WEB SNIPER's music review
彼女は周囲に熱狂と、異常さと、暴走とを煽り立てていく
青文字系雑誌での活躍や、女子中高生からの熱狂的な支持、また自由奔放なブログでも知られる彼女が中田ヤスタカプロデュースのミニアルバム『もしもし原宿』でメジャーデビュー。iTunesでも世界23カ国で配信され、全世界から注目を集める新たなイコン、きゃりーぱみゅぱみゅの作品をさやわか氏にレビューしていただきました。
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きゃりーぱみゅぱみゅは、いわゆる「青文字系」雑誌のファッションスタイルを体現するような存在として世に認知されたと言っていいだろう。「男性受け」を狙うわけではない独自の「かわいい」という観点、アニメやマンガまで含めたポップカルチャーの要素を気軽に採用したストリート感あるカジュアル性などにその特徴はあるが、中でもこのたび、きゃりーが発売したミニアルバム『もしもし原宿』のタイトルにあるように、東京の原宿を拠点として考えていることは典型的なものだろう。
もっとも、原宿がファッションの拠点というのは今に始まったことではないし、「かわいい」という価値観が独自の発展を遂げた例は過去にもあった。たとえば、80年代からは『Olive』が、90年代からは『CUTiE』なども、そうした「かわいい」カルチャーを喧伝していたし、篠原ともえのようにタレント的な活動をする存在もきゃりーが初めてではない。つまり固有名として原宿が取り上げられること、あるいは個性的な「かわいい」価値観が注目されることには、今さらな感じがしないでもない。また「裏原系」などがここ数年で人気のピークを迎えて急激に衰退したことを鑑みると、そうした文化が取り上げられるのに機が熟しているという感もさほどない。
だがそれでも、きゃりーは何か先行する世代との違いを感じさせる。口元が裂けた不気味なジャケットや、白目をむいて倒れたり変顔や奇妙なポーズを見せるブックレット、ネットで話題となった「PON PON PON」のビデオのキッチュな意匠などについて、彼女はただ自分の好みだけを優先している。そこに「男性受け」を狙う意図はないが、しかし「女性受け」をも目指しているように見えない。あるいは、あえてエキセントリックなセンスを選ぶことで個性に見せかけるような屈折した自己主張があるわけでもない。きゃりーは「目玉とかグロいものが好きだ」とか「見る人によっては怖いと思う人もいると思うが、自分は好きだ」と言う。つまり男女を問わず、他の人がどう思うかではなく、彼女自身が単にそれをしたいのだ。彼女の「かわいい」価値観は多くのジャンルや方向性に彩られていびつにせり出しているようにも見えるが、その実すべてが彼女自身を基準にした素朴な選択性に支えられているという意味で平坦である。
中田ヤスタカはここ何年も、女性シンガーのために楽曲を作り続けてきた。彼はアイドルの楽曲を作るように歌い手の個性や内面をよく作品に反映させてきたはずだが、しかし彼のエレクトロニカと歌詞は純粋な音楽性を目指したもの、つまりいわば匿名性の高いものとしてよく語られている。しかし、彼の描く女性像の淡々とした調子とコケティッシュさの同居は、それが彼自身の音楽性の平坦さだというよりは、そうしたキャラクター性を描いたものだと思っていいのだろう。そしてそれはまさに、きゃりーの平坦さに相応しいように思う。
きゃりーはよく「キレそう」なのだと言う。たとえばCDデビューしたのがうれしくて「キレそう」になり、洋服がかわいくて「キレそう」になる。しかしそれは、決してキレたりはしないという彼女の冷静さについて言及するものになっている。彼女は周囲に熱狂と、異常さと、暴走とを煽り立てていく。それはやはり「かわいい」という名のもとにおいてなのだろう。しかし、それに乗ろうという意志の存在によって、彼女は既に冷静なのである。ビデオの中で、彼女は喜んで平坦な価値観の中にキャラクターとして身を置こうとしている。そこでキレて、身体を溢れ出させたりはしない。きゃりーは、26歳で結婚して、28歳ぐらいには子供を産みたいと決めているのだと言う。幸せな家庭がほしいのだと言う。もちろん、別に、今が幸せでないわけでもない。彼女はただ淡々とそうしたいし、そして、そうするのだ。僕は彼女がとても誇らしい。
文=さやわか
『もしもし原宿』(初回限定フォトブック仕様)
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