Monthly Illustration series by inumoto
月一更新 イラストレーション・シリーズ「レイヤー百景2.0」
二次元と三次元とコスプレとレイヤーの境界を行きつ戻りつしながら筆を動かす多元的イラストレーション・シリーズ。絵師・inumotoさんが描き、綴る、物語の中でコスプレを考察していくユニークな連作です。鬼束寅子はパチンコやスロットをきっかけにいろいろなアニメ作品に出会った。
気になったものはTVシリーズや原作などをチェックしたりもするのだが、ガチのアニメ好きからするとそういうのはどうやら「にわか」と言うらしい。
好きな作品は本心から好きだし、自分ではちょっとオタク入ってると思う。実際のところ本当のオタクからしたらどうなのか......?
最近はそれが気になる。
「あ、そのストラップ......」
バイト先のパチンコ屋の休憩時間によく行くおにぎり屋の店員の女の子、歳は寅子と同じくらいだろうか。大人しそうな子で、顔馴染みではあるものの今まで話したことはなかった。しかしこの『鷺宮アルヒの憂鬱』のストラップに反応するということは彼女も......オタク! これはお近づきになるチャンス!
「あ......いえ、すいませんなんでもないです......」
しかしなんということだろう。一瞬考え込んでいる間無言でガン飛ばしてしまっていた!彼女の悪い癖だ。なんとかフォローしなければと寅子は焦る。
「いや、その......」
「あーーー!アルヒのストラップだ! おねーさん見かけによらずオタクなんですかー!?」
そこへもうひとりの店員が口を挟んだ。彼女も顔馴染みだがヘラヘラして馴れ馴れしい接客態度には正直たまにイラッときていた。
しかし......今は堪える。
「誰がオタクだコラ!?」
ああ、なんということだろう!! 考える前に条件反射でキレてしまっていた!! 大人しそうなほうははビビって泣きそうな顔をしているではないか!
これはさすがに気まずい空気が......
「おねーさん、一緒にコスプレしましょうよコスプレ!」
......流れなかった。
「おまえも少しはビビれよ!!」
思わずツッコむ寅子。
「オタクじゃないんですか?」
「オタクじゃなくねえよ!!」
「だったら一緒にやりましょう!!」
なんということだろう......。この女、話が通じない!! 寅子は拒否権を奪われたも同然であった。事を荒立てないためにもここは大人しく従うしかないのではないか......?!
「た、高菜ちゃん......グイグイ行き過ぎだよ......きっと迷惑だよ」
大人しそうなほうが諌める。寅子は心の中で、そうだ!いい迷惑だ!と同意するが......。
「そうかな? なんかニヤニヤしてるけど」
なんということだ! 不覚にも深層意識下におけるオタク友達を求める心理がよもや表層にまで浮上してこようとは!
「べ、別にニヤニヤしてねえ!! お前のツラが滑稽なだけだよ!!」
思わず悪態をつく寅子。
「えー、ひどい!」
流石に言い過ぎたかもしれない......。いささか不本意ではあるがここは素直に謝罪しておこうと考える。
「あ、いや、ごめん、悪かったよ......。じゃあ、その、お詫びと言ってはなんだけど。その、コスプレっつーの......? やってやんよ!!」
「ホントー!? やったねみどりちゃん!」
「う、うん......」
こうして鬼束寅子は無事念願のオタク友達を得たのであった。
(続く)
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