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I want to live up to 100 years
「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。
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■大人のミーハー

年が変わってすぐ誕生日が来た。44歳になった。
四捨五入でいけばギリギリ40だけど、アラフォーを自称するのもちょっと申し訳ない気がする。そんな立派な中年である。
30代の頃は一つ年をとるとそれなりに焦ったり落ち込んだりしたものだが、この年になると40も50もたいして変わりない気がしてくるから面白い。
欲望を整理できる程度には大人になったからか、それとも単に生命力が落ちてきたからなのか。いずれにしても、ここ数年は身悶えするほど欲しいものもなく穏やかな気持ちで毎日を過ごしていけている。それはとてもありがたいことだと思う。ありがたいことなのだけれど......。

最近になって、思うようになった。
もっと、何かに夢中になりたい。

私は元来ミーハーなタチで、これまでの人生の大半を熱狂の中で過ごしてきた。
小学校の頃は当時人気絶頂だったシブがき隊に夢中になり、ザ・ベストテンを毎週録画してテープが擦り切れるほど繰り返し観た。こんな充実した時間は初めてだと思った。少し大きくなってからも家賃を滞納して好きなバンドをおっかけたり、徹夜でチケットぴあに並んで入手困難な劇団の芝居を観たり......同年代の女の子が恋愛や仕事に打ち込むのを尻目に、そんなことにばかり時間とお金を費やした。
30代に突入すると、それにエロが加わった。スカパーのペイチャンネルで一日に何時間もAVを観、AVイベントに参加するため何度も上京を繰り返した。じわじわと増えていく借金も睡眠不足のままバイトに行くダルさも、平気だった。

それが、いつの頃からだろう。ミーハー心が徐々に薄れ始め、無理をしてでも楽しみたいという衝動がなくなってきた。
今の私には、おっかけするほど好きなタレントもいないし、徹夜で並びたいライブもない。テレビは一日中同じネタを繰り返すワイドショーを観てるのが一番落ち着く。映画も芝居もコンサートも、チケット取りで苦労するくらいならWOWOWで観ればいいやと思ってしまう。
うーむ、なんてつまらない人間になってしまったんだろうか。

そんな自分に焦りを感じて、思い切りミーハー心を発揮できる趣味を探そうと思ったこともある。
私が「大人の女がハマれる趣味」と聞いて、まず頭に浮かぶのはアニメと韓流とジャニーズだ(ずっとこの三つが「三種の神器」だったのだが、最近は宝塚にハマる女子が増えて「四種の神器」になってきた)。
周囲を見回してみると、四種の神器に熱中している女子は世間が思っているよりずっと多い。じゃあ私もそれに倣って......とチャレンジしてみたけれど、悲しいかな、そううまくはいかなかった。

妙齢女子がこの「四種の神器」に熱中する気持ちが、私はものすごくよくわかる。
アニメやジャニーズなんて子供じみた嗜好だと言う人もいるかもしれないが、それは大きな間違いだ。もちろん若いファンも多いけど、本気でハマろうと思ったら安くないチケットを何枚も取ったりグッズを揃えたりイベントに足を運んだり、けっこうな額のお金と労力が必要になる。日々仕事をしてお金を稼いでいる大人の女だからこそ手に入れられる楽しみだ。

大人の女のミーハー精神は、若い頃のそれとは少し違う。
大人になるとだんだん、人生なんてままならないことばかりで死ぬまでのヒマつぶしだってことが嫌でもわかってくる。だからこそ、お金と労力をつぎ込んででも一瞬の熱狂を手に入れようとする。一種の確信犯だ。
かくいう私にも覚えがある。
AVイベントに頻繁に足を運んでいた30代前半の頃、私には見たくないものや考えたくないことが今よりずっとたくさんあった。でも、ひと月かふた月に一回ハレの日があると思えば、退屈な日常にも耐えられた。逆に言えば、そうしないと大人の女なんてやっていられないのだ。
アニメや韓流やジャニーズや宝塚が人気なのは、安全で、安定していて、一緒にキャーキャー言える仲間がたくさんいるからだろう。ままならないことを忘れるためのミーハーなんだから、熱狂はしても自分の芯が揺らいでしまうようなものじゃ困る。傷つかない疑似恋愛。それが四種の神器なのだと思う。
「金にモノを言わせてチケットとってずるい!」なんて言うギャルも、いずれ知るだろう。子供みたいなミーハーおばさんたちも、コンサート会場の外ではきっと懸命に闘ってるんだってことを。

揺れまくりの30代を終え、今の私はニートを脱出し細々とではあるけれど仕事もできている。以前のように何かに熱狂することがなくなったのは、そうしなくても何とかやっていけるからだ。たぶん、それはいいことなんだろう。
なのに、ジャニーズのコンサートチケットが当たって大騒ぎしてる友達や、成田空港までヨン様をお出迎えに行ってるおばさま方を見ると、ときどき羨ましくてたまらなくなる。「楽しそうで、キラキラしてていいなあ。私もその熱狂に入れてよ!」と言いたくなる。
第一線で闘っていない私がこんなふうに思ってしまうのは、ないものねだりなんだろうか。
悩み、焦り、平凡な日常。そんなものをすべて忘れて一瞬の熱狂に癒される。彼女たちはキラキラしていてとても眩しい。

平穏で退屈な毎日にこのうえない安心感を感じているのに、ジャニーズや韓流でMPを回復させながら懸命に闘っている女たちのことを、どこかうらやましいと思ってしまう、そんな自分が、どきどき疎ましくてたまらない。
つけっぱなしのテレビからは、朝のワイドショーで観たのと同じニュースがまったく同じ映像で流れている。それをぼんやりと眺めながら、夕飯は何を作ろうかと考える。今日も夜はたぶん12時に寝て、明日の朝は6時半に起きて、明日の朝はまたワイドショーを観るんだろう。
落ち着くということは輝きを失うことなのかもしれない。ふと頭に浮かんだそんな言葉を、私は慌てて打ち消した。
まあ、こればっかりはなってみないとわからないけど。

文=遠藤遊佐




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遠藤遊佐(C)花津ハナヨ
(C)花津ハナヨ
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛するアラフォー女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。
遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」

市田 ブログのコミック化や新書等で活躍するマンガ家。
著書に『家に帰ると必ず妻が死んだふりをしています』(PHP研究所)、『日本霊異記』(KADOKAWAメディアファクトリー新書)など。
ウェブサイト=「http://urban.sakura.ne.jp」
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15.02.14更新 | WEBスナイパー  >  100まで生きたい。
文=遠藤遊佐 | 市田 |