Special issue for Golden Week in 2010.
2010ゴールデンウィーク特別企画/WEBスナイパー総力特集!
アジアに愛された幻想郷【前編】
日本国内での「東方Project」の人気については皆さんご存知の通りですが、アジアの国々でも幻想郷の魅力は広く知られているとか。アニメやマンガ、そんな大きい枠組みではなく、「東方Project」のオンリー同人誌即売会や東方アレンジ作品のライブまで行なわれているってご存知でしたか? そんなアジアの現状を同人サークル特異功能組の主催する、えむやんさんに前後編にてご紹介いただきます。
「東方Project」は同人サークル「上海アリス幻樂団」様の作品です。
海外の東方シーンはなくなったのか?
いや、まったくその逆です。現在のニコ動で、海外東方動画を検索するなら「東方 国名」で検索をかけることになります。 いまや、pixivで「キーワード:東方」、「住所:海外」と入力すれば、美麗な絵を描かれる作家さんが100人超えで見つかります。皆さんがご存じの有名海外作家から、まだ見ぬ才能達まで、百花繚乱の様相です。
その素晴らしき「海外の東方シーン」について、台湾ばかりに知識の偏るこの私が、筆を取る機会を頂けるとは思いませんでした。出来る限り他の国のことも記しますが、どうか飽きずに台湾好きの独り語りにお付き合いください。 そう、気が付けば、ずっと傍にいた。「同じ東方を愛する仲間達」のお話です。
■始まりは一枚のチラシ
たしか、直前にあった博麗神社例大祭か、その直前のサンクリ(サンシャインクリエイション。池袋サンシャインシティで年4回開催されているオールジャンル同人誌即売会)だったと記憶しています。僕は、そのイベントのチラシ置き場で「あるチラシ」を発見。飛び跳ねんばかりに狂喜乱舞しました。 「東方絢櫻祭(とうほうけんおうさい)」と書かれたそのチラシは、どこかで見覚えのある重厚なイラストに「2006年:台湾開催」と記されており、密やかな存在感を魅せ付けていました。
当時の僕は、海外格闘ゲームを中心に海外のゲームを扱うサークルを運営していました。2度目の海外で台湾に行き、以来3年連続で台湾に通い詰める「超ベタ惚れ」の真っ最中です。このタイミングで、同じくベタ惚れの「東方Project」のオンリーイベントが開催される! 眼を輝かせ、例年は2月である旅行の予定を遅らせて、初めて「夏の台北」へと向いました。
■IN WANDERLAND TAIPEI!
五月の台湾は、すでに「日本における真夏」の気候。会場へ辿り着くと、そこは台湾大学の傍。教会らしき設備を伴い、体育館が交通の要所に建つ「とても不思議な場所」でした。
列に並んでいると、一列ほど隣に大きな鞄をもった少年と少女が並びました。列が詰められて動かなくなると、彼女らは巨大な鞄を開いて……なんと化粧を始めました。 アイシャドーにプロ顔負けの白粉さばき。しばらく見守っていると、少年の手により少女は東方キャラ「藤原妹紅」に大変身! ……道路の真っ只中でですが。 日本では、会場外でコスプレをするなどありえません。まだ当時は、こうしたフリーダムな台湾コスプレについて、僕は知りませんでした。巨大な弓を持って現れる永琳。スタッフも自らデザインした魂魄妖忌コスに、長剣帯刀したまま列誘導していました。あまりのワンダーランドぶりに、否が応でも期待が高まります。
開場直前に、やっとカタログが販売され、嬉々として会場に入ります。台湾のサークルへと向かった僕の背後を、現地の一般参加者達が「物凄い勢い」で駆け抜けて行きます。日本サークルの周りに、あっという間に行列が……。 僕はその行列を尻目に、台湾サークルの作品を買い漁りました。当時の参加サークル数は、日本サークルを合わせても、たったの32です。 しかし、大量の一般参加者がそこへなだれ込む姿は、例大祭第2回から参加の僕にはデジャブな光景。台湾サークルの作品も次々になくなり、会場が人で満たされて行く様子に、僕は忘れかけていた熱いものを感じていました。
台湾サークルが混みだしたのは、開場30分ほど経過してです。2年もせずに、これはもちろん逆転しました。当時の僕は、現地サークルにしか興味を示さず、初めて来た夏の台湾を楽しもうと、早々と昼には撤収してしまいました。
開場直前に手に入り、ロクに眼を通さなかったカタログと購入作品。台湾グルメに舌鼓を打ち、ホテルに戻ってからそれを開くと、僕は最後まで会場に居なかったことを、激しく後悔するのでした。
台湾の作家さん達の作品は、本当に「東方を愛し、研究し尽した人々にしか作れない、素晴らしいものばかり」だったのです。それは、当時の日本では徐々に少なくなっていた「熱い作品」と肩を並べるレベルでした。その場で内容をあらため、スケッチブックをお願いしなかった自分を悔いて、翌年からの「イベント合わせの台湾旅行」が始まるのでした。
■国民性を反映して拡がりゆく「海外・東方イベント」の魅力1
「台湾編」:研究熱心で熱い友人達
カタログを開くと、そこはあらゆる「ネタ」のパラダイスでした。
□東方絢櫻祭1カタログ 注意事項漫画
□作者=TOMBERY零式
そして翌年の「東方絢櫻祭2」では、なんとストーリー的に前年の注意事項漫画を引き継ぎ、さらに流行のネタまで盛り込まれていました。
□東方絢櫻祭2カタログ 注意事項漫画
□作者=TOMBERY零式
「ギャグ漫画日和」から「えのもと」までという濃い内容に、ただただ感服するしかありませんでした。
このカタログ漫画の作者「TOMBERY零式(04)」さんの作品は、どれも素晴らしいものばかり。特に、東方絢櫻祭1での作品「博麗神社的階段」は、驚きの内容でした。森近霖之助のORIGINを「霊夢の母親」という大胆なオリジナルキャラを登場させて描く、素晴らしい作品。結界としての博麗神社の存在と、幻想郷を見守り続ける八雲紫の存在が光る名作です。今でも家宝とばかりに、僕の本棚の一角を占めています。最近になって、MUGENで「先代巫女」という素敵なキャラが出てきましたが、同じアプローチを4年以上前にしていたわけですから、凄まじいです。
この「研究熱心さ」と「原作への愛情、二次創作としてさらに一歩踏み込む作品づくり」は、他の台湾作家の漫画作品や「同人ゲーム」で花開きます。
□作品名=絹織琉華
□サークル名=電気妖精界
□作者=Phi、TSCSwald
この作品は、横スクロールで魔理沙主人公のSTG。各ボスには、思わず「にやり」とさせられる「隠しスペル」まで用意されています。PC98時代の東方と、WINDOWS作品を同じ時間軸で解釈したストーリーは、心の底から熱くなれます。同サークルは、イリスシードという新作を製作中。これは期待せざるを得ません。
□作品名=東方ポケット戦争EVOLUTION
□サークル名=未完童話
□作者=道長、Riv、任性、前野零拓郎、嘯風弄月、Kiyoma
画像転載許諾をお願いしたところ「EVOはエロゲーじゃないことを絶対に書いてください!」と、念を押されました。それほどにクオリティの高いストーリーモードを有する、RPGです。日本語版が「とらのあなさんの一押しタイトル」として頒布されて居ます。今回は作者の道長さんの許諾を得て、台湾版の画面を紹介。台湾の作品であることを再確認してみました。 サークルTWILIGHT〜日月の境〜・嘯月さんの手によるシナリオが出色の出来です。同じく、旧作・WINを繋げて感慨深いストーリーを展開しています。東方キャラへの愛情が滲み出てくるかのようです。
また、台湾作家達が注ぐ「東方project」への愛情は、正式な衣装でイラストを描いたあと、大多数の作家が「自分のアレンジ衣装」に挑むという「熱さ」からも見て取れます。 中でも、「coolier(東方専門お絵かき板の大本営)」に、その個性的アレンジを投稿し続けたおふたり、「孤独少女:Annna氏(当時、Small Night:Anna氏 )」「十二茶茶:Chaotic Un Known氏」の二人が、日本でもよく知られています。前述のTOMBERY零式(04)氏も投稿していた時期があります。
□東方裳輿冊
□OriginZero
□作者=千嗣〜senzi〜
画像は、幣サークルにて日本代理をしている「OriginZero:千嗣~senzi~氏」の作品。キャラ毎に世界の民族衣装をモチーフとし、まったく新しい衣装アレンジに挑んだ意欲作です。
そして、開拓者精神に富むことも彼らの強みです。最も早く東方同人に手を染めた彼らは、協調性が高く、香港のサークルや日本のサークルとの協力体制をいち早く整えます。 台湾の同人イベントで、ひとつのサークルが複数スペースを取って、香港や日本のサークルからの委託作品を並べるのが、近年当たり前のようになってきました。当たり前といっても、これはなかなかに大変なことです。彼らの努力で成り立っているのは、想像出来るかと思います。 紫雲坊さんというサークルは、「台湾・香港・中国のサークルの台湾でのイベント委託、通販代行」をサークル活動に昇華させてしまっています。同人委託店の無い台湾だからこそ生まれたサークルモデルでしょうね。
そうしたモデルの中で、その協力を「作品づくり」として早期に成立させたのが萌少女領域さんです。台湾のディレクターが企画を立ち上げ、中国の絵師が絵を作る。それぞれが持てる物を出し切り、それ故に成り立つ高いクオリティ。それを日本、中国、台湾、香港に自ら頒布に向かう、サークル主催者のアクティブさがあって、初めて成り立つ特殊なスタイルのサークルです。
□続・東方喪失綺譚 〜真紅の深淵〜
□萌少女領域
□作者=Dhiea、Archlich、Cat.lqe、TONBERY04、PENPON
こうして、最前線をつっぱしる台湾の周りで、各国でも「東方Project」オンリーイベントが始まるのでした。そして、それらもまたその国の人達「らしさ」により、新しい魅力を生み出していくのです……。
「香港編」:世界に通じるエンターテイナー達
私が信頼するとある同人サークルさんが、こんなことをおっしゃいました。
「日本も台湾も、いい意味で自分を見つめていて、悪く言うと島国根性が邪魔をする。一度、香港の同人イベントへ来てみるといい。世界の同人イベントを見るなら、香港の人たちのものづくりを一度は見ておくべき」
教えて頂いたとおり、香港作家の作るものは世界中の人に分かってもらえるようなエンターテインメント要素に彩られています。その分、台湾作品のような、にじみ出る愛情を感じるサークルさんは少ないですが。その一方で、台湾の作家さんより偏った愛情を見せるサークルさんもいます。 これは、台湾の人達が「大好きな作品を研究し尽くす」のに対し、香港の人達は「大好きな作品の面白さを解析する」傾向にある為と思われます。「おもしろさに素直で、それをそのまま扱うことに長けた人々」なのです。昔から、「夢の組み合わせを実現する」といえば、香港映画です。「モチーフ同士を解析して、面白さを融合する」、その為なら細かいことなど気にさせないパワーがある!
さて、香港にまで画像転載許諾を頂くコネクションがないので、ご紹介のみになりますが、下記のようなテンションの高いサークルさんがたくさん居ます。
サークル:MAID IN CHINA 作家:yoちゃん
台湾のイベントにて「東方キャラをロボット大戦オリジナルロボットと融合したアレンジ衣装本を作っていて、僕を心底驚かせました。2年後に再び同じコンセプトで本を作られています。近年、日本でも東方キャラのメカ娘化作品を見かけます。が、きっと世界最速だったのではないでしょうか?
サークル:黒蛛白蛛 作家:玲奈
東方+うみねこ本を最近作られたサークルさん、とにかくレベルが高い。両作品のキャラクター対比が、内面的な対比ではなく、容姿や行動での対比を中心としていて、ビジュアル的にすばらしいです。後述のグッズ製作においても、先見の明があります。
サークル:東方●(むじな偏と苗)迷●(イと尓) 作家:神埼●(むじな偏と苗)博士
台湾のイベントにて見かけていたので、ずっと台湾のサークルだと思ってました。とにかく「褒め言葉として、頭がおかしい」としか言いようがない。最近、pixivなどで普通の絵も描かれていて、画力もどんどん上がっているようです。この方の本領はやはり、まだ絵の安定してなかった頃から続けられている「東方●(むじな偏と苗)迷●(イと尓)大戦にていかんなく発揮されています。C77に初出展されたので、その破壊力を目の当たりにされた方もいるでしょう。ロボット大戦+東方という作品は日本でも多々ありますが、ほとんどが映像作品です。この方の同人誌はかなり早期からあり、また「ロボット大戦側も、東方側もなにごともなかったかのように事態を受け入れている」という点で、最近見かける日本の同人誌とはまったく別次元の楽しさを持っています。
■香港のオンリーイベント
イベント名:東方宴夏夜 開催日:2009年7月18日 開催時間:13:00〜22:00
あえて時間を記載しましたが、普通の即売会ではなくゲーム大会から始まり、香港中文大学の各所で時間をずらして行なわれた、なんとも変わったイベントでした。
香港特別行政区基本法第27条と人権法が、共に平和的集会の自由を保障しています。しかし一方で、公安條例にて50人以上が公共の場所で組織的集会を開く場合、1週間以前に香港警察への申告が必要とされます。これを受けてか、香港で行なわれたこの東方オンリーイベントも、少し変わったものとなりました。
そして最後に彼らのもうひとつの特徴について書いておきましょう。それは中国との商売の上手さ、作品規模決定の上手さにあります。台湾の方が苦労して中国生産をするなか、現地とのやりとりを軽くこなすさまは、本当にあっぱれと思います。これはやはり、同人文化が長くあることと、すでに相手の出方を理解している方が中間に立っているからなのでしょう。そうして、作品生産数が安定の一方で、香港の人達は作るグッズの規模が、なかなかよいバランスに収まります。つまり日本の東方グッズと同じく、台湾の東方グッズも低価格作品と高価格作品に二極化しているのに対し、香港の東方グッズは大きさも価格も安定傾向なのです。
(続く)
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