『AERA』1997年6月23日号/朝日新聞社
特集「世紀末カルチャー 残虐趣味が埋める失われた現実感」所収
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青山は『危ない1号』2巻の編集をしていた前後から、会社に来ない、打ち合わせをすっぽかすなど、半ばひきこもりに近い状態になっていたという。一度逮捕されたことで警察からマークされていたことが分かり、疑心暗鬼に陥っていたようでもある。「快感」特集の第3巻(1997年9月30日発行)は途中で編集長を降りてしまい、副編集長だった吉永嘉明と、協力していた木村重樹らによって完成されている。
この「快感」という、一見、不確定で抽象的な特集の選択については、青山の一つの考えが反映されていたのではないだろうか。それは鬼畜/悪趣味ブームへの冷ややかな視線である。「目で見て明らかに分かるグロテスクさに人気が集中している。表層的な露悪趣味に、終始しているんじゃないか」(『AERA』1997年6月23日号)という発言から覗えるように、“妄想にタブーなし”を標榜する『危ない1号』の姿勢とは反対の、死体・奇形写真やドラッグなど、具体的で即物的なコンテンツに人気が集中する世の流れへの、本家からの回答として「快感」が選ばれたのでは、と深読みすればどこまでもできる(もちろん死体などに飽きたのが一番の原因だろうが……)。
更にそうしたブームと同時期に「酒鬼薔薇聖斗」事件が起きたことで(1997年)、危ない出版物への風当たりも強まりはじめていた。『週刊アスキー』1997年7月28日号では『危ない1号』が過激だと言われることに対して、以下のように語っている。
「そもそもこの手の残虐表現って、女性週刊誌あたりでは昔からあるわけで、マイナーブームとしてのジャンク・カルチャーよりも、そういう大部数メディアのほうが影響力は強いでしょう」
「いくらブームとはいえ、こうしたジャンク・カルチャーなんかより新聞、雑誌など大手マスコミの犯罪報道のほうが、圧倒的に暴力的かつ非人道的ですよ。死体雑誌出しても、せいぜい「気持ち悪い、やめろ!」とか苦情が来るくらいで、それで圧倒的に不幸になる人なんていませんから。だけど、東電OL事件にしても、残された家族にはたまらないものがある。マスメディアの蛮行に比べれば、僕らが手掛けているジャンク・カルチャーなんてまだまだ手ぬるいジャンク度の低いものだってことを強調しておきたいですね」
酒鬼薔薇が『危ない1号』の読者だったことはよく知られる話だが、酒鬼薔薇事件は結果的に鬼畜/悪趣味のブームを収束させるに十分な影響力をもっていたと思う。青山自身も死体・奇形・殺人ネタよりも、不倫・セックスレス・ウソ・いたずらなど、ねじまがった人間関係のほうが、個人的には興味があるとも語っており、この時期以降、コンテンツよりも、もっと人間自体に近いコミュニケーションのあり方へ、世の中全体の関心が移っていった。しかし肝心の青山本人は、既に心の奥底へ、ディスコミュニケーションの道を歩んでいた。
『週刊アスキー』1997年7月28日号
株式会社アスキー
“検証・ジャンク・カルチャーと「酒鬼薔薇」の危険な関係”と題した特集記事では、「なぜいま若者はキワモノ文化に走るのか? 事件とジャンク・カルチャーの間に関係はあるのか?」と問題提起し、各界の著名人にインタビューを行なっている。登場するのは柳下毅一郎、青山正明×木村重樹、テリー伊藤、猪瀬直樹ら。「ジャンク・カルチャーの送り手が語る 残酷なものを“見たがる”欲望の深層」と題した対談記事での木村の発言「たとえば年端のいかない子供だって、ポルノ写真とか見たがるでしょ。性欲を喚起させなくても、タブーには隠蔽されるだけの理由もあるし、それを盗み見すればゾクゾクする。だけどそれが即、性犯罪や猟奇殺人につながるというのは、あまりに短絡的すぎますよ」。
『SPA!』1996年12月11日号
扶桑社
“[鬼畜]たちの倫理観”と題した鬼畜大特集。ロリータ小説家の斉田石也、V&Rプランニング代表の安達かおる、『BUBKA』編集長・寺島知裕、KUKIの鬼畜レーベル餓鬼の山本雅弘、特殊漫画家の根本敬らにコメントを求め、ショップ「バロック」周辺のお客さんに質問し、『FBI心理分析官』著者のロバート・K・レスラー、『すばらしき痴呆老人の世界』著者の直崎人士、横丁の性科学者こと松沢呉一らが鬼畜ブームに一言呈し、シメは青山正明と村崎百郎の対談「鬼畜カルチャーの仕掛け人が語る欲望の行方」。当時、両者とも東京大学駒場キャンパスで講義するほど注目を浴びており(岡田斗司夫氏のゼミ「国際おたく大学/おたく文化論」)、それの記念なのか東大前で撮影した写真が掲載されている。
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
特集「世紀末カルチャー 残虐趣味が埋める失われた現実感」所収
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青山は『危ない1号』2巻の編集をしていた前後から、会社に来ない、打ち合わせをすっぽかすなど、半ばひきこもりに近い状態になっていたという。一度逮捕されたことで警察からマークされていたことが分かり、疑心暗鬼に陥っていたようでもある。「快感」特集の第3巻(1997年9月30日発行)は途中で編集長を降りてしまい、副編集長だった吉永嘉明と、協力していた木村重樹らによって完成されている。
この「快感」という、一見、不確定で抽象的な特集の選択については、青山の一つの考えが反映されていたのではないだろうか。それは鬼畜/悪趣味ブームへの冷ややかな視線である。「目で見て明らかに分かるグロテスクさに人気が集中している。表層的な露悪趣味に、終始しているんじゃないか」(『AERA』1997年6月23日号)という発言から覗えるように、“妄想にタブーなし”を標榜する『危ない1号』の姿勢とは反対の、死体・奇形写真やドラッグなど、具体的で即物的なコンテンツに人気が集中する世の流れへの、本家からの回答として「快感」が選ばれたのでは、と深読みすればどこまでもできる(もちろん死体などに飽きたのが一番の原因だろうが……)。
更にそうしたブームと同時期に「酒鬼薔薇聖斗」事件が起きたことで(1997年)、危ない出版物への風当たりも強まりはじめていた。『週刊アスキー』1997年7月28日号では『危ない1号』が過激だと言われることに対して、以下のように語っている。
「そもそもこの手の残虐表現って、女性週刊誌あたりでは昔からあるわけで、マイナーブームとしてのジャンク・カルチャーよりも、そういう大部数メディアのほうが影響力は強いでしょう」
「いくらブームとはいえ、こうしたジャンク・カルチャーなんかより新聞、雑誌など大手マスコミの犯罪報道のほうが、圧倒的に暴力的かつ非人道的ですよ。死体雑誌出しても、せいぜい「気持ち悪い、やめろ!」とか苦情が来るくらいで、それで圧倒的に不幸になる人なんていませんから。だけど、東電OL事件にしても、残された家族にはたまらないものがある。マスメディアの蛮行に比べれば、僕らが手掛けているジャンク・カルチャーなんてまだまだ手ぬるいジャンク度の低いものだってことを強調しておきたいですね」
酒鬼薔薇が『危ない1号』の読者だったことはよく知られる話だが、酒鬼薔薇事件は結果的に鬼畜/悪趣味のブームを収束させるに十分な影響力をもっていたと思う。青山自身も死体・奇形・殺人ネタよりも、不倫・セックスレス・ウソ・いたずらなど、ねじまがった人間関係のほうが、個人的には興味があるとも語っており、この時期以降、コンテンツよりも、もっと人間自体に近いコミュニケーションのあり方へ、世の中全体の関心が移っていった。しかし肝心の青山本人は、既に心の奥底へ、ディスコミュニケーションの道を歩んでいた。
『週刊アスキー』1997年7月28日号
株式会社アスキー
“検証・ジャンク・カルチャーと「酒鬼薔薇」の危険な関係”と題した特集記事では、「なぜいま若者はキワモノ文化に走るのか? 事件とジャンク・カルチャーの間に関係はあるのか?」と問題提起し、各界の著名人にインタビューを行なっている。登場するのは柳下毅一郎、青山正明×木村重樹、テリー伊藤、猪瀬直樹ら。「ジャンク・カルチャーの送り手が語る 残酷なものを“見たがる”欲望の深層」と題した対談記事での木村の発言「たとえば年端のいかない子供だって、ポルノ写真とか見たがるでしょ。性欲を喚起させなくても、タブーには隠蔽されるだけの理由もあるし、それを盗み見すればゾクゾクする。だけどそれが即、性犯罪や猟奇殺人につながるというのは、あまりに短絡的すぎますよ」。
『SPA!』1996年12月11日号
扶桑社
“[鬼畜]たちの倫理観”と題した鬼畜大特集。ロリータ小説家の斉田石也、V&Rプランニング代表の安達かおる、『BUBKA』編集長・寺島知裕、KUKIの鬼畜レーベル餓鬼の山本雅弘、特殊漫画家の根本敬らにコメントを求め、ショップ「バロック」周辺のお客さんに質問し、『FBI心理分析官』著者のロバート・K・レスラー、『すばらしき痴呆老人の世界』著者の直崎人士、横丁の性科学者こと松沢呉一らが鬼畜ブームに一言呈し、シメは青山正明と村崎百郎の対談「鬼畜カルチャーの仕掛け人が語る欲望の行方」。当時、両者とも東京大学駒場キャンパスで講義するほど注目を浴びており(岡田斗司夫氏のゼミ「国際おたく大学/おたく文化論」)、それの記念なのか東大前で撮影した写真が掲載されている。
※来週の連載はお休みさせていただきます。
次回の掲載は、8月24日(日)となります。
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/ |
08.08.10更新 |
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