Monthly Illustration series by inumoto
月一更新 イラストレーション・シリーズ「レイヤー百景2.0」
二次元と三次元とコスプレとレイヤーの境界を行きつ戻りつしながら筆を動かす多元的イラストレーション・シリーズ。絵師・inumotoさんが描き、綴る、物語の中でコスプレを考察していくユニークな連作です。山田高菜、梅ヶ丘みどり、鬼束寅子の3人は都内某所にて開催されたコスプレイベントに参加していた。
「けっこう大きなイベントだけあってみんな気合入ってるな―」はしゃぐ高菜。
「はわわ!」何もないところで転ぶみどり。高菜が見繕ったただでさえ露出度の高い服の胸元がさらにあらわになり、周囲の視線を集める。
「うう......恥ずかしいよぅ」
「大丈夫だよみどりちゃん、すごく似合ってるから自信持って! もじもじしてるほうが逆に恥ずかしいよ!」
「そ、そうだよね......。でもあたしだけ妙に露出度高くないかな......?」
みどりのセクシーサキュバスに対して高菜は正統派魔法少女、寅子は人気アニメの主人公の制服姿であった。
「そりゃあやっぱりみどりちゃんはあたしらにはない武器を持っているから」
「おい......」
ムッとした寅子が口を挟む。
「胸のことを言っているならおまえと一緒にされるのは心外なんだが」
「......似たようなもんだと思うけど。でも寅子ちゃんのアルヒ、超似合ってるね! すっごくかわいいよ!!」
「べ......、別にお前に褒められても嬉しくないんだからな!!」
まだまだ駆け出しであったが天然・ドジっ子・ツンデレという本人の気質とキャラを上手くマッチさせた3人はそれなりに注目を集めていた。
しかしその近くでひときわ大きな人だかりが出来ている。
その中心にいるのはロングの青い髪をなびかせる涼し気な目をした美女。スラッとしているがメリハリのきいた抜群のスタイルにいやらしくなりすぎない絶妙な衣装をまとい、人気SFアニメ『銀河ピッチフォークガイド』のヒロイン、『ブリリアント』を完全に演じきっていた。
3人はしばし羨望の眼差しで彼女を見つめていた。
その美女が、再び3人の眼の前にいる。
それは後日立ち寄った喫茶店であった。いわゆる純喫茶ではあるが古臭さはなく、趣味の良いアンティークを取り揃えたおしゃれな店だ。その店に相応しい清楚で凛とした立ち居振舞のウェイターである彼女は一見すると浮ついたオタクイベントなどとは無縁に思えた。
「ぜったいあの人だと思うんだけどな―」
「高菜、お前いつもみたいに空気読まずに聞いてみろよ?」
「えー」
「や、やめとこうよ......迷惑だよきっと」
――そんな3人を尻目に、祇園祥子は困惑していた。どう考えても見覚えのある3人組。先日のコスプレイベントに出ていた3人だ。
ほんとに迷惑なので頼むから余計なことは言わずにさっさと立ち去ってほしい。自分はこの店では澁澤龍彦などを愛読するクールで知的なサブカル系文学女子として通っているのだ。
祥子はそう考えながらなるべく彼女たちのテーブルから距離を置いていた。しかし......。
「すいませーん」
お呼びがかかる。彼女以外の店員は他のテーブルの接客にあたっている。自分が行くしかない。
「......はい。お待たせいたしました」
何を聞かれても白を切り通してやる。祥子は覚悟を決めた。
「えーっと、この特製レアチーズケーキ」
なんだ、単に注文か......。安堵する祥子。
「はい。特製レアチーズケーキですね。かしこまりまし......」
「あとお姉さんこないだブリリアントのコスしてた人ですよね!」
フェイントからの唐突なブッ込み!! しかしここは平静を装い切り抜けるしかない!!
「ブフォッwwwwココココスプレ!!?? わ、わたしはぜんぜんそういう...…オタクとかではないのだが!? フォカヌポウ」
「......」
どう考えてもオタクです。本当にありがとうございました。つづく。
(続く)
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