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the toriatamachan season2
女の子にとって、「美醜のヒエラルキー(それによって生まれる優劣)」は強大だ! 「酉年生まれゆえに鳥頭」だから大事なことでも三歩で忘れる(!?)地下アイドル・姫乃たまが、肌身で感じとらずにはいられない残酷な現実――。女子のリアルを見つめるコラム、シーズン2は「お金」にまつわるアレコレです。まず、出身地。下北沢といえば、時に音楽と演劇の街と呼ばれ、夢見る若者が四畳半の畳部屋でギターを弾いているイメージがなくもないですが、実際にそこで生まれて義務教育を受けると、「あ、ここは世田谷区なんだな」と思わずにはいられません。あの、緑が多い世田谷区。駅から少し離れた閑静な路地には、大きな一軒家が立ち並んでいます。義務教育中の私は、お金持ちに囲まれていました。
受験戦争が凄まじく、小学校の頃から、学年で塾に通っていないのは、私ともうひとりの男の子だけでした。彼は音楽をカセットで聴き、髪は2 日に1 度しか洗わないと決めていて、家での遊びは理科の実験だと言いました。いま改めて文章にしたことで、小学校というのは、ここまで個人情報を共有する場だったのかと慄いていますが、それはさておき、彼は優秀で塾に通う必要がなかったのです。
家の中にエレベーターがある友人が何人かいて、メイドさんが住んでいる家もありました。台所に金箔があったり(何に使うんだろう)、犬が松坂牛を食べてる(多分、私はまだ食べたことがない)家もありました。一般家庭の娘が、お嬢様から意地悪されている光景は、少女漫画でしばしば見かけますが、現実の裕福な子は、特にわがままでも意地悪でもなく、大らかです。それなので、私はブランドものの服を着ていなくても、特に疎外感や違和感を覚えることなく中学生活までを終えました。
地元の同級生たちが、比較的、裕福であったことに気がついたのは、電車で高校に通い始めてからです。高校には、中学の5 倍にあたる人数の同級生が、様々な土地から集まっていました。人数が多い分、気の合う子も増えるのか、入学して数か月で何人かの女の子と仲良くなり、彼女たちが私の人生で今のところ唯一の友人です。
この連載のテーマが「お金」に決まった時、担当さんが「部活をしてる子はお金がなくて、一緒に遊べなかったなあ」と学生時代を振り返っていて、はたとなりました。私もアルバイトをしていましたし、友人たちも誰ひとり部活をしていなかった(あるいは驚くほど精を出していなかった)ので、そんなことは考えたこともなかったのです。思えば、この辺りから人間関係は偏っていました。仲良くも悪くもない子と手をつないだりするのは、小学生の時に済ませたからです。
そして、私の周りには会社員がいません。強いて言えば、原稿をやり取りする編集さんくらいです。しかし、私が知っている編集さんたちは、結婚式とお葬式と謝罪する時だけ背広を着て、深夜でも週末でも会社にいます。周囲にはライターやデザイナーやカメラマンなど、フリーランスで働いている大人が多く、平日の昼間から飲み会が開かれることに疑問を抱いたことはありませんでした。
医者の子が医者になるように、自然とフリーランスの地下アイドルになって、昼飲んで、少し寝て、お酒が抜けたら、また明け方まで仕事をしています。朝起きて夜寝て、夜起きて朝寝て......。月の収入はまばらですが、私の場合、仕事量と飲酒量が比例するので、手元に残る金額は毎月あまり変わりません。こうして新社会人生活を過ごしています。
最後に、友人たち。彼女たちは極端で、まだ大学を卒業していないか、卒業した子は専門や院に進学しています。唯一、翻訳家になった女の子は、ドイツで暮らしています。あの小中学校の同級生たちは何をしているのでしょう。SNS で検索しようにも、あまり名前が思い出せません。おかげで新社会人と縁がありません。
時々、友人たちに会います。あの頃と同じカフェダイニングに行って、同じようなものを食べます。変わったような、変わっていないような。よくわかりません。心が学生のままってことはないし、もちろん新社会人って感じでもなく、そもそも地下アイドル稼業が社会のためになっているとは思えず、気がついたら22歳になっているし......私って、なんなんでしょう(悲観的ではないけれど)!
文=姫乃たま
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15.07.25更新 |
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