Monthly Illustration series by inumoto
月一更新 イラストレーション・シリーズ「レイヤー百景2.0」
二次元と三次元とコスプレとレイヤーの境界を行きつ戻りつしながら筆を動かす多元的イラストレーション・シリーズ。絵師・inumotoさんが描き、綴る、物語の中でコスプレを考察していくユニークな連作です。梅ヶ丘みどりは困惑していた。アルバイト先であるおにぎり屋の先輩、山田高菜に、初日からセクシャルな事柄を含むハラスメントを受けているのだ。
山田高菜は初対面にも拘わらず遠慮なく、やれ胸が大きいだの、気が弱そうだの、困った顔が劣情をそそるだの、メガネがダサいだの、自分が気にしていることから思いもよらないことまでズケズケと言ってのけ、挙句の果てにコスプレなどという人前で露骨に肌を晒すような行為を斡旋してくるのだった。
たしかにみどりは気が弱く、ともすれば男性から好意的に受け取られるであろう豊満なボディにさえコンプレックスを抱いていたため、これまで彼氏はおろか男友達さえ、いや正直言って男女問わず友人と呼べる人物すらいなかったのだ。
特に山田高菜のように人の心に土足で踏み込んでくるようなタイプは大の苦手であった。
しかし、だからといっていつまでもそういう人間の陰で縮こまって生きるのも懲り懲りだ。
梅ヶ丘みどりは意を決し、反撃に出る。
「せ、先輩...…。そういうのって女同士でも、せ、セクハラになるんですよ!」
言ってやった。しかしこの後こそが問題だ。気まずい空気が流れるか、あるいは烈火の如く怒りだすか...…。どちらにせよ訪れるであろう重圧にみどりは身構えた。しかし...…。
「あ、そっかあ。やだったんならごめんね。コスプレとか、そいうオタクっぽいの好きかと思ってたんだけど...…」
たしかにみどりは幼少より専らひとりで遊んでいたため自然とマンガやアニメなどのオタクコンテンツに親しんできた。だがそれらを享受することはあれど、自らが何かを発信するなどということは考えもしなかった。
「みどりちゃんアレ、知ってるでしょ。『魔法少女フィジカルなのか』。あたしアレのコスやってるんだ」
たしかにみどりは『魔法少女フィジカルなのか』を小学生の頃夢中になって観ていた。しかもその後長期に渡ってシリーズ化したその最新作をなんなら先日観たばかりである。
「みどりちゃんて、敵の女幹部ドクロビッチのコス似合うと思うんだけどな―」
たしかにみどりは『~なのか』シリーズ第1作目の敵キャラ、ドクロビッチに強い憧れをいだいていた。魔法少女という正義の光の前にかき消される闇。しかしその闇の中でしか生きられないその姿を、自分と重ね合わせていた。
「ね、こんど一回やってみようよ!絶対似合うって!衣装はあたしが用意するからさ!」
たしかに、似合うかもしれない...…。とみどりは思った。
山田高菜という光を前に、その光が生み出す陰の中に存在価値を見出す。
たしかにそれが梅ヶ丘みどりの生き方なのかもしれない。
(続く)
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