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奴隷くみ子の物語
プロローグ・残酷なお友達


「こんにちは、Hさん。パーティーお招き有り難う。昔の会社のお友達を大勢誘ってきたわよ」
「お邪魔します。まあHさん。お久しぶり」
「こんにちは。私、S子よ。結婚して姓が変わったけど」
「やあ、いらっしゃい。どうぞお入りください」
「失礼します。立派なお宅ね。事業を始めて大成功なさったって、もっぱらの噂だったけど、噂以上ね」
「相変わらずダンディだし、貫禄もついたわ」
「いやいや。あなた方こそ、いつまでもお若くてお綺麗で。S子さんのドレス、素敵じゃないですか」
「こんなの安物よ。M枝さんこそ、財産家へお嫁にいって……そのダイヤ、本物でしょう?」
「本物だけど、たった3カラットしかないのよ。贅沢って言えば、玄関に女奴隷が繋いであったわね。貴方が飼ってるの? すっごく高いのよ、若い女奴隷は」
「ハハハ、今日お招きしたのは、一つはこの牝奴隷を見て頂こうと思いましてね。オイ! こっちへ膝で這ってこい。ご挨拶! 皆様のお靴の底を舐めさせて頂け。済んだら床に正座して顔をお見せしろ。目をつぶれ! お客様のお顔を見たりしたら懲戒だぞ。マア皆さん、こいつの顔を見てやってください」
「顔って、さっきは玄関の土間に平伏していたから、顔は見えなかったけど……アラ、この顔知ってるわ。会社の秘書課にいた、丸矢くみ子さんじゃない」
「エッ? アラ本当だ。髪を短く切られてるし、鼻に変な環を下げてるけど、確かに丸矢くみ子さんだわ」
「コラ! 下を向くと懲戒だぞ。顔を上げていろ。ハハハご覧なさい。皆さんに見られるのが恥ずかしくて、全身真っ赤になっていますよ」
「フーン、悪いことをして懲役に行ったって聞いてたけど、こんなところで奴隷になってたんだ」
「奴隷だから当然だけど、マア、パンティも穿かないマッパダカで……見ているこっちが恥ずかしいわ」
「鎖褌を穿かせてますよ。後ろを向け! 四ツン這いで尻を上げて、股の間を皆さんにお見せするんだ!」
「マア、ノーパンでお股に鎖を締めてるのね。イヤーン、アソコに変な環を嵌められて、奥まで丸見えじゃない。イヤラシイ」
「後ろ手に手錠掛けられて、痛そう。首輪嵌められちゃって、まるで犬みたい」
「何も喋らないと思ったら、口に大きな鉄の玉銜えているのね。マア、哀れな格好」
「あなた方、そんなにジロジロ見ていろんなことを言ったら、彼女辛いわよ。可哀相じゃない」
「ええ確かに、自分が人間だった頃を知っている人に、この奴隷姿を見られるのが、一番辛いようですね。でも、こいつは懲役奴隷なんです。ご存じの通り、死刑が廃止された時、死刑に相当する罪人を罰するために奴隷刑が導入されたんです。こいつも『凶器準備脱獄、看守殺害』という大罪人で、昔なら死刑になっていたんです。それを生かしておいてもらえるんですから、被害者の遺族の気持ちを考えたら、毎日死にたいと思うほどの辛い目に遭わせて罪を償わせなければいけない。だから奴隷を辱めるのは市民の義務なんです」
「フーン、人を殺したの? じゃ恥ずかしい思いをするくらいは当然ね。市民の義務なら私も苛めちゃおう」
「そうよ、市民の義務よ。だいたいこの子、美人を鼻にかけて生意気だったわよ。男に色目ばかり使ってさ」
「だから苛めて、昔、彼氏を盗られた恨みを晴らすのね」
「エッ、アラそんなこともあったかしら。ホホホ」
「それにしても、くみ子さん、看守殺害だの脱獄だのって、どうしてそんな恐ろしいことをして、奴隷にされちゃったの? 刑務所へ入ったと言ったって、理由は交通事故だって聞いてたけど」
「名前呼び捨てでいいんですよ。正しくは、もう人間じゃなくなったんで、丸矢くみ子という名前も存在しないんです。人間の戸籍は抹消されて、こいつは奴隷番号F-262-9703号という牝奴隷なのです。どうしてこうなったかは、嵌口具を外しますから、自分の口で喋るように命令してください。自分の犯した罪を告白させるのも罰の内で、恥ずかしい思いをすることは、罪の償いになりますからね」
「命令するの? 工ート、くみ子さん。お久しぶり」
「M枝さん。市民の義務よ。忘れないで」
「そうだったわね。コラ、牝奴隷! 目を開けることを許す。私をご覧」
「ハ、ハイ。アア、あなたは、庶務課にいた山田さん……」
「そうよ、ホホホ、丸矢くみ子さん、ご機嫌よう。お変わり……は随分あるけど、お元気?」
「アア、私こんな格好で……恥ずかしい……」
「恥ずかしいでしょうね、哀れな格好だもの。さて、お前はどんな悪いことをして、こんな浅ましい奴隷にされたの? 嵌口具を外してあげたから、全部正直に話しなさい」
「そんなひどい……お許し……イエ、判りました。山田M枝様、嵌口具を外して頂いて有り難うございます。私が奴隷にされた、イエ、奴隷にして頂いたいきさつをお話ししろというご命令ですのね。ご命令ならお話ししなければなりません。昔、ご一緒に仕事をしていた皆様の前に、こんな、マッパダカで首輪や鎖を付けられた浅ましい奴隷姿を晒すのは、死ぬほど恥ずかしくて惨めなのですが、懲役奴隷の私にとっては、恥を晒すのも罰の内、罪の償いの一つなのですわね。お話し申し上げます。どうぞお聞きください」






女奴隷くみ子の告白(恥を晒す刑罰)

「私が運転中に死亡事故を起こして刑務所へ入れられたことは、『女囚くみ子』の物語でご存じですわね。受刑中、刑務所の建物改修の関係で私は一度W刑務所へ移送され、改修が終わった後、またT刑務所へ戻されました。その戻りの移送中に、あのオー空理教信徒の護送車襲撃事件があったのです。
空理教徒が、教祖の妻の長野知子を移送中に奪回しようとして、大勢で襲ってきました。移送中の私たち女囚は、手錠を嵌められたほかに、二人ずつ腰を連鎖されていました。私の連鎖された相手が長野知子だったのです。護送のバスを破壊して知子を奪回した教徒たちは、私と彼女を繋いだ鎖が簡単には切れなかったので、無理やり私も一緒に連れ出して車に乗せました。
教徒の一人が、知子と私に水鉄砲のような物を渡しました。後で知ったのですが、それはサリン銃だったのです。割れやすいカプセルにサリンの溶液を入れて、十数メートル先まで飛ばす性能があったそうです。
私たちの車は、たちまち看守と警官隊に包囲されました。長野知子に引きずられて車の外へ逃げ出した私に向かって、血相を変えた看守さんの一人が、警棒を振り上げて打ち掛かってきたとき、私は恐ろしさのあまり、夢中でサリン銃をあげて警棒を防ごうとして、はずみで引き金を引いてしまったのです。
サリン弾が顔に命中して、看守さんは即死だったそうです。襲撃した信徒の内二人が射殺され、残りは長野知子も含めて全員取り押さえられました。官側の死者は、私に射たれた看守さんだけだったので、私が一番激しく抵抗したということになってしまったのです。
『私は巻き込まれただけです。脱獄の意志などありませんでした』と泣いて訴えたのですが、私の撃ったサリン銃で看守さんが一人死んだという事実はどうしようもなくて、とうとう私は、信徒たちと共謀して脱獄を計画したとされ、『殺人および凶器等準備騒乱罪の共同正犯並びに看守殺害脱獄罪』という、聞くも恐ろしい罪名で、昔なら死刑に当たるとされ、終身奴隷刑の宣告をされてしまったのです」
「フーン、事情を聞けば可哀相な点もあるけど、看守さんを殺しちゃったんではねえ」
「ハイ、裁判で看守さんの奥様が証人として出廷され、泣きながら、どんなに家族思いの夫だったかを証言されたときには、私も申し訳なくて涙が出ました。裁判員の方も皆お泣きになって……あれで判決が厳しくなったと弁護士さんがおっしゃいました」
「弁護士も、仮釈放を目前にした囚人が脱獄を企てるはずがないと、かなり主張したようですが、とにかくサリン銃で看守を射ったことは、大勢が見ていて争いようがないし、今の裁判員裁判では、被害者の家族に泣いて証言されたら、過失を主張してもほとんど通らないようですね。その結果、昔に比べて随分刑罰が厳しくなっています」
「それで、この奴隷姿というわけね」
「アア、そんなにご覧にならないで……お慈悲ですから……」


奴隷刑の宣告

「被告人、丸矢くみ子を、終身奴隷刑に処す」

裁判長様の声を聞いた時には、頭の中が真っ白になって、何が起こったかよく理解出来ませんでした。退席される判事や裁判員の方を見送りながら、これは嘘だ、悪い夢だと思いながらボンヤリと立っていました。

すぐさま看守さんたちが私を取り囲みます。今までは手錠と腰縄だけ(それだけでも十分哀れな姿ですが)で曳かれたのですが、手錠を見せられて、反射的に揃えて差し出した両手首だけでなく、足首にも手錠を嵌められました。一生奴隷にされるという判決で、私が暴れたり逃げようとしたりすることを防ぐためです。

でも私は、逃げようなどという考えさえ浮かばず、何が何だかよく判らないまま、手錠に付けた捕縄を曳かれて、手首足首の痛さに悲鳴をあげながら、ヨチヨチと歩いたのでした。

戻された拘置所には、私の判決がもう伝わっていました。足まで拘束されてヨチヨチと帰ってきた私を、皆が哀れみと蔑みの入り交じった目で見ます。私たち「罪人」が外から帰った時、規則に基づいて必ず受けさせられる身体検査。ズロースまで脱いでマッパダカになった私を四ツン這いにさせて、膣と肛門を検査した中年の男性看守が、しみじみとした口調で云います。

「丸矢くみ子。名前で呼ばれるのも今日が最後だ。明日からは一生『牝!』と呼ばれるだけだ。明日の朝、奴隷調教監獄から身柄受領に来る。スッパダカで出て行くんだから、いまさら服を着ても仕方ないようなものだが、もう死ぬまで人間の着る物を肌に着けることはないんだから、お名残にズロースの穿き心地を味わっておけ。死んだxx看守は確かに気の毒だが、あれはやはり物のはずみだと、わしらも思っておる。お前も不運な奴だ。若い娘の身で浅ましい奴隷勤めは辛いだろう。言っておくが、逆らったらますますひどい目に遭う。運命と諦めて、一日も早く素直な奴隷になることだ。それがお前のためだぞ。服を着たら手を出せ。奴隷囚には、房内でも手錠を掛ける規則だ」

私はボロボロ涙をこぼしながらズロースを穿きました。おヘソから太腿まであるブカブカのズロース。絶対にブラジャーなどとは呼べない乳当て。下からズロースがはみ出す、腰までの短いシュミーズ。そして、襟に囚人番号が付いた灰色の上着とズボン。初めて身に着けたときには、死ぬほど惨めだった官給の囚衣。それが、私が身に着けた最後の「人間の着物」だったのです。

手首と足首に嵌められた手錠は、夜になっても外してもらえませんでした。前手錠なので、不自由ながらズボンとズロースを下ろして用を足すことや、箸で食事をすることは何とか出来ました。下穿きを下ろして用を足す、手で箸を持って食事をする。全部、その日が最後のことでした。

夜遅く、手錠足錠を掛けられたまま、眠れない時間を過ごしていた私の拘置房の鉄格子の前に、昼間私を扱った中年の看守が、そっとやってきました。夜間、女性の被拘置者のところへ男性看守が一人で近寄るのは、規則違反なのです。私たち被拘置者は逃げ場のない鉄格子の中に入れられており、看守さんはその鉄格子の鍵を持っていて、おまけに今の私は、手錠で両手の自由を奪われ、足まで拘束されているのです。


もしも看守がその気になったら、私は、女の体を守りようがありません。一晩中消されることのない薄暗い明かりの下で、私は、毛布をかぶって体を固くしていました。鉄格子の前に腰を下ろした看守さんが話し掛けます。

「規則違反は判ってる。心配するな。変なことをする気はないよ。明日、お前は奴隷調教監獄ヘ送られる。俺は、前にあそこに勤めていたことがあるんだ。調教官じゃないよ。タダの下働きの看守だ。
調教官というのは、全員高等公務員試験を通ったエリートで、しかも特別な訓練を受けた高級官僚なんだ。ここの拘置所長より身分が上だ。法律はもちろん、医者に負けないくらいの生理学、心理学、解剖学の知識を身に付け、制圧技術や拘束具、鞭の使い方に熟達しておられる。そのほか、一般には知られていない特殊な訓練もあるらしい。
おまけに調教官は、心に鉄のような固くて冷たい使命感を持っていなければ、勤まらん仕事だ。俺みたいな平凡な人間には、何だか、調教監獄が地獄で調教官が閻魔大王で、俺たちが地獄の赤鬼・青鬼だ、みたいな気分になってきてな……だから、給料が下がるのを承知で、こっちへ転勤を願い出たんだ。
お前は明日の朝、否応なしにあの地獄へ送られる。何も知らずに行ったほうがいいのか、少しは覚悟しておいたほうがいいのか、よく判らんが、俺にもお前くらいの娘がいる。もしも自分の娘があそこへ送られることになったら、思うと、何かせずにはいられない気分になってな。嫌なら耳を……手錠を掛けられていては、耳もふさげないか。まあ聞きなさい」

こうしてその中年看守は、私に奴隷調教監獄の恐ろしい実態を細々と語り始めたのです。

(続く)

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監禁シミュレーション・ノベル
「女囚くみ子」第一部
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「女囚くみ子」第二部
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浜不二夫
異端の作家。インテリジェンス+イマジネーション+ユーモアで描く羞美の世界は甘く、厳しく、エロティック。
「 悪者に捕らわれた女性は、白馬の騎士に助けてもらえますが、罪を償う女囚は誰にも助けてもらえません。刑罰として自由を奪われ、羞恥心が許されない女性の絶望と屈辱を描きたかったのです。死刑の代わりに奴隷刑を採用した社会も書いてみたいのですが――」
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