさん濡れてくるわけだし、私は嬉しいわけだから」

渚が瞳を泳がせた。
熊本の土産物として知られる肥後ずいきは、ハスイモに含まれる成分サポニンの効果で女性の膣に性的刺激をもたらす張り形である。
竜二が言っているのは、それを何らかの薬物によってさらに強力にしたものであるらしい。
渚は肥後ずいきそのものを知らなかったが、竜二の説明からおぞましさを直感し、壁の棚の中からそれらしきものを探しだそうとした。
しかし無数に置かれた器具の一つ一つに、新たなおぞ気を走らせる結果にしかならなかった。

「あぁ、ここにはないんだよ。あれはそのたびに作るの。特製の液に一晩浸しておかにゃならんから」

竜二が親切顔で説明する。
あの――と渚が顔を歪ませた。

「私……私、もうすぐ結納が……結婚が……」

言ったところで無駄だと知りつつ、それでも言わずにはいられなかった。
結婚? 知ってるよ――と竜二がかぶせる。

「さっき言いましたよね、それはもう無理になって、渚ちゃんは、私の花嫁になることが決まったって。だから渚ちゃんを調教するんだって。もう観念すること!」

そう言って尻ポケットから出した笑気ガスのスプレーを渚の顔面にふきかけた。
そして出入り口を振り返り、怒鳴る。

「おーい、竜也! ちょっとこの子、ベッドに載せて、縛っといてくれんか。起きても舌噛まんように、猿轡もしてな」

地下から直接聞こえてくる声にモニターを見ていた竜也が打たれたように飛び上り、慌てて部屋を飛び出した。


(続く)

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『生贄おさな妻〜収集家の奴隷〜』

発売中
出演:渚
収録時間:120分
品番:KNSD-03
メーカー:大洋図書
ジャンル:SM・緊縛・凌辱
レーベル:キネマ浪漫
定価:5,040円

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junichirou.jpg 芽撫純一郎 1960年和歌山県生まれ。プロポーラーとして活躍後、セミリタイアして現在は飲食店経営。趣味として、凌辱系エンターテインメントAVの鑑賞と批評、文章作品の創作を行なう。尊敬する人は一休宗純。
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08.10.10更新 | WEBスナイパー  >  官能小説