Special issue for Golden Week in 2010.
2010ゴールデンウィーク特別企画/WEBスナイパー総力特集!
アジアに愛された幻想郷【後編】
日本国内での「東方Project」の人気については皆さんご存知の通りですが、アジアの国々でも幻想郷の魅力は広く知られているとか。アニメやマンガ、そんな大きい枠組みではなく、「東方Project」のオンリー同人誌即売会や東方アレンジ作品のライブまで行なわれているってご存知でしたか? そんなアジアの現状を同人サークル特異功能組の主催する、えむやんさんにご紹介いただきます。本日は後編です。
「東方Project」は同人サークル「上海アリス幻樂団」様の作品です。
「欧米編」:彼らにしか出来ない創作「から」始まる
「ZUN’s “Doujinshi License”」とネットで検索すると、神主ZUN氏の二次創作ガイドラインもしっかり翻訳されており、作品作りに興味を持つ方達が多くいることが分かります。 また、pixivやDiviantARTにて「キーワード:TOUHOU」で検索すると、現地の方々の作品をたくさん目にすることが出来ます。DiviantARTですが、ここを覗くと、pixivと同じく中国や香港の方の投稿も目立ちます。芸術性のある場所に作家が集まっていることも手伝ってか、とにかくオリジナリティ溢れる作家が多いです。WEBスナイパー前回記事で、ばるぼらさんと四日市さんが紹介されていました「NEW HORI-ZUN」 のddictionさんに、pixiv、DiviantART、Cureと、活躍の場も広く実力に裏打ちされたイラストを描かれるmiludaさんなど、特徴的なスタイルを確立している方が多いです。Otakonという総合イベントの様子は、Youtubeなどでごらんに慣れますので、是非観てみては如何でしょうか。彼らのtouhouコスを楽しむ姿勢は、台湾のイベントの2007年前後の絶頂期に通じるものがあり、必見です。「otakon」「touhou」にてネット検索を掛ければ、ご覧になれると思います。
「韓国編」:実は、かなり早い時期から東方同人誌が作られていた
日本の、韓国書籍通販サイト・ハニル堂に、現地の東方同人誌が並んだのも一瞬ならば、完売したのも一瞬でした。もはや、いつごろのことだったかを調べることも出来ませんが、かなり早い時期だったことだけは記憶しています。そして去年、韓国では東方オンリーイベント「幻想少女注意報」が行なわれ、たくさんの同人誌が頒布されました。
イベント名:幻想少女注意報 開催日:2009年8月2日
韓国では、ファンシーグッズまたはファンシーと呼ばれるラミカ系のグッズが一番多く、それのみを扱うサークルが多数を占めるそうです。オンリーイベントという狭い枠で括ってしまうと、そればかりになってしまう可能性があったそうで、これを回避する為にサークル参加要項が他の国と比べて、少し変わっていました。ラミカは禁止というわけではなく、もし出展するなら必ず同人誌、CD、ゲームのいずれかも並べていなければなりません。そしてなぜか、「フィギュアや人形、キャラ帽子はいかなる場合もNG」とのこと。これがなぜかは分かりません。僕の韓国同人文化への不勉強ゆえ、分からないことだらけです。 とりあえず、エロは売ってもよいが19禁ということは、邪な心の眼でしっかりと暗記しました。
「換腸少女注意文」にて、ネット検索を掛けてみてください。それらについて詳しく書かれた、同イベントオフィシャルサイトの注意事項漫画に飛べます。現地の雰囲気を感じとることは出来ませんが、知識としては一番たのしくてよいのではないでしょうか。
また、すでに日本に出展されているいくつかのサークルさんは、かなりの腕前のイラスト作家さんが多いです。紅のひろば3でお見かけしたiruaさんは、とんでもないレベルのイラストを描かれます。
「中国編」:遅れてきた彼ら、根底にあったその爆発力
遅れてきた彼の国は、現在その潜在力を爆発させている真っ最中です。いくつかの日本音楽サークルのジャケットなどを通じて、沢山の作家さんが日本へと進出してます。現地の熱気、二次創作の質とレベル、あらゆる面において、ここ1、2年の間に全てが爆発的に上昇しています。もともとコスプレ大会があったり、同好の志で楽譜を回しあう習慣のある彼の国。下地があったこともあり、コスプレとライブ、即売会の複合エンターテインメントイベントとして、台湾と同じコンセプトを最初から全力疾走で動きだしました。
中国の東方オンリーイベント「魔都東方祭」 2009年05月29日。正確には「東方櫻神月〜博麗神社許願祭〜TH01」というそうです。こちらを見ていただければ、その激しいイベント内容、レベルが高すぎる作品群を確認できるでしょう。正直、出展作品は一通り欲しいというのが本音なイベントです。すでに香港台湾のサークルがやったネタが大半なのですが、このレベルの高さは異常です。また、同イベントは2009/11/15に、第二回のイベント「TH02:東方天上花」が、開催されました(次回開催は、「TH03〜東方大往生〜」2010/10/04となります)。
2010年5月29、30日、ふたつめの東方オンリーイベント「不敗の弾幕・ADSL・東方PROJECT ONLY EVENT」が開催予定です。ここに向けて作られている作品を、台湾の友人達のミニブログ経由で何件か確認しましたが、本当にため息が出るほどレベルの高い作品が多いです。ADSL(アニメーコミック 同人 スペシャルライブ)というイベントの5回目を、少し規模を大きくして東方オンリーを併設して行なうようです。
「タイ編」:全てを受け入れ、質実剛健
pixivに東方ジャンルで投稿する海外作家の中で、タイの方ほど「漫画を描く人の割合が多い」のも珍しいと思われます。全体数を考えればそんなこともないのでしょうが、特筆すべき点だと思います。活動的な作家さんが多く、pixivやニコニコ動画で、その姿を見ることが出来るでしょう。楽しい作品が、とても多いです。
イベントについては、少し変わったお話を伺っています。「CAPSULE event」というのが、最も有名な総合イベントで、毎回違う趣旨で運営されているとか……。次回のイベント趣旨が「CUTE」です。今、現地の作家さんはここに向けて東方本を作っているようです。 あまりにくわしくないので、ここまでにしておきましょう。
■各国文化に混ざり合って進化を続ける東方同人の世界
東方の同人二次創作は、日本でもいろいろな方向へ進化し続けています。抱き枕から痛車プラモデルまで、まさに予測不可能な成長をする世界です。世界の同人では、日本のように企業が生産ルートを確保してくれないが為に、各国の文化を吸収したグッズや、よい意味で日本とは似て非なる同人グッズが生まれています。これがまた、海外の同人を見つめるという点では、面白いのです。
台湾:カード類、自分達で成し遂げた抱き枕
台湾では、日本で言うEdyにあたる「セブンイレブン icash」というものがあります。これをグッズとして作成するのが、他の国では見られない光景です。
□作品名=BAD APPLE
□サークル名=萌少女領域
□作者=Dhiea、破軍玖月
また、台湾でスイカにあたる「悠遊カード」ですが、チャージの時も機械の中に挿入するのではなく、台の上においてチャージします。この為シールを貼り付けても機械に詰まる心配がありません。ですので、同人グッズとしていろいろなものが出ています。
最後にお知らせするのは抱き枕。台湾に抱き枕の印刷をしてくれる印刷所はありませんでした。ですので、彼らは己の力で成し遂げました。台湾では現在、ふたつのサークルが独力で抱き枕の製造工程を作り出し、他のサークルの依頼を受けて製造。日本にまで送り出しています。日本にはない布、日本でも品質的に通じる布で作られた両者の抱き枕は、いまも日本と台湾に向けて供給されています。きっと、中国でも同じことが起こっているのでしょう。近年にわかに中国の抱き枕サークルによる日本での快進撃が始まっています。その中国でも、また変わった動きが出ています。
僕のサークルの「台湾作家30人+日本合作同人誌:東方稔華風」も「同人誌本体と外装の箱が同じコスト+音楽CD」だったり、マスタリングを日本でやったり、原稿料を約束してからの合同誌製作、などなどの無茶を積み重ねました。以下の画像とサイトを参照して頂けると、馬鹿な規模を見ていただけると思います。また、サイトの参加者紹介からは、30人の台湾作家を確認出来ます。
□作品名=東方稔華風
□サークル名=特異効能組
□作者=Senzi
そしていま、中国のサークルがこの作品と同じ方向性で、ページ数がさらに上の作品を準備しています。私の作品も、台湾製作+海空二段正規輸入というアクロバットをやって、なんとかなし得たのですが、彼らはその先を行こうとします。
もうひとつ、中国サークルから面白い作品がリリースされようとしています。上海で局地的に大流行しているカードゲーム「三国殺(正確にはカード主体のボードゲーム、上海でボードゲームカフェというブームが始まった火付け役だという)」をパクる宣言済みの新作同人カードゲーム「東方戰時空〜Battalia Dreamscape」です。
他の国でも、方向性は違えどなにか同じようなことが起こり、その国ゆえに発生する同人作品が沢山あるのだと思います。まだ見ぬそれらに出会う日が、また楽しみなのです。
■そして最初に駆け出した者達は、全力疾走を続ける
□東方絢櫻祭3 宣伝ポスター
□作者=任性
□東方絢櫻祭3 カタログ
□作者=shinia
東方絢櫻祭の拡大
外国ゆえの特殊な状況として「委託書店がない」ことが挙げられます。台湾には、過去に「萌萌動漫資訊館(MOE MOE CENTER)」というお店がありました。ここのおかげで、東方絢櫻祭で知った作家の絢櫻祭以外の作品が手に入ったのですが、この店も徐々に徐々に勢いを失っていきます。 その後も、委託書店経営を続ける他の競合店はありました。しかし、萌萌動漫資訊館ほどには委託に力を入れていませんでした。最終的に、メイドカフェしか残らず、委託販売をサイトからの通販に移していた萌萌動漫資訊館も、ついに閉店します。
日本では委託の需要と供給が日本全国にあるので、委託書店が大活躍するわけです。しかしながら台湾では、日本ほど委託書店の存在価値がありませんでした。僕のように外国から来る旅行者は、この委託書店「萌萌動漫資訊館」があってこそ、やっと欲しいものを手に入れることができたのですが。 台湾の人の作品を預かるとき「なんでそんなに、書店書店言うんだ?」と聞いてきます。台湾ではそれが必要なかったという来歴があるのです。 これは台湾という国だけでしょうか。きっと香港も同じでしょう。委託書店は基本的になく、小規模で受ける店があろうとも、日本の同人シーンのような「委託書店があって始めて成り立つ巨大な商業モデル」にはならないのです。
□東方絢櫻祭4 宣伝ポスター
□作者=Capura.L
□東方絢櫻祭4 カタログ表紙
□作者=kurudaz
□東方絢櫻祭4 カタログ裏表紙
□作者=Senzi
日本と同じ状況にならないがゆえに、イベントでの販売は強烈で、台湾中から東方ファンがやってきます。東方絢櫻祭というイベントは、拡大の一途を辿りました。 IOSYSさんを呼んでのライブを行なった東方絢櫻祭3、会場はまさに満杯でした。ついに東方絢櫻祭4にて、会場を変更。大学の大きな体育館へと移動し、邁進を始めます。
素晴らしき「台湾COSER」達の世界、そして拡散
台湾のコスプレーヤーは凄い。「COSER」と呼ばれる彼らが、長モノ持込みOKの中、巨大な武器を手に現れる姿は圧巻です。中でも、東方のCOSERは素敵な人達ばかりで、凄まじいレベルの衣装を用意し、集まった「東方あわせ」のメンバーがその場でアイディアを出して、一致団結して写真をとります。
霊夢のCOSERが他のジャンルのCOSERから、火縄銃を借りてきて、床に這い蹲らせたミスティアに向けてその銃を構える。すると、周囲のカメコたちはぱしゃぱしゃと写真を撮り出す。しばらくすると、他のCOSERがカウントダウンをとりだす。規定の時間過ぎると撮影終了、COSERたちはまた話し合いをして、新しいアイディアを出しに掛かる。この繰り返しになります。
東方絢櫻祭のアフターイベントなどの司会進行を勤めるメンバーは、このグループの中の何人かでした。絢櫻祭2のアフターイベント、お姫様だっこ大会は伝説に残るものだと思います。 しかしそんな彼らも、自然と解散していったように見受けます。今は世代交代して、東方絢櫻祭4前後からコスプレをしている方達が主体になっているように見受けます。 これも、やはりイベントの拡大が関係あるでしょうか。作家としての活動を優先させた人や姿が見えなくなった人がいて、凄く残念です。
■そして東方幻華宴へ
良くも悪くも「大規模ライブイベント」同時開催というレベルまで拡大した台湾東方イベント。次回は2010年05月29日開催の「東方幻華宴」は、まったく別系統の主催によるイベントとなります。 長年、台湾の総合同人イベントを主催してきたFancyFrontierが主催です。これにともなって、また色々な変化が起きています。
真っ先に走り出した国「台湾」にて、東方は日本と同じように規格外の成長を続けていくのでしょう。そしてまた、その成長痛に苦しむサークル参加者や主催たちの努力により、常に新しいことを「やらかして」くれています。それをハラハラしながら見に行く、手伝いに行くのが楽しくて、僕たち日本人も現地へと駆けつけるのです。 思ったより寄せられる他国からの応援、香港台湾中国の協力はもとより、今回のイベントにも日本から沢山の協力者が駆けつけます。
熱い熱い台湾の南風の中、僕たちはお互いの国境を飛び越え、まだまだ走り続けるのです。
文=えむやん
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