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「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。
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■フェミニズム・コンプレックス

少し前のある日、ぼんやりとNHKを観ていたら、朝ドラからの流れで観ていた『あさイチ』でまたもやディープな特集をやっていた。確か『40代・50代のセクハラ』とかいうテーマだったと思う。
セクハラは若い女性へのものだと思われがちだけど実はそうでもなく、40代を過ぎて被害がエスカレートしたと訴えている人が多いのだとか。さらに中年女性はセクハラに声をあげても「いい年して、みっともない」と言われたりするから、泣き寝入りせざるを得なくなってしまうのだ、とも言っていた。

「なるほど、言われてみればそうだなあ。大変だなあ」と半分他人事で観ていたのだが、最後にゲストの女性が言ったコメントを聞いて、一気に気持ちが沈んでいくのを感じた。

「セクハラなんて気にならないって女性もいるかもしれない。でも、そうやって声をあげない女がいるからセクハラ男性はどんどん助長していく。セクハラのない世の中にするために、セクハラをうまくさばける女性もきちんと拒否してほしい。同じ女なのだから」

ゲスト女性の言ってることはよくわかる。正論だとも思う。
でも、私はこう思ってしまうのだ。「ああ、またか」と。

熟女とかおばさんと言われる年代になったとき、私は少しホッとした。
セクハラとか、フェミニズムとか、ジェンダーとかという面倒臭いものに当事者として関わらなくてもすむようになると思ったからだ。
でも残念なことに、実際40代になってみたらそんなことはなかった。自分自身は女真っ盛りな世代を離れても、周りには生きづらさを感じてる女性がまだまだいっぱいいる。性の問題にノータッチで生きていくのは、なかなか難しい。
それを一番感じるのは、ツイッターやfacebookを見ているときだ。
男性社員と同じように仕事をしているのに認めてもらえない。まわりが結婚しろだの子供を産めだのうるさい。夫が子育てに非協力的だ――等々。
きっと、彼女たちは自分の素直な思いを発信しているだけなのだと思う。でも私には、その言葉はこう聞こえてしまう。
「男社会の中で、女は必死に生きてる。あなたも一人の女よね? 女であるあなたは、この状況をどう考えるの? どっちにつくの?」

糾弾されるのを覚悟の上で言えば、私個人はセクハラも社会における男女の差も、それほど気にならない人間だ。
もちろん、同じ仕事で同じ成果を上げているのに女だからという理由で昇進できないのは間違っているし、共働きなのに女ばかりが家事をおしつけられるなんて論外だと思う。そういう国民投票か何かがあったら、絶対に男女平等に一票入れるつもりだ。
でも、話が個人レベルの問題になると、正直よくわからなくなってしまう。
なぜなら私には女だという理由で昇進できなかった経験がないし(まあ、そもそも会社に勤めてませんからね)、共働きだけれど夫に比べればまったく忙しくなく家事を引き受けるのは妥当だと思っているからだ。
たぶん、女の生きづらい部分よりも、飲み会の代金が男性の半額だったり"家事手伝い"って肩書が容認されたりする「お得な部分」のほうに恩恵を受けている。
それはきっと私がラッキーなだけなのだろう。でも、人によって事情は千差万別。自分自身が苦しめられているわけでもないのに、女だというだけで尻馬に乗っかるのは、どうも気が引けてしまうのだ。

先に書いた『あさイチ』の特集では、イノッチが一緒にMCをしている40代の独身女性アナウンサーの扱い方を「セクハラじゃないか」と言ったことも話題になった。さすがイノッチ、男前! 惚れ直した! ネット上のまとめサイトにはその女性アナウンサーが涙ぐんでいる(ようにも見える)画像が貼られ、イノッチは一気に株を上げた形になった。
でも、テレビの前でその様子を観ていた私は、正直少しモヤモヤした。
もしも私だったら、たとえそれが正しくても、カメラの前でそんなこと言ってほしくないからだ。かばってもらって、嬉しい人もいるだろう。でも気を使われることで、余計に傷つく人もいる。
いろんな場面で、いろんな経験をして、少しずつ自分の性との付き合い方を作り上げてきた。それが40代、50代の女だ。私だったら、かばうよりも自分のやり方を認めてもらいたい。

つい先週、幼なじみの女性と久しぶりに飲みに行った。
料理の美味しいこじゃれたムードの店に、私たちとカップルがもう一組。テンションが上がっていろいろ話しているうちに、どういうわけだか酔った彼女が痴漢をつかまえたという武勇伝を話し始めた。満員電車に痴漢されてるOLを見かけ、犯人を電車の外に引きずり出したのだそうだ。

「そのOLが言えずにいたから、隣に立ってたおばさんに小声で『あれ痴漢ですよね』って教えて、2人で電車の外に引きずり出してやったんだよ。痴漢なんて卑劣な行為、許せないからね」

へえ、なんかすごいねえ。そう言いながらも私の気持ちはどんどん冷めていく。

「でもさ、それってやりすぎじゃない?」

いつもだったら笑って受け流すところなのについ反論してしまったのは、当事者でもないのにやけに鼻息の荒い彼女にカチンときたからだ。

「じゃあ、痴漢されてる子をほっとけっていうの?」

いや、そうじゃないけど。言葉に詰まる。
「......だって、いい年したOLでしょ? 痴漢された本人が助けを求めてきたならともかく、そんなふうに事を大きくされるほうが嫌だって子もいるし、それにほら、ちょっとくらい触られても気にならない人だっているよ」
「いやいやいや、痴漢が嫌じゃないなんて女いるわけないじゃん!」

果たしてそうだろうか。AVライターをしている私は、痴漢される状況にファンタジーを感じる女がいることを知っている。
もちろん妄想と現実は別のものだけれど、友人の感じ方だけがすべてではない。

「私は痴漢AV観ると、興奮するけどなあ」
「でも、実際に痴漢されたら嫌でしょう」
「......酔っぱらいにガチでされたりしたら怖いから逃げるけど、ちょっとお尻触られるくらいなら......面白いっていうか......嬉しいっていうか......」

酔いが回っているせいか、うまく思いを言葉にできない。
東京へ来て初めて痴漢されたときのことを思い出す。AVや官能小説で予備知識があったせいか嫌な気持ちはほとんどなかった。女として認められたようで嬉しい気持ちが半分、そして「ブサイクで太ってても、声をあげなさそうな地味な女を選ぶんだな」という妙な悟りが半分だった。
今も、相手が酒臭いオヤジやパンツに手を突っ込んでくるような奴だったら途中下車するけれど、若いサラリーマンやなんかだったら大抵そのままにしておく。お尻のムズムズと待ち合わせの時間に遅れることを天秤にかけたら、ムズムズを我慢したほうが手っ取り早いからだ。

「えぇ~、そんなの普通じゃないよ。変態だよ!」

友人の大声と私の痴女みたいな発言に、となりのカップルが耳をそばだてているのがわかる。恥ずかしい。でもここで負けたら、昼間一生懸命書いた痴漢AVのレビューまでもが嘘になってしまう。

気がつけば、私は集団痴漢が好きなド変態女ということになっている。
痴漢に声を上げない女は変態なんだろうか。セクハラを受け流す女は裏切り者なんだろうか。一体私はこんなところで何をしてるんだろう。むなしい気持ちに蓋をして、意地だけで話し続ける。
普通じゃなくても変態でもいい。痴漢を憎む女がいるように、痴漢に小さな自信を与えられた女も確かにここに存在するのだ。
たとえ女同士でも、それを否定することはできないはずだ。

文=遠藤遊佐




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遠藤遊佐(C)花津ハナヨ
(C)花津ハナヨ
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛するアラフォー女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。
遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」

市田 ブログのコミック化や新書等で活躍するマンガ家。
著書に『家に帰ると必ず妻が死んだふりをしています』(PHP研究所)、『日本霊異記』(KADOKAWAメディアファクトリー新書)など。
ウェブサイト=「http://urban.sakura.ne.jp」
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