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「長生きなんてしたくない」という人の気持ちがわからない――。「将来の夢は長生き」と公言する四十路のオナニーマエストロ・遠藤遊佐さんが綴る、"100まで生きたい"気持ちとリアルな"今"。マンガ家・市田さんのイラストも味わい深い、ゆるやかなスタンスで贈るライフコラムです。
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■自意識という病

私の実家の押し入れには、できれば人に見せたくない写真が2枚眠っている。
1枚は、小学校6年生のとき地域のわんぱく相撲大会で優勝した記念写真。もう1枚は、成人式のとき地元の写真館で母親に半ば無理矢理撮らされた振袖姿のポートレート。どちらも正視に耐えないくらい恥ずかしい。思い切って捨ててしまえばスッキリするなと思うのだけれど、写真の種類が種類なだけに、なかなかそうもいかない。

相撲大会の写真は40インチのテレビ画面くらいある巨大なパネルで、パッツンパッツンの体育着を着た私が蹲踞の姿勢でトロフィーを掲げてニコニコ笑っているというものだ。真っ黒に日焼けした顔にアダモちゃんみたいな天然パーマの小学6年女子は、ビジュアル的にかなりヤバイ。
でも、より抹消してしまいたいのは成人式の写真のほうだ。
むくんだ顔にしっくりこない化粧、写真館のおじさんから無理矢理持たされた小道具の花。ダサい田舎娘なのはまあ仕方ないとしても「私、写真になんかこれっぽっちも映りたくないんだからね!」という気持ちが表情ににじみ出ている。笑っているような、怒っているような、ただぼんやりしているような、なんともいえない居心地の悪い写真......。これを見ると、女としての自意識に蝕まれていた自分を思いだして、いつも心がザワついてしまう。

最近、小学生の頃の私はとても幸せな子供だったんだなと気づいた。
自分が幸せかどうか気にする必要がなかったってことは、満たされた毎日を送っていた何よりの証拠だ。
両親がいて、おじいちゃんおばあちゃんがいて、学校から帰れば専業主婦の母親がいつも何かしらのおやつを用意してくれていた。寂しいと思ったことなんて一度もなかった。本家の初孫だったせいか家族みんなにかわいがられた。
たいして勉強しなくてもテストの点数は良く、今じゃ考えられないことだが生徒会の役員なんかもやらされていた。運動神経だけはイマイチだったけど、体格のいい子だったからなりふりかまわず全力でぶつかればリレーの選手に選ばれることだって不可能じゃなかった。
昔の写真を見ると色黒で天パーで顔面の大きさは他の子の1.3倍くらいあるから、まあ、どう贔屓目に見てもブスだ。でもそれを恥ずかしいと思った記憶はない。見た目なんてどうでもいいと思っていた。いや、そもそも自分が他人の目にどんなふうに映るかなんて、考えたことすらなかったのだ。

しかし、中学に入学したころから幸せな子供は陰をひそめ始めた。
いじめにあったとか親が借金を背負って給食費すら払えなくなったとかいうのではない。市街地の小学校から来た新しいクラスメイトと触れ合ううちに「自分は女だ」ということに気づいてしまったんである。。
「○○君て背が高くてかっこいいよね」とか「あのアイドルが好きだ」なんて話ばかりしている女の子たちの垢抜けた服装や女子っぽい立ち居振る舞いを見て、私は初めて自分のルックスというものについて考えた。「ああ、女の子ってこうじゃなきゃいけないんだ。私みたいな不細工は女として見たらイケてないんだ」と思った。
それまでの勉強しておやつを食べて笑っているだけのシンプルな毎日の中に、"かわいさ"とか"モテ"とかいう新基準が参入してきたのである。

そうしたら、それまで気にしたことなんてなかった黒い顔や天然パーマが急に恥ずかしくなってきた。母親がスーパーで買ってきた服も気に入らない。アダモちゃんみたいなひどいクセ毛を少しでも落ちつけようと、夜は頭に手ぬぐいを巻いて寝ることにした。
成績は一気に下がらずにすんだけれど、運動のほうはまったくできなくなってしまった。いいタイムを出そうと太短い足で必死で走る自分の姿を「恥ずかしい」と思うようになったからだ。こんなブサイクな走り方をみんなに見せるくらいなら足なんて遅くてもいい。面と向かって「足が太短いね」なんて言われたことは一度だってなかったのに、そう勝手に決めつけてしまった。
このときを境に、私は病気にかかったんだと思う。自意識という病気だ。

引きこもったり人と喋れなくなったりってことはなかったが、「こんなふうに振る舞ったら笑われるかもしれない」と思ったら、何かを率先してやるとか思いきりやるということができなくなった。
中でも一番困ったのは、あがり症になったことだと思う。
私は緊張しやすい性分で、今も人前で喋るような仕事をするときは一杯ひっかけずにいられないのだが、この頃はもっとずっとひどかった。
よく覚えているのは、音楽の実技テストで歌を歌ったときのこと。緊張するなんて思ってもいなかったのに、授業が始まった頃から胸の動悸がどんどん速くなり、一人でみんなの前に立つと手と声がブルブル震え始めた。声が裏返って顔が真っ赤になった私に小学校時代からの友達が「もしかして緊張してるの? 遠藤さんらしくないね」と心配そうに言った。
そりゃそうだろう。それまでの私は全校生徒の前でぶっつけスピーチさせられても、あがることなんてまったくない能天気な子供だったんだから。
散々な実技テストの結果ダダ下がりした音楽の成績を見て、母親は「自分を良く見せようとするからよ。普通にやればあんたにできないことなんて何一つないんだから自信を持ちなさい」と言ってくれた。でも自信をなくした私にはその言葉も「自意識過剰だからいけないのよ」としか聞こえなかった。声が裏返ったことも、成績が落ちたことも、ブスのくせに自意識に囚われていることも、何もかもが恥ずかしかった。
高校に入るとすぐその頃流行りだしたストレートパーマをかけた。ダイエットもした。天然パーマのアダモちゃんだった頃よりはずいぶんマシな見た目になったが、あがり症はやっぱり治らなかった。

セックスを経験して男の人を知ればこの自意識過剰もなんとかなるんじゃないかと期待したけど、私の場合はそうじゃなかった。
そりゃあ見た目が女っぽくなって女扱いしてもらえるようになれば、多少は自信もつくだろう。でもそうなると、今度は他の女の子に比べてどうなんだろうと考え始めるようになる。あの人よりも足が太いから恥ずかしい。あの子みたいにセンスがないから負けてる。女子っていうのはそういうのものだ。
「周囲からどう見られているか」を気にするのはもちろん大事なことだ。今は自己プロデュースの時代だし、自意識があるからこそ女は綺麗になるんだろうから。
でも、年とともに容姿が衰えていくのだけは誰も避けられない。どんなに頑張ったって、いつかは負けなきゃならないのだ。特に、今みたいにインターネットですべての他人とつながっている時代に、うまくバランスをとって「ほどほど」にやっていくのは難しいんじゃないかなと思う。
ああ、考えれば考えるほど何の不安もなく横綱トロフィー片手に笑っていた頃が懐かしい。(まあ、あの頃に戻りたいかといったら考えさせていただきたいが)。

でも、最近私は自意識過剰を克服したような気がしている。
仕事相手と会うときや人前で話すとき、以前のように緊張しなくなった。それはやっぱり、世間でいうところの「おばさん」になってずうずうしくなったこと、あと結婚したことが大きいように思う。
思えば幸せな子供だった頃は、半径50メートルくらいの中で生きていた。
仲のいい友達や家族以外の人間が考えていることなんて全然興味なかったし、知らない誰か(それは言葉を変えると"世間"てやつなのだけれど)にどう見られているかも、どうでもよかった。
40代になり主婦業をするようになってからの私は、あの頃のように夫や気心の知れた友達と過ごすことが多くなった。ほうっておくとツイッターやフェイスブックも何日も見ない。不思議なものでそうすると、あんなに気になって仕方なかった人の目がそれほど気にならなくなる。
フリーで仕事する人間にはあるまじきことだと怒られそうだが、人間関係も頭の中も子供の頃みたいにシンプルになって、なんだか心地いい。

これから先、家族以外の誰かにあの2枚の黒歴史写真を公開することはあるんだろうか。
死ぬまで墓場に持っていくくらいのつもりだったけど、今は半分くらい「まあ見られてもしょうがないかな」と思っている。だって天然パーマのアダモちゃんも仏頂面のこじらせ振袖娘も間違いなく私なんだから。
もし笑って見せられるときがきたら、それが自意識という病から本当に自由になるときかもしれない。

文=遠藤遊佐




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遠藤遊佐(C)花津ハナヨ
(C)花津ハナヨ
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛するアラフォー女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。
遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」

市田 ブログのコミック化や新書等で活躍するマンガ家。
著書に『家に帰ると必ず妻が死んだふりをしています』(PHP研究所)、『日本霊異記』(KADOKAWAメディアファクトリー新書)など。
ウェブサイト=「http://urban.sakura.ne.jp」
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15.05.09更新 | WEBスナイパー  >  100まで生きたい。
文=遠藤遊佐 | 市田 |