イラストレーション・シリーズ「レイヤー百景2.0」第5話/ウキウキ温泉旅行の巻 ～前編～

二次元と三次元とコスプレとレイヤーの境界を行きつ戻りつしながら筆を動かす多元的イラストレーション・シリーズ。絵師・inumotoさんが描き、綴る、物語の中でコスプレを考察していくユニークな連作です。

第5話 ウキウキ温泉旅行の巻 ～前編～
山田高菜は困惑していた。
バイト先であるおにぎり屋で貰った商店街の福引券を使い試しに福引をしてみたところなんと1等の『温泉宿泊券4名様分』を引き当ててしまったのだ。
これはもう気の置けないコスプレ仲間たちとの楽しい温泉旅行という神様からの贈り物である。だがしかし。

問題は交通費である。草津あたりなら良かったものの当たったのは岐阜県下呂温泉の宿泊券であった。お世辞にも高いとは言えないおにぎり屋の時給で一人暮らしの家賃、生活費、そして馬鹿にならない出費となるのがコスプレ活動費......。高菜は慢性的に金欠であった。
みどりもバイトにおいては同様であるが彼女は実はお嬢様であり実家からは毎月使い切れないほどの仕送りが振り込まれている。
寅子はパチンコ屋のバイトで時給はかなりいいほうだ。そのぶん私服など一見ギャルギャルしいため金遣いが荒いようにも思われるが、実際はそのようなことはなく専ら『しまむら』か『ドンキホーテ』で事足りていたのでお金に困ることはなかった。
祥子は喫茶店バイトの収入自体はそれなりの金額でしかないのだが、何やら他に収入がありそうなのである。本人はあまりそのことについては話したがらないため高菜たちは、やれ「株で儲けてる」だの「実は壁サー（同人誌即売会において長い列が出来ることが予想される大手サークルは混雑を避けるため壁際に配置される）で同人誌を描いている」だの「超有名漫画の彼氏がいる」だのと噂をしている。実際のところはコスプレ写真集やDVDをイベントや通販で販売し、その売れ行きがなかなか好調なわけだが本人は恥ずかしがって内緒にしている。
そういったわけで高菜以外は金銭的な余裕があるため万が一高菜が交通費を捻出出来ない事態になれば皆でカンパすることはやぶさかではないということで話はまとまった。

こうして彼女達は無事楽しい温泉旅行へと旅立ったのである。

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登場人物紹介

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